【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第百二十七話~悪魔と呼ばれた昆虫~

 “それ”を大成が見つけたのは偶然だった。

 戦場にも匹敵する空間となったこの部屋で、破壊されずに残っていたその()()――そう、五花航がムゲンドラモンと融合するために使われた装置だ。

 それを見た時、大成はふと思ったのだ。

 このままでは、死にそうなスティングモンを助けることは不可能。彼はあと少しで光となって消えてしまう。エクスブイモンの時とは違って、何も残さず、ただ死んでしまう。

 だが、それを利用すれば。

 

「……」

 

 大成は唾を飲み込む。

 この装置を利用し、どんな形にせよ、スティングモンの存在を残すことができたのならば、すべてが終わった後にどうにでもできるのではないか。そんな考えが大成の頭に過ぎる。

 学生に過ぎない大成には、それがどれほどの可能性があることなのかはわからない。もしかしたら、不可能なことなのかもしれない。

 それでも、何もできない大成にはそんな希望にもならない不確かなモノにさえ、縋りつきたかった。

 

――その時というのは確実にやって来る。誰にとっても平等にね。動く動かないは個人の勝手だが、動かなければ何も起こらないというのは間違いだ――

 

 先ほどの航の言葉が大成の頭の中に甦る。

 動いても動かなくても、何かが起きる。そして、動かなかった結果が最悪の結果だというのならば――ここで動かないという選択肢は、ない。

 

「よいっしょ、っと」

「ぅ……」

 

 スティングモンを先ほどムゲンドラモンがいた場所に置く。

 そこにはムゲンドラモンが入っていた液体はない。だが、何らかの機械が作動しているようで、この装置は未だ生きていた。

 大成はその横にある機械で出来た椅子に座る。すぐそばに簡単な画面があった。

 幸か不幸か、大成にはそこに書かれている文章のほとんどを理解できなかった。

 

「……この、二十パーセントっていうのは……考えないようにしよう」

 

 けど、警告を示すかのような真っ赤な表示に、その下に書かれた二十という数字とパーセントを示す記号。それの意味するところだけは、何となく理解できた。

 それでも、止まらない。止まれない。いつだったか、震える状態で自分を助けに来た彼のことを思い出す。今度は、大成の番だった。

 

「……はは。イモ、待ってろよ。少し、キツいかもしれないけど、絶対に助けてやるからな」

「……ぅ」

「だから、さ。またゲームしような」

 

 声は震えていた。

 それは自分の友が死んでしまう恐怖からか、自分が消えてしまうかもしれない恐怖からか。

 

「……、……よし」

 

 震える声で、震える手で、大成は画面に書かれたキャンセルボタンを無視して、その横のOKボタンを押す。

 瞬間、大成の意識は途切れた。

 直後、スティングモンが眩いばかりの光となる。だが、それはデジモンが消滅する時の光ではなく、デジモンが進化する時の光だった。

 

「……何!?これは……まさか、そんな……馬鹿なことを!」

 

 どうせ何もできないからと、見逃していた大成の動きにカオスドラモンが驚愕と、そして少しの心配を示す。

 そして、そんなカオスドラモンを次いで襲ったのは、漆黒の塊だった。

 

「ぁあああああああああ!」

「っぐ……!」

 

 否、漆黒の塊ではないか。

 漆黒の体色をしたデジモンが、カオスドラモンに突進してきたのだ。

 咄嗟にカオスドラモンは反応し、その両腕で漆黒のデジモンと取っ組み合う。そこで初めて、そのデジモンの全容が見えた。

 

「あぁぁ……あぁぁぁあああ!」

 

 艶々と艶のある漆黒に昆虫特有の六本足、鋭く生える羽――そして顔に存在して何より目立つ、特徴的な大顎。クワガタという昆虫種に見られるものと同じその巨大な大顎、それは正しく万物を切断する鋏であるかのよう。

 その身体の特徴すべてが禍々しいまでの鋭さを体現していて、その姿はさながら昆虫の形をした悪魔のようでもあった。

 

「進化した、か。やはり、人間とデジモンは一種の共生関係にあると――」

「ぁぁあああああああああああああ!」

「っく、言ってる場合ではないか」

 

 そう、そのデジモンこそ、グランクワガーモンと呼ばれる究極体デジモン。

 深き森の悪魔という名で語られる、現存しない伝説の存在だった。

 

「やはり暴走状態にあるか。それにしても、無茶なことを」

「ぁあああああああああ!」

 

 取っ組みあったままだが、グランクワガーモンはその頭の大顎や空いている腕を振るって、カオスドラモンに襲いかかる。

 その目には敵しか写っておらず、だからこそ、いっそ狂気的でもあった。

 

「っく……!」

 

 取っ組み合いの体勢上、必然的に顔が近くなる。太くて大きい大顎が眼前にあるというのは、カオスドラモンをもってしても少々恐怖を感じた。しかも、それがカオスドラモンの頭部を引き裂こうと開閉しているのだから、なおのこと。

 だが、その特徴的な大顎に目を取られてしまった結果、彼は腹に僅かな痛みを感じた。

 

「ぁぁっ!」

「ぬっ?」

 

 見れば、グランクワガーモンの六本ある腕、それも取っ組み合いをしている腕とは別の腕が自分の腹を何度も殴っていて――いくら頑丈な金属で守られているとはいえ、究極体の殴打を受けて無傷を誇れるほど、カオスドラモンは硬くない。

 一撃一撃は軽傷で済まされる僅かなダメージだ。だが、それも積もれば山となる。

 先ほど、カオスドラモンが大顎に気を取られているうちから、グランクワガーモンは殴り続けていた。力を溜め続けていた。

 そして連撃の後に放たれる、全力の一撃。全力で振り抜かれた腕が、カオスドラモンの腹を打ち抜く。

 

「ぐぁっ!」

 

 これにはさすがのカオスドラモンも、うめいた。

 咄嗟に取っ組み合った左腕からミサイルを発射し、グランクワガーモンにぶつける。爆発による轟音と衝撃が両者の間に広がり、両者に距離を取らせた。

 

「ぁぁぁ……ぁぁ……」

「……」

 

 距離を取って、二体は睨み合う。

 

「まさか、君がここまでやるようになるとはね。番外であるはずの君が……いや、人の才能など数値で表せるはずもない。であれば、その必要があったとはいえ、数値化されたモノに頼った時点で、私の見る目も腐ったということか」

「……ぁぁあああぁあぁ」

「とはいえ、君もそこまでだ。危険生物のために命を賭けるなんてね。恐れ入ったよ。いや、君は命を賭けるだなんて知らなかっただけなのかもしれないが……いや、知っていても君はきっとそれを選択したのかもしれないがね」

 

 笑って言うカオスドラモンの視線の先には、グランクワガーモンがいた。

 先ほどまでの暴走状態がなりを潜めていて、だからこそ、そこにはある種の恐ろしいまでの静けさがあった。

 

「ぁぁぁあ……ぁあ……フ、ざけるな……よ」

 

 それまでうめき声しか発しなかったグランクワガーモンが、静かにだが、確かに言葉を発する。

 暴走状態に陥り、自我が消滅したとばかり思っていたからこそ、カオスドラモンはそんな彼の様子に目を見開いた。

 

「ヒト、を、勝手に殺すな……俺もイモも、まだ死んじゃイない。帰って、ゲームするんだからな……!」

「……はは。これはまた。どうやら、私も思考が足りなかったらしい。まさか、復帰するとは」

 

 驚き、感嘆に震えるカオスドラモンの姿があった。

 一方のグランクワガーモンは、寝起きのようなボンヤリとした頭でもって今の状況を考えた。

 今の今まで眠っていたような、夢を見ていたような、グランクワガーモンはそんな気さえした。消え入りそうな静かな中で、彼は誰かに起こされた気がしたのだ。

 いや、気がしたのではないか。起こされたのだ、彼に。

 

――帰るんでしょう?帰って、ゲームするんでしょう?なら、行きましょう、大成さん!――

 

 声が聞こえた。幻聴のようなその声も、だが、グランクワガーモンにはしっかりとわかっていた。それが幻聴などではないことに。

 

「わかってる。行こうか、イモ!」

 

 静かに内側に声をかける。はい、という元気な声が返って来る。

 同時、グランクワガーモンは駆け出した。カオスドラモンめがけて突進し、その大顎を開く。

 

「ぬっ!」

「ぬぬぬっ!」

 

 掴んだものすべてを引き千切らんと、グランクワガーモンの大顎がカオスドラモンの左腕を挟む。

 カオスドラモンは慌てて引き剥がそうとするが、その引き剥がそうとする力をも利用して、グランクワガーモンは暴れる。

 それはまるで獣同士の杜撰なぶつかり合いのようだった。

 そして、結果。

 

「らぁっ!」

「ぐあっ!」

 

 カオスドラモンは、その胴体から左腕を失うことになった。

 引き千切られた時の勢いが余って、明後日の方向へと飛んでいった自分の左腕を横目に見ながら、彼は勢いのままに右腕を振るう。

 勢いだけで振るわれた右腕の爪がグランクワガーモンに突き刺さり、そのまま吹き飛ばす。

 だが、勢いだけで振るわれたからか、幸いにしてその爪がグランクワガーモンの甲殻を貫くことはない。

 

「っぐ!いってぇ……イモたち、いつもこんな怪我負ってんのか……!すごいな!」

――言ってる場合じゃないですよ!――

 

 聞こえた声に、グランクワガーモンは体勢を即座に立て直す。

 見れば、カオスドラモンはその背の砲を展開していた。彼がその背の砲を使うのは初めてだ。だが、ムゲンドラモンに似たその身体からして、その砲が意味することくらいわかる。

 

「はは。悪いが、私も負けられない理由はある。負けた時のことは考えてあるとはいえ、だからといって素直に負けていいというわけではない」

「こっちは負けた時のことなんて考えてないからな。勝たせてもらうぞ!」

――はい!勝ちましょう!――

「ふむ。私としては勝ちを譲ってもいい。無論、君たちが私に勝てたのならばな」

 

 向けられた砲、そこから覗く光。

 放たれるものは、例えグランクワガーモンでも耐えられないだろう。だが、この部屋という狭い空間の中では躱すことにも限界がある。であれば。

 

「なんで、こう……!ぎりぎりの綱渡りなんだろうな!もっと、この前のデジタルモンスターの中くらいのチートだったら楽しいのにな!」

――大成さん、なんかテンションおかしくないですか?――

「たぶん、ハイになってる!なんか力を持ったり極限状態になるとなるらしい!ゲームで言ってた!……というか、そのくらいやってないとやってられないんだよ!」

――あー……――

 

 初めての直接戦闘、それも見た目から強さを想像しやすい相手とあって、グランクワガーモンは半ば興奮状態にあった。

 そんな不安しかない状態のまま、彼は自分に向けて背中の砲を構えているカオスドラモンに()()()()

 直後、砲撃が放たれた。“ハイパームゲンキャノン”と呼ばれる砲撃。名の通り、ムゲンドラモンの必殺技であるムゲンキャノンの強化版だ。すべてを消し飛ばす威力を誇る砲撃だ。

 

「勇気と根性、あと気合があれば大抵のことはどうにかなるって言ってた、ぜ!」

 

 だが、グランクワガーモンは消し飛ばなかった。

 彼は六本ある足の中の、地に足をつけている二本を除いた残る四本で持って、全力でカオスドラモンの砲を掴み、押し込んでいたのだ。

 それによって、砲撃はあらぬ方向へと飛んでいっている。

 

「っく……!」

「ぐぅ……!」

 

 根比べだった。

 まず、カオスドラモンだ。彼は砲身を押さえているグランクワガーモンの腕を振り切って、砲を向けることができれば、その時点で勝ちが決定する。

 一方のグランクワガーモン。彼は砲撃が収まるまで、カオスドラモンの砲を押さえ続ければいい。

 両者とも、本気で唸り、本気で力を込め続ける。片や敵を打ち砕くために、片や生き残るために。

 

「ぬぅ。だがね、私にはこれがある。残念だったね」

 

 唸りながらも、カオスドラモンは勝ちを確信したかのように笑う。瞬間、彼はその両腕を突き出した。

 砲身を押さえるために全部の腕を使っているグランクワガーモンに、その思わぬ攻撃を躱すことも防ぐこともできはしない。

 

「がぁっ!」

 

 思わぬ一撃に、グランクワガーモンは吹き飛ばされた。

 それの意味するところは、彼が押さえていた砲身が解き放たれるということ。自由の身となった砲撃が、吹き飛ばされた彼を狙い、直撃する――。

 

「っち」

「ファイア!」

 

 その直前のことだ。

 苛立ったような、疲れ果てた声がこの部屋のどこかで呟かれた。

 次いで、轟音と共に砲撃と熱線が放たれる。二つの攻撃が、カオスドラモンの砲撃とぶつかり合って、その軌道を逸らす。

 

「はっ、はっ……た、すかった?」

――みたいですね――

 

 二つの砲撃と一つの熱線、合わせて三つの攻撃が間近で炸裂したからか。グランクワガーモンは心臓が飛び出るかと思うくらい、緊張していた。

 一方、カオスドラモンは砲撃を阻止してきた二体を見つめる。

 

「意外だな。彼を助けるとは。見捨てるものとばかり思っていたよ。虎視眈々と私を討つ機会を狙っているくらいだったからね」

「……うるさい、知るか。知るものか」

「やれやれ……」

 

 呆れ気味なカオスドラモンに、二体――ムゲンドラモンとキメラモンは向かい立つ。そんな彼らの横にグランクワガーモンも移動する。

 

「助かった!ありがとうな、零!」

「っち」

「礼を言ったのに舌打ちされたの初めてなんだけど……!」

 

 どういう心境の変化なのか、キメラモンはムゲンドラモンとグランクワガーモンと共闘する姿勢を見せていた。

 それは、カオスドラモンにとっては最悪なことだ。

 「これは、やはりここで終わるのだね……」誰に聞かれることもなく、彼はそう呟いた。呟いて、静かに黙る。まるで脳内で何かをしているかのように。

 

「仕方ない、共闘してやる。トドメだけはよこせ」

――偉そうですね――

「言うなよ。ちょっとむかつくけど、仕方ないだろ」

「何をごちゃごちゃと……いいか、お前の答えは聞いてない。せいぜい役に立て」

 

 キメラモンの言葉に、グランクワガーモンは呆れと苛立ちで口を閉じる。そうしなければ、耐えられそうになかった。

 

「ピピ。申シ訳ゴザイマセン。零ハ、コミュニケーションヲトルノガ苦手ナノデショウ」

「いや、ムゲンドラモンは悪くないよ」

 

 苦労してるんだなぁ、などという場違いなほどに和やかな気持ちをグランクワガーモンはムゲンドラモンに抱かされる。

 

「っち。いいからさっさといけっ!」

 

 キメラモンは、そんな二体の様子と会話に苛立ったようにして怒鳴った。

 

「くそっ、苛立ってばっかりで感じ悪いぞ!」

「ピピ。補助シマス」

 

 渋々と動き出したグランクワガーモン、そしてそんな彼を補助するかのように動くムゲンドラモン――二体の動きによって、それまで不自然なまでに黙っていたカオスドラモンもようやく動き出した。

 

「さて、最後と行こうか」

 

 カオスドラモンのその言葉と共に放たれたのは、砲撃だった。

 

「ピピ。イキマス!ファイア!」

 

 同時、迎え撃つように放たれたのも、砲撃だった。

 “ハイパームゲンキャノン”と“ムゲンキャノン”がぶつかり合う。もちろん、優勢なのはハイパーの名を冠する方だ。そこには純然たる差があって、ムゲンキャノンの方が押されていく。

 

「苛立つ……本当に苛立つな、お前は!っち、負けるなんて許さん!」

 

 言葉にも態度にも苛立ちを隠さずに、キメラモンが必殺技を放った。

 死の熱線がムゲンキャノンと混ざり合ってハイパームゲンキャノンを少しだけ押し返した。だが、少しだけだ。この調子ではあと数秒後にどうなるか、誰でもわかってしまう。

 

「……やはり、ここまでだね」

 

 静かに、カオスドラモンは呟いた。

 同時、ハイパームゲンキャノンがヒートバイパーとムゲンキャノンの合体技を押し切っていく。

 

「ピピ……!」

「ちぃっ……!」

 

 あと一瞬あれば、自分たちは塵と化す。それがわかった。

 キメラモンは苛立ち、ムゲンドラモンは安堵する。あと一瞬あれば自分たちは塵と化す、それはその一瞬が来ればの話だから。

 

「おりゃぁっ!」

 

 直後、グランクワガーモンがカオスドラモンを奇襲する。

 最大の武器である大顎を大きく開き、カオスドラモンの砲を空間ごと引き千切る。“ディメンションシザー”と呼ばれる彼の必殺技が炸裂した。

 

「……ま、こうなるだろうね」

 

 カオスドラモンは諦めたかのように目を閉じる。

 直後、砲身を失って行き場を失ったハイパームゲンキャノンのエネルギーが溢れ出て――この空間の中を吹き飛ばした。

 




というわけで、第百二十七話。

ようやくと言うべきか、主人公たちの究極体。グランクワガーモンの登場。
終わり際のこのタイミング、なぜこんなに遅くなってしまったのか……はい、無計画な自分が悪いんですね。

こんな物語ですが、よろしければ次回もよろしくお願いします。
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