【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第百十二話~空の底への落下~

 走り続ける大成とディノビーモンとレオルモンの三人。

 先ほどまで気絶していたレオルモンも、今では起きていて、身体の痛みを無視してでも動いている。今、彼ら三人は、聞こえてくる爆音を背に優希を探していた。

 もちろん、先ほどの進化の光によっておおまかな予想を立てることができたからといって、優希の詳しい居場所がわかっているというわけではなく。

 脳内に鳴り響く警鐘。背後の爆音。それらを前にして、大成たちは優希を探してこの街を右往左往していた。

 

「優希ー!」

「お嬢様ーどこですかなー!」

「優希さーん!」

 

 もはや、隠密行動などという意識は大成たちの頭の中から消えていた。背後で滅茶苦茶に暴れている者がいるのだから、隠密行動しても無駄だろうと開き直ったのである。

 今大成たちがいるのは、広場だった。大成たちがこの世界に連れて来られた時、一番初めにいた場所である。先ほどの光は、この辺りから発せられていた。見た感じ建物の少ない場所だ。優希がここにいると仮定するならば、どこにいるかなどは限られるほど。

 

「いるなら声出せ!声!優希ぃー!」

「お嬢様どこですかなー!声を上げてくだされー!このセバスが来ましたぞー!」

「優希さーん!」

 

 だというのに、優希は見つからなかった。

 大成たちは喉が枯れるほどに叫んでいたが、それでも優希からの応答はない。

 さんざん叫んだせいだろう。大成たちは喉が痛くなってきていた。こうも反応がないと、この辺りにはいないのではないかとすら思えてくるほどだ。

 

「まさか……ここじゃないのか……?」

「いや、声が出せない状況にあるのかもしれません」

「そうですぞ!諦めるのは早いですな!お嬢様ー!」

 

 万が一ということもある。

 この辺りにいない可能性があっても、それを証明する手段はない。そうである以上、レオルモンたちは早々にここを探すことを切り捨てるつもりはなかった。

 再び大声で優希たちを探す大成たち。相変わらず返答はない。が、諦めずに探していた甲斐があったのか。ココに来て、大成たちはさらなる手がかりを得られることになった。

 

「っ!これは……!」

「光っています!これって……!」

「間違いないですな!」

 

 その瞬間、沸き起こったのは光だ。大成たちのいる地面が光っている。

 まるでディノビーモンやレオルモンの身体に染み込んでくるかのようなこの光は、まさしく優希の力によるものだった。

 先ほどもこの辺りで同じ光が発せられていたことを考えれば、いよいよこの辺りに優希がいるという可能性が高くなってきたと言えるだろう。

 とはいえ、良いこともあれば悪いことがあるのが、世の中というものである。

 優希がこの辺にいるかもしれないというヒントを得られたという良いことはあった。が、大成はそれを素直に喜べなかった。その良いこと以上に、何か嫌な予感がしていたのだ。

 

「大成殿!ディノビーモン殿!きっとこの地面の光はお嬢様の力!近くにいるはずですぞ!もしかしたら地下かもしれませぬな……!」

「……いや、まぁ……それは……いいんだけどさ……これって……」

「なんですかな!言いたいことがあったらはっきり言ったらどうですかな!」

 

 言葉を濁す大成に、レオルモンはイラついたのだろう。

 はっきり言え、と。感情のままにそう言ったレオルモンは、苛立ちを隠そうともせずに大成を見た。まあ、彼はさっさと優希を探したいのだから、無駄に時間をとる大成にイラついてしまうのも仕方のないことかもしれない。

 そんな風に見つめられて、大成は仕方なく言った。自分の嫌な予感のことを。

 

「あのさ……ここで優希の力の光があるってことはさ……いるってことだよな?」

「そうですぞ!この辺りにお嬢様がいるはずですな!」

 

 そうじゃない。なぜここまで言ってわからないのか、と。そう思った大成は、溜息を吐きたい気分になった。

 この状況を見れば、レオルモンの言っていることも間違いではない。ではないのだが、大成の言いたいことは違うのだ。

 

「いや、そうじゃなくて……」

「じゃあ、なんだって言うんだ!」

 

 煮え切らない様子の大成。そんな彼の言葉に、イラついたレオルモンは思わず素を出してしまって。

 その時のことだった。

 

「ぁぃぁあぁあぁぁぁぁ!」

「っ!これは……!」

「やっぱり!」

 

 近くにあった建物を吹き飛ばして、この場に新たなデジモンが乱入したのは。

 やっぱりな、と。まるでわかっていたとばかりに、諦めの境地で大成はそのデジモンを見る。

 

「ウィアアァァアァァアアア!」

 

 そのデジモンは、一言で言えば巨大な昆虫だった。

 頭部に巨大な鋏と角を持つデジモンのその身体は、黄金色に輝いていた。その身体のシルエットからは、ともすればクワガタとカブトムシが混ざったかのような印象さえ見受けられる。

 そして、何よりも、先ほどのホウオウモンにも引けをとらないほどの圧倒的な威圧感と存在感。

 大成たちは理解した。このデジモンも、また究極体デジモンであると。

 

「イモ、アイツの名前知ってるか……?」

「えっと……たぶん、特徴から……ヘラクルカブテリモンだと思います」

「……究極体だよな?」

「……はい」

 

 嫌な予感が当たった。

 お約束とばかりに、その眼は混濁していて、操られていることが露骨にわかる。とはいえ、究極体相手に戦えるほど、大成たちは強いわけではない。

 戦わなければならない。そのことがわかっていても、大成たちはこの状況を呪いたくなった。

 

「アァゥィァァァア!しねぇぇぇぇぇ!」

「アイツ今死ねって言ったぞ!」

「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!」

 

 振り上げた拳を、ヘラクルカブテリモンは振り下ろす。大成とレオルモンを抱えたディノビーモンは、転がるようにしてそれを躱した。

 空を切り、地面に叩きつけられるヘラクルカブテリモンの拳。地面は、耐えられなかった。轟音と共に土煙が舞い、地面は砕け、衝撃が辺りを吹き飛ばす。

 ディノビーモンは、耐えるのがやっとだった。

 

「操られても……究極体ってことですね」

「ははは……はぁ。笑うしかねぇな」

 

 見れば、ヘラクルカブテリモンの腕は四つあった。地につけている二つの脚を含めれば、六つ。ものの見事に昆虫の特徴を掴んでいる。掴んでいる、のだが。

 大成は、その事実に頭を抱えたかった。スティングモンのように人型だったのならば、まだ救いがあっただろうに、と。

 スペックでも負けていて、腕の本数でも負けている。そういうものがあまり関わらない遠距離タイプならまだいいが、ディノビーモンは近距離を得意とするタイプ。

 武器の数が有利不利に直結する近接戦において、腕という武器の数の差は大きかった。

 

「どうしますか?」

「どうもこうもないだろ。戦いながら引くぞ。リュウが来るまで持ちこたえるんだ」

 

 勝率が低い以上、無理して相手をするべきではない、と。大成はそう考えた。これがゲームならば、様子見がてら無理して相手をしてもいいのだが、これは現実だ。ゲームオーバーが死に繋がる現実で、大成はリスクの大きい選択はできなかった。

 スレイヤードラモンが来るまで持ちこたえる。隙あらば逃げる。贅沢は言わずに、それだけを選択する。

 

「っく。このセバスも進化できれば……!」

 

 一方で、ディノビーモンに抱えられているしかないレオルモンは悔しそうだった。さすがに究極体相手に、成長期の分際で戦いを挑むのは無謀だとわかっているらしく、おとなしく抱えられている。

 ギロり、と。大成たちの事情など知ったことではないとばかりに、ヘラクルカブテリモンは大成たちを睨んだ。

 もう一度攻撃が来る。そのことを大成たちは理解した。

 振り上げられる拳。一瞬後、それは振り下ろされて――。

 

「うぅ……ァァアアアァアア!」

「っ!来る……えっ!?」

 

 だが、ヘラクルカブテリモンによる再度の攻撃は、大成たちに驚き以上のものをもたらさなかった。

 攻撃に使われたのは、ヘラクルカブテリモンの右の拳の一つだけ。しかも、その拳が振り下ろされたのは、大成たちのいる場所とは見当違いの方向にある地面。

 はっきり言って、何をしているんだという話である。大成たちも、状況を忘れて呆れてしまった。

 

「っ!二撃目が来る……今度は外されないよな。イモ!」

「わかってます!」

「イァァアアアアア!ハレカァアアアア!」

 

 ゆっくりと振り上げられた四つの拳。

 それを見た瞬間、ディノビーモンは大成たちを抱えたまま駆け出した。

 直後、ヘラクルカブテリモンの拳は振り下ろされる。幾度も幾度も、連続で。そのどれもがバラバラのタイミング、バラバラの速度、そしてバラバラの狙いだった。

 屁ではないほど遅い拳もあれば、ディノビーモンにも対応できないほど速い拳もある。

 見当違いの方向に向かう拳もあれば、ディノビーモンたちを狙う拳もある。

 数秒かけてゆっくりと振り上げられた拳もあれば、一瞬で振り上げられた拳もある。

 

「……?一体何だってんだ!?」

「わからないですよ!」

 

 行動の一つ一つがあまりにも不規則で、不安定すぎる。それが、ヘラクルカブテリモンに対して大成たちが抱いた思いだった。

 究極体のスペックに物を言わせたゴリ押しでも、もっと早く大成たちを倒せたはず。だというのに、ヘラクルカブテリモンの不規則かつ不安定な動きは、大成たちを生き残らせるだけの隙を生み出していた。

 究極体に相応しいスペックを誇っていながら、それをまるで活かせていない。それが、大成たちの結論だった。

 どうなっているのか、と。大成たちは疑問を抱いて、一瞬後に大成だけがハッとして気づいた。

 

「まさか……!いや、これなら納得できるな……」

「大成さん、何かわかったんですか!?」

「ああ。勘と……あと少しのゲーム知識だけどな」

「こんな時にゲームですかな!?」

「でも、合ってると思うぜ!」

 

 すなわち、ヘラクルカブテリモンは完全に操られているわけではないのではないかということ。

 そのことに思い至ったのは、大成があるゲームのシステムを思い出したからだった。そのゲームでは、自分よりもレベルが高い相手には、状態異常系の攻撃が通じにくいというシステムがあった。

 それを思い出した時、大成は思ったのだ。ゲームに限らず、現実でも究極体ほどの力の持ち主を完全に操るのは難しいのではないか、と。

 

「なるほど……確かにそうですね」

「それに、ホウオウモンという別の究極体も操っている。……複数の究極体を操っているのですから、割く労力は、確かに並々ならぬものがあるでしょうな」

「行動が不安定だったり、不規則だったりするのも、全部ヘラクルカブテリモンが洗脳に抗っているからだといえば納得できるだろ」

 

 大成の仮説はディノビーモンやレオルモンも納得できるものだった。だったのだが――同時に、だからどうしたという話でもあって。

 不完全に操られていようとも、ヘラクルカブテリモンが大成たちを狙っているのは変わりない。

 さらに、究極体の力の前では、大成たちの力はあまりにも弱すぎる。一撃くらってしまえばアウトなのだ。不完全に操られているだけでも、攻撃を繰り出せている段階で脅威であることには変わりなかった。

 

「リュウ早く来てくれよ……!」

「大成さん大成さん」

「なんだよ!」

「ちょっとキツいです」

「……」

 

 ディノビーモンが思わず弱音を吐く。

 まあ、仕方のないことだろう。大成とレオルモンという足でまといを抱えながら、ディノビーモンはヘラクルカブテリモンの攻撃を察知し、躱しているのだから。

 いかにヘラクルカブテリモンの行動が不安定なものであっても、格上相手に戦うという精神的に大変よろしくないこの状況は、ディノビーモンに多大な負担を強いていた。

 

「頑張ってくれ!もう少しだから!」

「いや、大成さん。もう少しはいいんですが……あれは……ちょっと」

「何がって……ああ」

 

 もう少しでスレイヤードラモンが来る。そう信じて耐える大成たちだったが、眼前の光景に言葉を失った。思わず、大成たちは冷や汗をかいていた。大成たちの目の前には、それだけの光景があったのだ。

 ヘラクルカブテリモンの前に、球体が発生している。

 それが、ただの球体であるなどとは大成たちにも思えなかった。まず間違いなく高エネルギーの球体だ。おそらくは、究極体の技として相応しい威力を持つだろうもの。

 

「ぁぁぁああぁあぁぁ!」

「……まずいな」

「まずいですね」

「逃げるべきですな!」

 

 大成たちの予感は当たっていた。

 それは、“ギガブラスター”と呼ばれるヘラクルカブテリモンの必殺技。高威力のその技は、決して大成たちに耐えられるものではなかった。

 バチバチ、と。帯電しているかのような激しい電気の音が、辺りに鳴り響く。次の瞬間のことだった。

 

「アァアッ!」

「ぐ……!」

 

 バチッという轟音と共に、球体がエネルギー波となって放たれる。

 その速い技の前では回避も迎撃もできない。大成たちの視界は、いつかのように白に染まって――それは、その直前で突然に起こったことだった。

 

「えっ!?」

「なんですかなっ!?」

「たっ大成さん!」

 

 先ほどから続くヘラクルカブテリモンの攻撃に耐えられなかったのか。エネルギー波が放たれた時と同時に、大成たちのいる地面が崩壊した。

 

「ちょっ……!」

 

 すべては一瞬のことで、それは幸か不幸か。

 地面の崩落によって狙いが外れ、見当違いの方向に飛んでいくエネルギー波。助かった事実に現実逃避しながら――大成たちはこの空を飛ぶ街の底へと落ちていく。

 

 

 

 

 

 一方その頃。大成たちが落ちている時のこと。

 大成たちのいる場所からほど遠い場所にて、零とハグルモンはいた。

 

「っく……!面倒事ばかりきやがる」

「ピピ……大丈夫デスカ?」

「黙ってろ」

 

 だが、気楽に歩いているわけではない。

 零の姿はキメラモンとしての姿で、ハグルモンはその背中にしがみついていて。そんな彼らの前には、殺気立った()()()()()()()が立ち塞がっていた。

 あまりにもレベル差がありすぎるが故に、逃げることもすらできない。

 つまり、キメラモンたちが置かれている状況は、強制的な戦闘中ということだった。

 

「グルァアアアア」

「ムカつくな……!」

 

 なぜか沸き上がてくる怒りに身を任せて、キメラモンはムゲンドラモンに襲いかかる。

 だが、完全体の上に中身が零であるキメラモンと究極体のムゲンドラモンでは、やはり話にならなかった。突撃したキメラモンを、ムゲンドラモンは軽くあしらう。

 重火器を使うまでもないと判断したのか、その右腕のひと振りでキメラモンの身体は傷つき、吹き飛ばされる。もはや、イジメレベルで戦いになっていなかった。

 

「っく。お前……本当にムゲンドラモンか?」

「ピピ……ドウイウコトデスカ?」

「お前は黙ってろ。俺はお前に聞いてるんだ」

「グルルル」

 

 ムゲンドラモンは答えない。

 ムゲンドラモンと行動を共にしたことがあるキメラモンは、どうしても目の前のムゲンドラモンに違和感を覚えた。

 “強すぎる”のだ。もちろん、デジモンにも個体差というものは存在する。キメラモンと行動を共にしていたムゲンドラモンよりも、目の前のムゲンドラモンの方が強いというだけの話かもしれない。

 だが、キメラモンにはそうは思えなかった。まるで、ムゲンドラモンではない何者かが、無理矢理ムゲンドラモンの姿をしているかのような、そんな気がしていた。

 

「ムゲンドラモンでもない奴が……その姿でいるな!」

「グッグッグ……グルァアアアアア!」

 

 ムゲンドラモンのそれは嘲笑だった。それは、機械であるムゲンドラモンがするはずのないもの。

 それを見て、ますますキメラモンは自身の考えに確信を持っていく。が、キメラモンが答えにたどり着くことはできなかった。

 咆哮と共にキメラモンに襲いかかったムゲンドラモンは、何もさせずにただひたすらキメラモンを攻撃する。

 何もできず、キメラモンは攻撃をくらい続けるしかなく、その状況を脱する力も、連撃を耐えるだけの力も、キメラモンにはなかった。

 

「がっ……」

「ピピ!零……!」

「グッグッグッ」

 

 限界が訪れてしまったのだろう。零は人間の姿に戻されて倒れ込む。

 そんな零の姿を嘲笑したムゲンドラモンは、ハグルモンと零をその手に掴み、どこかへと向かっていく。気絶した零にも、非力なハグルモンにも、抗うことはできなかった。

 




というわけで、第百十二話。

大成たちが優希を捜索する傍ら、いろいろと裏では起きているような回でした。
着々と集まりつつありますね。何がとは言いませんが。

それでは次回もよろしくお願いします。
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