【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第十二話~人の振り見て我が振り直す~

 大成誘拐事件から一夜明けた翌朝。

 ちなみに、大成救出の後、一行はテントモンの街へと戻ってきて野宿していたのだが、建物のサイズ的に野宿しか選択肢がない、と悟った時の大成の顔はそれはもうすごいものだった。キモい的な意味で。

 

「うー……うー……」

「セバス、大丈夫?」

「お嬢様……多少楽になりました……」

 

 そんな時、寝そべりながらも呻き声を上げる一匹の獣の姿が。まあ、レオルモンなのだが。現在、レオルモンは極度の筋肉痛で動けなくなっていた。理由は、言わずもがな。昨日の進化のせいである。

 現在、この世界では進化という現象は滅多に起きない。もちろん、まったく起きないというわけでもないのだが、それでも自然発生的な進化は、一時期の頃よりもずっと起きる確率は低い。

 実は、昨日の進化は正式な進化ではなく、優希の力(・・・・)による例外的なものだったのだ。そう、デジモンを強制的に進化させる。それこそが、優希の力なのである。だが、優希の力で進化した場合は正式な進化とは違って、ものの数分で前の姿に戻ってしまい、さらにこのレオルモンのように極度の疲労状態になってしまう。

 だからこそ、この強制進化は優希たちにとっての“奥の手”なのである。

 

「しっかし、デジモンを強制進化させる力ね。昨日のあの男といい、優希のソレといい、懐かしいもんばっかだな」

「懐かしい?」

「いや、こっちの話」

 

 意味ありげなことを言ったスレイヤードラモンだが、詳しいことはまだ言いかねるようだった。疑問顔の優希を放っておいて、何かを考えている。

 だが、そこで、“おかしい”と。優希たちは一連の会話に何か違和感を抱いた。そう、例えるのなら普段メガネをかけている奴がコンタクトに変えたような、そんな何かが物足りない気がしたのだ。

 しばらく考えていた優希たちだが、数分後にようやくその違和感の正体に行き当たった。普段ならこういう話題の時には口煩いだろう大成が、会話に参加していなかったのだ。

 

「そういえば、大成……何あれ?」

「さぁ……わかりませぬ」

 

 大成の方を見た優希とレオルモンが、思わずそう言ったのも無理はないだろう。大成は、顔の位置までワームモンを持ち上げて、二人で睨めっこしていたのだ。

 そんな睨めっこの現状に、一方のワームモンはどうすればいいかわからず、居心地の悪い思いを抱くことしかできなかった。だが、しばらくして飽きたのか、大成はワームモンを放り捨てる。続くに続く大成の奇行に対応できないワームモンは、されるがままになるしかない。

 虫の押しつぶされたような音を出して、地面にぶつかるワームモン。いつもの如く大成に抗議の視線を送るワームモンだったが、その視線もいつもの如く大成には無視されるのだった。いや、いつもとは微妙に違うかもしれない。

 

「大成、アンタ大丈夫?」

「昨日、誘拐された時に頭を打ったのではないのですか?」

「頭を打ったのは僕だよぅ……」

「いや、別に。大丈夫だって」

 

 そう言った大成だったが、やはり何かを考えている気配を見せる。そんないつもとは違う大成に戸惑う面々だった。

 そんな時、数匹のテントモンが、大成たちの元へとやって来る。いきなりの事態に身構える優希たちだったが、テントモンたちはどうやら“お礼”をしに来たらしかった。

 

「お礼?」

「へい。ワイたちもあの子鬼どもには困ってたんねん。だから、あいつら懲らしめてくれたあんさんらにお礼したいさかい」

「なんか……関西弁ってこんなんだっけ?」

「関西弁?ああ、口調のことでっか。すまへん。ワイらの天弁は、聞き取りにくいとよう言われるさかい。みんなにも標準語で話すように、言っときますわ」

 

 テントモンの微妙な口調を、微妙な表情で聞く大成たち。まさか、異世界に来てまで天弁と言うらしい関西弁擬きを聞くことになるとは、思わなかったのだ。そんなテントモンは、夕方くらいからお礼の祭りをする旨を告げて、去って行った。ともあれ、礼は礼。受け取るものは受け取っておこう、とその祭りとやらを楽しみにする面々だ。

 そんなこんなで数時間後。祭りとやらが始まる夕方まで休んでいた面々だったが、レオルモンの筋肉痛だけはどうして完全回復しなかった。まあ、動けるようになっただけ、マシである。

 

「おい、大丈夫か?」

「やはり……キツイですな……」

「っていうか、アナザーに入ってれば、回復も早かったんじゃねぇか?」

「あ……」

 

 そう、アナザーのデジモン収納機能には、回復の副次効果があるのだ。デジモンを疑似データとして保管し、収納するのがアナザーの一つの機能だが、アナザーには元々データ復元機能があるのだ。そのデータ復元によって、疑似データのデジモンを修復し、傷を治すのである。

 もっとも、これは副次効果すぎるので、優希もレオルモンも忘れていたのだが。

 だが、レオルモンにとってアナザーに戻るということは、その間は優希を守ることができなくなるということである。とはいえ、人間にはないデジモン特有の回復力によって治りかけているからといって、このまま筋肉痛でも優希を守ることはできない。レオルモンにとってある意味で究極の二択だった。

 

「ぬぉおおおおおお!」

「とりあえず、次からでいいんじゃねぇか?もう治りかけているだろ」

「……そうですな。悩むのは次にしましょう」

「なんだろう。次もこうやって、また悩んでる気がする」

 

 そんなこんなでグダグダした時間も過ぎ去り、祭りの時間となる。祭りとはいっても、テントモンのソレは優希や大成が想像していたような日本の祭りとは全く別のものだった。大成たちの想像とは違って、テントモンたちの祭りは、だいぶ静かなものだったのだ。

 テントモンたちの祭りとは、咲き乱れた植物の傍で、その香りを楽しむというものだった。もちろん、大成たちはお客さんということもあって、特例として大成たち用の食事も出てきていた。

 出てきた食事は、大成たちがこの数日で食べ慣れた植物のものが多かった。そのことに期待外れの思いを抱いた大成。お礼というほどなのだ。大成としてはもっと豪勢なものが出てくると思っていたのである。そんな大成がこの食事の中で唯一良かったと感じたのは、今まで食べたことがないほどの甘い果実が出てきたことだったりする。

 そんな大成が食事に飽きて周りを見てみると、そこに見えた光景は、楽しそうに話すレオルモンと優希だったり、テントモンとの異種族間友情を恐る恐る深めるワームモンだったり、昨日のゴブリモンたちを手下みたいに顎で使うスレイヤードラモンだったりした。

 

「……まあ、いいけどさ……」

 

 この世界に来る前は、一人であることを別段気にしなかった大成だが、この見知らぬ世界では逆に一人であることが寂しくも感じられていた。というよりも、一人は好きだが、独りは嫌いということだろう。人は一人では生きていけない、という世界の真理を悟った気になった大成だった。

 そんな大成だったが、ふと気がつくとワームモンを見つめていた自分に気がついた。先ほどからずっとこうである。気がつくと、ワームモンを目で追っているのだ。もちろん、大成もわかっている。それは、昨日のことが原因であるとは。

 

「……」

 

 大成が思い出すのは、昨日のこと。昨日、あの場でのワームモンの姿と言葉だ。

 ワームモンは、気弱で臆病な性格をしている。小心者と言い換えてもいいだろう。そんなワームモンが、あの危険な場にやって来たのだ。しかも、懐いていた優希ではなく、今まで適当にあしらう対応しかしてこなかった大成を助けるために。

 大成は、それが驚きだった。大成には、ワームモンが自分を助けに来る理由が思いつかなかったのだ。

 しかも、その場でのあの宣言。確かに、ワームモンは何もできなかった。かっこよさげに登場し、宣言し、そしてボコられそうになっただけだ。傍から見たら、ものすごく格好悪い。だが、そんなワームモンのことが――。

 

「……はぁ」

 

 大成には、格好良く見えたのだ。

 いや、それは相対的な、言うならばイメージギャップ的なものだったのだろう。元から心身共に強いスレイヤードラモンではなく、絆で結ばれた優希たちでもなく。他でもない気弱で臆病な小心者のワームモンだったからこそ、大成にはそう見えたのだ。

 

――僕はもう……逃げ出すのは嫌だっ!少しくらい立ち向かってやるっ!――

 

 あの時、ワームモンが震えていたのは、大成も見ている。逃げ出したいと、そんな弱い自分を押さえつけてまで、ワームモンはあの場で、あの言葉を放ったのだ。放つことが、できたのだ。

 たいそうなことを言っていたわけではない。だが、あの状況で、あの性格で、あの言葉を放つことをできるものがどれだけいるのだろうか。

 

――はぁ……なんでこんなのが……アグモンとかさ、ギルモンとかさぁ……もっと格好良いデジモンならたくさんいるだろ――

――あーあ……もっと格好良い奴なら良かったのになー。どうして現実にはリセットボタンがないんだっ!――

――俺はさ、参ったぜ。ワームモンっていう芋虫みたいなカッコ悪いやつでさ。ワームモン自体は珍しいけど……俺の趣味じゃないっていうか――

 

 一方で、かつて自分がワームモンに言ったことを、大成は思い出す。ワームモンは、あの状況でも弱い自分を押さえつけることができたほど、“強か”った、否、“強く”あろうとしたというのに。ワームモンは、そんな格好よさを持つデジモンだったというのに。

 見た目だけでしか、人を判断することしかできなかった自分は。

 

「カッコわる……」

 

 大成には、ひどく格好悪く思えた。

 大成は、主人公に憧れていた。だから、主人公になれるゲームにハマった。人生という名の物語の主人公は自分である、とどこかで大成は聞いたことがある。だが。これが、主人公(自分)かと。こんなのが、自分(主人公)かと。

 違うだろう、と。自分が憧れていた輝ける物語の主人公はこんなものではないだろう、と。自分だって、こんな調子で物語(人生)を最後まで行きたくはないだろう、と。

 

「本当にな……こうなるまで気づかないなんて……カッコわる」

 

 少しづつでも、変わっていこうと。そう、大成は思ったのだ。

 そして、そんな大成を優希たちは生暖かい目で見ていたりするのだが、幸か不幸か、大成はそのことに気づかなかった。

 

 

 

 

 

 翌朝。大成たちは、街の境界線辺りでテントモンたちに別れを告げていた。

 

「今回は、ほんまおおきに」

「別にそんな……いいよ」

「そうですぞ!もう我々は随分と手厚いお礼をしてもらったのですからな!」

「おい、お前ら!悪さをするなとは言わんが、あんまり迷惑かけるんじゃねぇぞ!」

「はは、はいッ!」

 

 そんな風に、優希たちがテントモンたちと別れの挨拶をしている一方で、スレイヤードラモンはゴブリモンたちを睨んでいた。あんまりおイタをするものではない、という意思を込めてのことである。睨まれたゴブリモンたちは、蛇に睨まれたカエルのように固まっている。

 どうやら、スレイヤードラモンの強さがよほどトラウマになっているらしい。軽く流されていたが、ゴブリモンたちがここに居るのは、昨日から大成たち一行のご機嫌取りに来ていたためである。

 ちなみに、そんなゴブリモンたちのチンピラ具合に、“俺はこんな奴らに誘拐されたのか……”と大成は肩を落としていたりする。

 ともあれ、いつまでも留まっているというのもアレだ。大成たちは次の目的地を目指して歩き出すのだった。

 

「リュウ、次の目的地はどこなんだ?俺的には、ゲームとベットと美味いメシがある街がいいんだけど……」

「この世界にゲームはないわよ」

「……ないこともないだろうが……あるかどうかもわからんな」

「っくそぉおおおおお!なぜだぁああああああああ!」

 

 奇声を上げる大成を放っておいて、優希たちは歩き続ける。そのうちに、ハッとなって慌てて追いかけてくる大成のその姿が、構って欲しい子犬みたいに思えて和む優希だった。

 もっとも、それが大成であることを思い出して、対象の気持ち悪さに、和むどころか慌ててその妄想を振り払う羽目になったのだが。

 

「それで……リュウさん、何処へ行くの……?」

「……珍しい。ワームモンが俺に話しかけてくるなんて。ちょっと気になることがあってな」

「気になること?」

「ああ」

 

 スレイヤードラモンが思い出すのは、貴英が使っていたあのSDカード擬きだ。スレイヤードラモンは、あれと似たものを知っている。いや、あのSDカード擬きが、スレイヤードラモンの知っているソレに似ていると言ったほうがしっくりくるだろう。

 スレイヤードラモンはその真偽を確かめたかった。だからこそ、それについて何かを知っているだろうデジモンに会いに行くことにしたのだ。

 

「優希とセバスには懐かしいかもな」

「……?」

「次に行く場所は、学術院って街だ。学園都市っていうか……学者みたいな頭が固いやつが集まる街だな」

「なんで、そんな場所に?」

 

 勉強の匂いが漂うその雰囲気に、早くも大成のテンションは下がり始めていた。

 ちなみに、意外かもしれないが、大成は勉強がまったくできないというわけではない。平均程度だが、できることにはできるのだ。ただ、ゲームの方が楽しいために、勉強という行為が嫌いなだけである。

 やはり、勉強ができるということと頭が良いということは別なのだろう。大成の場合は、勉強はそれなりだが、頭が悪いということだ。

 ちなみに。学校も遅刻しがちで、一日の大半をゲームに費やしている大成が、平均の成績を取れるというその事実自体、本当に勉強ができない人たちからは嘘だと思われていたりするのだが、それはほんの余談である。

 

「まぁ、知り合いに会いにな」

「知り合い?」

「ああ。優希は知ってると思うが……ウィザーモンっていう奴だよ。あ、学術院って街は結構デカイから、さっきの街よりは快適だと思――」

「よっしゃ!気合入れていくかっ!」

 

 その言葉だけでテンションが上がった大成の現金さに苦笑しながら、ウィザーモンという人物に会うために学術院を目指して歩く一行だった。

 




第十二話、事後回です。
これにて第一章は終了。なんか、かなり長いプロローグを終えた気分です。前も似たようなことを言った気が……進歩がありませんね。

次回は、あの彼が登場する番外編です。
その一話をはさんで、第二章に入ります。

それでは、番外編&第二章もよろしくお願いします。
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