【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第百二十一話~崩落~

 シャイングレイモンがベリアルヴァンデモンを戦っていたまさにその頃のこと。

 

「グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「いい加減にしつこすぎないか!」

「疲れてきたよ~」

「はっ、泣き言言ってる場合か!」

「まるでバーサーカーですなっ!」

 

 旅人たちは未だミレニアモンと戦っていた。

 未だ終わる気配を見せない戦いに、いい加減に旅人たちも疲れを見せてきている。

 まあ、それも仕方ないだろう。普通のデジモンならばすでに十回は倒せているだろうほどに攻撃し続けても、ミレニアモンは止まる気配を見せないのだから。

 どれだけ潰しても起き上がる。ゴキブリ並みにしぶとい、というか、ゴキブリ以上の生命力だった。

 

「グァア! アアアアアアアアアアアアア」

「っ、セバスが……ドル!」

「ほいさ~!」

 

 特に、この戦闘が続く中で疲労を見せているのは、旅人とバンチョーレオモンの二人だ。

 旅人はどれほど特殊であろうと人間であるし、バンチョーレオモンは進化したてだ。二人がだんだんと疲労でドルゴラモンたちの足を引っ張るようになってきていた。

 これは撤退も視野に入れた方がいいかもしれない――スレイヤードラモンとドルゴラモンはその可能性を思い浮かべて、苦い顔をする。

 何にせよ、撤退するならば早い方がいい。撤退できなくなるほどに疲れてから、撤退を選択しても遅いのだから。

 

「旅人!」

「旅人!」

 

 そして、ほぼ同時にドルゴラモンとスレイヤードラモンの二人は選択した。旅人に撤退を促したのだ。

 

「わかってる、よ……!」

 

 ミレニアモンの猛攻に苦しそうにしながらも、彼らの意図を感じ取った旅人は懐からカードを取り出す。一気に場所を移動できる“転移”のカードだ。

 

「一番速い俺が時間を稼ぐから、その間に逃げろ!」

 

 スレイヤードラモンが言う。それしか方法がなかった。

 “転移”のカードを使うにしろ、使用した直後に狙われたのでは堪ったものではないし、何よりこの場の全員が無事に逃げなくてはならない。

 そんな状況にあって、誰かがミレニアモンを足止めしなければならなかった。

 

「っく……すみませぬ」

 

 バンチョーレオモンが苦しそうにうめいた。彼もわかったのだ。それが最も確実な、生き残るための方法であると。

 

「急いで大成たちの下へと行くぞ」

「ぬぅ……」

 

 スレイヤードラモンがミレニアモンを抑えている間に、旅人はドルゴラモンと一緒に大成たちの下へと行こうとしていた。バンチョーレオモンも、渋々とそれに従う。

 

「……あれ?」

 

 だが、そんな時だった。異常が起こったのは。

 初めに気づいたのは、戦っていたスレイヤードラモンだった。次いで、旅人たちの護衛役だったドルゴラモンが気づく。その数秒後には、旅人も、バンチョーレオモンも、離れたところにいた大成たちも、それに気づく。

 

「グゥウウウウウウウウウウアアアアアアアアアアアアア……――!」

 

 ミレニアモンの様子がおかしいのだ。

 頭痛でもするのか、頭を抱えるようにして、その身体を()()()()()()()

 そこにはすでに旅人たちのことなど眼中になく、ただただ痛みのままに暴れていた。

 戦う必要すらなくなって、スレイヤードラモンはミレニアモンを警戒しながらも、旅人たちの下へと戻った。

 

「誰かこの状況がわかるか?」

「わからねぇ。一体どうしたってんだ……?」

「わからないよ~」

 

 一体何が起こったというのか。旅人たちは暴れるミレニアモンに巻き込まれない場所で顔を見合わせる。

 正直に言って、彼らも混乱していた。

 

「どうしたの?」

「見てたけど、勝ったのか!?まさか、パワーアップイベントとかじゃないよな?」

「えぇっ!まだパワーアップするんですか!?」

 

 そして、そんな旅人たち戦っていた組のところへ、大成たちがやって来る。彼らも旅人たちと同様に混乱していた。いや、戦っていなかっただけに、現状に対する混乱は旅人たち以上かもしれない。

 未だ苦しみに暴れるミレニアモンを前にして、旅人、大成、優希の三人は話し合う。

 

「これは……今のうちに逃げた方がいいかもしれないな」

「確かに、俺たちってそもそも優希の救出が目的だったんだしな。よくね?」

「え?ミレニアモンを放っていくの?」

 

 撤退の意見を持っているのは、旅人と大成の二人だ。一方で、優希はよくわからないこの事態を解決するべきだと考えている。

 デジモンたちはそれぞれパートナーとなる人間の意見を尊重するつもりのようで、話し合いを黙って聞いていた。

 まあ、「こんなところで話し合っているんだから、そのうちに取り返しのつかないところまで関わりそうだよなぁ」なんて、スレイヤードラモンが呟いていたのだが、それはほんの余談である。

 

「でも、ミレニアモンのことといい、この街のことといい、調べなきゃいけないでしょ」

「あ、それは一理あるかもな。でも、皆疲れてるし……一旦引くのは?ほら、ゲームでもセーブやHP回復は大事だし」

「今を逃したらどうなるかわからないじゃない」

「まぁ、ここまで来たらどっちでもいいって言えばいいけどね」

 

 話し合う。

 優希の熱意に押され気味な旅人と、疲労状態ゆえの休憩を提案する大成――と、どちらかといえば少数派であった優希の意見が通りそうな感じさえしている。

 

「お嬢様、お二方を言いくるめるとは……さすがですな!」

「まぁ、ここまでガッツリ来てから離れるなんて、旅人には無理だよね~」

「だな。基本、その場の流れであっちこっち行くからな」

「あの、大成さんたちはともかくとして、ミレニアモンがフラフラになっているんですけど」

 

 果たして意思を押し通せるだけの優希がすごいのか、それとも旅人たちの意思が弱いのか。どちらにせよ、出そうな結論を前にして、デジモンたちは生暖かい目にならざるを得なかった。

 

「ァアアア……」

 

 というか、問題は彼ら全員から見ないふりされているミレニアモンだ。大成たちの前で、ミレニアモンは地面に倒れ伏し、動かなくなる。

 

「あれ……?」

「あ、倒れてるな」

「まさかのこれで終わり?」

 

 彼の倒れた際に発生した轟音、それによって大成たちは今更ながらに事が終わったことに気づいたのだった。見れば、そこにはミレニアモンが光と化していく光景があって、死を迎えたのだとわかる。

 

「……ん?いや、待て待て。おかしくないか?」

「あれ……?」

 

 だが、その奇妙さに気づいたのは、いや、自分たちの思い違いに気づいたのは、大成と優希だった。

 旅人たちはもう終わったものだと思い込み、帰り支度を始めているからこそ気づけなかったのだが、大成たちは光と化していくミレニアモンをボンヤリと見ていたからこそ気づけたのだ。

 光と化していくミレニアモンだが、死を迎えて消滅していっているわけではない。どちらかといえば、これは退化の――。

 

「っ、あれは……!」

 

 そこまでいって、ようやく大成たち以外の全員が事態に気づく。

 ミレニアモンが光と化して消え去ったその後、そこにあったのは同じように倒れ伏したムゲンドラモンと一人の人間。

 

「零……?」

 

 大成たちも何度かその姿を見たことがあるその人間。そう、あの零だった。

 旅人やスレイヤードラモンが警戒しながら近づいてみても、彼らは動かない。どうやら、本当に気絶しているらしい。

 

「ムゲンドラモン?また懐かしい奴だな」

「そういや、少し前にリュウが倒したんだっけか?」

「ああ。ってか、まさか孵ってもう究極体に進化したのか?凄まじい速さだろ……」

 

 突如として現れたこの零とムゲンドラモン。彼らが先ほどまでのミレニアモンであったことなど、この場の全員が気付けていた。

 だが、だからこそ腑に落ちない部分もある。

 

「零、まだデジモンに復讐なんかしてたのかよ。やっぱり、片成とか好季の件に関わって……?」

「でも、前の時とは違う……そんな気がする。このミレニアモンも……そう、何か違和感が――」

 

 奇妙なまでに覚える違和感に、大成と優希は唸っていた。

 ミレニアモンであった時の彼ら、以前の復讐の鬼であった時の彼ら。その両者は何か違う気がする、と。

 自分たちが何か大きなものに嘲笑われているような気さえして、大成たちは気分が良くなかった。

 

「……仕方ない。とりあえず、こいつらも連れて行くか?」

「でも、ムゲンドラモンの方は起きられたらどうしようもないだろ。どうすんだ」

「じゃ、放っておくか?」

「どっちでもいいんじゃない~?」

 

 零たちをどうするか、旅人たちも話し合う。

 放っておけば、いずれ別の場所で被害が出るかもしれない。だが、連れて行っても、究極体など早々封じられるものではない。

 八方塞がりにもなりそうで、旅人たちは顔を見合わせている。

 彼らに「何かいい案あるかー?」などと聞かれた大成たちだが、彼らも良い案が思い浮かぶことはなく。結局、良い案が出ずに、誰もが悩んでいた。

 

「ってか、ドルとセバス、ディノビーモンは大丈夫なのかよ?」

 

 そういえば、と何かを思い出したかのように、スレイヤードラモンが彼らに聞く。

 聞かれた彼らも、何を聞かれたのかすぐにわかった。制限時間――すなわち、進化した形態のままでいられる残り時間のことだ。

 

「むぅ、このセバス……実を言いますと少し……」

「僕もそろそろキツイかな~。気合だけで持たせてる感じ?」

「ごめんなさい。同じくです」

 

 申し訳なさそうに言う特殊進化組。全員がまだ持つものの、そろそろレッドゾーンに入りそうということだった。

 

「一旦本当に休憩した方がいいかもしれなくないか?」

「そうね……」

 

 彼らの様子に、大成と優希は頷き合う。いろいろと気になることもあるし、いろいろとやらなければならないこともあるが、あまり無理をさせるのは二人も望まなかった。

 どこか休める場所を探さないか。二人は頷き合って、そう提案した。

 

「帰らないのか……いや、まぁ、いいけどな。でも、ボロボロのこの街で休めるところなんかあるのか?」

 

 旅人が周りを見渡しながら言った。

 そして、彼の言う通りだ。先ほどまでの戦闘で、この街は見るも無残な廃墟と化している。この街が空の上にあることを鑑みれば、よく地上に落下していないものだと感心できるほどだ。 

 旅人の言葉に、いよいよ言葉を詰まらせた大成たち。同じように辺りを見渡して、そして、気付いた。上から何かが近づいてきていることに。

 

「っ、まさか――」

 

 また敵か。大成たちは、一直線にこちらへと向かってくるその何者かに身構える。そして、その数秒後にその何者かは彼らの前へと降り立った。

 白と赤の体躯の竜。その圧倒的な存在感から、究極体だろう。敵か、味方か――大成たちは固唾を呑んでその時を待つ。

 そして――。

 

「久しぶりっ!」

 

 爽やかな第一声に、大成たちは呆気にとられた。

 久しぶり、ということは以前どこかで会ったのだろう。記憶を手繰るも、この者の正体にたどり着けない。まあ、会話が通じる時点で、操られているという可能性はない。敵ではないようで、大成たちは安堵の息を吐いた。

 

「おっ、優希無事だったのか!よかったよかった!」

 

 次いで、シャイングレイモンの背から聞こえてきた先ほどまでとは別の声に、ようやく大成たちは気づく。

 信じられない思いだった。まさか、まさか――。

 

「勇さん!?」

「よお!ウィザーモンに聞いて助けに来たけど、必要なかったみたいだな。さすが!」

 

 勇たちがこの場にいるとは。

 しかも、この究極体――シャイングレイモンは、間違いなく彼のパートナーだとわかる。彼らが本当に究極体に至れたことに、大成たちは開いた口が塞がらなかった。

 

「勇さん、進化できたんだな!?」

「その言い方だと、オラが進化したみたいだぞ……へへっ、でも、まぁな!おかげさまで――」

「この通り!シャイングレイモンに進化したよ!」

 

 スカルグレイモンだった頃の狂気を微塵も感じさせない笑顔で告げるシャイングレイモンの姿に、事の重さを知っていた大成と優希は感慨深い気持ちになっていた。

 本当に彼らは凄い、と。その太陽のような輝きに、大成たちも唸ることしかできなかった。

 そして、そんな大成たちの一方でスレイヤードラモンは気付く。

 

「ん?シャイングレイモンが持ってるソレは何だ?」

 

 シャイングレイモンが抱えているいくつものカプセル装置に。

 

「そうそう!ここに来た時に突入しちゃった部屋にこれがあったんだ!」

「よっこいしょ、と」

 

 シャイングレイモンの背から降りた勇は、それも含めて説明する。

 中に生きた人間が入っているコレを見つけたこと、ベリアルヴァンデモンと戦って勝ったこと、そのベリアルヴァンデモンが言っていたこと、そのすべてを。

 

「……それ、ベリアルヴァンデモンが他の人間やデジモンを操ってたってことよね?あのミレニアモンも」

「勇さんが倒してくれたおかげで、零たちも、他の皆も洗脳が解けて元に戻ったってことだよな?さっすが勇気さん!」

 

 ベリアルヴァンデモンが人間たちやデジモンたち、そしてあのミレニアモン状態だった零を操っていて、勇が彼を倒したからこそ、彼らは止まったのだ。

 勇がいなかったら、あの無尽蔵の体力で暴れるミレニアモンに倒されていたかもしれない。その功績の大きさを前に、大成たちは勇を讃えた。

 

「いやいや、たいしたことはしてないって。オラたちはオラたちの決着をつけただけだ」

「いやいやいやいや、それでも十分!」

 

 謙遜する勇に、煽てる大成。勇の登場で、場の空気が明るくなっていた。

 

「がはっ、ゲホッ……ぐっ……!」

 

 だが、聞こえてきた呻き声に一気に場の空気が引き締められる。

 見れば、先ほどまで気絶していた零が苦しそうにしながらも目を覚ましていたのだ。

 

「零……!」

「こ、こは……あの女は――」

 

 混乱しているのだろうか。

 動かせない身体を無理矢理に動かそうとしながら、零は辺りを探ろうとしている。どうやら、ミレニアモンだった時の記憶が曖昧だったようだ。

 

「……零の奴、何も覚えてないのか?」

 

 そんな彼の様子に、大成はポツリと呟いた。

 

「っ、お前らは――!」

 

 大成の呟きを拾ったのだろう。零は顔だけを動かし、大成たちの姿を確認する。僅かに目を見開いた。

 

「大丈夫!君を操ってた奴はボクたりが倒したから!」

「お前のパートナーも無事なようだし、よかったな!」

 

 以前に会ったことがあるとはいえ、零がしでかしたことを詳しく知らない勇たちは、零にも気軽に話しかける。

 彼らの馴れ馴れしい様子に、苛立ちを見せる零。だが、勇たちは「苛立てるのは元気な証拠!大丈夫そうだな!」と軽く流している。

 

「やっぱ勇さんってすごいな……」

「単に知らないだけでしょ?」

 

 そんな勇の姿を、大成は感嘆して、優希は呆れて見ていた。

 そして、その他の面々は――。

 

「なんかさ。嫌な予感を感じるんだけど?」

「旅人も?僕も……」

「俺もだ。セバスやディノビーモンもだろ?」

「はい……」

「ですな」

 

 覚えた嫌な予感に、微妙な表情をしていた。

 まだ何かあるのか。いや、この場が“そういう”場所である以上、何かあるのはわかっている。だが、それにしても。そんな思いで、彼らは静かに佇む。

 その直後のことだった。静かな世界を駆け抜ける、音。静かな世界を騒がせる、揺れ。

 

「へ……?」

 

 呆然と呟いたのは、誰だったか。

 凄まじい轟音、そして振動。

 

「な、崩れ――!」

 

 突然の事態に、誰もが呆気にとられた。いや、一部の者はうんざり気味に嘆いていただけか。

 まあ、どちらにせよ事態は変わらない。続きに続いた戦闘のせいか、それとも他の“何か”のせいか。崩れ始めたのだ。この空に浮かぶ街が。

 

「ああああああああああああああああああああ!」

「っっっ!」

「えぇえええええええええええええええ!」

「っち!」

 

 誰が誰の声とも知れず、声が叫びとなって響き渡る。

 大成たちは崩落する街に巻き込まれた。

 




というわけで、第百二十一話。

続々と集まったところで、次に続きます。
一難去って、ついに……ということになりますね。

それでは次回もよろしくお願いします。
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