【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
爆発がすべてを吹き飛ばす。グランクワガーモンたちも、この部屋も、そのすべてに物理的な衝撃が走る。
不意に訪れた衝撃。それに、グランクワガーモンとキメラモンたちは備えることもできなかった。
衝撃に顔を顰めたグランクワガーモンたちは、宙に投げ出される。そんな彼らを一瞬後に襲うのは、重力に引かれた落下だ。
「ぐっ……!」
「ちっ……!」
地面に叩きつけられ、僅かにうめく。
痛みで閉じてしまった目を開けば、その先には夜空が見えた。周りを見渡せば、自分たちのいるそこが地面に空いた穴だとわかる。
その穴の深さが、そのまま先ほどの爆発の威力を物語っていた。
「助かった……?うわ、すっげぇ奇跡じゃないか?」
――ですね――
グランクワガーモンは自分が生きていられる事実に安堵する。内側から聞こえてくる声も、それに同意する。つくづく、究極体というデジモンの頑強さを良い意味で思い知らされた。
「ってか、俺たち……今まで地下にいたのか?」
見渡せば、爆発によって粉々になったあの部屋の残骸が散らばっている。だが、そのどれもがこの巨大な穴の底にあることから、グランクワガーモンはそう推察した。
実際のところはどうなのかはわからないが、とにかく穴の外に出よう。グランクワガーモンはそう考える。
「おい、零たちはどうする、ってあれ?」
考えて、先ほどまで傍にいた者たちの姿が見えないことに気づいた。
辺りを見渡す。いた。思いの外ダメージが大きいのか、キメラモンは這うようにして何かを目指していて、ムゲンドラモンはそんな彼に付き添っている。
「どうしたんだよ――っ!」
一体何を目指しているのか。グランクワガーモンはそう考えて――直後、気づく。
彼らの歩く先、そこに薄汚れた赤色が見えたことに。あの部屋の跡地でもあるここにある赤色など、グランクワガーモンには一つしか思い至らない。
未だ信じられない疑問と、それを前にしてどうすればいいのかわからない不安に襲われながら、グランクワガーモンもそちらに向かう。
そして、そこにあったのは。
「やぁ。どうやら私は負けてしまったようだ。まぁ、こうなることも想定していなかったわけではないが、ね」
傷だらけの身体で倒れ込んだカオスドラモンだった。
だが、傷だらけではあるが、動けないというほどでもないだろう。だというのに、彼は横たわったまま動こうとしない。
まるで、自ら負けを認めてしまったかのように。
そんな彼の姿を、この場の全員が複雑そうに見ていた。
「私はただ……仮初かもしれなくとも、平和に続く世界が欲しかった。あの平和な国で暮らしていたからこそ、それが失われるかもしれないモノに一層の恐怖を覚えた」
「……それは」
「君たちにはわからないかもしれないし、わかるかもしれない。それを知ること、実感すること、それらは別だからね」
カオスドラモンの言葉に、誰もが黙って聞く。彼の心情の吐露に、各々の感情がどうであれ、全員が耳を傾けていたのだ。
「私はこうなることを望んでいたのかもしれないな。この世界は危険だとわかっている。だが、世界を滅ぼすなど間違っていることもわかっている。だから、止められない自分自身に変わって、誰かに止めて欲しかったのかもしれない」
静かに言うカオスドラモンは、まるで自ら罰を望んでいる罪人であるかのようだった。
「ふっ、皮肉なものだよ。周りには天才だと何だと言われておきながら、自分の考えさえもわからないのだからね」
「どうでもいい。貴様はここで死ぬ。俺が殺す。それに変わりはない」
「……だろうね。だが、まぁ、それでいいのだろう」
死ぬことを受け入れているカオスドラモンの姿に、どうしようもなくキメラモンは苛立った。これが自分の望む復讐であると思えば思うほど、自分が惨めに思えた。
死ぬことを望む者を殺す、それが、そんな簡単なことが、自分が生涯を賭けて望んできたモノだと思いたくなかったのだろう。
「とはいえ、辞世の言葉くらいは残させてくれるかい?」
「……ふん」
「君たちの目には私のことがどう映るかね?酷く愚か者に見えるのだろうね。ああ、君たちは目指す先はしっかりと見据えたまえ。何もわからずに突き進めば、迷宮に踏み込み、限りある時間を無駄にすることになる」
「今更ふざけたことを言うな。貴様に説教されることなど何もない」
「っくく、そうかもしれない。君たちなら、大丈夫だろうね」
そう言ったカオスドラモンには見えていた。キメラモンとグランクワガーモン――零と大成に寄り添う、ムゲンドラモンとスティングモンの姿が。
「そうだ。今回の一件で証明できた。人間はデジモンと共生できる。選ばれた者だけでなく、選ばれなかった者も。ならば……今後も、何か起きたとしても大丈夫だろう」
人間とデジモンが共生できるのならば、五年前のようなことが起きても、五年前のようにたった一人に任せるようなことは起きない。
その可能性を見ることができて、カオスドラモンは――五花航は満足だった。
自分たちの作戦は失敗に終わったが、ちゃんと“万が一”は残してある。
「……ふっ、なんてね。ああ、満足だ。ほら、好きなようにしたまえ」
茶を濁すようにそれまでの雰囲気から一転して、カオスドラモンはキメラモンを見る。だが、キメラモンは動かなかった。
「おい、零……本当に殺すのかよ?何も、殺さなくても……」
思わず、グランクワガーモンが声を上げた。やはり人であった者を殺すということには、まだ彼には抵抗があった。
「そう言っておきながら、君もさっきまで殺る気満々で私を打倒しようとしていたじゃないか」
「う……」
「なんてね、冗談だよ。敗者は去るのみ――などという高尚な精神ではないが、私はここで終わりだ。君たちに負けた時点でね。失敗作……いや、零。君には迷惑をかけたからね。どうせ死ぬのならば、と思ったのだが」
「……っち」
「それでも動かないか。ならば仕方ない。ああ、安心したまえ。無理矢理君たちの手を汚させるなんてことはしないよ」
そう言ったカオスドラモンは静かに目を閉じた。同時、カオスドラモンの身体から変な音が聞こえ始める。
まるで壊れた機械であるかのような、そんな光景。ここにいる誰もが、その様と音に嫌な予感を覚え始めた。壊れた機械にはどうなる可能性があるか、ここにいる全員が頭に思い浮かべる。
そして、目を開いたカオスドラモンは頷いた。それが正解だとばかりに。
「さぁ、さっさと逃げるといい。もうすぐ、私は自爆するのでね」
「は?」
「何?」
グランクワガーモンもキメラモンも、一瞬、その言葉を理解できなかった。
「ピピ。カオスドラモン内部ノエネルギー上昇。間違イナイカト」
ムゲンドラモンの冷静な声が辺りに響いて、二人は正気を取り戻した。
キメラモンは疲労と傷に痛む身体を無理矢理動かしてこの場を離れ始める。ムゲンドラモンもその後に続いた。
そして、そんな彼らの一方で――。
「自爆って、死ぬのかよ……!」
――グランクワガーモンは動けずにいた。
カオスドラモンを打ち倒したのは自分たちである。だから、その選択に追い込んだのが自分たちであることくらい、わかっている。
彼は漠然としたよくわからない感情に襲われていたのだ。後味の悪い感じ、と言うべきか。
カオスドラモン――五花航が根っからの悪人だと思えなかったことも、それに拍車をかけている。
「行きなさい。行って、君たちの思う世界を生きるんだ」
カオスドラモンは静かに笑って言う。
それの示すところの意味も、自分の心情も、グランクワガーモンは何もかもがわからなかった。だからか。彼は咄嗟に手を伸ばそうとして、その手は
――大成さん!――
「っ!」
内側からの声に急かされる。静かに目を瞑る。目の前で死に行く者を見捨てることを選んだ。見捨てる、その意味はそのまま殺すことに等しいことを理解した上で、グランクワガーモンはこの場から離れ始めた。
「それでいい。すまなかったね」
そんな去り際の彼を見送って、カオスドラモンは目を閉じる。
「行く気はないし、行ける気もしないが、天国には行けそうにないな」
呟く。穏やかな死に際だった。
思う。この世にはいろいろな者がいる、と。
どんな世界でも関係ないとばかりに、自分らしく自分の思うように生きる者がいる。
普段は自分を抑圧している代わりに、解き放たれた途端にどうしようもなくなる者もいる。
世界や社会にとって害悪となる者もいれば、世界や社会を支える者もいる。
今回の一件では、それが露骨に現れた。それでも、そんな中でも絶えず両者がいたことを鑑みれば、事態と存在を
「はは……それがわかっただけでも僥倖、か」
彼が最後に思うのは“彼女”のことだった。できれば、彼女にも穏やかな終わりが訪れてくれたら。そんな身勝手さに、自嘲の笑みを浮かべる。
そして、直後の閃光と轟音と共に彼の身体は爆散し――彼の意識は消滅した。
その時のこと。
「逝ったか。馬鹿な奴め……」
このデジモンの世界の片隅にある機械的な部屋の中で、貴英は静かに呟いた。
どこか苛立ったようなその呟きだったが、敏い者だったのならば気づけただろう。そこに寂しさと遣る瀬無さがあったことに。
「私を無理矢理計画に巻き込んでおいて……どうせ身勝手な感情を振り回して負けたんだろう?阿呆が」
文句を言いながら、貴英は部屋の中のパソコンを弄る。
勝手に死んでいった友にいろいろと言いたいことはある。それらがすべて、やるせない自分と友に向けた言葉となって、彼の口から漏れ出ていた。
「自分勝手な奴……!」
天才の例に漏れず、周りを顧みない者だった。
どうして自分がこんなことをする羽目になったのか、どうして彼の計画について来たのか、その意味をわかっていない。
「……ふざけるな」
憤りを感じる。だが、それを向ける相手はもうこの世から消えてしまった。
「ふざけるな……!」
苛立ちのままに叫ぶが、彼の気分は晴れなかった。
行き場の失った感情が自分の中でのたうち回っているのを理解しながらも、貴英はパソコンを弄るのだけは止めなかった。
自分が今していること、それが友の最後の頼みだからだ。
「……あの世などという非科学的なものがあるはずはない、が、このようなデタラメな世界もあるんだ。もしかしたら――」
そう言ってから、静かに目を閉じる。パソコンのエンターキーを力強く押す。その様と言えば、キーボードが壊れるかと思える程だ。
「――……覚悟していろ。オレがあの世に行ったら、な」
“いざ”という時に本当に必要となるデータはすべてコピーし、厳重にロックをかけ、誰にも知られない場所へと運び出した。
であれば、あとは元データを誰かに悪用されないようにするだけだ。自分たちの目的は人の世界の平和であって、人の世界を混乱に陥れることではないのだから。
「……ふん」
そして、貴英はその部屋を――ひいては、このデジモンの世界を去る。未来において“いざ”が起こった時のため、彼は計画がどうなっても生き残る手はずだった。
パソコンに表示された文字、それは“全施設爆破まで残り五分”というものだった。
そして、その五分後のことだ。
グランクワガーモンとキメラモンたちは、カオスドラモンの凄まじい自爆から何とか生き延びていた。
「なっ!」
「えっ!?」
だが、その直後に来た大爆発。
新たな敵襲かと思う間もなく、いきなりの爆発に巻き込まれ、彼らは吹き飛ばされた。
幸いにして、この爆発はカオスドラモンの攻撃や自爆に比べれば威力は低い。だから、全員が直撃しても無事だった。
だが、吹き飛ばされた彼らをさらなる試練が襲う。爆発によって彼らのいた穴、それも地下深くまで空いたそれが崩壊したのだ。
結果、彼らは上から降ってくる瓦礫に押しつぶされていく。
「くっそ、ふざけるな……!」
キメラモンの苛立ったような声がその場に響く。
「何なんだよ……」
グランクワガーモンの疲れたような声がその場に溶けて消える。
彼らは地面の中に埋まっていた。生き埋めである。とはいえ、究極体に完全体という彼らが生き埋め程度でくたばるはずもないか。
「おりゃぁああああああっ!」
「邪魔だ!」
「ピピ。吹キ飛バシマス」
三者三様に力を溜める。そして、溜め込んだ力を一気に開放した。
それまで身動き一つしなかった身体が、埋まっていて身動きの取れないはずの身体が、その瞬間に強大な力と共に激しく動き出す。
それによって彼らを生き埋めにしていた瓦礫は一瞬で吹き飛ばされ、空に舞う。
そうして、彼らの上に数十メートルは積み重なっていた瓦礫が、空に舞う。
「ピピ、脱出」
「っち」
「死ぬかと思った……!」
――死ぬかと思いました……!――
その瞬間に彼らはその場から離れた。
舞っている瓦礫を粉砕し、吹き飛ばしながら、安全圏まで退避する。空に舞い上がっていた瓦礫が雨のように落ちていった。
豪雨にしては大きすぎる轟音が、絶えず彼らの耳に届く。
だが、彼らの耳に届く音はそれだけではなかった。瓦礫の雨が降り注ぐ中、彼らは“それ”を見る。
「……!」
「あれは」
「ピピ。戦闘中発見」
“それ”――そう、未だ終わっていない戦いを。
昨日のエープリルフール、デジアドトライのホームページがすごいことになってましたね。
まさかデジモンがエープリルフールをネタにするとは。
あ、今年の自分は何もしなかったです。
ともあれ、第百二十八話。
カオスドラモン――五花航の最期でした。
さて、次回からはラスト戦です。
それでは次回もよろしくお願いします。