【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
日が沈み、夜が訪れた世界。
そんな中で、そこにあったのは瓦礫の山だった。数時間前まで豊かであった森林地帯は、そうとしか形容できない光景と化してしまっていたのだ。
先ほど、大成たちがいた天空の街は崩落。結果として、大量の瓦礫が大地に雨あられと降り注ぐこととなり、森林の大半を押し潰してしまった。
「ふっ!」
気合の入った声が辺りに響いた。同時、一部の瓦礫が吹っ飛ぶ。
瓦礫の下から出てきたのは、スレイヤードラモンとドルゴラモンだった。
「痛てて……おい、無事か?」
「なんとかね~」
声をかけながら、お互いに無事を確認し合う。
「オレも、ドルたちが傘になってくれたからな」
「傘扱いは酷い!」
その足元には疲れた様子の旅人がいる。彼も無事なようだった。
だが、問題は彼ら以外の一部の者たちだ。先ほどの崩落の際、デジモン組は各々のパートナーを助けるべく行動した。パートナーが究極体である勇と優希は問題ないだろう。問題は大成と零の二人だ。
言わずもがなだが、大成のパートナーは完全体であり、大成込みで先ほどの崩落を乗り越えるには少し不安が残る。
そして、一番の問題である零。彼のパートナーであろうムゲンドラモンは、先ほどの戦闘で気絶状態だ。零自身も動けなかったことを考えれば、最悪の結果すらありうる。
「とりあえず、瓦礫撤去だな……」
「よし、僕が頑張るよ!」
「……リュウ、頼むわ。あと、ドル。お前は頑張るな。瓦礫ごと吹っ飛ばす予感しかしないんだけど?」
「ひどっ!た、確かに、ちょっとは……いや、誤差の範囲じゃん!?」
繊細な作業に向かないことなど、百も承知。わめくドルゴラモンに揃って溜息を吐きながら、旅人とスレイヤードラモンは瓦礫を撤去しようと動き出す。
だが、まあ、彼らが動く必要はなかったか。
「お、お嬢様大丈夫ですかな……!?」
「な、なんとか……」
「勇も大丈夫かー?」
「おう、ピンピンしてる」
すぐにそれぞれのパートナーを伴った勇と優希の二人が、瓦礫の下から出てきたのだから。
「よし、無事だな?」
「旅人!なんとかね」
「オラもだ……あれ?大成たちは……!」
全員が辺りを見渡す。
だが、いつまで経っても大成たちと零たちが瓦礫の下から出てくる気配はない。それが示すところは、最悪の結果だった。
「急ごう!」
勇の言葉に全員が頷く。人間もデジモンも関係なく動き始める。さらなる崩壊の可能性、それによる二次災害の危険性もある中、辺りの瓦礫を慎重に退かし始めた。
数分間、焦りを伴って黙々と作業する。誰もが見つからない自体に焦りを募らせた、その時のことだった。
「……!?」
「っ、なんだ……?」
ガラガラという、どこかの瓦礫が崩れる轟音。そして、何かの震動。
これは、もしかしたら。この場の全員が、少しの期待と共にその震動が発せられているだろう方向を向いた。
震動は着々と大きくなっていく。ゴクリ、と誰かが固唾を呑み込んだ。
「……?止まった?」
誰かが呟く。
震動が収まっていた。瓦礫の崩れる音も、僅かな地鳴りさえ消え去って、いっそ不気味なほどの静寂が辺りを支配する。
「アァアアアアアアアアアアアアアアアア!」
そして、その瞬間のことだ。ソレが現れたのは。静寂を打ち破り、瓦礫の山を振り払い、現れたソレ。それは決して、この場の全員が望んでいた者たちではなかった。
「アアアアアアアアアアアアアアアァアア!」
現れたのは、白銀の竜。そう、ドルゴラモンという名の破壊竜で。
「えぇええええええ~!?」
自分と同じドルゴラモンというデジモンが現れたことに、ドルゴラモンは驚愕を隠せなかった。いや、彼だけではないか。この場の全員が唖然としていた。
なにせ、ドルゴラモンは究極体だ。他の成長段階のデジモンたちならばともかくとして、絶対数が少ない究極体で同一種族の個体がいるなど、この世界の長い歴史を見ても一度あるかないかのレベルである。
そんな事態が目の前にあるのだから、これで驚かずにいられようかという話だった。
「アァアアアアアアアアアッ!」
叫び声と共に、新たに現れたドルゴラモンが駆け出す。殺気を纏い、この場の全員目がけて突き進む。
驚愕抜けきらない中での、この殺気立った勢いだ。全員がすぐさま立ち直ろうとするが、それよりも新たなドルゴラモンが到達する方がずっと速い。
「アァアアッ!」
「ぬぁっ!」
新たなドルゴラモンが、最も近くにいたドルゴラモンを殴る。ドルゴラモンも咄嗟に防御していたが、その効果が怪しく思えるほど、重い一撃だった。
「っぐ……!」
顔を歪める。かなりの威力だった。ドルゴラモンは倒れ伏しそうになるところを気合で耐えていた。そんな彼の前で、新たなドルゴラモンは再び拳を振り上げる。
二撃目が来る。ドルゴラモンはそれを理解した。
「奇妙なやつが舐めてんじゃねぇ!」
「ボクたちを忘れてもらっちゃ困るよっ!」
「このセバスも助太刀しますぞ!」
直後、そんなドルゴラモンを助けるべく、驚愕から立ち直ったスレイヤードラモン、シャイングレイモン、バンチョーレオモンの面々が新たなドルゴラモンに攻撃を仕掛ける。
「アァアアアアアアア?」
新たなドルゴラモンは素早く眼球を動かす。誰が、どこに、どのタイミングで来るか――それを確認しているかのようだった。彼の振り上げていた拳が動く。
狙いは、最も近くにいるシャイングレイモンだ。
狙われたシャイングレイモンは拳でもって迎撃する。
拳と拳がぶつかり合う。押し負けたのは、シャイングレイモンの拳だった。
「っく……」
あまりの威力に、シャイングレイモンは顔を顰める。元々、ドルゴラモンが強いことはわかっていたが、まさかこれほどとは思っていなかったのだ。
新たなドルゴラモンはさらに動き続ける。シャイングレイモンを狙ったのとは反対の拳で、先ほどよりも僅かに近づいてきていたバンチョーレオモンを狙う。
「ぬぅっ!」
バンチョーレオモンはその一撃を躱す。だが、躱してしまったせいで、攻撃続行が不可能となった。
最後に新たなドルゴラモンが狙うのは、スレイヤードラモンだ。ガバッと大きく開けられた口が、スレイヤードラモンを狙う。
とはいえ、スレイヤードラモンはこの面々の中で最も速さに長ける者だ。そんな大袈裟な一撃などくらうはずもない。
「ふっ!」
余裕を持って躱す。経験の差というものだろう、バンチョーレオモンとは違って攻撃続行可能な躱し方だ。スレイヤードラモンはそのまま剣を振るう。いや、正確には振るおうとした、か。
彼は気づいたのだ。まるで自分の行動を読んでいたかのように、自分が躱した位置を狙って先んじて動いていた新たなドルゴラモンの尾の存在に。
「なっ!」
自分の行動が読まれたことに驚きつつ、スレイヤードラモンは再度躱す。だが、躱した先にあったのは、シャイングレイモンを殴った後の拳で――。
「ぐっ!」
スレイヤードラモンは殴り飛ばされた。
真面目に戦って、ここまでまともな攻撃をくらうなど、いつぶりだろうか。そんな感慨と共に、彼はドルゴラモンのパワー馬鹿っぷりを呪う。たかが一撃だが、その“たかが”一撃で戦闘不能にされそうな威力だった。
「アァァッ!アァァァ!」
ここまで、すべてが数秒にも満たない僅かな時で行なわれた。
「えっ!?」
「……これ、本格的にまずいな。ここまでまずいのって、五年前ぶり、か……?勘弁してくれ……」
「シャイングレイモン大丈夫かってぇさ!?」
旅人を含めて、傍から見ていた人間組は何が起こったのか理解できない。彼らが理解できたのは、デジモンたちがいつの間にか押し負け、躱し、殴り飛ばされていたということだけだった。
「アァッ!アァァァア!」
弱さを嘲笑うかのように、新たなドルゴラモンは叫ぶ。
とはいえ、だ。彼にやられっぱなしで終わるような、そんな情けない性格をしている者はここにはいない。
「ニセモノめぇええええ!僕がドルゴラモンなんだぞ~!」
至極勝手なことをわめき散らしながら、ドルゴラモンが駆け出す。
新たなドルゴラモンはそんな彼の姿を冷やかに見ていて、その表情が僅かに変化した。
「はっ!さっきも言っただろ、俺たちを舐めんな!」
瞬間、新たなドルゴラモンの周りを、刀身が鞭のように伸びた剣が駆け巡る。
言うまでもなく、スレイヤードラモンの剣だ。一瞬も経たずにスレイヤードラモンの剣が新たなドルゴラモンを拘束する。パワー馬鹿であるその力によって数秒後には破られそうな気配がするものの、その数秒だけでも十分だった。
「今度こそ行きますぞ!ハァっ!」
「ボクも行くよっ!」
「おりゃぁっ!」
バンチョーレオモンとシャイングレイモンが、すでに駆け出していたドルゴラモンに追いつく。三体は同時に拳を振り上げた。
「キィアアアアアアアアアアアアア!」
その瞬間のことだった。
拘束されていた新たなドルゴラモンの姿が消える。次いで、拘束していたスレイヤードラモンの剣が緩む。
今こそ攻撃しようとしていた三体と、拘束に力を注いでいたスレイヤードラモンは驚愕に目を見開いた。それは拘束されていたはずの目標を見失った――からではなく。
彼らの尋常ならざる動体視力がその瞬間を捉えていたからだ。
「ど、ドルゴラモンがスレイヤードラモンに!?」
一瞬にしてドルゴラモンがスレイヤードラモンに変化し、そして拘束から脱したその瞬間の光景を。
究極体のドルゴラモンが究極体のスレイヤードラモンに進化するなど、ありえるはずがない。デタラメを通り越して笑い話の域だ。
「今度はスレイヤードラモン?どうなってるのよ……」
「スレイヤードラモンって、すごく速いよな。どうする……?」
一方で、上空に逃げ果せたスレイヤードラモンを見つめながら、優希は疲れたように呟き、勇は戦況を冷静に分析していた。
だが、そんな二人とは対照的に、旅人はただ黙っていた。呆然としているわけではない。彼はあの変幻自在なデジモンというものに何かを思い出しそうで、記憶を手繰っていたのだ。
「キゥアアアアアアアアア!」
瞬間、スレイヤードラモンへと変化したナニカが動く。
一瞬にして彼はスレイヤードラモンの前へと現れた。
「同じスレイヤードラモンなら、負けるわけにはいかねぇよなぁ!」
自分よりも速い。その事実に苦い顔をしながらも、半ば空元気を振りかざし、スレイヤードラモンは剣を振るう。振るわれた剣がナニカを捉えて宙を滑る。
「グォァアアアアアアアアアア!」
「んなっ!?」
だが、剣が届く瞬間、瞬時にナニカは変化した。変化したのは機械竜――ムゲンドラモンだ。
「っち!?」
スレイヤードラモンは目標の大きさが変わったことで狂った剣の軌道を修正しようとするが、遅い。剣はちょうど軌道上にあったムゲンドラモンの爪に捕らえられてしまった。
「グルァアアアアア!」
瞬間、ムゲンドラモンとなったナニカの背中の砲が煌めく。剣を掴まれ、身動きが取れない彼を砲撃が狙った。
「危ないっ!」
「やらせませんぞ!」
だが、そこで動いたのはバンチョーレオモンとドルゴラモンだった。二体の拳がナニカを殴り飛ばし、その砲撃から彼を救う。
「グルァァ……!」
忌々しい。そんな表情で、ナニカは三体を見ながらも、彼は違和感を覚える。もう一体はどこにいる、と。
「はぁあああっ!」
直後、遥か上空から闇夜を切り裂くように、剣を持った
「グルゥ!?」
鋭い一閃に、ナニカはその体躯に深々とした巨大な傷をつけられる。ムゲンドラモンの姿をとっているだけあって、その傷からは断たれた金属と配線が覗いている。それは、ナニカの変化が外側だけのものではないと示していた。
何はともあれ、ナニカの傷はどう見ても致命傷だ。だが、この場の誰もが勝ちを確信することをしなかった。まだ終わっていない。何となくそれが理解できたのだ。
そして、その理解通りだった。
「グッグ……!グッグ!」
ナニカが姿を変える。
ムゲンドラモンとしての姿から、誰も見たことのないスライムのような姿へ、そしてそれからはシャイングレイモンの姿となった。しかも、傷も体力も全快したようで、その姿は元気そのものといった感じだ。
「……!あのスライムみたいなのが本来の姿、ということですかな?」
「だろうな。全く痛みを感じてないバケモノの次は再生するバケモノか……」
「大丈夫!倒せるまで攻撃し続ければ何とかなる!それが無理でも、勇たちが良い案を教えてくれるって!」
「おお~!頑張るしかないね!」
脳筋というか、お気楽な
そこには――。
「見たところ、アイツ単体はシャイングレイモンたち一人一人よりも強い。たぶん、元々の強さにコピーした相手の強さがプラスされる……もちろん技も使用可。どこまでのレベルかはわからないけど、十分チートすぎるってぇさ」
「じゃあ、スライム状態の時に攻撃すれば何とかないかな?」
「スライム状態も一瞬だけだったけど……まぁ、行くしかないって言えばアイツらは行くだろうな」
そこには対抗策を考えて悩み合っている人間組がいた。だが、その様子からはしばらく良い案は生まれさそうだった。
そして、その頃。
「う……?」
「大成さん、大丈夫ですか……?」
「っち。どこだここは」
「ピピ。再起動。申シ訳ゴザイマセン。今、目覚メマシタ」
大成たちと零たちはどこかの空間で目を覚ましていた。先ほどまでの大崩落が嘘だったかのように機械的で、かつ広大な部屋だ。ともすれば、まるで一昔前のSF映画に登場しそうな秘密基地のようである。
一体ここはどこなのか。大成たちは辺りを見渡す。見渡して、そして気づいた。
「やぁ、起きたかい?招かれざるイレギュラーと失敗作たちよ」
胡散臭そうな笑みを浮かべていながら、どこか追い詰められたような様子を見せる一人の男性がここにいることに。
というわけで、第百二十二話。
相変わらず事態は進展しない中、次回から最近空気だった主人公“たち”の出番が来ますね。
ついに接触です。
それでは次回もよろしくお願いします。