【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
大成は、フカフカのベッドで目を覚ました。
まだ目が覚めきっていない大成は、若干の眠気に誘われるままにベッドの中に潜り込む。
まるで高級ホテルにあるかのような、暖かく、心地良い眠りを提供するそのベッド。そのようなベッドなど使ったことがない大成でさえ、これは正しく最高クラスの一品であると感じられるほどの一品だ。そのベッドによって提供される極上の睡魔に抗うことなど、大成はしたくない。それどころか、いつまでもこのベッドの余韻に浸っていたいとすら思っている。
だが、悲しいことに、それでも人は目が覚める時は、目が覚めるものである。
「……?……あれ?」
そんな大成の頭をだんだんとクリアにしていくかのように、脳裏に突き刺さる疑問。
ここ数日、大成はこのような安眠などしたことがない。いや、それどころか、ベッドなどという文明の利器の上で眠ってすらいない。ならば、この状況はなんなのか。
しばらく考えて、やがて大成は一つの答えを得る。
すなわち――。
「あ、そうか。夢か」
すべては夢なのだ、と。
自分のパートナーがビジュアル的にカッコ悪いワームモンだったことも、突然見知らぬ世界に放り出されたことも。すべて夢だったのだと。そんな結論に大成は思い至ったのだ。
そうとわかれば、と大成はベッドの中に潜り込み、再びの眠りにつく。目が覚めてからする予定のゲームの続きを思い浮かべながら。
当然のことながら、すべてが夢であるなど、そんなことあるはずもない。
ぐっすりと眠っている大成。むにゃむにゃ、と聞き取り不明の寝言がその口から放たれている。さらには、よほど良い夢を見ているのだろう。その顔は、キモイ。犯罪的なレベルだ。
そして、先ほどの独り言で目が覚めたワームモン。ベッドの数が足りないという理由で、先ほどまでワームモンは、大成のベッドの上で眠っていたのである。そんなワームモンは、起きた瞬間にアップで大成のキモい顔を見てしまった。目を覚ましたら、変態顔のアップ。とんだ恐怖体験だ。
だが、さらなる試練がワームモンを襲う。
「むにゃ……」
「ひぃっ!うわぁあああん!」
寝返りをうった大成の顔面が、そのままワームモンの方に向かって来ようとしているのだ。
迫り来るキモい顔。先ほどの恐怖体験のこともあって、思わず荒い対応をしてしまったワームモンは悪くないだろう。
数分後。ワームモンの吐いたネバネバネットによって窒息死しそうになった大成が、未だネバネバの拭いきれない顔でワームモンにキレることとなるのだが、それはほんの余談である。
「くそっ!せっかく気持ちよく寝てたのに……。っていうか、夢じゃなかったのか。残念なような……良かったような……いや、ここはゲームも何もないんだ。やっぱり残念――」
「うぅ……酷いよぅ……」
「あぁん?何か言ったか!?」
「何でもありません!」
綺麗な土下座を披露するワームモンをもう一発殴り、大成は顔に付いたネバネバを取り除くことに四苦八苦する。ネバネバのそれの粘着力は凄まじい。顔から取れても手に張り付き、手から取れても反対の手や服に張り付くという無限地獄の如き苦行を大成に感じさせるほどだ。
これでは埒があかない。水か何かで一気に取ろう。そう考えた大成は、ベッドから立ち上がって歩き出すが、そこであることに気づいた。すなわち――。
「あれ?ここどこだ?」
「今更……?」
「ぁあ?」
「っひ!……」
ここはどこだ、と。
そんな大成を呆れながら、ボソッと呟いたワームモン。その言葉を耳聡く聞いた大成は、ドスの利いた声でワームモンを威嚇した。ビビったワームモンは思わずベッドの中に潜り込みたくなったが、残念ながらそれはできなかい。なぜなら、ベッドの上に敷かれた布団は既になくなっていたから。
先ほどまであった布団。いつの間にかなくなっている布団。だが、それを探す必要はない。探すまでもなく、目の前にその布団はちゃんと存在している。だが、常識人ならば、その布団のある場所に失笑を禁じえないだろう。いや、もしかしたら、ありえない光景に一瞬目を疑うかもしれない。
その布団は――。
「……ぷっ!」
「お前今笑ったな?笑ったよね?笑っただろ!」
「そ、そんなことないよぅ……っぷぷ……」
「それでごまかせると思ってんのか!?元を正せばお前のせいだろうがっ!」
大成の手に
そう、大成は手に張り付いた布団ごと歩いていたのである。言うまでもなく、大成が顔に付いたネバネバを取り除くことに四苦八苦した結果の産物だ。ギャグ漫画のような光景だが、現実に起こっている。布団の重さが地味に腕にキツい大成だった。
布団の重さと格闘しながら、なんとか部屋の入口まで辿りついた大成。そのままドアを開けようとして、そのドアがピクリとも動かないことにすぐ気がついた。
ドアに鍵がかかっている。そのことは現状を鑑みて、一瞬考えればわかることだ。だが、なぜある意味で監禁状態に自分が陥っているのか、それが大成にはわからなかった。
「おい、イモ。なんでこんなことになって――」
「やっと起きましたな。大成殿。というか、覚えてないのですか?」
「っ!」
そんな大成に声をかけたのは、レオルモンだ。この部屋にはワームモンと二人きりだと大成は思っていたため、思わぬ者からの声かけに大成は肩を震わせて吃驚する。驚いた顔を隠そうともせずに振り向いた大成に、レオルモンは若干呆れた表情を見せる。いや、どちらかといえば
レオルモンの登場に、改めて部屋の中を見渡した大成。部屋は、一つの机を挟むように二つのベッドがあり、それなりに広い。だが、全体的に物は少なく、質素という印象だ。トイレは部屋の奥に備え付けてあるが、風呂はない。誰かの部屋というよりも、どちらかといえば簡素なホテルというほうが適当であるような部屋だ。
だが、大成が注目したのはそこではない。大成が注目したのは、自分とワームモンがいたベッドの反対側のベッドの上で、布団にくるまっているダンゴムシのような物体Xだ。そのベッドの脇にレオルモンがいる。であるならば、その物体Xは――。
「優希か?」
「ッ!……」
「あれからずっとこの調子でしてな……」
大成の言葉に一瞬ビクッと動いた
レオルモンが言うには、ずっとこの調子でいるという。
だが、大成はどうして優希が震えているのか、何に怖がっているのか、理解できない。震えることなど、何も――。
「ッ!」
ない。そう思おうとしたその瞬間に、大成の脳裏にフラッシュバックする光景。
究極体の襲来。迫り来る死という名の白。自分たちを庇って倒れたスレイヤードラモン。そして、自分たちを逃がすためにあの究極に立ち向かったピッコロモン――。
ドサリ、と大成はその場に座り込んだ。思い出した光景と共に、今更ながらに感じた生きている実感。それを感じて、安堵のあまり腰が抜けてしまったのである。
「はは……そっか生きて……って!リュウは!?ピッコロモンは!?あの後どうなったんだ!?」
「……」
安堵の次に湧き上がる当然の疑問。
ワームモンとレオルモンはお互いに悲痛な顔をして、その後レオルモンが静かに話し始めた。
「まず、あれから二日経っていて、ここは学術院ですな。リュウ殿は……瀕死の重傷でこの街の医療施設に収容されているそうで。聞いた話だと、かなり危ないと。ピッコロモンは――」
「……そっか」
レオルモンの声は硬く、どこか無理をしているようだ。いや、無理をしているのだろう。先の襲撃で、レオルモンは何もできなかった。常日頃から優希を守ると言っているにも関わらず、先の襲撃ではただの足でまといにしかならなかった。感じた無力感は人一倍のはずだ。平常を保っているのも辛いはずである。まして、今の優希の状態を考えれば、尚の事。
そして、無理をしているのはレオルモンだけではない。ワームモンも同じだ。
少しは一歩を踏み出せたと感じていた。少しは勇気を出せたと思っていた。だが、その一歩を軽く飛び越え、その勇気を容易く砕くようなあの桁外れの究極に、どうしようもない壁を感じてしまったのだ。
そんな全員の思いを、雰囲気から大成はなんとなく察する。だが、だからといって、大成にはどうすることもできなかった。何か声をかけた方がいいのか。そう思った大成だったが、そういう時に限って、大成の脳裏に思い浮かぶのはどこぞのゲームのキャラが言っていたようなセリフばかりである。
そうやって、数分。ようやく声を出そうとした大成だったが、そこであることに気づいた。すなわち――今の自分たちの状況はどうなっているんだ、ということに。
レオルモンはスレイヤードラモンやピッコロモンについては語ったが、肝心の大成たちが監禁状態になっている理由をまだ話してない。優希たちの現状よりもそちらの方が気になった大成である。
「俺たちが監禁状態なのは?」
「ああ……ここは学術院。我々は外から来た怪しい者たちという扱いでしてな。ピッコロモンから渡された記録機械などで、この身の潔白が証明されるまで大人しくしていろとのことですな」
「え?酷くね?」
まるで犯罪者のような対応に大成は思わず頬を引き攣らせるが、学術院の街の方にも言い分はある。
自分たちの街の仲間であるピッコロモンの遺品とでも言うべき物を大成たちが所持していたこと、そしてスレイヤードラモンが重傷だったこと。それらは、この街の者たちを警戒させるには十分な理由だった。
ようするに、大成たちはピッコロモン殺しの犯人と疑われていて、そうでなくとも何かしらあったことはスレイヤードラモンの状態からして明らか。スレイヤードラモンをこんな状態にさせるほどの厄介事を引き連れて来た可能性がある大成たちに警戒するのは、街側としても当然だろう。
「で、俺たちはいつまでこうしてればいいんだ?」
「もう二日も経ってますし、そろそろかと」
「はぁ……監禁するならゲームくらい準備しろよ」
出られないのならば、仕方ない。そう考えた大成は、ベッドに戻って顔や手のネバネバを取ることに一生懸命になる。布団という尊い犠牲を払って、ようやく大成はスッキリするのだった。
そんな大成だったが、ぶっちゃけて言うと暇だった。ゲームはないし、ワームモンはこちらの様子を伺っているし、レオルモンは優希を立ち直らせようと必死だし、優希はダンゴムシだし、でやることが全くと言っていいほどないのだ。それは暇にもなるだろう。
だから、というわけではないが、そんな大成が――。
「お嬢様……ずっとそうされていては、体に毒ですぞ……」
「……」
「おらぁっ!」
「きゃっ……何すんの!」
「た、大成殿……」
暇つぶしにベッドの上にいる優希を引っ剥がしたのも、まあ、わからなくもないだろう。ちなみに、字面だけ見れば、十八禁のようなそういう感じにも見えるが、なんのことはない。ただ優希の布団を大成が奪っただけである。
陰鬱な気分そのままに引きこもっていたというのに、乱暴に出されたのだ。当然だが、優希は抗議の視線を大成に送っている。
この陰鬱な空気が漂う中で、涙目で睨まれるのだ。普通の人ならば罪悪感に駆られることだろう。だが、残念ながら大成にはそんなことを気にはしなかった。
「いや、セバスが困ってるみたいだったから」
「……ふざけてるの?」
「少し。っていうか、どうしたんだ?」
「……究極体が……あんなに強いなんて……」
知らなかった、と。ポツリと呟いたその一言が、優希の心情を端的に表していたのだろう。優希は、確かに以前この世界に来たことがある。命の危険を感じたこともある。だが、それでもスレイヤードラモンたちの庇護下にあった中での生活であったことに違いはなく、これほどのことを感じることなどなかったのだ。
ようするに、以前の時には無かった、初めての壁に優希はぶつかってしまっているのである。絶望が形となって現れたかのような、そんな邂逅。確かに、あまりにも早過ぎる邂逅だった。それが、幸だったのか不幸だったのかはわからない。だが、いつかは出会う、必然の邂逅であることには違いなかった。
「まぁ、確かに強かったなぁ……かっこよかったし……イモもあれくらいかっこよければなぁ……」
「っ!本気で言ってる!?ピッコロモンが死んで!リュウも……私たちのせいで死にかけてる!それでどうしてそんなにふざけていられるの!?まだゲーム気分で――」
そんな優希たちに対して、大成の方は結構ドライだった。
もちろん、先の襲撃に命の危険や恐怖を感じなかった訳ではない。重傷のスレイヤードラモンを心配する気持ちや死んだピッコロモンに対する複雑な思いが無い訳でもない。優希たちのように、あの究極に対する絶望を持っていない訳でもない。
だが、優希たちのように過度に心が乱れることはなかった。いや、ある意味で大成の今の状態は優希たちの逆なのだろう。
「そんな訳無いだろっ!ここはゲームじゃない。んなことわかってる!でも、どうしたらいいかわかんないんだよ。本音を言えば、わめいてわめいてわめき散らしたいほどだ。けど、そう思えば思うほど、なんか……わめく気がなくなるような……?なんでだろ?」
「……知らない」
「うーむ……」
ようするに、感情が飽和しすぎて逆にフリーズしてしまったのである。あとは、過ぎ去った過去よりも生きている今を噛み締めているということもあるのだろうが。
そんな大成を、ポジティブととるべきか、単に鈍いととるべきか、薄情ととるべきか。判断に困るところである。そして、そんな大成に、優希は呆れ気味だ。
「まあ、なんとかなるべ。なっ!」
「え、えぇっ?そこで僕にふるの?いや、えーっと……」
「俺たちはまだ生きている。なら、きっとまた前に進める。ここで立ち止まってちゃ、それこそリュウにもピッコロモンにも申し訳が立たないだろ?」
「大成……」
「ま、ゲームのセリフで悪いんだけどな」
「っぷ。それ、言わなきゃカッコついたよ」
「しまったァああああ!」
奇声をあげながら絶叫している大成。つくづく格好つかない男である。
だが、そんな大成を見て、優希たちは自然と笑っていた。まるで、元に戻るかのように。まるで、止まっていたものが動き出したかのように。
あの時、あの究極体の閃光によって消し飛んだのは、ピッコロモンだけではなかったのだろう。
生きていることが奇跡とまで言えるイマ。あの究極体は、大成たちの“今まで”など鼻で嗤って吹き飛ばすような存在で、そしてあの時、大成たちのちっぽけな“今まで”など容易く砕かれた。だからこそ、優希たちはそこで“立ち止まって”しまっていた。
だから、これは、立ち止まっていた足が動き出した証なのだ。完全に元通りになどなるはずもない。そんな簡単な話ではない。だが、少しづつでも。ほんの少しづつでも動き出せば。そういうことなのだ。
「こんな時でもゲームね……本当、アンタって馬鹿ね」
「酷くね!?良いこと言ったんだぜ!?」
「馬鹿ね。他人の言葉なら、いくら良いこと言っても意味ないわよ。まあ、でも……アンタのその能天気さは羨ましいかな」
大成の言ったセリフは所詮は他人の言葉で、結局は心無い上辺だけの言葉だ。優希たちはそんな言葉に動かされたのではない。そんな大成に動かされたのだ。
大成の意図とは違ったが、それでもその行為の意味はあったのだ。
砕かれた“今まで”を拾い集めて、また再びこれからを紡ぎ出す。そのために大成たちはもう一度、今を歩き出す。
まだ目的地が見つかった訳でもない。覚悟なんていう大層なものができた訳でもない。結局、現実逃避かもしれない。もしかしたら、今この瞬間だけの選択かもしれない。だが、それでも、今この瞬間を立ち止まっているよりはずっといい。そう考えて優希たちは選択し、大成も無意識にだが、この選択をしている。
そして、そんな大成たちの一連の会話を扉の向こうで面白そうに聞いていた者がいた。
ゆっくりと扉が開き、その者が部屋へと入ってくる。まさか誰も入ってくるとは思っていなかった故に、大成たちは驚くしかなかった。
「誰っ!?」
「ふむ。盗み聞きしてすまない。が……いやいや、興味深いやりとりだったな。君は意図せず誰かの一歩を手助けすることとなった。それはどこか……彼に似ている。いや、まるで彼のようだったな」
「えっと……」
「ああ、失礼。僕としたことが、自己紹介を忘れていた。僕はウィザーモン。この街の特別名誉教授の一人だ」
入ってきたのは、とんがり帽子の魔法使い風の人形。ウィザーモンと呼ばれる成熟期のデジモンだった。
えっと、活動報告にも書きましたが、水曜日はすみませんでした。
家族団欒やら、冬休み課題やら、オールナイトした結果のぶっ倒れやら、年末年始の忙しさゆえの執筆時間の少なさやらで、投稿をサボる形となってしまい、申し訳ありませんでした。
ええ。わかってます。どんなことを言っても所詮は自分の事情で言い訳にしかなりません。
こんな駄作者ですが、見捨てないでいただけると幸いです。
では、遅くなりましたが、今年もこの作品共々よろしくお願いします。