【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第百十八話~千年魔獣を討ち倒せ~

 走って、走って、走る。

 あの千年魔獣に勝つために、バンチョーレオモンを助けるために、大成たちはひたすらに助けを求めて走る。

 

「はっ……はっ……苦しっ……はっ!」

「大成さん、運動不足じゃないんですか!」

「かもしれない!」

 

 背後では、轟音が轟いている。

 先ほど別の場所で見たような、そんな感じに建物が空に舞っている。降ってくる瓦礫、背中を押す衝撃波、そのどれもが大成たちにとっては耐えられないほどのもので、彼らも必死に走る。

 

「っ、大成!」

 

 何かに気づいたように、優希は叫んだ。

 なぜそんなにも鬼気迫る表情でいるのか。一瞬だけ考えて、次の瞬間に大成は暗くなった足元を視界に収め、理解する。

 降ってくるのは、巨大な岩塊。間違っても、大成に躱せられるものではない――。

 

「ハァっ!」

 

 だが、そんな岩塊をディノビーモンが砕く。

 助かった。細かな破片が落ちてくる中、大成は安堵の息を吐いて、そこで気づく。自分の足元が未だ暗いままであることに。

 そっと大成は上を向く。先ほどよりも巨大な岩塊、というよりも建物が、落ちてきていた。

 

「ああぁあああああああああああ!」

 

 全速力で走る。大成も優希もディノビーモンも。

 この面々の中で、あれほどの巨大な塊を自分たち全員が無事な形でどうにかできる者はいなかった。

 必死に、無心に、大成たちは足を動かし、そして。

 

「……え?」

「あれ?」

 

 パラパラと降ってくる細かい砂が、大成たちの頭に降り注いだ

 あの塊が落下してきたにしては、あまりに不自然な今に大成たちは恐る恐る前を向く。

 

「ったく、手間かけさせんなよ」

 

 そこにはその手の剣を振り抜いたスレイヤードラモンが、呆れた様子で立っていた。

 さらに背後には傷だらけで倒れている黄金の神鳥がいて、それは彼が勝ったことを如実に表していた。

 

「優希、無事だったんだな? よかったぜ」

「リュウ! セバスが……セバスが!」

「ああ、なるほど……わかった」

 

 焦った様子の優希の様子に、スレイヤードラモンも大まかなことを察する。というか、彼も感じ取っていたのだ。あの強大な魔獣の気配を。そんな魔獣が誰かと戦っている気配を。

 

「スレイヤードラモンさん、敵はミレニアモンなんです! このままじゃセバスさんが!」

「伝説に名高い千年魔獣か! それはまたビックネームだな」

 

 言いながら、スレイヤードラモンは大成たちの方を見る。そこには不安そうな顔をした面々がいて、彼は苦笑した。

 「ま、任せとけ」と言いながら、大成たちの肩を軽く叩く。安心させるように。

 

「そんじゃ――」

 

 行くか。そう言ったスレイヤードラモンは、何かに気づいたように明後日の方向を見てニヤリと笑う。そんな彼の視線の先には――五年前によく見た姿となった彼がいた。

 

「よう、ドル。また懐かしい姿だな」

「でしょ~? 久しぶりに頑張ったよ~!」

 

 やって来たのはドルゴラモンと旅人だ。その様子からして、無傷であの軍勢を片付けてきたのだろう。自分のことを棚に上げて、スレイヤードラモンは苦笑した。

 

「まあ、優希は無事だったんだし、さっさと帰ろうぜ?」

 

 用はもうないだろう、と。事情も掴めていない旅人がそう言う。

 だが、そんなわけにもいかない。ディノビーモンが慌てて今の事情を説明した。

 

「なるほど、ね。セバスが……というか、またミレニアモンか」

「懐かしいね~」

「ん? 旅人とドルはミレニアモンを知ってんのか?」

「まぁ、リュウと会う前にちょっとな」

 

 ミレニアモンのことは旅人たちのちょっとした複雑な思い出である。

 詳しくは知らないスレイヤードラモンが、言葉を濁した旅人に首を傾げた。

 

「ともかく! それじゃ、さっさとセバスを助けて帰るか。な?」

「ああ!」

「うん~!」

 

 そう言ってくれた旅人たちの姿に優希は希望を見い出せた。彼らがいてくれば、と安心できた。

 そして、そんな優希に頷いた旅人たちは駆け出す。ミレニアモンとバンチョーレオモンの下へと。

 

「僕たちはどうしましょう……!?」

 

 そんな旅人たちの後ろ姿を見ながら、ディノビーモンが呟く。

 その言葉には、大成も悩む。なにせ、今からあの場所は究極体四体が集う戦場である。自分たち――完全体デジモンと非力な人間が行っても足でまといになるかもしれない、そう考えられる。

 だから、大成たちは悩んだ。

 

「……お願い。大成、私を連れて行って!」

「……はぁ」

 

 まあ、頭を下げてきた優希を前にして、その悩みは意味のないものへとなったのだが。

 泣きそうな、それでいて不安そうな顔で頼まれれば、大成たちに拒否することはできなかった。

 

「イモ! 回避中心で、俺と優希の護衛ってことで?」

「なんで疑問形なんですか……大丈夫です! 行きましょう!」

 

 ディノビーモンが優希と大成を抱えて、飛ぶ。轟音鳴り響き、大気震えるその場所を目指して。

 

「うわぁ……」

 

 そして、その場所に到着したディノビーモンが上げた第一声が、これだった。この呟きには、さまざまなものが込められていた。

 目の前で繰り広げられる、戦い。自らの力が遠く及ばない、戦い。

 自分の無力も、敵の強大さも、それをものともしないスレイヤードラモンたちや人の身でそれについて行っている旅人も、それらすべてに頬を引き攣らせていた。

 

「これが究極体同士の戦いかよ……」

「すごい……」

 

 大成と優希も、同様の反応を示す。

 彼らの目の前では、それほどの戦いが繰り広げられていた。

 

「セバスも無事みたいだな」

「……うん」

 

 主にミレニアモンに戦いを挑んでいるのは、旅人たちだ。だが、バンチョーレオモンは役たたずでいるかというと、そうでもない。彼は彼なりに、必死で旅人たちの戦いについて行っていた。いや、ついて行けていた。

 その様子に、優希はあからさまにホッと安堵の息を漏らす。

 

「すごいな」

 

 大成が呟く。

 

「ええ、すごいですね」

 

 頷いて、ディノビーモンも呟いた。

 彼らの中にあるのは、ほんの少しの劣等感だった。圧倒的な力を持つミレニアモンに戦える旅人たちに、そしてそんな旅人たちについて行けるバンチョーレオモンに対しての――。

 

「……究極体、か」

 

 そんな彼らの姿が、大成たちには格好良く写った。

 正直に言えば、やはり憧れる。まるで物語の主人公のように、圧倒的な力に対抗できる彼らの姿は。

 

「何、弱気になってるのよ」

 

 そんな大成を叱咤するように、優希が声を出す。そこにはほんの少しの弱気があって、劣等感を抱いているのは自分だけではないことに、大成は気づく。

 

「優希?」

「私たちにだって、できることはあるでしょ。きっと――」

 

 どこか懇願するような色が含められていた。

 大成は目を軽く瞑り、呟く。そうだな、と。そして、目を凝らして戦況を見守る。自分たちの力が必要となるかもしれない瞬間を見逃さないように。

 そんな大成たちの一方で――。

 

「グゥアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 ミレニアモンと旅人たちは戦っていた。

 とはいえ、主に戦っているのはスレイヤードラモンとドルゴラモンだ。バンチョーレオモンは二人の戦闘的な意味でのサポートで、旅人は補助的な意味でのサポート役を担っている。

 

「おりゃあ!」

 

 ドルゴラモンの拳が、ミレニアモンの拳を打ち負かす。

 

「ハッ!」

 

 スレイヤードラモンの剣が、ミレニアモンの身体に深くない傷を残す。

 どちらの攻撃も効いていない訳ではないだろうに、ミレニアモンは弱る気配を見せない。いや、それどころか先よりも増して暴れ出している。

 体力的にはまだ問題ない面々でも、これだけ攻撃を浴びせてなおも増して暴れるミレニアモンは厄介だった。

 

「久しぶりの強敵だな!」

「なんでそんなに嬉しそうなの~!?」

「ハッ!最近は運動不足気味だったからな!」

 

 ドルゴラモンの尾が振るわれる。横薙ぎに振るわれたその尾は、まさに大気を裂く一撃。その太く鋭い尾で頭部を叩かれたミレニアモンだ。苦しげに呻くしかなかった。が、それだけだった。

 叩かれた勢いで明後日の方向に捻れた頭部が、ギロりとドルゴラモンを睨む。頭が捻れたままに、その四本の腕が振るわれる――。

 

「やらせるか!」

「やらせませんぞ!」

 

 その直前、スレイヤードラモンとバンチョーレオモンが自身の獲物でもってその腕を防いだ。

 防いだ瞬間、ガチャりという機械が動く音が辺りに響く。それは、ミレニアモンの背中の砲が三人の方へと向けられた音だった。

 

「げっ!」

「っち、躱せるよな!?」

「もちろんですぞ!」

「躱せるけど!けど~!」

 

 瞬間、放たれた砲撃。直線上のすべてを薙ぎ払う破壊の光が、縦横無尽に世界を駆け回る。

 一発当たれば瀕死は必至。スレイヤードラモンたちは必死に躱す。難なく躱すスレイヤードラモンとバンチョーレオモンはともかくとして、ドルゴラモンはずいぶんと必死そうに躱していた。

 

「旅人ぉおおおおお!ヘルプミ~!」

 

 実に()()()()()()()()情けない声に、呼ばれた旅人は呆れたように笑う。

 

「はいはい、任せろって。set『反発』!」

 

 瞬間、使われたカードが力を発揮する。

 起点にした場所から、磁石のような反発力を発生させるそのカードの力によって、ミレニアモンの方が一瞬だけあらぬ方向を向く。

 カードの力は、究極体に通じるほど高レベルなものではない。究極体の中でも上位の力を持つだろうミレニアモンに使用して、用意できる時間はほんの一瞬。だが、その一瞬、それで十分だった。

 

「ナイスだ!」

 

 スレイヤードラモンが空を駆ける。剣を振るう。伸縮自在のその剣が鞭のように突き進み、ミレニアモンの砲を絡め取る。

 

「おりゃぁあああああああああああ!」

 

 後は、力の限り引っ張るだけだ。

 元のサイズに縮む力が利用されて、想像以上の力でミレニアモンは引っ張られる。一瞬、砲撃を撃つ間もなければ、狙いが定まることもない。踏ん張って、力の限り耐えた。

 

「今だ!」

「今ですなっ!」

 

 その隙を逃さない。

 バンチョーレオモンとドルゴラモンの二人が、ミレニアモンに迫る。一瞬、二人の姿を視界に収めて、ミレニアモンはただ暴れた。

 

「えっ!?」

「うぇっ!」

 

 狙いも何もなく振り回された四つの拳が、ドルゴラモンたちの足を止めさせる。四つの拳を振り回すことで生まれた勢いを利用して、身体を()()()

 ただの身震いも、極まればここまでになるのか。そう、感嘆してしまうほどだった。その震えは自分の身を拘束していたスレイヤードラモンの剣を砕き払い、軽度の地震を引き起こす。

 

「うぉっと!」

 

 グラグラと揺れる地面に、旅人は軽くよろける。そんな彼を狙うミレニアモンだったが、そんなことをこの場の面々が許すはずもない。

 

「おりゃぁっ!」

 

 ドルゴラモンが、旅人めがけて拳を振り上げたミレニアモンを突き飛ばす。

 その痛みを覚える中で、突き飛ばされた彼は見る。己の頭上に、剣を振りかぶった竜戦士がいることを。

 

「ハァっ!」

 

 落下の速度さえも力に変えて、振り下ろされる剣閃。ミレニアモンは咄嗟にそちらへと背中を向ける。もちろん、それは無防備な背中を晒すということではない。自らの背中にある砲でもって、その一撃を防ぐ算段なのである。

 スっ、という驚くべきほどに軽い音がして、綺麗な断面を見せた砲が落ちた。

 

「グァアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 自らの身体の一部ですらある武器を破壊されたことに怒ったのだろう。ただただミレニアモンは咆吼した。先ほどにも増して、ミレニアモンは暴れようとする。

 そんな敵の姿に、この場の面々の全員が奇妙な違和感を抱く。だが、敵の主武装を潰した今というチャンス、それを前にして、その違和感は忘れられた。

 

「よし、終わらせよ~!」

 

 ミレニアモンを前に、ドルゴラモンが駆ける。その力強い踏み込みは、彼がいつにも増して力を溜めていることの証だった。

 

「これで終わりだッ!」

 

 隙は少なく、それでいて力を込めて、スレイヤードラモンは剣を構える。その構えは、いっそ実戦レベルにまで極められた儀式のよう。何らかの技が放たれることが見て取れた。

 

「このセバスも……まだまだいけますな!」

 

 ドルゴラモンたちだけに任せる訳にはいかない。なぜなら、自分はまだ戦えるのだから。バンチョーレオモンは極限に精神を集中させ、そうすることで得た気合のすべてを腕に乗せた。

 

「グルァアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 そんなドルゴラモンたちの様子に、ミレニアモンが気づくが遅い。

 この中で最も速いスレイヤードラモンが既に動いていたのだから。

 

「ふっ! “竜斬剣参の型!――咬竜斬刃”ァ!」

 

 ミレニアモンの至近距離にまで踏み込み、その剣を限界以上にまで伸ばす。

 鞭のように伸びた剣は一瞬のうちにミレニアモンの身体に巻きつけられ――次の瞬間、剣は一気に縮む。巻きつけられた剣は元の長さに戻ろうとし、その動きでミレニアモンの身体は削り取られていく。

 

「グァアアアアアアアアアアア!」

 

 悲痛な叫び声を、ミレニアモンは上げた。

 だが、まだ終わってはいない。反撃すべく、ミレニアモンはその拳を振り上げる。

 

「負ける気はしないよ!」

 

 だが、その拳が振り下ろされるよりも、近くにまで来ていたドルゴラモンが拳を振り抜く方が早い。

 振り抜かれたドルゴラモンの拳がミレニアモンの腹に突き刺さる。重く、鋭く、固く。全身全霊のその凄まじい突進、“ブレイブメタル”と呼ばれるその突進は、ミレニアモンにも耐えられないほどの一撃だった。

 

「グギャッ!?」

 

 だが、奇跡だろうか。ミレニアモンは未だ生きている。未だ、戦える。圧倒的威力の必殺技二連続によろめいたものの、ミレニアモンは未だ動ける。

 

「これで終わりですな……!」

 

 最後のひと押し。フラつくミレニアモンにトドメの一撃を与えられる者は、この場にまだいる。

 放たれたのは、バンチョーレオモンの一撃。極限まで研ぎ澄まされた気合が拳に乗った、一撃。“フラッシュバンチョーパンチ”という名の彼の必殺技。

 

「ガァアアア……」

 

 三人の連続必殺技を受けて、轟音と共にミレニアモンは倒れた。

 

「勝った……?」

「勝った! すごっ!」

「千年魔獣に勝ちましたね! いえ、心配はしてませんでしたけど、本当にすごいです!」

 

 その光景に、離れていた場所から見ていた大成たちは喜びの声を上げる。

 これで、今回の件は終わったのだ。その喜びを前にして彼らはただ声を上げる。

 

「グルァ……!」

 

 だが、そんな彼らの喜びを嘲笑うかのように。

 

「っ、こいつまだ……!」

「グルァアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 ミレニアモンは立ち上がる。その今にも死にそうな身体を引きずって、ただ暴れ始めた。

 




というわけで、第百十八話。

主人公である大成たちが空気な回でしたね。
いや、仕方がないんですが……彼らの活躍はもう少し後の予定です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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