【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
シャイングレイモンとベリアルヴァンデモンが取っ組み合う。そのまま、両者が両者ともに動かない。それは両者の力が互角であることを示していて――だが、本人たちだけが気づいていた。劣勢なのはシャイングレイモンの方である、と。このまま行けば、やがてシャイングレイモンの方が押し切られることになる、と。
もちろん、シャイングレイモンが全力を出せば結果は代わる。だが、彼には全力を出せないわけがあった。そう、勇の存在だ。
今、勇はあることをしている。下手に戦えば巻き込んでしまう可能性がある以上、そのあることを終えられるまで、シャイングレイモンは全力を出すことなどできるはずもなかった。
「もう少し、頑張ってくれよ……!」
そんなシャイングレイモンに気づきながら、勇は呟く。今、彼は全力であることをしていた。
あること――カプセルモドキの移動である。中に人間が入っている以上、戦闘が行われる場所に放っておくわけにもいかない。だから、勇はせめて端の方に除けるくらいはするのだ。
「ぬぅううううううううう!」
だが、このカプセルモドキが曲者である。
数が多い上に、見た目に違わず重いのだ。まあ、単純に考えても機械の重さに人一人の重さがプラスされている。引きずるようにすれば、勇一人で動かせないほどではないが、それでも一つ運ぶだけで相当な時間がかかる。
「はぁっ、はぁっ……ふっ、ぅうううううううう!」
足に力を込め、腕を突き出し、全力で押す。部屋中に散乱するソレを、デカブツ二体が取っ組み合う中、移動させる。
移動させている最中に狙われたのならばひとたまりもない。幸いにして、シャイングレイモンが頑張ってくれているおかげで、ベリアルヴァンデモンは勇のしていることには興味を持っていないらしい――が、それもいつまで続くかわかったものではない。
頑張ってくれるシャイングレイモンのこともあって、勇は全力で急ぐ。
そして、そんな勇の一方で――。
「ククク。終わりか?」
「むぐぐ!」
シャイングレイモンとベリアルヴァンデモンの両者の戦況は動こうとしていた。
始まってから今の今まで取っ組み合いに終始していた戦いも、流石に動くことになったのだ。
「このまま押し切ってもいいが、それでは品がない。これはどうだ?」
取っ組み合ったままで、ベリアルヴァンデモンの両肩についている二つの“口”が開く。それぞれソドムとゴモラと呼ばれる生体砲である。
気持ちが悪くなるほどにドロリとした大量の涎が見えて、シャイングレイモンは思わず顔を顰める。だが、顔を顰めていたのも一瞬だった。すぐに気付いたのだ。顔を顰めている場合ではない、と。
「っ!? まず――」
見える。二つの口から、高熱の光が溢れ出ている様が。その凄まじいエネルギーからして、かなりの威力を誇るだろう。断じてタダで受けていい技ではない。
「では、手始めに派手に行くとしよう!」
直後、放たれたのは超高熱線だった。“パンデモニウムフレイム”と呼ばれる、ベリアルヴァンデモンの必殺技。
ベリアルヴァンデモンの両肩に寄生した二つの生体砲“ソドムとゴモラ”の口から放たれるソレは、まるで地獄の炎のよう。突き進む熱線は進路上のすべてを焼き払う。
「う、わっ!」
咄嗟、放たれる脅威を前にして、仕方なくシャイングレイモンは本気を出した。
ベリアルヴァンデモンの足を払い、取っ組み合った腕を引くことで、ベリアルヴァンデモンの体勢を崩す。熱戦は壁を貫いて明後日の方向を焼き貫いた。
空気も壁も――何もかもが溶けたかのような、嗅いだことのない奇妙な匂いが充満した。
「っぐ、まさか今の今まで本気ではなかったとは……!」
「はぁはぁ、危ないじゃないか!」
ベリアルヴァンデモンを転けさせてしまった上に、その攻撃をあらぬ方向へと飛ばしてしまったのだ。さすがに不安にもなる。
体勢を立て直しているベリアルヴァンデモンの姿を見ながら、シャイングレイモンはチラリと勇の方を見た。見れば、勇は何事もなくカプセルモドキを運んでいて、ホッと安堵の息を吐いた。
「だが、この程度。まだ私は終わりではないぞ」
「それはこっちのセリフだ!もうちょっとしたらケチョンケチョンにしてやる!」
「クク。もうちょっと、か。そんな時があればいいがな」
意味ありげに笑って、ベリアルヴァンデモンはどこかを見る。彼がどこを見ているのか、シャイングレイモンにはすぐにわかって、血の気が引いた。
「さて、防げるか?」
再度、生体砲の口が開く。目の前にいるシャイングレイモンではなく、その奥にいる勇に向けて。
撃たせない。シャイングレイモンはすぐさま飛び出した。先ほどの熱線は発射までに僅かな時間がある。シャイングレイモンならば、その間でどうにかできる。
「やらせるかぁっ!」
シャイングレイモンの拳が、ベリアルヴァンデモンを狙う。狙われたベリアルヴァンデモンは、そんなシャイングレイモンの攻撃に驚いた――ようなフリをして、嗤った。
「だろうな。ククク」
直後、生体砲の口が動く。そこから飛び出すのは、先ほどの熱線ではなかった。いっそ頬を引き攣らせてしまうほどに大量の涎だ。
シャイングレイモンは罠に嵌められたのだ。先ほどの熱線を出すと見せかけて、速射できる攻撃を放つという罠に。
「ぬわっ!汚い!」
感じた悪寒。視界に見えた汚物。咄嗟に回避する。
シャイングレイモンは罠に嵌められて、その上で回避行動に移られたのだから、驚嘆するほどの反射神経である。だが、さすがの彼でもすべて躱しきることはできなかった。
感じた痛みに目をやれば、彼には僅かな汚物が降りかかってしまった自身の手が溶けかけている様子が見えた。
「やはりこの程度は躱せるか……!」
「うぅう、痛い……汚い……痛い」
「ふん、痛いでは済まさん。くらえ!」
シャイングレイモンは頬を引き攣らせた。ベリアルヴァンデモンの両肩の口に、今の発言の間に貯めたのだろう、先ほど以上の大量の涎が見えたから。
「う、うわぁ!」
シャイングレイモンは放たれた涎を何とか躱す。汚い上に、大ダメージ必至とあるのだから、それはもう必死になって躱し続けた。
彼に躱された涎はこの部屋中に着弾する。ジュワジュワという水分が泡立つ音が辺りに響き、異臭が蔓延した。見れば、部屋中が溶け出し始めている。
「ククク。逃げ場がなくなっていくぞ。奴のな」
「……!」
ベリアルヴァンデモンの言葉に、ハッとして気付いたシャイングレイモンは辺りを見渡す。見渡して、いた。勇は、端へと運んだカプセルモドキが溶け出した部屋の影響を受けないように何とかしようとしていた。
「勇っ!」
慌ててシャイングレイモンがそんな勇を助けようとする。相手をしている場合ではないと、ベリアルヴァンデモンに背を向けた。
そんな彼を見て、ベリアルヴァンデモンがニヤリと嗤った。彼の背めがけて、大量の涎を飛ばす。まるで川の流れのようにさえ見える大量の涎が、背を向けた彼めがけて突き進む――。
「ッ邪魔するなぁ!」
瞬間、それは雄叫びだった。邪魔をしてくるベリアルヴァンデモンに苛立ち、圧せんとする怒りにも似た感情の爆発だった。
部屋ごと吹き飛ばしかねない凄まじい衝撃が起こる。放たれた大量の涎がすべて蒸発し、消し飛んでいく。
衝撃に耐えんと踏ん張る中で、ベリアルヴァンデモンは見た。シャイングレイモンのその翼が、まるで太陽のごとく光り輝いていたのを。光り輝く翼が、すべてを薙ぎ払ったその光景を。
「勇!大丈夫!?」
「大丈夫!……でも、もうちょっと手加減して欲しかった!」
「う、ごめん!今度からするよ!」
シャイングレイモンは勇の下へとたどり着き、彼を、そして彼が守ろうとした者たちを守るように仁王立つ。
ベリアルヴァンデモンはそんな“彼ら”の姿を苦々しい表情で見ていた。
「忌々しい……忌々しいっ!やはりお前たちはそう来るのだな!その太陽のような輝きが変わらず忌々しい!今度こそ消してやる!」
「うるさい!消されてたまるか!やっとボクらは再会できたんだから!」
堪忍袋の緒が切れたとばかりに、ベリアルヴァンデモンが動き出す――その直前に、シャイングレイモンは動いていた。駆け出し、腕を振りかぶる。シャイングレイモンの拳が、ベリアルヴァンデモンを捉える。
「今までボクらが苦しんだ分、勇が苦しんだ分――受け取れ!」
「ぐぅっ!」
全身全霊を込めて、シャイングレイモンはベリアルヴァンデモンを殴り飛ばした。
「まだまだぁ!」
そのままその足を掴む。ベリアルヴァンデモンが次の行動を起こす前に、シャイングレイモンはその腕を大振りに振り抜いた。同時に、手を離す。勢いで飛んでいくベリアルヴァンデモンをおまけとばかりに一発殴って、さらに吹き飛ばした。
飛ばした先にあるのは、穴。先ほどシャイングレイモンたちが開け、そして入ってきた大穴だ。
「飛んで、いけぇ!」
狙い通り、そこからベリアルヴァンデモンは外へと放り出される。
「勇!」
「ああ!」
すぐさま、シャイングレイモンは勇をその肩に乗せて同じ穴から外へと飛び出した。
これで、あの部屋は戦場にはならない。相当痛めてしまったが、あのカプセルモドキに被害が出るようなことはもうないだろう。
「っく。進化した私を殴るとは……!どこまで行っても、お前たち人間とそれに従う者は私を苛立たせる!」
外に出たシャイングレイモンを迎えたのは、空を飛ぶことで体勢を立て直したベリアルヴァンデモンだ。しかも、彼は空中戦において有利となる上を位置取っていて、さらにその両肩の口は準備万端となっている。
「来るぞ、躱せ!」
「わかった!」
勇の声が辺りに響いた瞬間とベリアルヴァンデモンの攻撃が始まった瞬間は、全くの同時だった。
涎が、熱線が、空を行く勇たちを落とすために上から狙い撃たれてくる。
シャイングレイモンはその尽くを躱すように飛び続けた。もちろん、肩に乗る勇を振り落とさないように気をつけるのも忘れない。大した速度も出せない上で、ベリアルヴァンデモンの攻撃を躱し続けている。
「っく……!」
勇という足でまといをその肩に乗せているというのに、一撃も当てられない。その事実は、ベリアルヴァンデモンに苦々しい顔をさせるのに十分なものだった。
一方で、勇たちも躱し続けるので精一杯だったのだが。
「勇、どうする?このままじゃ……」
「ジリ貧だな。行くしかないだろ。秘密兵器も、バッチリな」
「大丈夫?あれ、結構衝撃来るけど……」
「もちろん」
勇たちは言葉を交わす。短くとも、確かに先を見て。
「わかった!掴まってて!」
「おう!」
上昇する。落ちてくる涎や熱線をすれ違うように躱しながら、シャイングレイモンは遥か上を目指す。少しづつ、だが、確実に上へと昇る。同時に、その腕に力を溜める。“秘密兵器”を呼び出すための。
「止まらない?っく!止まれ、止まれ……!」
ベリアルヴァンデモンは自らに着々と迫ってくるシャイングレイモンに恐怖を抱くしかなかった。
あと数秒もあれば、自分の下へとたどり着く位置。そこに来られて、ベリアルヴァンデモンはさらに苛烈に攻撃する。
「うぉおおおおおおお!」
数秒後、ベリアルヴァンデモンの傍を一陣の風が通り過ぎた。
いつまで経っても来ないダメージに、ベリアルヴァンデモンは首を傾げる。傾げて、即座に気づく。内心で、彼は自分の失敗を悟った。迫り来られる恐怖のせいで、対応も思考も杜撰すぎた、と。
すぐさま気を取り直すも、遅い。彼が見上げれば、遥か上空にシャイングレイモンたちはいた。沈みそうな夕日を背に飛んでいた。その手にあるのは、光。
「全力で、いっけぇえええええ!」
「もちろん!はぁあああああああ!」
気合と共にシャイングレイモンの手から放たれたのは、光としか言いようのないエネルギーの塊だった。翼が広げられたその様も相まって、正しく日輪のようにさえ見える。
それが“グロリアスバースト”と呼ばれる技だとは、ベリアルヴァンデモンは知らなかったが――。
「私を、私は、私はぁああああ!」
ベリアルヴァンデモンは負けを認められなかった。
半ば無理やりに、その両肩から熱線を放つ。自らの必殺技である“パンデモニウムフレイム”、それの劣化版にしかならない熱線だったが、それでも全力で放つ。
光と熱線が激突した。
「ぉおおおおおおおお!」
「ぅうううううううう!」
押し切られそうになるのを耐えながら、ベリアルヴァンデモンはただ待つ。
すでに昼と夜が逆転する時間だ。彼はだんだんと自分の力が増すのを感じてもいる。しかも、増していく自分の力に反して、シャイングレイモンの力は衰えていっているような気さえしていた。つまり、ここを耐えられれば、逆転の目はあると考えたのだ。
着々と迫り来るその時をベリアルヴァンデモンは嗤って待つ。さぁ、来い。終わりをくれてやる――。
「今だ!行けっ!」
「わかった!」
瞬間、ベリアルヴァンデモンは声を聞いた。
太陽のような暖かさに満ちたその声を。聞こえるはずのないその声を。
彼が驚きに目を見開いて見れば、闇が迫る夕暮れの空に一筋の光が顕現していた。その光の様は、まるでこの世のエネルギーが凝縮してたかのような、力強いものだった。
「うぉおおおおおおおお!」
気合の入った声と共に、その光が雷のごとく突き進む。
交わっている光と熱線を切り裂いて、ベリアルヴァンデモンの下まで到達する。現れたのは、巨大な大地の剣を持ったシャイングレイモンだった。
「その、剣は……!」
「“ジオグレイソード”。正真正銘、ボクの切り札さ!」
ようやくベリアルヴァンデモンは悟った。勇たちが上をとったのは、空中戦を有利に運ぶためなどではない。この剣を召還する時間を準備するためだったのだ。
「切り札は最後まで取っておくもの!勇に教えられたから!」
「今度こそ勝たせてもらうのはオラたちの方だ!」
剣が振るわれる。
一撃目。右腕を切り飛ばされながらも、ベリアルヴァンデモンは防いだ。
二撃目。突き出した左腕ごと、その上半身と下半身を二つに断たれた。それでもなお、両肩の口にエネルギーを貯める。
三撃目――。
「これで、終わりッ!」
その力任せの一撃が、ベリアルヴァンデモンを縦に両断した。
「ア、ァ……いま、いましィ……!ソのヒカリ!」
せめてとばかりに、強引に熱線が放たれる。放たれた熱線が難なく躱されたのを最後に目撃して、ベリアルヴァンデモンの意識は途切れた。
というわけで、第百二十話。
シャイングレイモン対ベリアルヴァンデモン戦の話でした。
今度こそヴァンデモンは退場となりますね。
前回の時はいいところなしでしたが、今回は無事に勇たちが倒すことになりました。
ついでに、スグオレルソードことジオグレイソードもトドメという良いところで活躍しましたね。
それでは次回もよろしくお願いします。