【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
数年ぶりに風邪をひいてしまい、今の今まで倒れてました。
たかが風邪なんですが、まさかこんなにキツイとは……。
数年ぶりだけに、そのキツさに慄きました。皆様もお体にはお気を付けください。
旅人たちがミレニアモンと戦っている、その頃のことだった。
つい先ほどまで旅人とドルゴラモンがいた森の中、そこに勇とシャイングレイモンはいた。
二人がこの森へとやって来たのはつい先ほどだ。未だ旅人たちがここで戦っていた時のことである。
「行っちゃったね」
「行っちゃったな」
だが、彼らのあんまりな暴れっぷりと強さに呆然としてしまって――勇たちがそうしている間に、旅人たちは行ってしまったのである。
「旅人たち、すっげー強かったな」
「バッタバッタと倒してたもんね!」
「……ちょっと戦ってみたいな」
「勇もやっぱりそう思う?ボクも!」
元々あのゲームでランキング一位という称号を持っていた勇だ。命が関わることなどないのならば、強い相手と戦ってみたいと思うのも当然だった。
思わずそう思ってしまうくらい、彼の強さは勇に深く刻まれた。
向かい来るデジモンたちを吹き飛ばし、押し潰す。まさに破壊の化身たるその姿に、勇たちは少しばかりの憧れと挑戦心が湧き上がったのだ。
「でも、まずは優希のことだよな。旅人たちは上に行ったし……上?」
「何にもない……あっ、うっすらと何か見える!」
勇はシャイングレイモンの示した先を見る。確かに、本当に僅かながらにうっすらと何かが見えた。何かとしか言いようがないが、シャボン玉のような膜にも見える。まるで内側からの衝撃に破れそうになっているかのように、その膜は揺らいでいた。
あの中に何かあるのだろうか。勇とシャイングレイモンは一瞬だけ考えて、だが、すぐに思い直した。行けばわかることだ、と。
「んじゃ、オラたちも行くか!」
「おー!」
シャイングレイモンは勇を落とさないようにしっかりと掴む。勇自身も落ちないようにしっかりと掴まって、頷いた。
そして、シャイングレイモンは飛ぶ。上空にうっすらと見える半透明の膜へと向かっていく。
「しっかりと掴まってて!」
「大丈夫だ!」
勢いづけて、シャイングレイモンは膜へと突き進む。そこに一度止まって様子を見るという選択はないかのよう。
「はぁっ!」
「ぬぐ、ぅ……」
次の瞬間、シャイングレイモンは体当たりで膜を突き破ってその内部へと突入した。
だが。
「は?え、ちょ……!」
「げぇっ!?」
だが、そんな彼らの前に現れたのは巨大な壁。
膜を突き破るために全霊で突進していたシャイングレイモンだ。止まることなどできるはずもない。
「勇!しっかりと掴まってて!」
咄嗟にシャイングレイモンは判断する。勇を庇うように身体を動かし、その後は翼を羽ばたかせて勢いを殺す。できる限りのダメージを減らすための行動だった。
そして。
「ぐっ!」
「……!」
二人は壁を突き破る。頑丈なシャイングレイモンはともかくとして、凄まじい衝撃が勇を襲った。それでもそれだけで済んだのは、シャイングレイモンの咄嗟の判断と行動のおかげだろう。
「だ、大丈夫かー?」
「ボクは大丈夫……勇は?」
「オラも大丈夫だー」
お互いに無事を確認した勇たちはよろよろと起き上がる。
膜の内側に何かがあるとは思っていたが、まさかいきなり突っ込むことになるとは。勇は服に付いた汚れを軽く叩き落としながら、辺りを見渡した。
今、勇たちがいる場所は巨大な部屋だった。シャイングレイモンが自由に動けるといえば、その大きさのほどがわかるだろう。
その部屋には、所々に大小さまざまな機械が置いてある。まあ、勇たちが突っ込んだことで、そのほとんどは壊れてしまったようであるが。
「これ、弁償とかさせられないよな……?」
「べんしょう……!?ボ、ボクお金持ってない!」
巨大な部屋を埋め尽くすほどあった大量の機械を壊してしまったのだ。用途不明の機械だとはいえ、それらがいち学生の小遣いで買えるようなものではないことくらいは勇にもわかる。
サッと勇は顔を青くした。
「も、もし何か言われたら土下座して謝るしかないってぇさ!な!」
「う、うん!ボクも全力で土下座するよ!」
周りに散乱する機械の残骸を見つめながら、勇たちは頬を引き攣らせていた。
「と、とりあえず旅人たちを探すか!」
「そ、そうだね!」
ドキドキとした不安と焦燥のままに、彼らは動き出す。
この部屋の中にある扉、そこからこの建物を見て回るか、それとも先ほど開けた大穴から再び外に出て、外側から探すか。
しばらく二人は考える。
「よし、外から行こう!」
まあ、その扉のサイズがシャイングレイモンには小さすぎるということで、結局外から行くしか選択肢がなかったのだが。
勇は再びシャイングレイモンの掴まる。彼がしっかりと掴まったのを確認して、シャイングレイモンは再び外に出る――。
「……!?」
「なっ!?」
その瞬間のことだった。
世界が震えた。どこからか獣のような咆吼が聞こえ、さらに巨大地震と間違うばかりの揺れに襲われて、シャイングレイモンは思わず立ち止まる。
揺れはそう長く続かなかった。ほんの数秒程度だろう。だが、その数秒の揺れがこの建物に与えたダメージは大きかった。
「勇!」
シャイングレイモンが勇を庇うように覆い被さる。
瞬間、凄まじい轟音と共に天井が崩れた。
「大丈夫か……?」
「ケホッ……ゴホッ、ああ、大丈夫。助かったよ」
舞い上がる土煙に咳き込みながら、勇は目を擦る。土煙が目に入って痛いことこの上なかった。
一体何だというのか。先ほど聞こえた獣のような咆吼といい、何かが起きている。二人はそのことに気付いた。
「ゴホッゴホッ……ん、あれは……?」
「あれ……?」
土煙によって見えなくなった視界がようやく戻ってきた。
そこで見えたものに、勇は疑問の声を上げる。先ほど崩れた天井と同時に降ってきたのだろう。いくつものカプセルのようなものが見えた。
勇は慎重にそれに近づく。何も起こらない。半透明の卵のようなソレは、ともすればSF作品に登場しそうな見た目だった。
そのままソっとそのカプセルらしきものを覗き込む。
「なっ……!?」
思わず勇は驚愕の声を上げる。
中に入っていたのは人間だった。目を閉じ、中で横たわっているその様はまるで死体のようにも見える。これを見てしまえば、このカプセルのような何かはまさに棺桶のようでもあって、勇は気味が悪くなった。
「こ、これ……!」
「気持ち良さそうだなぁ……前に勇が言ってたマッサージ機ってやつ?」
「そんなわけ無いだろ!こ、これ死――」
「うん?生きてるよ?」
「え……?」
シャイングレイモンに言われて、勇は取り乱しそうになっていた自分を押さえ込む。もう一度じっくりと見てみた。
すると、確かに生きていることがわかる。その胸が上下しているのだ。それは呼吸している証だった。
そのカプセルモドキの奇妙な外見から勇は勘違いしてしまったが、確かに何のことはない。このカプセルモドキはただの入れ物でしかないようだった。
「……でも、だったらこれは……?」
周囲に転がっているいくつかのカプセルモドキには、すべて人間が入っている。年齢も性別もバラバラの人間が。
「開けてみるかー?」
カプセルモドキをガチャガチャと触っているシャイングレイモンは、そんな軽率なことを言う。
一方で、勇は「いや……」と言葉を濁した。このカプセルモドキの用途が不明な以上、下手に弄って大惨事になったら目も当てられない。
特にSF映画でよくあるような使い方をしていたのならば、開けた瞬間に中の人間が死んでしまうなどということすらありえる。
「じゃあ、ほっとくのか?」
「……そういう訳にも行かないよなぁ」
下手に弄れないからといって、この瓦礫の中に生きている人間の入ったものを放置するのも危険に思えて、勇たちは悩む。
どうするのが正解なのか、悩んで――そんな時のことだった。
「これは……また良い客が来たものだ」
勇たちの耳にどこかで聞いたような声が聞こえたのは。
「っ誰だ!?」
思わず反応する。が、その声の主の姿は見当たらない。勇たちは辺りを警戒する。
「ククク……本当ならばお前もそこに転がる者たちの仲間となるはずだったというのにな」
「……!?」
「哀れな木偶、操り人形を操る糸――お前もその一員となる。ああ、どれだけ夢見たことか。だが、これはこれでよかったかもしれないな」
勇たちの前で、闇が集う。集った闇が蠢く。蠢く闇が形を成す。
今、闇の中から現れようとしている何者か。その何者かこそが、この現状の原因なのだと勇たちにも理解できた。そして、理解できたからこそ警戒する。
闇は足元から順に形を作っている。二本の足、二本の腕――人型だ。しかも、マントのような装飾を身に纏っている。どこか既視感のある姿だった。
「まさか、お前は……!」
そこまで来て、ようやく勇たちは気づく。
聞き覚えのある声、見覚えのある姿、それが誰の者なのか。
「ククク。久しぶりだな。お前たちにはこの姿の方がわかりやすいか」
現れたのは、吸血鬼。勇たちにとって忘れようもない相手、ヴァンデモンだった。
「っ、何でお前が!? お前は大成たちに倒されたって……!」
ヴァンデモンは大成たちが倒したと聞いていただけに、勇は僅かに動揺する。
そんな勇の一方で、ヴァンデモンは大成の名に忌々しげにしながらも、答える。
「何とか生き延びたのだ。それこそ、お前たち人間に対する憎しみだけでな……!全く、あれからの怨恨と憎悪の日々は未だに私を煮え滾らせる」
「勝手なことを!初めに襲ってきたのはそっちだろ!」
「そんなことは知ったものか!私はお前たちに復讐するためだけにここまで来た!恥辱に塗れ、憎悪に燃えて!」
ヴァンデモンは勇たちを睨む。そこにはかつてにはなかった感情があるように感じられた。まるで氾濫した大河のような、他のすべてを押し流すような、そんな激情が。
その様を前にして、そして相手があのヴァンデモンということもあって、勇たちは一瞬だけ気圧される。彼のそれは凄まじいばかりの感情の咆吼だったが、勇たちはすぐさまに気を取り直した。前と同じようにはならない、と。
「ようやく……ようやくだ!忌むべき人間たちにも接触し、私の力を貸す代わりに私は力を取り戻せた!いや、前以上の力を手に入れた!」
「……!?」
「これで……これで私の苦痛の日々は終わるのだ!見ろ!多くの人間を!そしてそのパートナーデジモンを操る我が力を!今やあの千年魔獣さえも我が支配下に置く私の力を!」
ヴァンデモンの姿が変わっていく。いや、
その光景を、勇たちはただ見ているだけしかできなかった。前以上の力、その言葉から薄々だが、勇たちもまさかと思っていた。だが、本当にこうなっているとは。
「ククク!私の復讐の幕開けを飾らせてもらおう……!」
灰色の身体に、シャイングレイモンに匹敵する巨体、マントのようにも見える紫の翼。頭部の仮面に前の僅かな面影が残っている。
曲がりなりにも人型であった以前とは違う、完全な異形の存在。それこそ、究極体デジモンのベリアルヴァンデモンだった。
「吸血鬼たる私はついに魔王となった!お前たちを殺し、奴らを殺し、究極に至る私こそが七大魔王にも匹敵する魔王となるのだ!」
「っ、シャイングレイモン!」
「わかってる!」
圧倒的なまでの殺意に身体が凍りそうになる。今までの相手とは格が違うことがわかって、勇たちの表情は自然と厳しいものとなる。
このままではまずい。勇はシャイングレイモンに目配せする。シャイングレイモンはすぐさま彼の意図を感じ取った。
「おりゃぁ!」
シャイングレイモンがベリアルヴァンデモンへと殴りかる。対するベリアルヴァンデモンは、その一撃を難なく防ぐ。
殴りかかった拳を自らの拳でもって受け止めたのだ。力で押そうとするシャイングレイモンとそれを力で防ぐベリアルヴァンデモンという構図が生まれ、やがて二人は取っ組み合いの状態へと移行する。
「ぐぬぬ……!」
「ククク。究極体に進化したのにこの程度なのか?」
まるで
一方で、勇が今していることもあって全力を出せないシャイングレイモンは、歯噛みするしかなかった。
「勇……早く――!」
見れば、勇は一生懸命に動いているが、それが終わるまでもう少し時間がかかりそうだった。
シャイングレイモンの苦難はあと数分終わらない。
シャイングレイモンとベリアルヴァンデモンが戦い始めたその頃。
空中に浮く街のとある一角のこと。
「まさか一位が来るとは。どうしますか?」
先ほど零たちの前に姿を現した女性は、半ば厳しい目で上司たる男性に向かい合っていた。
だが、厳しい目をしている女性とは対照的に、男性は静かに目を閉じている。それはこの先のことを考えてのことだった。
「捨て置いて構わないだろう」
「なっ……!正気ですか!?」
「ベリアルヴァンデモンという戦力を失うのは惜しいが……奴はもう用済みだ。一位に始末させる。何、“いずれ”が“今”に変わるだけの話だ。だろう?」
「それは、そうですが……」
彼らにとって、ベリアルヴァンデモンの存在はありがたいものだった。この上なく利用し易いのだ。
自尊心だけ人一倍強く、その取るに足らない自尊心のために自他を破滅させるほど昂る。そのくせ根は小心者で、心身ともにその自尊心に見合うだけのものがない。
そんなベリアルヴァンデモンの存在を利用することで、彼らは自分たちの計画を大きく進めることができたのだ。感謝してもしきれないくらいだった。
「どちらにせよ、我々の最後の切り札は手に入れたのだ。この世界を滅ぼす最後の切り札を、な」
「皮肉な話ですね。この世界を滅ぼすためにこの世界の力を使うなんて……我々人間の叡智で滅ぼせられればいいんですが」
「仕方あるまい。我々の力は未だこの世界には届かない。我々にできることはたかが知れている。いつだってそうだ。我々は我々にできることをやるだけだ。その結果がどうなろうとも、な」
そうして、人間ができることをやった結果、最悪にも等しい未来が築かれたこともある。二回の世界戦争、最悪の兵器の投下――数えればキリがない。
それでも、それが最善だと思うからやるのだ。
復讐に燃える女はともかくとして、男性は自身のしようとしていることが間違っていると気づきながらも――止まることはできなかった。
というわけで、第百十九話。
勇たちサイドのお話です。
主人公である大成たちの出番がどんどんなくなっていきますが、彼らの活躍はもう少し先ですね。
あ、途中の天井崩落の原因はドンパチしているミレニアモンとバンチョーレオモンたちのせいですね。
それでは次回もよろしくお願いします。