【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
轟音を上げて崩壊していく建物。その気配は、地下を彷徨っていた大成たちにも感じ取ることができていた。
「やばいやばい!イモ!」
「わ、わかってます!」
上空から落ちてくる瓦礫を躱しながら、大成たちは猛スピードでこの建物を脱出するべく動く。
幸いにして、ディノビーモンは空を飛べる。大成たちが始めに落ちてきた天井の穴から出ればいいのだから、瓦礫にさえ注意していればいい。
出口を探して建物の中を右往左往するよりか、ずっと脱出難度は低かった。
「頑張れ!もう少しで出口だ!」
「はい!うぅうううう!」
大成を抱えたまま瓦礫を躱し、ひたすら宙を昇るディノビーモン。その先には、先ほど大成たちが落ちてきた穴があって――数十秒後には、大成たちは数十分ぶりのあの街へと帰還できた。
「よっしゃ!助かった!」
「助かりましたね!危なかったです……!」
地下が崩れた影響だろう。街はいたるところで地割れが起きていて、その上にあった建物は軒並み崩壊している。まるで災害現場だ。
この光景を前にして、大成は教科書で見た地震で崩壊した街の写真を思い出していた。
「酷い……ですね」
「ああ。でも、なんであんなことに……?」
助かったことに安堵した大成たち。
そして、助かって余裕ができた大成たちを次に襲ったのは、地下崩落の原因に対する疑問だった。首を傾げる二人だったが、二人には何も思いつかなかった。
考えに考えを重ねる二人。そんな時だった。思考を飛ばしていた二人の視界に、動くものが目に入ったのは。一瞬、敵襲かと思って構える二人。だが、その必要はなかった。
それらは、二人にとってもよく知った者だったのだから。
「あれは……優希!セバス!……セバス?セ、バス……だよな?」
「そう……でしょうね。たぶん。見た目が違いますけど」
「大成殿!ディノビーモン殿!」
「よかった。無事だったんだな。優希もセバスも」
「心配したんですよ!」
「ありがとう……ごめん。迷惑かけちゃって」
即座に、大成たちと優希たちは合流する。お互いに無傷とは言い難かったが、無事ではあった。
無事であった優希たちの姿に、大成とディノビーモンの二人は安心する。なにせ、つい先ほどまで成長期だった者と誘拐されていた者の組み合わせだ。
究極体が彷徨いているこの場で、無事である可能性が低かった以上、無事だとわかった時の安心は大きかった。
「っていうか、さ。気になってたんだけど……」
「……?何?」
「ソレってセバスの究極体だろ!?いいなー!」
やはり究極体ということで、バンチョーレオモンにキラキラとした目を向ける大成。そんな大成をディノビーモンはオロオロとしながら見ていて、対してそんな大成に見つめられているバンチョーレオモンは居心地が悪そうだった。
何と言うか、この期に及んでいつも通りな光景で――だからこそ、優希はいつも通りの場所に帰ってこられたことが嬉しかった。
「……ただいま」
「ん?今優希何か言ったか?」
「別に何も」
呟いた独り言を聞かれなかったことにホッと安堵の息を漏らしながら、優希は意識を入れ替えて周りを見渡した。彼女は思い出したのだ。先ほど、アスタモンが最後に言った言葉を。
アスタモン。彼は、優希たちには自分を追う余裕がなくなると言っていた。もちろん、逃げるための嘘かもしれない。だが、もしその言葉が本当だった場合は。
「お嬢様?」
「優希?どうかしたのか?」
「いや……」
今この瞬間にも、余裕がなくなるほどの何かが起こる可能性があるということになる。
だからこそ、警戒して優希は辺りを見渡す。そして、優希は気づいた。いや、優希だけではないか。この場の全員が、それに気づいた。
小さな、それでいてだんだんと大きくなっていく揺れに。
「これは……!?」
「何か来るって見るべきでしょうね。アスタモンが言ってたのはこういうこと」
「お嬢様。このセバスから離れずにいてくだされ」
「なんか、うめき声が聞こえませんか?」
全員が警戒状態になりながら、辺りを見渡す。上を見て、下を見て、周りを見渡して。だが、そのどこにもこの揺れの元凶たる者の姿はない。
とはいえ、だいたいどこにいるかは予想がつく。揺れが起きるということは、必然的に上の可能性は低くなる。周りを見渡してもいないのならば、答えは一つしかない。
大成たち全員がその答えにたどり着いて、下を警戒する。だが、そんな時のことだった。揺れが収まったのは。
「大成さん、なんか嫌な予感がするんですけど……」
「そうだな。たいていこういう場あ――」
地面が割かれる。空間が悲鳴を上げる。
大成が言葉を言い切る前に、バンチョーレオモンとディノビーモンはそれぞれのパートナーを抱えてその場を離脱。その場を離れた遠くの場所に着地した。
そしてその直後、彼らがいた場所。そこの地面をこじ開けるかのように、四本の腕が地面を引き裂いて――。
「グァアアアアアアアアアアアアアアアア!」
地の底から現れたのは、四本の腕を持つバケモノだった。
「っ!キメラモン……?いや、違う……!」
どこかキメラモンに似たそのデジモンに、大成は思わずといった風に叫ぶ。だが、彼はすぐに自分の間違いに気づいた。キメラモンと目の前のバケモノの違いに気づいたのだ。
「イモ!あれは何なんだよ!おい!」
「あ……ぁ……あれは……」
「おい?イモ……?」
愕然とした顔で呟くディノビーモンに、大成は怪訝な顔をする。
いや、愕然としているのはディノビーモンだけではないか。バンチョーレオモンもあのバケモノの正体がわかったらしく、同じように愕然としていた。
まあ、それも仕方のないことだろう。それは、伝説の中だけの産物なのだから。
「セバスもイモも……あのデジモンを知ってるのか?」
「知ってるなんてものではありませんな。この世界に生きた者であのデジモンを知らぬ者はいませんぞ……」
「そんなになの?一体……」
この世界には、実在の有無や存在の善悪を関係なく、常識として誰もが知っているほどの存在がいる。
例えば、ロイヤルナイツと呼ばれる聖騎士軍団。例えば、七大魔王と呼ばれる魔王たち。例えば、四聖獣と呼ばれる守護者たち。例えば、東方の破壊神。例えば、神と呼ばれる存在。
そのほとんどが現在において実在はしないとされながらも、常識として知られる者たち。そして、このバケモノも、その類のものだった。
千年魔獣と呼ばれ、かつて時空を超えて世界を揺るがせた、狡猾なバケモノ。それすらも御伽噺や伝説の類で、存在すら実証されることはなかった。
それは、最強と最強の融合した災厄と不条理のバケモノ。それこそが、このバケモノ――ミレニアモンだった。
「こいつ……もちろん究極体だよな?」
「当然でしょう!僕ら総がかりでもどうなるか……!」
「っ……これは、なんとも……」
幸いにして、ミレニアモンはまだ大成たちに気づいていない。
ならば、今のうちに逃げるという手もあるし、今のうちにスレイヤードラモンたちと合流するという手もある。どちらにせよ、この場にいる面々だけでミレニアモンと戦うのは、この場の誰にとっても避けたいことだった。
どうする、と。見つからないように、崩壊した街の瓦礫に隠れながら、大成たちは相談する。が、そんな大成たちは、次の瞬間に見た。
先ほどミレニアモンが出てきた地面の裂け目から、もう一体のデジモンが出て来た光景を。
「うぁぁああぁぁぁああ!」
「あれは……さっきの!」
そう。ミレニアモンを追うかのように地面の下から現れたのは、彼もまた地下へと落ちていたのだろう者。先ほど大成たちを襲ってきたヘラクルカブテリモンだった。
地面から出てきたヘラクルカブテリモンは、ミレニアモンと出会う。
その光景を、大成たちは固唾を飲んで見守っていた。
「グルアアアアアアアア!」
「アァァアアアアアアア!」
出会った両者の咆哮。それは、味方同士のコミュニケーションなどでは毛頭ない。それは、敵として出会ったが故の威嚇だった。
ピリピリとした威圧感が、辺りに広がる。大成たちの目の前で、究極体同士のぶつかり合いが始まった。
「何かもう……怪獣大決戦だな、おい」と、大成は本心からそう呟いた。
互いに四本の腕を持つデジモン同士だ。ガッツリとすべての腕と腕を取っ組み合って、しのぎを削っている、が。
「……これ、ヘラクルカブテリモンが押されてる?」
「どう見てもそうですね……」
「力の差は歴然ね……セバスはどう見る?」
「少なくとも、このセバス単体では厳しいかと……」
外野である大成たちが見守る中で、ヘラクルカブテリモンはみるみる押されていった。というか、もうほぼ押し倒されているも同然状態だ。
大成たちとしては、もう少し互角の戦いを繰り広げて欲しかった。互角の戦いならば、相手に集中せざるを得なくなり、自分たちが隙を見てこの場から離れることもできただろうからだ。
だが、実際はミレニアモンの独壇場。これでは、大成たちも逃げるに逃げられない。見つかってしまった場合のリスクが高すぎる。
「グギャァアアアアアアアア!」
咆哮。まるで勝利を確信したかのようなミレニアモンは、その咆哮と共に一層の力を込める。
ブチリ、と。その瞬間に大成たちには、まるでロープが切れたかのような、そんな場違いな音が聞こえた気がして。
そんな彼らの目の前に降ってくる、腕。それが誰の腕であるかなど言うまでもない。
大成たちがハッとして見れば、ヘラクルカブテリモンはその四つの腕すべてがもがれていて、芋虫も同然の状態となって地面に転がされていた。
「グギャァアアアアア!」
「ぁ……ァァァアア……ァ」
再度、咆哮。それと同時に、ミレニアモンの背中の砲が煌めいて――。
「……ムゲンドラモンよりずっと高威力じゃないですか?」
「はは……というか、威力が高すぎてどっちも変わんねぇよ。明らかにオーバーキルだろ」
一瞬の衝撃の後、大成たちの前に、ヘラクルカブテリモンの姿はなかった。ただ、何かが通ったかのような、尋常ならざる一直線の跡があっただけだった。
真正面から敵を打ち破る怪力に、究極体デジモンですら跡形もなく消し飛ばす威力の砲撃。
大成たちは直感した。目の前にいるバケモノは、まず間違いなく今まで出会った中で最強のデジモンであると。
「グルァァァァ」
探るような、ミレニアモンの唸り声。それがどこへ向けられているかなど、大成たちにはわかりきったことだった。
「ねぇ……」
「言うなよ。……はぁ。ゲームしたい」
「むぅぅ……」
「最悪ですね」
大成たちは運命や神様といった存在を呪いたくなった。
このまま天を仰ぎ見て、すべてを投げ出せればどれほど楽だろうか。そんな気分になりながらも、大成たちは頷き合うまでもなく、揃いも揃って動き出した。
死にたくはない。彼らの中にあるのはそれだけで――。
「グルァアアアア!」
大成たちがその場を離れた瞬間、ミレニアモンの豪腕が一瞬前まで彼らがいた場所をなぎ払った。あと少しでも行動するのが遅かったのならば、今頃大成たちはヘラクルカブテリモンの二の舞になっていただろう。
自然と冷や汗が垂れたのを、大成たちは感じた。
「っ……大成殿!ディノビーモン殿!」
ミレニアモンの力を目の当たりにして、バンチョーレオモンは叫ぶ。もはやこれしか方法はない、と。
「なんだよ!」
「お嬢様を頼みますぞ!ここはこのセバスが時間を稼ぎます!急ぎスレイヤードラモン殿たちを呼んできてくだされ!」
即座に反応した大成たちに優希を渡して、バンチョーレオモンはミレニアモンに向かって行く。
つまりは増援を呼ぶ間の時間稼ぎ。それが、彼の選択だった。
「ちょ、待ちなさいセバス!」
一方で、優希は一人残るというそんな彼の選択に納得できるはずもなかった。
声を荒げて静止の声を挙げる優希。彼女はわかったのだ。目の前のミレニアモンの強さが。例え同じ究極体であろうと瞬殺するバケモノ。そんなバケモノを前に、自身のパートナーを置いて行くことの危険さが。
一方で、バンチョーレオモンにもわかっていた。この荒れ狂うミレニアモンとの戦いの場に、無力な人間を置いておくことがどれだけ無謀なことであるか。
「セバス!」
やめてくれとばかりの、懇願するかのような優希の声。だが、その声の中には、まるで確認するかのような、そんな別の意味が込められていることにバンチョーレオモンは気づいた。
だからこそ。
「大丈夫ですぞ!」
彼は言う。いつも通りに。そして、その一言に万の思いを込めて。
そこには、強がりや仕方なくといった感情はなかった。正真正銘、この時間稼ぎをやりきれるという当然の意思が込められていた。
楽観的かもしれない。が、そんな彼の声は、優希を安堵させるには十分なものだった。
「ずるいよ……そんなことを言われたら……絶対にリュウたちを連れてくるから!」
しかし、だからこそ、優希は湧き上がる不安を無理矢理に押し殺すことができた。いつも通りの自分のパートナーを、いつも通りに信じられることができたからこそ。
いつかのように任せるだけではない。自分にできることをする。そのために、彼女は振り返らなかった。
「急いで戻ってきます!」
「死ぬなよ!」
一人犠牲になるような行動。それは優希だけではなく、大成たちもそんな彼の行動は納得できなかった。が、とはいえ、だ。それが、この場においての最善であるということもわかっていた。
だからこそ、ディノビーモンは持てる全速力でもって、この場を離脱。スレイヤードラモンたちを探しに行く。
「急げイモ!」
「急いで!」
「わかってます!」
もちろん、一人残ったバンチョーレオモンを犠牲にするつもりは大成たちには毛頭ない。心身共にただひたすらに急いで、彼らはこの場を離れていく。
そんな風に離れていく大成たちを見送ったバンチョーレオモンは、一人ミレニアモンの前に立ち塞がった。
「やれやれ……ですな。さて、ここから先は一歩も通しませんぞ。お嬢様や大成殿たちの安全を確保するためにも……ここで足止めさせていただきますぞ!」
「グルァアアアア!」
まるでこの世のすべてを怖さんとばかりに咆哮するミレニアモン。その姿の迫力は、千年魔獣の二つ名に違わない。
そして、そんなバケモノを前に臆することなく、バンチョーレオモンは躍り出た。
というわけで、第百十七話。
ミレニアモン登場回でした。
そういえば、何気に前作でも登場しているんですよね……。
ともあれ、それでは次回もよろしくお願いします。