【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
2015/02/28
タイトルから番外編を取りました。
大成たちがテントモンたちの街から出発したその頃。
「……どこだよ、ここ」
そう、男は海の上で呟いた。
現在、その男は木を組み合わせたお粗末なイカダにて海を漂流している。いや、本人的には、漂流している意識はない。というか、漂流していることを認めていない。
だが、やはり傍から見れば、漂流しているとしか見えないだろう。男は、粗末なイカダで陸地も見られないほどの大海のど真ん中を漂っているのだから。
「なんか気温も上がってる気がするし……」
とどのつまり、旅人というその男は大海の真ん中で絶賛迷子なのである。
旅人は旅を生きがいとしている人間だ。そして数日前、そんな旅人は北極に向かうつもりだった。だが、北極へと向かう前に、せっかくだから海から行こうとそんな無謀なことを考えたのだ。そして、思い立ったが吉日とばかりに、適当な木を切り倒して、イカダを作り、出発したのである。
そうしてかれこれ数日。旅人は北極どころか、海のど真ん中を彷徨う羽目となっていた。無計画かつ楽観的な思考が導き出した、馬鹿みたいな当然の結果である。
――太平洋の辺りじゃないのかね?――
「……なんでだよ。北に向かって漕いでいたんだぞ」
そんな旅人だったが、口から洩れた言葉は、誰かに向けられたものだった。もちろん、この場に誰か別の者がいるわけではないし、脳内の相手との会話とか、ひとりぼっち過ぎて狂ったゆえの言葉とか、そういう訳でもない。だが、それでも明らかに誰かと会話してる感じだった。
――馬鹿じゃな?うん、お前さんは馬鹿じゃ――
「どういう意味だ!?」
――貴方……黒潮って知らないの?――
「知らん」
旅人と話しているその声の主。それは、とある時から旅人の中に居候している人格である。ちなみに、気持ち悪いアホというのが、その人格に対する旅人の印象だ。
口調も、雰囲気も、声質も、口を開くたびに変わるその人格は、一見すれば多重人格のようにも見える。だが、その実、統合された一つの人格なのだ。だが、なぜそのような面倒くさい感じなのかは、旅人もよく知らなかったりする。
そんな、気持ち悪くて面倒くさいその人格だが、旅人にとっては立派な旅仲間である。
――海流っていえばわかるでござろ?――
「あぁ……流されてるのか……って!お前それ知ってたんだろ!?なんで言わなかったんだよ!」
――それくらいわかって当然やろ?常識やで、常識――
「っく。小学校中退のオレの頭をなめるなよ……」
傍から見たら一人でツッコミ続けている旅人だが、そんな間にも現状は変わらない。
船旅という滅多にない体験ゆえに、現状に飽きたということはないのだが、旅人は知っていた。そろそろ、イカダが限界であると。昨日の辺りから、イカダ全体に妙な音が聞こえていたのだ。そんな音を必死に聞かないふりをしていた旅人だったのだが、そろそろ現実逃避も無理そうだった。
――そろそろ限界だわさ。生きていたら、また会おうだわさ――
「ふざっ……あ、無理だこれ」
直後、イカダが分解する。木を組み合わせていたロープが千切れたのである。そこは、制作人である旅人の作りが甘かったとしか言えないだろう。古来から幾多の船が、さまざまな自然の力によって壊れ沈み行った。旅人の作ったこのイカダも、その例に倣うだけである。
大海原へと放り出された旅人。そんな旅人はイカダだった木の一つにつかまり、必死になって海面に浮かんでいた。本当の意味で漂流状態である。
――頑張るでち!頑張れでち!――
「お前は呑気でいいよな!」
だが、そんな状態も長くは続かない。背中越しに感じる嫌な予感。思わず現実逃避したい自分を抑えて、振り返った旅人が見たものは、三角だった。いや、三角とはいっても、水面から見える部分がそう見えるだけであって、水中に隠れているのはまったく別の形の“生き物”だ。
その直後に、旅人は人間が出すことのできる限界スピードを超えて泳ぎだす。これなら世界新記録を軽く塗り替え、不動の名誉を得ることができるだろう。それくらいのスピードだった。
だが、その生き物も逃がさぬとばかりに、旅人を追ってきた。黒い素体に、白い模様。八メートルはあろうかというその巨体。海の生態系の頂点に立ち、海のギャングの異名を持つ、その生き物は――。
「こういう時って普通は鮫じゃないのか!?なんでシャチ!?」
そう、シャチだった。
ちなみに言うが、サメよりもシャチの方が断然速いし、全体的な身体スペックは高い。スペック的に劣った鮫ではなく、優れたシャチと出会うなど、つくづく運がない旅人である。まあ、出会わないのが一番いいのであろうが。
旅人にとって幸運だったのは、シャチが群れではなく一頭だったことだろう。これが群れだったのならば、旅人は詰んでいる。
――あ~あ~お腹すいているのかな?だったら、肉あげような――
「その肉は絶対オレの体の一部だろ!」
必死になって泳ぐ旅人だが、そもそも海の生態系の頂点にいる生物から逃げることができているのが奇跡である。奇跡は二度は続かない。この陸地の見えない海で泳ぎ続けていても、いずれは捕まり食われるのがオチだろう。
だからこそ、旅人は使うことにした。自分だけが使える、唯一の力を。泳ぐペースを落とさずに、旅人は腰に着けられた袋から
――ツマラン……腕ノ一本グライ、食ワセテヤレバイイモノヲ――
「set『転移』ィ!」
その不思議な絵柄のカードを持って叫んだその瞬間に、旅人の周りの景色が歪む。次の瞬間には、旅人は見覚えのある砂浜にいた。去った命の危機に安堵した旅人は、砂浜に倒れこんでグッタリとしている。
カード。それは、旅人だけが使える力だ。他の人には使えず、一度使用したカードはしばらく再使用できないという欠点があるものの、さまざまなカードがあり、それぞれがそれぞれのカードに対応した現象を引き起こせる。
先ほど使った“転移”というカードは、一度行ったことがある場所、または一度も行ったことのないどこかの場所のどちらかを選んで、そこまで一瞬で移動する事のできるカードだ。距離が遠くになればなるほど効果発動までに時間がかかるという欠点があるものの、いざという時の旅人の切り札的カードの一つである。
ちなみに、旅人はこの“転移”のカードをあまり使いたがらない。旅好きな旅人からすれば、その楽しむべき道のりを一瞬でゼロにするこのカードの力が、あまり好きではないのである。だからこそ、先ほどのようなどうしようもない時にしか使わない。
「死ぬかと思った」
――いつものことでしょ?それに五年前に比べたらマシじゃないの。ほら、落ち込むのをやめなさい。みんな同じように頑張ってるんだから――
「その悟ったような励ましやめろ」
ともあれ、これでせっかくの北極行きの計画がおじゃんになってしまった。どうしたものか、と懲りずに考え始める旅人は、きっとまた同じような目に遭うことだろう。
とはいえ、今日はもう疲れた。と旅人はそのまま砂浜で眠りにつく。この後、死体が砂浜に打ち上げられてる、と地元民に騒がれることとなるのだが、それはほんの余談である。
数時間後、地元民たちの騒ぎによって起床した旅人はとある街の公園で一休みしていた。現在、旅人は懲りずに北極に行く別の方法を考えている最中なのだ。結局、海流という恐るべき敵のせいで海からイカダで北極に行くのは諦めたのである。
ちなみに、旅人は一文無しのために、お金を払って行くというごく当たり前の手は使えない。
「やっぱりカードしかないかなぁ……」
――なんであんなことの後でまだ行こうとするんや――
「別にいいだろ。行ってみたいんだから。そういうのがわからないだから……まったく風情がないなぁ」
――ハッハッハ!そんな所より、行くべき場所は他にあるだろう!ハッハッハ!――
無駄にうるさいその言葉を聞いた旅人は、備え付けのゴミ箱に捨てられた新聞を横目で見る。そこには、“大人気!ゲーム・デジタルモンスター!”という見出しと“謎の集団失踪”という見出しの二つの記事が書かれていた。
その記事に書かれていることを見れば、旅人だって何か思うところはある。旅人とて、その存在を知る者の一人だ。三年前にそのゲームが発売された時も、随分と驚いたものである。
“今、また向こうの世界関係で何かが起ころうとしている。それも、
「だって、面倒くさいじゃん?それに、オレ個人はあの世界へ行く方法がないし」
――もっと熱くなれよぉ!頑張ろうぜ!熱くなれば!なんでもできる!――
「いやいや。頑張ったくらいで世界の壁は越えられないって。それに面倒だし」
――薄情じゃの。少しはお主が守った世界に愛着とかないのかの?――
「いや、愛着……あることにはあるけどさ。旅、したいじゃん?」
――アホかぁっ!――
旅人の中では、旅>異変らしい。もちろん、よほどのことが起こり、それの解決に自分の力が必要となるなら、旅人としては協力するつもりだ。だが、“五年前にいろいろと振り回された分、平時では自分の思いを優先させてもいいだろう”というのが、旅人の本心である。
ようするに、今は楽しく旅をしたいので旅を続けようということだ。
「よし、北極に行くのはやめて、暖かい南の方へ行くか。南極だ!」
――……南極は暖かくないってん――
「え?南だし、暖かいだろ」
“もう一度学校に入り直せ”そんな旨のことを、その人格は旅人の学歴を思い出しながら思うのだった。
南極に向けて歩き出そうとした旅人。だが、残念ながらその旅路はここで打ち止めとなることとなった。なぜなら、背後に出現した空間の歪みから、謎の人物が旅人へと迫っていたのだから。
中の人格はともかく、旅人はそのことに気づいていない。旅人に迫るその人物は、一言で言えば、人間離れした美しさを持っている少女だった。白く長い髪と人形の如き無表情、そして俗世離れした雰囲気もそれに拍車をかけている。そんな、街中にいれば通行人全員が振り返るだろう少女が、ゆっくりと旅人の肩に手を置いて――。
「ん?って――!」
「久しい。で、行け」
「なっむぅううううううううう!?」
驚く旅人を尻目に、少女は旅人の手を持って歪みへと投げ飛ばした。突然の事態に驚くしかない旅人だが、真に驚くべきは成人男性である旅人を軽々と投げ飛ばしたその少女の怪力だろう。抗うこともできずにかなりの速度で投げ飛ばされた旅人は、そのまま歪みの中へと突っ込んでいく。
そうして歪みを超えた先で旅人は地面に激突した。痛みを堪え、揺れる視界の中で、旅人は起き上がる。だが、そんな旅人の目の前に広がっていた光景は、広大な草原と争うオレンジの恐竜と赤いクワガタムシの姿だった。人間の世界では有り得ないその光景。つまるところ、あのデジモンたちの世界へと旅人は連れてこられたのだ。
「……いや、なんで?」
――あの樹の方に呼ばれたんですね、きっと。連れてこられたんですよ、きっと。どうですか?久しぶりの気分は、きっと――
「いや、気分も何も……アイツはどこだよ」
――さてね。その質問には答えかねる――
「またか。だから、説明……いや、せめて一言言えと……」
旅人をこの世界へと連れてきた少女は、見渡しても姿が見えない。どうやら、旅人をこの世界へと連れてくるだけ連れてきて、後は丸投げらしかった。まあ、あの少女が丸投げなのはいつものことなので、特に気にしないことにする旅人だったが、それでもやはりイラッとくるのは仕方ないことだった。
五年前のように振り回される予感を抱きながら、旅人は目の前の争いを見る。オレンジ色の恐竜はグレイモンと呼ばれる成熟期のデジモンで、赤いクワガタはクワガーモンと呼ばれる成熟期のデジモンだ。どちらも成熟期で、同ランクのデジモン同士の争いである。
だが、旅人から見て、クワガーモンが優勢に立っていた。いや、グレイモンも悪くはないのだが、戦闘経験不足ゆえか、所々動きが拙い。クワガーモンは空を飛ぶことができるということも相まって、グレイモンは押されている。
そんな時、旅人は驚きながらも目ざとく発見する。グレイモンの傍にいる人間の姿を。このデジモンの世界において、人間という存在はいないはずであるというのに。
――アイツ、負ケルナ……アノ人間モ死ヌゾ――
「……だよなぁ」
確かに、押し押されはあるが、見応えのあるなかなかに良い勝負ではある。ではあるのだが、旅人から見て、結果は明らかだった。グレイモンはクワガーモンに負ける。それがこの勝負の結末だ。
クワガーモンとグレイモンの地力に差はほとんどないと言っていい。二人に差をつけているのは、戦闘経験と戦闘可能範囲の多さだ。もちろん、それだけで戦いは決まらない。グレイモン単独だったのならば、勝ち目もあっただろう。
グレイモンがクワガーモンに負けると旅人が予想したのは、そのグレイモンの傍にいる人間が原因だ。グレイモンにピッタリと張り付いて離れないその人間は、サポートをするでもなくそこにいる。ようするに、完全な足でまとい状態なのである。そして、そんな人間を庇うように戦っているために、グレイモンは負けるのだ。
とりあえず話を聞きくためにも、グレイモンたちを助けることにした旅人は、彼らのいる場所まで近づいていく。そして――。
「set『捕縛』『爆破』……はい、終了」
――あははっ!成熟期相手なら、こんなものだね!――
「おい、やったのはオレだ」
そんな旅人の目の前には、満身創痍のクワガーモンが転がっていた。死んではいない。この世界で死んだデジモンは、光となって消滅し、やがてとある場所でデジタマになるのが通常である。つまり、クワガーモンは気絶しているだけなのだ。
一方で、何が起こったのか理解できないグレイモンとその人間は唖然としていた。起こった出来事はほんの一秒か二秒。どこからともなく出現した鎖がクワガーモンに巻きついたかと思えば、次の瞬間にその鎖が爆発し、さらにその次の瞬間にはクワガーモンが傷だらけで地面に倒れていた。言葉にすれば容易く理解できる、そんな刹那の時間に起きた出来事。だが、実際に目の当たりにしたグレイモンたちにとっては、彼らの理解の範疇を遥かに超えていたのだ。
「おい、大丈夫か?人間……だよな?」
「……」
「おーい?」
事の終了を確認した旅人が、グレイモンたちに声をかけるが反応がない。
グレイモンはともかく、人間の方は高校生くらいだろうか。まだ少年と呼べるような年代であることには違いない。短くサッパリとした髪型で、どこか活発そうな雰囲気を纏っている。
部活に入っているのならば、絶対に運動系の部活だろう。思わずそう思ってしまった旅人だったが、それは酷い偏見である。
そうして旅人が偏見のみで少年の日常を考察していること数分。ようやく少年も再起動したようだった。
「おーい?大丈夫か?」
「はっ!?えっと……助けてくれたんだよな?」
「あぁ、まあな。オレは旅人。君は……」
「やっぱりか!サンキュー!オラは勇、日向勇だ!よろしくなっ!」
旅人が出会ったのは、グレイモンを連れた太陽のような少年だった。
ようやくこれで大方の主要人物(人間)の登場が終わりました。
やっと二章に行ける……。
ちなみに、今回の最後に登場した日向勇は、ヒナタイサムと読みます。
そして、次章である二章のテーマとしては、邂逅ですかね。一章に登場した人物たちや二章に登場する人物たちが交わる章です。予定的には。
それでは、二章もよろしくお願いします。