【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
「う……ここは……?」
レオルモンが目を覚ましたのは、何らかの廊下のような場所。周りには瓦礫が転がっていて、凄惨たる現状だった。
なぜこんなところにいるのか、と。そう、しばらく考えたレオルモンは、ハッとして思い出した。ヘラクルカブテリモンの攻撃によって砕かれた地面に落ちてしまったことに。
「大成殿!ディノビーモン殿!いますかな!?」
声を上げるが、返事はない。どうやら、大成たちは別の場所に落ちたようで、ここにいるのはレオルモン一人だけだった。
そんな彼が頭上を見上げれば、遥か彼方に一点の光。そこから落ちてきたことがわかるが、遠すぎる。レオルモンではそこまで行くのは無理だった。
「仕方ないですな。道を探しましょうぞ……」
幸いにして、レオルモンの今いるここは何らかの地下施設。廊下に先に見えるいくつものドア。これでここが天然の洞窟などという間抜けなオチはありえない。
であるならば、地上に戻る出口の一つや二つあるはずである。というか、なければおかしい。
そう考えたレオルモンは、脱出と大成たちとの合流、そして優希の捜索を胸に歩き始めた。
「しかし……ここは……一体何の場所なのですかな?」
注意深く歩きながら、レオルモンは方々を観察する。
進む先にドアはいくつもあるが、そのどれもが開かなかった。鍵穴やドアノブらしきものもない。こうなると、レオルモンの頭の中にはある可能性が思い浮かんでいた。できれば、外れて欲しい可能性が。
その可能性が外れることを願って、レオルモンは進む。
「……これは」
だが、進めば進むほど、その可能性はどんどん高くなっていった。
レオルモンにとって外れて欲しい可能性。そう。それは、レオルモンではこのドアを開けることができないということである。
鍵的な何かがいるのか、それとも特定人物や外部からの操作でしか開かないのか。どちらにせよ、それらがないレオルモンにとって、これは最悪の事態だった。ここに閉じ込められてしまったことに等しいのだから。
「どうしますかな……力づく?」
なんとかしてこの場から脱出する手段を探すレオルモン。彼はドアの一つに触れてみるが、硬い。彼の持ちうるすべてを使ってみても、このドアをどうにかすることはできそうになかった。
「むぅ……しかし、やるだけやってみますかな」
誰に聞こえるでもない独り言を呟いて、レオルモンはその腕に力を込める。
そして。
「はっ!」
一閃。レオルモンの鋭い爪が、ドアを攻撃する。が、ドアは僅かに傷ついただけだった。たいして深くもない、浅い傷。このドアの厚さがどれほどのものかはわからないが、このレベルの傷ならば意味がないに等しいだろう。
さすがにここまでしか傷つけられないとは、レオルモンも予想外だった。もう少し深い傷がつくと思っていたのである。
「これでは無理ですな……別の方法を探した方がいいやもしれませぬな」
この程度では、幾度も同じ場所を攻撃して、最終的に傷を深くしていくという手も使えない。だからこそ、レオルモンは早々に力づくでどうにかするという案を切り替えた。労力も時間もかかる力づくは、本当に最終手段としたのである。
周りを見渡す。広い廊下に、高い天井。さまざまなドア。装飾品や家具の類は一切ない、無骨で無機質なまでの場所。
このような場所では存在する可能性は低いが、レオルモンはその低い可能性に賭けて探すことにした。この場所を脱することができるような、手がかりを。
「ふむふむ……むぅ……」
床を叩き、壁をひっかき、ドアを弄る。できる限りの手段で、レオルモンはこの廊下を調べ尽くす。だが、やはり何もわからなかったし、何もなかった。
床は頑丈で、床板のようなものが外れそうな場所などなかった。壁は厚く、仕掛けがあるような場所はなかった。ドアは相変わらずで、開かなかった。
つまり、いよいよ手詰まりである。こうなってしまえば、レオルモンにできることなど、外部からの助けを待つことくらいだった。
「……っく……くそ」
レオルモンらしからぬ、乱暴な言葉が口から漏れた。今、彼は自分の無力さに苛立っていた。
優希を助けるために皆の力を借りたのはいい。だが、一番優希を助けたい自分が足でまとい。戦闘は旅人たちや大成たちに任せることしかできず、今は誰かの助けを待つ身。
笑い話にしかならないような自分の現状に、ほとほと彼は嫌気がさしていた。
進化できれば。進化さえできれば、この状況を打開できるかもしれない、と。レオルモンは、そう思った。が、いくら願えど、いくら祈れど、彼が進化することはなくて。
優希の力がなければ、成熟期すらなれない自分。そんな自分のことが、レオルモンは嫌だった。
「オレだって……優希を……優希……」
取り繕うこともせず、レオルモンは力なく呟いた。無力感が篭ったその呟きは、この廊下に消えていった。
レオルモンがそんなことになっている一方のこと。
同じく地下に落ちた大成たちは――。
「イモ!おい、大丈夫か!?」
「うぐぐ……大丈、夫です……」
部屋の隅に対角線上になるようにドアが設置されているだけの、シンプルでただひたすらに広い空間にいた。
レオルモンが近くにいないことにも気づいている。できれば、すぐにでも脱出と合流のために動きたかった。だが、そうは問屋が下ろしてくれない。
「もう少し休むぞ」
「でも……!」
「その
そう。ディノビーモンが、その背に火傷にも似た傷を負ってしまっていたのである。
重傷となるほどではないが、軽傷として無視できるほど軽くもない。だからこそ、大成たちはこの場に留まっていた。ディノビーモンが少しでも回復するために。
まあ、たった数十分程度の休憩で、どれくらい回復できるかなどわかりきったことであるが。それでも、それをわかった上で、大成たちはこの休憩を取った。
「さすが……究極体ですね」
「ん?……ああ、その傷?やられたよな……」
「はい、やられました」
ディノビーモンの背中の傷。言うまでもなく、それは先ほどのヘラクルカブテリモンの攻撃によるものだった。
あの時、地面の崩落のおかげで、大成たちはヘラクルカブテリモンの必殺技を躱すことができた。が、それはあくまで直撃を躱すことができただけだった。あの必殺技によって発生した余波までは躱せなかったのだ。
ディノビーモンは、大成とレオルモンを庇って、その余波を受けてしまった。空気を焼きながら突き進むあの攻撃の余波は、それだけでディノビーモンの背中が焼け爛れるほどの威力だったのだ。
「ま、直撃しなくてもそれなんだ。直撃しなかっただけいいだろ。いや、割とマジで」
「それは……そうなんですけど。僕がもっと強ければ……僕が究極体だったら……って思うんですよ」
「……むぅ。いや、その気持ちはわからんでもないし、イモが究極体だったのならありがたいことこの上ないけどさ……究極体ってそんな簡単になれるもんじゃないよな」
大成の知りうる限り、究極体という存在はスレイヤードラモンとあのムゲンドラモンだけだ。
デジモンという存在の成長段階の頂点。それは、軽いものではない。元々この世界でも、数体しか存在しないほど。
そこにたどり着ければいいなとは、大成も思う。思うのだが、そう簡単に究極体にたどり着けるとは思えなかった。
「ですよね……」
「だな……」
大成たちは、自分たちが落ちてきた穴を見上げて、この先のことを考える。
この世界から元の世界に帰る条件は究極体に至ること。そう言われたことを大成は思い出した。今思えば、意地の悪いことだ。
例えるのならば、オリンピックに出れば帰られる。そう言っているようなものだ。
どれほど頑張っても、たどり着けない者にはたどり着けない。究極体とは、そのレベルのものだった。
それが帰る条件であるのならば、ずいぶんな無茶ぶりである。
「究極体、ね。……イモの究極体ってどんなのかね?」
「何ですか、急に?」
「いや、考えるだけならタダだろ。やっぱかっこいいのがいいよな。成長期から順当にかっこよくなってるわけだし?」
「え?そ、そうですか?なんだか照れますね……」
「うーん……あれ、ってか、ん?……どうなんだ?」
「……?何がですか?」
ディノビーモンの究極体に思いを馳せていた大成は、急に何かに悩んだような顔になる。
それは、少し真面目なようにも見えて、ディノビーモンも気になった。
うーんうーん、と悩み唸る大成。そんな大成は、やがて少しずつ話し始めた。
「いや、何がってさ。今のイモって、エクスブイモンの力によって進化できているわけだろ?」
「そうですね」
「イモ単体で完全体に進化できてるわけじゃないじゃんか」
「……そう、ですね」
「イモ、究極体になれんの?」
「……ど……どうでしょう?」
盲点だった。大成の言葉に、ディノビーモンも顔を引き攣らせて首を傾げる。
どうやら、究極体に思いを馳せる前に、完全体についても考えなければいけないようだった。
この疑問については、進化といえばのウィザーモンならばわかったかもしれない。だが、メカニズム等をよく知らない大成たちに答えを出せるはずもなかった。
「……」
「……」
「次、行きます?」
「そうだな」
考えても意味のないことだ、と。ディノビーモンは休憩を終わりにして、そろそろこの部屋を出て活動を再開することを提案する。
その意見に、大成も頷いた。
休憩は終わり。さぁ行くぞ、と。そう、大成たちは気合を入れた――そんな時のことだった。
「ああ、もう行くんですか?」
「っ!?誰だ?」
大成たちの耳に、誰かの声が届いたのは。
それはあまりにも唐突だった。この部屋の中には今まで誰もいなかったというのに。それでもなお、自分たちの耳に届いた声。
それを前に、大成たちはすぐさま身構え、辺りを見渡した。
「それほど警戒しなくても大丈夫ですよ。羽虫じゃあるまいし、ビクビクしなくても大丈夫でしょう?」
「……誰だよ?」
「ああ、失礼しました。私はアスタモンという者です。どうぞよろしくお願いしますね」
まるで初めからいたかのように。唐突に、突然に、そのデジモンは大成たちの目の前に現れる。
現れたのは、人間世界のスーツのような服装の上にコートのようなものを羽織っているデジモンだった。アスタモンと名乗った彼は、ただ笑って大成たちの前に立っていた。
「よろしくって……この状況で?敵じゃない……のか?」
「さて。それは貴方たち次第としか。まあ、無駄な敵を作るような愚かな真似をしたいというのなら、すればいいと思いますよ?」
「……どういう意味だよ」
「そのままの意味なのですが……ああ、頭に合わせて話した方がいいようですね。以後気をつけます」
アスタモンの言葉の意味は、ほとんど大成にはわからなかった。が、何やら自分を馬鹿にしていることだけは、大成にもわかって。大成のアスタモンに対する第一印象は、なんかよくわからないけどムカつく奴というところだった。
一方で、ディノビーモンはそんなアスタモンを警戒している。それは、アスタモンのことを知っているからこその行動だった。
「大成さん、下がってください」
「……イモ?」
「ふぅ。主の頭がアレなら、従者の頭もアレということですか。私と貴方は同じ完全体。同格なのですから、そこまで警戒しなくてもいいと思いますよ。警戒し過ぎて疲労するなど、頭がアレな者の行動ですよ」
アスタモンの言葉を、ディノビーモンは戯言として切って捨てた。
ディノビーモンは知っているのだ。アスタモンというデジモンのことを。
「ふむ。ここの生まれのデジモンはある程度の知識を与えられているそうですが……なるほど。余計な知識も入っているようですね。やれやれ。やりにくい」
「……?どういうことだよ。イモ、こいつのことを知ってんのか?」
「はい。たぶん、最も強い完全体デジモンの一人です」
「えっ!?」
「失礼ですね。さすがの私でも、あの傲慢の魔王には勝てませんよ。ま、それでも並の究極体よりかは上でしょうがね」
そのアスタモンの言葉に、大成は驚愕で頬を引き攣らせた。大成は、デジモンの成長段階による力の差を知っている。その差が一つあるだけで、力の差は歴然とすることを。
だというのに、アスタモンというデジモンは、完全体の身でありながら並の究極体を凌駕するというのだ。これが驚かずにいられようかという話である。
「仕方ない。頭のアレな貴方たちのためにもはっきりと言ってあげましょう」
「……なんか、馬鹿にされた気がする」
「いえいえ。素晴らしい頭の持ち主だと言っただけですよ。……こほん。ともあれ、私は貴方たちの敵ではありませんよ。今は」
「
「ええ。今後どうなるかはわかりません。貴方たち次第ですね」
不吉すぎる物言いである。が、今のところは敵ではないことだけはわかって、大成は胸を撫で下ろした。いくら完全体であろうと、究極体にも匹敵する相手と戦うのは嫌だったのだ。
だが、敵ではないならば、なぜ自分たちに接触してきたのだろうか。大成が次に気になったのは、そのことだった。
「ああ。私は今情報収集の真っ最中でしてね」
「……?それが俺たちに何か関係あるのか?」
「いえ、ありません」
ガクッと。一気に力が抜けて、大成とディノビーモンは肩を落とした。なら、何故言った、と。
一方で、そんな大成たちのリアクションが面白かったのか。笑いを噛み殺すかのような声を上げながら、アスタモンは続きを話した。
「まあ、今の状況でも悪くはないんですがね。漁夫の利を狙えそうですし」
「……?」
「でも、自分たちの手で掴みたいモノっていうのはやっぱりあるんですよね」
アスタモンの言っていることは、はっきり言ってよくわからなかった。
だからこそ、大成は堪らず聞き返す。どういうことだ、と。
「つまり、世界を混沌とさせるのは私だということですよ。だから、人間とデジモン……その双方に共倒れされては、私たちが困るんです。私たちが混沌とさせる世界がなくなってしまいますからね」
「典型的な悪者のセリフだな……今時世界征服かよ?」
「いえ、征服するつもりはありませんよ。反乱分子は、ちょっといるくらいがちょうどいい。……ああ、そこは置いておきましょうか」
もはや、すべての元凶はコイツではないかと大成たちに思わせるかのような物言いである。だが、当のアスタモンは、そんな大成たちの疑念の視線を気にした様子はない。
「置いてって……すごい気になるだろうが!」
「さて、とにかくです。貴方々には、是非止めていただきたいのですよ。彼らを」
「……彼らとは誰ですか?」
「この街にいる者たち。この世界を滅ぼすなどと無駄なことを企んでいる人間たちですよ」
敵は人間。アスタモンは、確信を持ってそう言っていた。
あのゲームといい、人間世界での調査といい、そのことには大成たちも薄々と感づいていたことではある。が、やはり、少しのショックは否めない。
人間にも多種多様な者がいるのだとわかっていても、世界一つ滅ぼそうとするなど、それこそゲームや物語の中だけの話だと思っていたからこそ。
「アスタモンって……強いんだろ?自分たちでやりゃいいじゃねぇか。なんで俺たちに?それに、俺たちは完全体止まりだぜ?優希や勇……協力を要請する奴らなら、他にもいるだろ」
「一度に聞いてきますね。躾がなってない。ま、いいでしょう。先ほども言いましたが、先のことを考えれば、無駄な労力を使いたくないのですよ。だから、こうして最小の労力をかけているのです」
つまり、アスタモンは他人に協力し、その者たちに問題を対処させることで、自分たちの勢力を温存しようとしているのである。
強いくせにセコイと言うべきか、何と言うかだが、効率的ではあるだろう。
まあ、利用される側としてはたまったものではなく、大成とディノビーモンは非難の目をアスタモンに向けていたのだが。
「あと、もちろん他の方々にも協力はしますよ。貴方だけで解決できるとは思っていませんしね」
「……ま、そうだよな。言い方に悪意を感じるけど」
「大成さん、我慢です。本当のことしか言われていないのですから!」
「ああ、ですが……」
「……?」
「正直に言えば、私は貴方たちを買ってるんですよ」
買っている。その言葉の意味は、大成たちにもわかる。だが、わかるからこそ、大成たちは解せなかった。そう言ったアスタモンの意図が。
優希や勇、旅人ならともかく、自分たちのどこに買われる要素があるのか、と。大成たちはそう思った。
「もちろん、貴方たちが定めを打ち破ってきたからですよ」
「どういう……?」
「なるほど、確かにあの進化の巫女やかつて世界を救った者たちは凄まじいと言えるでしょう。が、彼らはあれが当たり前なのですよ」
「当たり……前ですか?」
「ええ。当たり前です。彼らは、世界に……そして、運命に選ばれた者たちなのですから。ですが、貴方たちは違う。貴方たちは
そう言ったアスタモンは、どこか面白そうに大成たちを見ていた。まるで、珍しいものを見ているかのように。
選ばれていない。その言葉に、大成は思い当たる部分があった。この世界に来た人間たちは、あのゲームのランキング千位内の者たちだ。大成は、ランキングに入っていない。大成がこの世界に来たのは、優希に巻き込まれたからだ。
アスタモンはそのことを言っているのだろうか。少し違う気がしながらも、大成はアスタモンの言葉に耳を傾けた。
「選ばれていない。そのような貴方がもたらすものなど、ちっぽけなことでしかなかったはず」
「……ひょっとして馬鹿にされてる?」
「まさか。現に、貴方たち以外の選ばれていない者たちはどこぞで野垂れ死にしていますしね」
「えっ……!?」
「だが、今貴方たちだけがその姿にある。本来ならば、そこまで至ることすらできない定めであったはずなのに。繋がりという武器で、そこまで至った……だから、私は貴方を買っているのですよ」
「結局何が言いたいのか、さっぱりわかんねぇんだけど?」
「では、簡潔にいきましょうか。ヒントをあげますよ。究極に至りたいのなら――」
そこまで言って、アスタモンは大成たちに背を向ける。まるで、もう話すことはないとばかりに。
ちょっと待て、と。そう言おうとした大成たち。だが、大成たちが言うよりも早く、アスタモンはその場から姿を消して――。
「今までのように、貴方たちしか持たない何かで運命を打ち破って見せなさい。そのためのピースをすでに貴方は手にしている」
その言葉だけが、大成たちのいる場所に響き渡っていた。
ついにネクストオーダーの発売日が公開されましたね!
しかも、スサノオモンまで出るとか……いやぁ、楽しみです!
ともあれ、第百十三話。
この期に及んで新キャラ(?)登場な回でした。
もう少し早く出していればよかったと後悔しています。いや、実はある意味早く登場し過ぎているキャラではあるのですが。
彼がどういったポジションなのかは……まあ、今回の話が物語っていますね。
それでは次回もよろしくお願いします。