【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第百十話~破壊竜復活!~

 轟音轟く森の中。土色や黒色の煙が上がる森の中。木々が倒れ、すごい勢いで禿げていく森の中。

 今、その森はそんな風にいくつもの顔を見せていた。それもこれも――。

 

「おりゃぁああああ~!」

「はっ!ふっ!」

 

 すべては、洗脳されているだろう人間とデジモンたち相手にはっちゃけているドルグレモンとスレイヤードラモンのせいである。

 大成たちの前に現れた人間たちが連れているデジモンは、その大半が完全体だった。それでも、数だけ揃えても意味はないとばかりに、ドルグレモンたち二人は蹴散らしている。

 それこそ、大成とスティングモン、レオルモンの出番がないほどだった。

 

「これ、俺たちいらなくね?」

「いや、そんなことは……は……どうでしょうね?」

 

 数百を超える敵という前代未聞を前にして、せっかく覚悟を決めてやる気を出したのに、この体たらく。大成とスティングモンは行き場のなくなったやる気を持て余していた。

 

「いや、やることはあるだろ」

「旅人?いや、そう言われたって……旅人だって手持ち無沙汰にしてるじゃんか」

「失礼な!オレだって役立たずじゃないんだから、やることやってる!」

「……旅人さん、さっきドルグレモンさんに言われたこと気にしてたんですね」

「っぐ!まぁいいだろ!」

 

 ちなみに、この一連の会話の間、スティングモンが今にも飛び出していきそうなレオルモンをずっとその手で抑えながら話していたりするのだが、それはほんの余談である。

 鋭いスティングモンの一言に、旅人は胸を痛める。痛めるが、痛めながらも、旅人はとある方向を指差した。そこは、先ほどあの女性がいた場所で。

 だが、いつの間にかあの女性はいなくなっていた。

 

「あいつまた……!」

「そういや、大成たちは会ったことあるんだっけか?アイツは戦いが始まった直後にどっかに消えた。たぶん、面倒事はこの大勢に任せて、自分は高みの見物ってことだろうな」

「えっ!?ってことは……せっかくの手がかりが逃げちゃったってことじゃないですか!」

 

 あの女性は、優希の居場所を掴むための最大の手がかりだった。それが、いなくなってしまったのだ。スティングモンが慌ててしまうのも仕方のないことだろう。内心では、大成も慌てていた。

 だが、そんな風に慌てる大成たちとは打って変わって、旅人は呑気に構えている。その姿は、別に慌てるまでもない、と言っているよう。

 そんな旅人の姿を見て、大成たちは気づいた。旅人は、何かを知っているか、もしくは何かに気づいている。

 

「旅人。どうすればいいんだ?」

「そうです!早く教えてください!セバスさんを掴まえておくのものも大変なんです!」

「……オレも確実なことは言えないんだけどな。まぁ……なんとなくそんな気がするんだよ。この状況で、あの女のことを考えるとな」

「どういうことですか?」

「んー……教えるよりも見せた方が早いんだけど……この状況だとな」

 

 そこまで言って、旅人は周りを見渡した。

 スレイヤードラモンとドルグレモンの奮闘で、周囲には気絶したデジモンと人間の山が出来ていた。が、それでもなお、まだまだ健在な者たちもいる。これではもう少しかかるだろう。

 そう思ったからこそ、旅人はしばらく考えて、ちょっと無理をすることにした。

 

「突っ切るぞ」

「……は?」

「え?……ま、まさか」

「そのまさかだ。レオルモンも頭は冷えているな?」

「……いい加減に離してくれませぬかな?もう飛び出していこうとはしないのでな」

 

 スティングモンにずっと掴まえられていたからだろう。レオルモンの声は、不機嫌だった。

 そんなレオルモンに従うように、スティングモンはレオルモンを離した。解放されたレオルモン。彼も話を聞いていたのだろう。すぐさま、旅人を見て、次の言葉を待った。

 そんなレオルモンの姿に頷いて――旅人は、「行くぞ」と言って駆け出した。

 

「気をつけろよ!距離的には十数メートルだろうけどな!リュウ!ドル!サポート任せた!」

「うわっ!なんか掠ったぞ!」

「気合で躱せ!本気でまずいのはドルたちが何とかしてくれる!」

 

 おそらく、大成にとって人生で最も長く感じられた十数メートルだった。

 炎や水、氷に雷。自然現象ならざる超常の力が飛び交う中を、たかが十数メートルとはいえダッシュ。もちろん、かつての究極体との邂逅などと比べれば屁ではない。屁ではない、が。それでも、キツいものはキツいのだ。

 スレイヤードラモンの剣が伸びて、大成たちの頭上を過ぎ行く。その剣は大成たちの行く先にいた一体のスカルグレイモンとその傍にいた人間を吹き飛ばした。

 

「リュウサンキュー!……スカルグレイモン、か。勇さんのスカルグレイモンだったら……!」

 

 助けてくれたスレイヤードラモンにお礼を言いながらも、大成は恐ろしい想像に肩を震わせた。この場にいるデジモンたちの中には、エテモンやスカルグレイモンなど、大成たちも見たことのあるデジモンたちが何体か存在している。

 もちろん、この場にいる個体は、大成たちと知り合った個体ではない。ではないのだが、先ほどのスカルグレイモンを見て、大成は“あの”勇が敵に回ったという恐ろしい想像をしてしまったのだ。

 

「大成さん!そんなこと言ってる場合じゃないですよ!」

「っ!わかってる!」

 

 スティングモンの叱咤に、大成は首を振ってその恐ろしい考えを頭の中から排除した。今は余所事を考えている場合ではない、と。

 大成たちが走った時間は、実際数秒にも満たないだろう。彼らは掛け値なしに全力疾走したのだから。それでも、大成にはもっと長く感じられた。

 スレイヤードラモンたちのサポートによって当たらないとはわかっていても、大成には自分に迫り来る攻撃の数々が恐ろしかったのである。

 

「着いた!ここら辺だ!」

「……って、何にもないぞ!」

 

 何もない木の根元。一足では跨げないほど太いその木の根の前で旅人は立ち止まった。

 だが、大成の言った通り、そこには何もない。いったいどういうことなのか、と。そんな思いを込めた視線で、大成は旅人を見た。

 一方で、大成にそんな目で見られている旅人は、見られていることなどお構いなしに何かを探している。

 

「だから、どういうことなんだよ。詳しく教えてくれ!」

「んあ?ああ、悪い。さっきの女は急に現れた。で、急に消えた。妙だと思ったんだよ」

「確かに、急に現れたり消えたりしたら……」

「いや、それもそうだけど、そうじゃなくてな」

「……?」

 

 状況も忘れて、大成たちは旅人の引っかかる物言いに首を傾げた。大成たちには、旅人の意図がわからなくて。大成たちにあったのは、早く言えというイラつきだけだった。

 

「ずっとオレはあの女を見てたけど、あの女は目の前で消えた。いつの間にか、じゃない。目の前で、だ」

「それって……」

「ああ。ここを探ってみたけど、やっぱり何もない。だろ?ってことは、転移とか……そういう感じのだろうな。たぶん、この大勢のデジモンたちも同じ感じで現れたはずだ」

 

 旅人の言葉に、大成たちは愕然とした。

 もちろん、別に転移という現象に驚いたわけではない。テレポートとも言えるあの現象は、大成たちも先ほど体験したばかりで、できる者にはできることはわかっている。

 なら何に大成たちは驚いたというのか。

 それは、自分たちがここで探していることが無意味かもしれないという可能性に、だった。

 

「ってことは、転移って離れたところに一瞬で行けるんだろ!?優希がここにいないってことじゃんか!」

「っ!そ、そんな……」

 

 大成の言葉に、ショックを受けるレオルモン。それはまるで、絶望してしまったかのような表情だった。

 一方で、旅人とスティングモンの二人はそんな大成たちの様子に首を傾げていた。どうしてそういう結論になるのかが理解できなかったのである。

 

「いや、そういうわけじゃないだろ」

「え?……違うのか?」

「旅人さんの言う通りですよ。ウィザーモンさんは僕たちをここに送ってくれたんですから、この近くにいるでしょう?」

「それに、何もない場所なら、こんな風に襲われないしな」

 

 旅人とスティングモンの否定の言葉に、レオルモンと大成の二人はホッと安堵の息を吐いて立ち直る。が、その顔にはありありと疑問が浮かんでいて、未だ納得できていないようだった。

 

「じゃ、どこに……?」

「行き帰りに転移が必要な場所で、この近く。となると、さっきリュウも言ってたろ」

「……まさか?」

「ああ。地下か空の上か……そのどっちかだろうな」

 

 空の上にあるのか、地下にあるのか。どっちかなのか、どっちもなのか。確かなことは旅人には言えない。ウィザーモン並の頭があればわかったかもしれないが、旅人にはそこまでの頭はない。

 それでも、予想だろうと場所を絞り込めたというのは、暗闇に僅かな光が見えたのと同じことだった。だからこそ、大成たちは顔を明るくしていた。

 

「……でも、どうする?」

「地面を掘り起こすのは危険ゆえに時間がかかりますな。空の方から探すのがいいかもしれませぬ」

「おっ……セバスはやっと冷静になってきたか?確かにそうだな。リュウ!頼む!」

「何が!?わかりやすく用件を言え!用件を!」

「空を探せ!」

 

 レオルモンの言葉を聞いて、旅人はスレイヤードラモンに大声で声をかけた。地下はともかくとして、空の上を探すのならば、この中で最も速いスレイヤードラモンが適任である。

 探している間、ドルグレモンの負担が増えたり、旅人たちが若干無防備になってしまうが、それは仕方のないことだった。

 

「ったく……!」

 

 主語を除いた先ほどの短い言葉の中でも、スレイヤードラモンは旅人の言いたいことを感じ取ったようである。呆れたような呟きを残して、彼の姿は一瞬で消えた。

 彼は強引に木々の間を抜けたのだろう。木の葉がパラパラと落ちてくる。

 

「さて、スレイヤードラモンがいない分、気合入れて生き残らないとな」

「……そうだった!」

 

 落ちてくる木の葉をぼんやりと眺めていた大成たちだったが、旅人の言葉でハッとして思い出した。この場が、常時攻撃に晒されている危険地帯であったことに。

 気づいた瞬間に気づいた、自分の下に飛んできそうな数十の攻撃。乱戦ゆえに狙いは悪かったのか。幸いにして、大成たちはそれらをギリギリで躱すことができた。が、大成たちの心臓はバクバクと鳴っていた。

 

「旅人!ビンゴだ!上空に何かあるぞ!」

 

 まあ、そんな風に心臓に悪い思いをした甲斐があったのだろう。

 数秒後に戻ってきたスレイヤードラモンの告げた言葉は、今日一番の朗報だった。

 

「本当か!?」

「ああ!なんか透明で隠されてたけど、デカイ何かがあった!」

「よし。なら、リュウ!こいつら頼んだ!」

 

 そう言って旅人が差し出したのは、大成たちだった。

 旅人の言いたいことはスレイヤードラモンにもわかった。旅人は、二手に別れるつもりなのだ。確かに、そちらの方が効率的だろう。優希救出のことを考えるのならば特に。

 大成たちを任されて突入組に組み込まれている。そのことにどこか納得できなかったスレイヤードラモン。いろいろと言いたいことはあったが、この時間のない状況で文句は言えなかった。

 ちなみに言えば、旅人のこの人事は適当であった。

 

「っち。わかった。さっさと来いよ!……スティングモン!行くぞ来い!ぼさっとすんな!」

「あっ!はいっ……!」

 

 ともあれ、スレイヤードラモンは大成とレオルモンを抱えて空を行く。その後を、スティングモンが追って行った。

 まあ、そんな彼らの大移動をこの場にいる人間とデジモンたちが許すはずもない。逃がさぬとばかりに、彼らに向かって攻撃を放つ。

 

「set『捕縛』『爆破』!」

「おりゃぁああっ!」

 

 が、そんな攻撃は、この場に残った旅人とドルグレモンの二人によって止められた。その一瞬で、スレイヤードラモンたちは森の上へと消えていく。

 森の上へと消えていった彼らのその姿はもはや見えない。それでもなおも彼らを追おうとする者はいた。だが、そんな者たちは、ドルグレモンの突撃によって地に伏す結果となる。

 ここに来て、この場にいる人間とデジモン全員が理解した。目の前の旅人とドルグレモンを片付けなければ、彼らを追うことはできないことを。

 

「たった一人と一匹だ!袋にすれば問題ない!」

 

 誰かが、そう叫ぶ。

 今まで洗脳されていた人間やデジモンが話したところをあまり見なかった旅人だったからこそ、このようにまともに話せることには驚いた。

 

「……およ。喋れたんだな」

「旅人……さっきから結構喋ってたよ。気づかなかっただけでしょ」

「ま、そうかもな」

 

 旅人とドルグレモンの様子は、気楽を通り越していっそ余裕さえ感じられて。

 そんな旅人たちの姿には、いかに洗脳されているとはいえ、この場の誰もが怒りを抱かざるを得なかった。いや、もしかしたら洗脳されているからこそなのかもしれないが。

 ともあれ、実際に旅人たちは、この事態をそこまで深刻に捉えてはいなかった。確かに、初めよりは減ったとはいえ、未だ百を超える数の完全体デジモンと人間たちがいる。彼らを殺さずに戦闘不能というのは、旅人たちにとっても骨が折れる。

 それでもなお、旅人たちが余裕そうにしていられるのは、今までの経験ゆえのことだった。

 

「さて。ぱぱっと片付けるか」

「そうだね~……七大魔王やら、ロイヤルナイツやらと比べれば軽いしね~」

 

 まあ、比較対象がおかしいという気がしないでもない。

 ともあれ、スレイヤードラモンにさっさと来いと言われた旅人たちだ。ここで変に時間をかけるつもりはなかった。

 そんな旅人たちの一方で、この場の面々はまるで雑魚扱いされているような気さえして、その怒りは最高潮に達していた。

 

「っち。さっさと殺せ!」

 

 誰もが口々にそう叫ぶ。

 それと同時に、デジモンたちが旅人たちに殺到する――が、旅人たちの行動の方が少し早かった。

 

「んじゃ、久しぶりに行くか!」

「りょうか~い!」

「set『進化』!」

 

 まるで何でもないことのように、あまりにも気楽に使われたカード。

 それの意味するところを正確に理解できたのは、そのカードを使った旅人とその効力の対象であるドルグレモンだけだった。

 直後。殺到するデジモンたちを押しのけ、この森の木々を吹き飛ばし、ドルグレモンは進化する。

 

「うぉおおおおおおお!」

 

 現れたのは、白銀の竜。圧倒的なまでの存在感を誇る、巨竜。破壊の権化、究極の敵とさえ呼ばれるほどの究極体デジモン。ドルゴラモンという名の、破壊の竜。

 

「う……あ……」

 

 その威圧感と存在感に圧倒されて、誰もがその姿に恐れを抱く。抱いてしまう。そして、その時点で結果は決まったようなものだった。

 この一瞬後、そんな破壊の竜が暴れる。百を超える数の敵を等しくなぎ払うその姿は、まさに究極の敵。その名に相応しい姿だった。

 




というわけで、第百十話。

どこぞの敵のような題名に反して、前作主人公たちが活躍(数行)する回でした。
ドルゴラモン……約一年と二ヶ月ぶりの登場ですね。

さて、次回は……大成たちの話です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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