【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第十六話~呪われた身体!?襲来する失敗作!~

 白。大成たちには、それしか理解できなかった。視界を埋め尽くすほどの閃光と耳が麻痺するほどの轟音。数秒も続くそれを前にして、大成たちには白いとしか感じられなかったのだ。

 次いで、大成たちを襲う衝撃。次に視界が戻った時、大成たちの目の前は更地となっていた。

 

「っち。ムゲンドラモン。外すな」

「リョウカイ」

 

 そこまでいって、遅れながらもようやく大成たちは気づいた。自分たちは襲われているのだ、と。大成たちは、そのあまりに隔絶し過ぎた力の差を前に、現実を理解できていなかったのである。

 まるでゾウに嬲り殺される蟻のように。大成たちはどうすることもできない。実際、先ほどの攻撃を避けることができたのは、単にスレイヤードラモンのおかげだ。彼がいなかったら、大成たちはその細胞の一片にいたるまでこの世から消え失せていただろう。

 それほどまでの威力を先ほどの閃光は持っていた。いや、実際はそれ以上だろう。その閃光の威力を言い表すのならば、“世界が消失させた”というのが適当だ。閃光が通った場所すべて、焼けているのでもなく、削り取られたのでもなく、ただ、消えていた。それほどの現象を引き起こす力が、たかが大成たち程度を消し飛ばすだけで収まるはずがない。

 

「……」

「……嘘……でしょ……?」

 

 あまりに、強力。あまりに、圧倒的。

 恐るべきは、ムゲンドラモンと呼ばれたデジモンは、それほどの力をいとも簡単に放ったという点にある。大成たちは、理解した。これこそが究極体なのだ、と。むろん、ムゲンドラモンがそうだと知っていた訳ではない。だが、大成たちは、その本能とも言うべき直感で理解したのだ。ムゲンドラモンこそ、最高位と、頂点と、究極と呼ぶに相応しい者なのだ、と。

 人は、自分の理解を遥かに超えた現象に出会った時、パソコンがフリーズしたかのように動けなくなる。それを体現するかのように、大成たちは呆然としていた。

 例外は、戦闘態勢を崩す気配のないスレイヤードラモンだけだ。

 

「マズイな……割とガチで。おい、ピッコロモン!」

「……ぴっ!そうだっぴね!」

 

 ピッコロモンも呆然としていた組の一人だが、それでもさすがと言うべきか、再起動が早い。ムゲンドラモンが再びの攻撃をしようとした瞬間に、行動を起こす。

 次の瞬間、大成たちは遠く(・・)に一筋の光を目撃していた。それが、ムゲンドラモンの攻撃であることなど疑いようもない。大成たちは、その一瞬で数キロ以上離れた場所まで移動していたのだ。それが、ピッコロモンの力。ピッコロモンの時空間系の魔術によって、大成たちは数キロ以上離れた場所へと、一瞬で移動したのだ。

 だが、一度に大勢を移動させたピッコロモンは疲れ果てている。もう一度同じことをするのは不可能に近いだろう。

 

「よし、今のうちに――ッ!」

 

 スレイヤードラモンは、一先ずの選択肢として距離を取ることを選んだ。

 距離を取る。それは、時として好手になりうる手ではある。だが、スレイヤードラモンは一つだけ間違いを犯した。つまり今回、この場において彼が選んだその選択は、好手ではなく悪手であるということだ。

 スレイヤードラモンはこの数年、彼に並ぶ者と戦うことがなかった。彼はいつだって、強者だった。だからこそ、犯してしまったと言えるその間違い。それは、油断だと言えば油断になるだろう。いや、状況を考えれば、ある意味で油断してなかったが故の結果となるのかもしれない。どちらにせよ、結果論で言うなら、間違いであったことには変わりない。

 言葉を詰まらせたスレイヤードラモンに疑問を抱く前に。大成たちの視界は、再びの白で埋め尽くされた。

 そして、それを遮るように影が大成たちの前に躍り出て――。

 

「……え?……リュウ?」

「……くそ……」

「おい!リュウ!」

 

 数秒後。晴れた先の大成たちの目の前に広がっていた光景は、傷だらけと言うのもおこがましいほどのボロボロの姿で倒れ込むスレイヤードラモンの姿だった。

 大成たちを襲ったのは、ムゲンドラモンによる閃光での狙撃だ。あれほどの威力のものであるのにも関わらず、正確無比な狙撃。それは、驚愕という言葉では、言い足りないほどだ。

 起こったことは至極単純である。数秒前、狙撃されることに気づいたスレイヤードラモンは、大成たちを庇って攻撃を受けたのだ。あの閃光をまともに受けて、それでも体の形が保たれているというのはある意味奇跡だろう。だが、もはや戦闘はできそうにない。

 スレイヤードラモン一人だけなら、どうとでもなっただろう。実際、スレイヤードラモンのムゲンドラモンに対する評価は、“油断していい相手ではないが、必ず負ける相手でもない”というものだ。スレイヤードラモン一人ならば、避けることもできた。スレイヤードラモン一人ならば、戦うこともできた。それができなかったのは、大成たちがいたからだ。

 

「リュウ!リュウ!」

「スレイヤードラモン殿!」

 

 実際、スレイヤードラモンは伸縮自在の己の剣であるフラガラッハを巻きつけるという手で、できる限り防御を上げたが、それでも大成たちに余波がいかないように閃光の威力を余すことなくその身に受けたのだ。死んでいないのが、奇跡である。

 だが、この場においてスレイヤードラモンが倒れるということは、大成たちにとってあることを意味している。この場の誰もムゲンドラモンに敵わない。この場の誰もムゲンドラモンから逃げられない。それは、事実上のチェックメイトだ。

 だが、それでも尚、この状況から抗おうとする者がここにはいた。ほかならぬ、ピッコロモンだ。もちろん、ピッコロモンとて死にたいわけではない。だが、状況からして自分が犠牲にするしかないということにピッコロモンは気がついたのだ。

 決死の覚悟は決めた。ならば、次は。

 

「仕方ないっぴね。学術院の街のみんなにこのことを伝えてほしいっぴ!これを……私が死ぬまで(・・・・)に得たすべての情報を記録するこの機械を!届けてほしいっぴ!」

「ピッコロモン何言って――」

 

 大成のその言葉は続かなかった。それは、文字通りの事態。口が、腕が、足が、体が。そのすべてが動かなくなっていたのだ。視界も、思考さえも遠く。大成の意識はそこで途切れた。

 そして、それは大成だけではない。優希も、ワームモンも、レオルモンも、同様の状況に陥っていた。傍から見れば、意識を失って倒れたようにも見えるだろう。だが、それはピッコロモンの魔術の副作用だ。次の瞬間、大成たちの姿はこの場から消えていた。

 

「やれやれっぴ」

「ふん……スレイヤードラモンまで逃がしやがって」

「その言い方……まるで大成たちを殺す気はなかったって言ってるようっぴよ?」

「俺が殺すのはデジモンだけだ。人間は極力(・・)殺す気はない」

 

 大成たちを逃がすことに成功したピッコロモンは、ムゲンドラモンを引き連れてやって来た零を睨む。大成たちは気づいていなかったが、スレイヤードラモンとピッコロモンは零の存在に気づいていた。ムゲンドラモンに命令しているのは零だと、気づいていたのだ。

 零は人間を殺す気はないと言っている。だが、今日の様子を見るに、それも怪しい。いや、どちらかといえば、デジモンを殺すのに必要であれば人間も殺すことがあるということだろう。

 

「まあいい。あれだけのやればしばらくは動けないはずだ。先にこちらから片付けるか」

「やっぱり、そうなるっぴよね」

 

 零の全身から迸る殺気とでも言うべきソレ。桁外れなまでの零のソレは、復讐者のソレと同じだ。それも、特定対象に対するソレなどではない。不特定の対象を、己の憎しみのままに壊そうというソレだ。そんな零のソレを見て、それでも自分が狙われていないと思い上がれるほどピッコロモンは楽観的ではない。

 ムゲンドラモンは、零の指示を待っているのだろう。未だピッコロモンに襲いかかる気配がない。ムゲンドラモンがその気になれば、ピッコロモンなど一瞬で消し炭になるというのに。

 言い方は悪いが、そんなムゲンドラモンが零如きに従っている。それが、かえって不気味だった。

 そんなピッコロモンの視線に気づいたのか、零はなんでもないかのように話し出す。

 

「ああ、ムゲンドラモンのことか?コイツに意思なんかない。ただお前らを殺す殺戮機械でしかない。デジモンは嫌いだが……コイツは役立ってるな。お前らを殺し尽くすにちょうどいい道具だ」

「お前……我々デジモンのことをなんだと思ってるっぴ!」

「はっ……何を言うかと思えば……ゴミだろ。ゴミのくせにそんなことも理解していないのか?ゴミは処分するのが当たり前だろう?」

 

 ピッコロモンの怒りの言葉にも、零は小馬鹿にするように返答する。

 それが、まるでふざけ半分でデジモンたちを殺戮しているようで、尚の事ピッコロモンの癪に障った。もちろん、零にも何らかの事情があるのはピッコロモンにも予想がつく。確かに、零の言葉は快楽主義者のような余裕を感じさせるものだ。だが、零の言葉の一言一句に込められた憎しみは、彼がそのような人種とは違うことを暗に示している。

 とはいえ、自分の仲間が虐殺され続けているのだ。それがわかるからといって、納得などできようはずもないのだが。

 

「っ!ゴミだとっぴ!?いい加減にするっぴ!我々デジモンも……お前たち人間と同じ!生き物だっぴ!そんな勝手が許されると――ッ!」

「ふざけるなッ!」

 

 ピッコロモンの言葉は、零の怒声によってかき消された。

 ピッコロモンは驚きを隠せなかった。先ほどまで、憎しみ以外の感情を露わにしない冷静沈着だった零が、突然感情を露わにして叫んだのだから。しかも、露わにするというよりも、爆発する、という表現がふさわしいほどの感情の奔流を伴って。

 何らかの地雷をピッコロモンが踏んだのは明らかだ。今の零にあったのは、先ほどまであった憎しみの感情とはまったく違う、憤怒の感情だった。

 

「勝手!?お前らがソレを言うのか!?」

「なんだとっぴ?」

「お前らが!お前たちさえいなければ!俺は!俺は――!」

 

 憤怒の感情のままに、言葉を発する零。そんな零に変化が訪れる。

 目の前で起こるその変化に、ピッコロモンは何度目になるかもわからない驚愕をもって、状況も忘れて呆然としていた。それほどまでに今、ピッコロモンの目の前で起こっている変化は、ピッコロモンの理解を遥かに超えていたのだ。

 人間(・・)としての零の姿が薄れていく。それと同時に現れる体。それが、先ほどの何倍もの巨大な影となってピッコロモンの前に鎮座していた。さまざまなデジモンの身体で構成された、そのデジモンが。

 ムゲンドラモンが、最強を求めた効率と機械の化身だというのならば、このデジモンはその対極にあるデジモンだろう。強い者を組み合わせれば、強くなる。そんな子供の論理のような、さまざまな強いデジモンの生身の肉体を組み合わせたその体。

 “究極”には及ばなくとも、十分に“完全”な強さを誇るそのデジモンのことは、ピッコロモンも知っている。だが、その存在は本の中でしか知らなかった。いろいろな意味でデタラメな存在だ。まさか実在するとは思わなかったのである。

 それこそが、キメラモン。数々の伝説に残る究極体とは違う意味で希少な、合成型の完全体デジモンだ。

 

「俺は!こんな醜い姿にならなくて済んだのに!」

「ッ!人間が……デジモンに!?」

「だからなんだ!?だとしたらなんだ!?俺は!お前たちを滅ぼして人間に戻る!完全な元の人間に!」

「ッ!デジモンを滅ぼしても、お前が元に戻る保証はないっぴ!」

「そんなことは知っている!それでも!俺は!俺をこんな姿にしたお前たちを許さない!俺をこんな姿にしたデジモンを!」

 

 零は感情のままに、狂ったように言葉を放つ。もう何を言っても無駄だろう。この手の相手は自分のことに精一杯で、正論を言おうが、反論を言おうが意味はない。この手の当人にとって、正誤善悪の問題ではないのだ。

 だからこそ、もうピッコロモンも何も言わない。ピッコロモンにとって重要なのは、零のことではない。己の故郷、そしてそこに住む者たちだ。だからこそ、やらなけれならない。敵にどのような事情があろうと。

 今の時間に仕掛けはすべて終わった。だから、後はそれを実行するだけである。それが、ピッコロモンの最後(・・)のやるべきことだ。

 上手くいくかどうかは正直運だ。だが、上手くいけば、かなりの時間を稼ぐことができる。だから、上手くいかせないといけない。そう気合を入れなおして、ピッコロモンは動く。

 

「今っぴ!私の必殺技をくらうがいいっぴ!」

「なんだと?」

「名づけて!連爆ビットボム!」

 

 ピッコロモンがキメラモンに向けて投げたのは、爆弾だ。もちろん、ただの爆弾ではない。内部に強力なウイルスを凝縮させた恐ろしい爆弾であり、“ビットボム”と呼ばれるピッコロモンの必殺技だ。

 真っ直ぐに飛んでくる爆弾。怒りのままに冷静さを欠いていたキメラモンは、突然の攻撃に固まることしかできない。だが、そんなキメラモンを庇ったのは、ムゲンドラモンだ。

 それは、たいしたダメージを受けないだろう自分より、高いダメージを受けるだろうキメラモンを守らなければならないという合理的判断に基づいた結果だ。全身が高レベルの機械で構成されたムゲンドラモンは、ピッコロモン程度のウイルスなどどうとでもできてしまうのである。

 だからこそ、キメラモンを庇った。事実、代わりにその爆弾をその身に受けたムゲンドラモンは、その爆発を何事もないかのように耐えている。

 だが、結論から言えば、それも意味がなかったと言えるだろう。なぜなら――。

 

「ッ!何――!?」

 

 ピッコロモンの仕掛けは既に作動しているのだから。

 ムゲンドラモンがキメラモンを庇った瞬間に、ピッコロモンはその魔術でもって、百以上のビットボムを辺り一帯に出現させた。そして、それらは一番初めの爆発に連動するように、次々に爆発していく。

 確かに、ムゲンドラモンには効かないだろう。だが、ムゲンドラモンに命令しているキメラモンは別だ。いかにムゲンドラモンといえども、この数の爆発からキメラモンを庇いきれるはずがない。

 皮肉にも、先ほどのスレイヤードラモンと逆のことが、ムゲンドラモンにも起こったのだ。

 

「がぁあああああああああああああ!」

「それ見たことかっぴ!」

 

 爆発にさらされ、ウイルスに侵され、激痛のあまり悲鳴を上げるキメラモン。爆発が収まった時、キメラモンがいた場所には、人間の姿に戻った零が倒れていた。酷い怪我だ。しばらくはまともに動けないだろう。

 だが、それを見届けた瞬間、ピッコロモンはムゲンドラモンのその機械の腕に殴られ、地面に叩きつけられてしまう。大地を砕くほどの力で叩きつけられたのだ。ピッコロモンは、もう虫の息である。

 

「がはっ!ぁあああ!よくも……!よくも!また!またァア!」

「……くぅうう!」

「離せェ!殺す!デジモンはすべて!逃げた奴らも!絶対にィ!」

 

 怒りと憎しみのあまりか、それとも別の要因があるのか。普段の面影などなく、狂ったように叫ぶ零。だが、ムゲンドラモンはそんな零の命令を聞かずに、空いた片手に零を乗せるとその場を離れ始める。

 ムゲンドラモンは純粋たる機械の化身だ。零の命令に背くなど考えられない。だが、現実として零の命令に背いている。

 それが、何を示すのか。この場にわかるものはいなかった。唯一、わかることはムゲンドラモンも零もしばらく行動を起こせないということだけだ。

 そして、無事に大成たちを、故郷を救うための時間稼ぎとなれたことを見届けて――。

 

「あとは……まかせ……た……ぴ……」

 

 ピッコロモンは光となって消えた。

 




というわけで、第十六話です。
失敗作の意味がちょこっとだけ明かされました。
どういう意味での失敗作なのかは、まだですけど。
そして、スレイヤードラモンの敗北。敗因は足でまといがいたこと。身も蓋もないですね。

というわけで、次回から舞台は学術院の街へと移ります。

それではまた次回もよろしくお願いします。
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