【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
ですので、前話をご覧になっていない方はそちらからよろしくお願いします。
「ぬぁあああああああああ!」
一軒の家から奇声が響き渡った。悲鳴ではない、奇声だ。
その一軒家の中で、一人の少年がテレビと向かい合っている。そのテレビの真っ黒な画面には、赤い文字で“GAME OVER”と書かれていて――。
「くっそ、またかぁ!難易度高すぎだ!クソゲーすぎるだろ!」
その少年こと大成が、またゲームで敗北したことを示していた。
「うぐぐ……何度やってもダメだ。どうやったら――」
実にゲーム好きな人々としてありがちな光景だ。大成のいつもの日々でもある。
そう、いつもの日々なのだ。この
「……腹も減ったな」
ふと、呟く。
かれこれ数時間はぶっ通しでゲームをし続けていたため、彼は昼ごはんも朝ごはんも食べていない。食べるよりもゲームをしていたいと思える彼でも、さすがに我慢に限界が来始めていた。
だから、一旦中断することにする。
断じてこのゲームに負けたわけではない。そんな言い訳を胸の中で呟いて、彼は部屋の片隅に積み上げられているお菓子を取る。
お菓子を食いながら、ベトベトの手でゲームする気は起きない。
気分転換にでもテレビのチャンネルを変えた。
――次のニュースです――
「げ、ニュースか。次、次」
初めに映った番組は、何ともまあタイミングの悪いことにニュース番組。
子供な大成にとって、ニュースなど面白くとも何ともない。即座にチャンネルを動かす、いや、動かそうとした。
――先日、謎の解決となった集団行方不明事件についてです。警察は依然として実態を掴めておらず――
「……」
聞こえてきた内容は、偶然にも自分に関わり合いのあったもので。
彼は静かに画面に見入った。
――今年四月某日の同時刻、世界中で行方不明者が多発したこの事件。被害者は約千人にも上ると概算されており、人が消える瞬間を見たという目撃証言も上がっています――
――被害者はその大半が、先日、謎の発光とともに元の場所に戻ってきており……――
――これらの被害者の状態も様々だそうです。各国依然として捜査に進展はなく、ネットの掲示板では宇宙人に誘拐されていた等という突拍子もない説まで提唱されています――
画面の中から次々と飛び出してくる言葉の数々。
事が解決して数週間余り、未だメディアは騒がしい。新聞、テレビ、ネット、さまざまなもので事件の事が報じられている。
それらが目や耳に入るたび、大成はこの半年近くのことを思い出して、何とも言えない気持ちになるのだ。
――警察や関係当局では被害者に直接の事情徴収を……――
聞こえてきた内容に、大成は溜め息を吐く。
彼とて行方不明になっていた一人。もう何度もマスコミや警察による熱烈なインタビューに応じさせられている。
今は一人になりたい気分も多少はある。正直に言って、勘弁して欲しかった。
「……なぁ、未だ騒がしいんだよ。うちの親は全然無関心だし、その無関心さを世間も持って欲しいもんだ。……ってか、今思えばうちの親は放任主義すぎるだろ。前も言ったけどさ、帰ってきて顔合わせてさ、一番の発言が“生きてたならそれでよし”って……」
誰もいないこの部屋の中、彼は寂しく語りかけていた。
「夢じゃないことはわかってるけどさ。夢じゃないんだよなぁ」
未だ、この半年近くのことは夢だとしか思えない。
なにせ、終わりが終わりだったから。とはいえ、やはり夢などではない。
彼の背後には、人間の世界では見ないほど大きな卵が置かれているのだから。
「……はぁ」
本当に、夢としか思えない終わりだった。
それはメタモルモンを倒してすぐのことだった。
メタモルモンを倒せた。今度こそ終わった。
その事実を前に、全員が座り込んで身体を休める。あまりの疲労に、もう動けなかった。
退化できる組は全員が退化している。グランディスクワガーモンも大成の姿へと戻っているし、それはミレニアモンだって同じこと。いつの間にかムゲンドラモンと零に分かれていた。
「で」
全員が身体を休める中で、スレイヤードラモンが声を上げる。
その視線の先には未だ倒れている女がいた。
言葉少なく、全員が視線を交わす。唯一、女に憎悪を持つ零ですら、もう彼女に何もする気もないようだった。
「……」
大成も黙って考える。
今更感があるが、それでも殺すというのは個人的に嫌だった。だが、手放しで放り出すのも違うだろう。なにせ、今回の出来事の大元なのだから。
だとしたら、どうすればいいのか。どうにかして人間世界に連れ帰ったところで、罪に問うことができるかさえわからない。
罪を問わなければいけないのに、罪の大きさもわかっているのに、その罪を償わさせる方法が思いつかない。
「……難しいな」
大成にはそう言うことしかできなかった。
誰かを裁くということの難しさを、知った。
今の自分が知らないこと、知ったつもりになっていただけのこと、知ろうとしていないこと、一生賭けても知ることのできないこと――世界にはそれがまだまだあることに、なんとなく気づいた。
「仕方ないね。学術院の街へ連れて行きましょ?彼女にどう償わさせるにしたって、その相手は私たちじゃない。違う?」
溜息混じりに優希が言う。反対意見は出なかった。
唯一、零だけが複雑そうな表情をしていたが、それでも反対しなかった。
「いいわね?」
「……好きにしなさい」
有無を言わせない優希の言葉に、女は静かに返した。
静かな表情だった。いっそ、諦めたとすら思えるような顔だ。そんな顔をしてしまうほどに、女は――。
「んじゃ、帰るぞ。set『転移』!」
話の纏まったところで、旅人がカードを使う。
この場の全員で、まとめて学術院の街の郊外へと移動する。
空間が歪んだその一瞬後には、大成たちは学術院の街へと帰ってきていた。
「ふむ、遅い帰りだったな。いや、そうでもないか?」
そんな彼らの目の前に、ウィザーモンがいた。
「……何で?」
思わず、大成が呟く。
まあ、それも仕方のないことだろう。突然、この街に帰ってきたはずである自分たちの目の前に、ウィザーモンが何食わぬ顔で立っていたのだから。
「いや、何。前もって情報を教えられていたからね」
「情報?」
「とにかく、だ。この街の者を代表して、いや、この世界の者を代表して礼を言わせてもらおうか。ありがとう」
「……!」
何に対しての礼なのか、わからない者はここにはいなかった。
だが、それだけに疑問が出てくる者もいた。
「なんで知ってるの?」
「そういえばそうですな。このセバスたちはお嬢様を助けに行っただけで……」
「だから、情報を教えられたと言っただろう。その関係だ」
情報源についてわかったのは、旅人とスレイヤードラモン、そしてドルゴラモンから退化したドルグレモンだけだ。
他の者たちは全員が全員、疑問を顔に出している。
「我々としてはその女に思うところはあるが……残念ながら、何もすることはできなくてね」
「どういうことだよ?」
「……さて」
女をひと睨みして、ウィザーモンは肩を竦める。
彼の言葉に、誰もが首を傾げていた。
「まぁ、すぐわかることか。お別れ、だということだ」
「は?」
疑問のままに呟いたのは、誰だったか。
大成か、優希か、勇か、零か、はたまた全員か。
「先ほど情報を教えてくれた者が言っていてね。彼女曰く、今回の一件に端を発して、近々この世界に危機が訪れる。それを回避するためには、君たち人間がこの世界にいては不都合なそうだ」
「それって……」
「うむ。人間は強制的に元の世界に戻される、ということだな」
「って、待てくれよ。全、員か?」
「もちろんだ大成。君も、旅人も、優希も、勇も――この世界にいる人間全員が戻される。デジモンたちは身の振り方を決めたまえ。こちらに残るのか、それともついて行くのか。親切にも“今回は”その辺りも対応してくれるらしい」
それの示すところは、正真正銘、事態が解決するということだ。
いろいろと不穏な単語がチラつかされてはいたし、デウス・エクス・マキナに匹敵するほどの意味不明な解決ではある。だが、解決は解決だ。
これで終わるのならば問題はない――はずだった。
「ちょっと待ってくれ!」
つい、大成は声を荒げる。
彼には今の状況を解決されては困るのだ。ここで人間世界に戻されてしまえば、自分と同化することで命を繋いだ友を救う手立てがなくなってしまう。
「俺は、イモを……!」
「……」
ウィザーモンは静かに首を振る。言いたいことはわかっている、とばかりに。
「無理だ」
「……は?」
「無理だ、と言ったんだ」
「……ふざけんな」
「ふざけてなどいない。ふざけてこんなことは言わない」
口が震えた。喉が震えた。
目の前が揺れた。身体が揺れた。
信じたくない現実が、大成の眼前にあった。
「無理?ウィザーモンはすごいだろうが!」
感情任せにウィザーモンに掴みかかった大成を、誰も止めなかった。
彼の置かれている状況を正確に理解できたために。
「そうだ、無理だ。それでもなお、君が会いたいと願うのならば――」
「……?」
「――神にでも祈ってみたらどうだね?学者である僕がこんなことを言うのも難だが、彼女は神だからな」
「彼女?」
「ま、そんなことはしなくてもいいかもしれないがね。安心したまえ。絶対に再会できる」
「どういう意味だ?」と、若干冷静になった大成が質問を重ねて、だが、その直後のことだった。
ここにいる全員の身体が光に包まれる。
「む。もうか。相変わらず空気の読めない――……まぁいい。では、さらばだ。まぁ、何だかんだとまた君たち人間と出会う気がするがね。それも面倒事で。特に旅人辺りは……いや、君も巻き込まれる形でだな」
「余計なお世話だ!」
最後の最後に不吉な言葉を聞いて、この場の全員が光の中に飛ばされる。唐突過ぎて、別れの一言も言えなかった。
上も下も、前も後ろもわからない白い光の中で彼らは流される感覚を味わう。
そして、そんな中で――。
「貴方たち。人間とデジモンの行き先の一つ。でもダメ。歪んでる。貴方たち、たどり着く。いずれ。真実の形に。その時まで」
大成はどこからか声を聞いた。
周りの光という景色も相まって、それがまるで神様のもののように思えたものだから。
「頼むからさ、イモを……!」
大成は、つい祈った。
そして、彼が目を覚ました時、彼の横には巨大な卵があったのだった。
時は戻って、現在。
一体あの声はなんだったのか、本当に神様だったのか、今でもわからない。あの卵が何なのか、も。それでも、あの卵こそが自分の友の生まれ変わりであると、大成には信じられた。
「……早くさ、出てこいよ。またゲームしようぜ」
だから、彼は待つのだ。再会の時を。
何はともあれ、しんみりしていても始まらない。大成は気を取り直して、ゲームを再開しようとして――。
「何してるのかな?」
「相変わらずですな」
突如として部屋にいた優希とレオルモンに止められた。
「げ……もう来た。ってか、勝手に入ってくるなよ!」
「毎度毎度、居留守を使ってるくせに。チャイム鳴らしたら居留守使うじゃない」
「鍵とかあるだろ!」
「アンタ、家にいる時には鍵かけないじゃない」
「っぐ、けどさ!」
「四の五の言ってるのはどうかと思いますぞ」
勝手知ったるとばかりに、準備を進めていく
ちゃぶ台机に広げられた勉強道具から、どうやって逃げるべきかを考える。
まあ、部屋にまで侵入された時点で、逃げることなどできないのだが。そう、この
「全く。私たちには半年近くのブランクがあるんだから。一生懸命やらないと、受験が危ういのよ?そこら辺わかってるの?」
「そうですぞ、大成殿。せっかくお嬢様が好意で勉強会を開いてくださっているのですからな。もっとやる気を出してくだされ!」
「えー……ゲームの方が楽しいんだけど」
言うまでもなく、大成たちは向こうの世界に行っている間、学校に通っていない。
その分、勉強から置いていかれている。なるべく早く遅れを取り戻さなければ、こちらの世界の社会生活が危うい。
というわけで、彼らは共に勉強しているのだ。
ちなみに言えば、講師はレオルモンである。大成がこの勉強会を嫌がるのはそこに一因があるのだが、それはほんの余談だ。
「それでは初めますぞ。数学の教科書の百ページを開いてくだされ」
そうこうしているうちに、準備が整えられた。大成はゲームに逃げることもできず――ゲームを名残惜しそうに見つめながら、勉強会が始まったのだった。
幸運にも、大成にとっての苦痛の時間はあっという間に過ぎていく。とはいえ、苦痛であることには変わりなく。
「……今日はここまでですな」
「よっぉしゃあああああああ!」
だからこそ、終わった時の大成の奇声と言えば、近所の方々が遠い目をするほどだった。
「っし!ゲーム、ゲーム!」
「……私のせいで巻き込んだようなものだし、世話くらいって思ってるけど――先が思いやられるわね」
「ですな」
優希とレオルモンは揃って溜め息を吐くことしかできなかった。
「ってかさ、お前やる気ありすぎじゃないか?」
「だって、目標もあるからね」
「目標?」
「目標というよりは、まぁ、やりたいことだけど……」
大成の何気ない言葉に、優希は照れ笑いを浮かべて言った。
もう一度あちらの世界に行きたい、と。
「は?」
「たぶん、今回のことでデジモンたちは人間に良い思いをしてないと思う」
「まぁ、だろうな」
「だから、私は力になりたいって思うんだ。人間にも良い人がいるってわかってもらえるように。時間が解決する問題だけど、その時間を短縮することくらいはできるかなって」
「おぉ……!さすがお嬢様ですな!」と、レオルモンは感嘆している。
同じように、大成も感嘆していた。いろいろ考えてるのだな、と。
「大成は何か考えてるの?」
「いや……そ、そういえば他の連中は?」
「露骨に話題を逸らしましたな」
ちなみに言えば、他の面々はさまざまである。
今度こそ北極に行くと言って、旅人はスレイヤードラモンとドルグレモンを連れて旅立った。
ムゲンドラモンとピヨモンにまとわりつかれて、卵を抱えて零は何処かへと消えた。
勇はシャイングレイモンを実家に紹介しに行って、そのまま実家の田舎に引きこもっている。シャイングレイモンをゆるキャラにするという計画まで立てているらしい。
片成や好季は目覚めたものの未だ病院暮らし――と、本当にさまざまだ。
「ま、滅多にない経験したとも言えるんだし、グダグダしてるんじゃもったいないわよ?」
「……」
「それじゃまたね」
ここ最近と同じように、優希たちは帰っていった。
一人になって、大成はいそいそとゲームをし始める。だが、あんまり集中できなかった。言うまでもなく、考え事をしていたからだ。
「……目標とか……やりたいこと、ね。なんか将来のことみたいだな。……思いつかねぇよ」
特に何も考えていなかった、と。大成は静かに考える。何も思いつかなかった。
「あぁ、でも……お前には会いたいな」
だが、それでも何かがボンヤリと見えた気がした。
彼は気づかなかった。大きく震えた卵に、僅かに罅が入ったことには。
というわけで、最終話。
これにて、今作『デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~』は完結となります。
なお、この話を投稿した数時間後に、この物語を完結扱いにします。
感想や評価を下さった方、ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました!
以下、大反省兼あとがき。
A&Aは前作の途中から構想があったんですね。
はい、正直に言いますと続編モノを書いてみたかったんです。
ですが、主人公をそのままにするのでは続編にする意味もありませんし……結果、主人公交代という、難易度高いことに挑戦することに。
さらに、前作が特別さを売りに出した王道系(?)主人公だったので、最近人気の変則系主人公にすることに。自分から難易度を上げてったんですね。
一応、特例であって特別ではない主人公です。今作では、主人公たち単体では成熟期までしか進化してませんし。
何はともあれ、そんな感じで生まれたのが今作の主人公である布津大成です。
名前の由来は、ふつ(布津)うで、大成しない人。はい、めっちゃ皮肉で名付けました。
で、ここまで書いてみた感想。……かなり難しかったです。
中盤辺で、すでにあまりの扱いにくさに頭を抱えていました。まあ、自業自得なんですが。
そして、物語を全体的に振り返って……はい、酷い出来ですね。
初期プロット通りに進んでいたのは、だいたい三章の初めくらいまでです。
前作の第一章が割と駆け足で進み過ぎちゃったせいもあって、今作はゆっくりと一歩一歩進んでいこうと考えてました。
結果、コレです。ゆっくり過ぎました。無駄に話数が伸びました。必要ない話が多すぎでした。
まさか、ここまで伸びるなんて。プロットと全体的な計画って、本当に大事ですよね……。
一応、前作の事件が天災だったことを踏まえて、今作では人災に焦点を充てた――つもりだったんです。ただ、無駄に長い話数のせいで、最後の掘り下げがうまくいきませんでしたが。
まあ、勘の良い人は気づいていると思いますが、この物語には続きがあります。
正確には、ある予定でした。
前作や今作で放り投げる結果となった伏線を回収する、世界融合編という後日談的な話の構成が(初期から)あったんですね。
ただ、ダラダラと続いてしまった物語ですし、元々世界融合編は後日談的扱い。ここで終わらせた方がキリがいいかな~って数ヶ月前から考え始めて……結果、ばっさりカット。
はい、一応完結ですが、結果的には連載凍結や打ち切りと同じ感じですかね。
……なんか、自分でしたことですし、決めたことですけど、思いの外ダメージがありますね。
次回作ではこのようなことにならないように、前作と今作の反省をしっかりと踏まえて作りたいと思います。
何はともあれ。そんなこんなな一年半、前作から換算すればニ年半。
本当に長い月日ですね。
私の素人丸出しである小説をここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。
一応、今作で懲りずにまだまだ小説は書き続けるつもりでいますし、今作や前作以上に良いものを執筆する気満々です。
またどこかの小説でお目にかかることがありましたら、よろしかったらよろしくお願いします。
今作では本当にありがとうございました!