【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
優希と別れた大成は家へと帰宅していた。どうせ、今日は大成の両親は帰ってこない。つまり、今日の残り時間はすべてゲームに費やすことができるのである。
すぐさま晩御飯代わりに家の中にある食料を適当に見繕って、食べる。何とも味気ない食事内容だが、大成にとって大切なのは食事よりもゲームだ。
そうして、食事をとった大成は部屋に戻り着替えて、準備をする。布団を敷いて、その上に寝転がり、ヘルメット型の端末を頭に取り付ける。
「よし、スイッチ……オン!」
端末を起動したその瞬間に、大成は布団の上で寝転がっているのではなく、近未来的な都市に立っていた。
ゲーム“デジタルモンスター”。このゲームの特徴として、ヘルメット型の端末を頭に装着することで、視覚その他感覚をゲームの世界である仮想世界に存在するアバターへと投影するということがある。簡単に言えばこのゲームには、ゲームの世界に入ることができるという、一昔前までならば妄想の産物だった技術が使われているのである。しかも、その精巧さといえば本物と見間違うほどだ。
この世界は現実とは違うもうひとつの現実。そんなことを大々的に言う者もいるくらいである。
このゲームの楽しみ方は、育てたデジモン同士のド派手なバトルや育てるという行為そのもの。
だが、ゲームの中に入ることができるということや本物ばりの生き物を育てるというこのゲームの特性を活かして、コミュニケーション能力の上達や心を閉ざしたような患者のために使われることすらある。もはや、ゲームという娯楽の範疇以上のものとして使わることすらあるのだ。
「よっしゃ!行くぜ!」
大成は昔からゲームというものが大好きだった。大成は現実世界でとりわけて得意なことも、やらなければならないことも、やりたいこともないもない。だからこそ、ゲームというものが大好きだったのだ。電源を入れれば、誰でも輝ける主人公になれるそのゲームが。
そんな大成がゲームの中に入ることのできるというこのゲームにハマることも、半ば必然だったのだろう。
「ガガガ!ギャギャ!」
「おー!アグモン!待ったかー?」
「ガガガ!」
そして、そんな大成の傍にいるのは、大成の腰くらいの背の黄色い恐竜だ。アグモンと呼ばれる成長期のデジモンだ。
このゲームに登場するデジモンというものは多種多様だ。多すぎて、ネットの掲示板をフル活用しても、そのすべてを発見できていないほどである。その種類数についてこのゲームを運営している会社は何も言わない。
こういう未知の部分が多いことも、このゲームの人気さに拍車をかけているのかもしれない。
ちなみに、大成が大喜びしたこのアグモンはレアでもなんでもなく、結構メジャーなデジモンである。
「やっぱり、名前とか付けたほうがいいかなぁ?もう幼年期じゃないんだし」
「ギャ?」
首をかしげるアグモンを連れて大成は歩く。
大成が言った幼年期とは、デジモンの成長段階のことだ。二段階ある幼年期、成長期、成熟期、完全体。成長段階が上がるごとに強さも姿も変わり、その数も少なくなる。最高位の完全体など、一億人もユーザーがいるのに、五人しか辿り着けていないほどだ。
このゲームをやるものの大半はこの完全体を目指す。大成ももちろん目指している。だが、一億人中五人ということからもわかる通り、かなり難しいというしかない。単にやりこめば進化できるというものではないらしいのだ。休日に一時間くらいやる子供が、完全体に進化させたという報告もある。
どうすれば、完全体に進化させることができるのか。その条件は未だにわかっていない。
ちなみに、全デジモンの種類数がわかりづらいのは、完全体の少なさも一役買っていたりする。
「まぁ、今度でいいか!さっ!バトルコーナーへ行くぜ!」
「ギャギャ!」
「よーしっ!目指せ!
近未来的なこの都市にはさまざまな施設がある。
ゲーム内のアイテムを買うようなアイテムショップから、ミニゲームをするゲームセンター。さらにふれあい広場のような公園や情報交換する掲示板機能付きの施設。そして育てたデジモン同士で対戦を行おうとする人々が集まるバトルコーナーだ。
バトルをするためには、とりあえずそこら辺にいる人に話しかけてバトルの申し込みをする必要がある。そして、相手がバトルをすることに了承するとバトル専用の空間へとアバターとデジモンが転送されるのだ。
ちなみに、相手に話しかけるのが苦手という人のために、対戦相手を探して、バトルを申し込むパソコンのような端末もちゃんと存在する。
「よし!バトルよろしくお願いします!」
「ん?ああ、いいよ」
大成もそこら辺にいる相手を適当に見繕って、そしてバトルの申し込みをする。そして次の瞬間、大成は森にいた。このバトルフィールドは、通常はランダムで決まる。例外は制限付きの大会や試合くらいである。
ここでは、どんなデジモンの攻撃でもプレイヤーのアバターが傷つくことはない。よって、どんなデジモンでも自由に戦わせることができるのである。
もっとも、視覚情報はバッチリ届くために、あまりに派手な攻撃は恐怖どころではないのだが。
「俺のパートナーはアグモンです!」
「僕のパートナーはパルモンかな」
そう言って大成の相手が出してきたのは、パルモンと呼ばれたトロピカルな花を咲かせた植物のようなデジモンだった。
大成のアグモンの技の中には火を使うものもある。そしてパルモンと呼ばれたデジモンは、見るからに植物である。相手が、見た目的に相性の悪い相手ではなかったことに、大成は内心でニヤリと笑う。弱い相手とばかり戦ってもつまらないのは確かだが、それでも戦うからには勝ちたいと思うのが人の性である。
大成と相手の前にカウントが表示された。カウントがゼロになった瞬間に、バトルが始まるのだ。
大成が内心で自分が勝者となっているビジョンを思い浮かべ、気持ち悪い笑みを浮かべている間にも、カウントは進む。そして、カウントがゼロになる。バトルが始まった――。
すでに深夜にさしかかろうという時間。
大成はグッタリとして、ゲーム内の公園にてアグモンと共に座っていた。今日の大成とアグモンの勝率は三割だ。お世辞にも勝っているとは言えない。というか、負けの方が多い。
「はぁ……いつもよりも調子が悪かったのかな……?」
「ギャガ……」
ちなみに言えば、大成のいつもの勝率はだいたい四割である。大して変わっていない。
一番初めのパルモンとの戦いを黒星で飾った大成は、そのままヤケになってバトルを申し込み続けた。それも今日の大成の勝率が悪い原因かもしれない。何事もヤケというのは良くないのである。
そんな感じで、数時間過ごした大成は休憩がてらにここにいるのである。
「やっぱかっこいいよな……」
大成が見つめる先にあるのは、空中に投影されているスクリーンだ。このゲーム内のいたるところにあるそれは、さまざまなゲーム内の内容を報道するような掲示板の役割をしている。
現在、その掲示板にはランキング戦の結果が表示されていた。大成等の一般ユーザーはほぼ関係ないが、このゲーム内で優秀な成績を残した千人はランキングに登録される。ランキングに入ることができた人は、ランキング戦という特殊なバトルでその順位を上げることができるのだ。
「やっぱ一位は勇気さんかぁ……スカルグレイモンかっこいいもんな……」
「ギャ?」
スクリーンを見る大成の顔には尊敬があった。そこには、昨日行われたランキング戦の結果が映っている。昨日行われたランキング戦は、ランキング一位の勇気とランキング第十位のティラの二人で行われた。
ランキング第十位のティラは、その順位通りに強いプレイヤーだ。だが、そのパートナーであるティラノモンは成熟期。自分のパートナーをスカルグレイモンという完全体まで進化させた勇気にはさすがに勝てなかったらしい。
「ギャギャ……」
「よっしゃ!休憩終了!行くぜ、アグモン!」
「ギャガ!」
勇気とそのパートナーであるスカルグレイモンと相対する自分の姿を、目を瞑りながら大成は妄想する。
ちなみに、その妄想の中では大成のパートナーはアグモンだ。いろいろと突っ込みどころ満載な妄想であるが、そんな大成の妄想はいつものことである。
そのしょうもない妄想を現実にすべく、アグモンを連れ立って大成は再びバトルコーナーへと向かって行く。
ちなみにそろそ学生は眠らないとまずい時間帯に入りつつあるのだが、大成は気にした様子も見せない。というよりも、気づいていない。大成の明日が軽く予想つきそうである。
「へん!相変わらず下手の横好きみたいだな、大成!」
「さて……誰か手頃な奴はいないかなぁ……」
「無視すんな!」
バトルコーナーへと入った大成に、チンピラのような相手がわざとらしく突っかかってきた。一応、アバターは自由にカスタムマイズ可能だ。とはいえ、どこぞの世紀末を彷彿とさせるようなチンピラ姿のアバターを使っているというのも珍しいだろう。
“いつも通り”のことだ。大成としては無視したいのだが、そうは問屋が下ろさない。そいつは無視しようとした大成に先回りして、再び突っかかる。
「……何か用か?金片」
「なぁ?ここで話しかけたんだ。わかるだろ?」
「……」
金片と呼ばれたその男は、下衆な笑みを浮かべている。
金片と大成はこのゲームの中で知り合った。金片と知り合ってしまったことは、大成にとってこのゲームを初めて最大の失敗だった。見た目通りのチンピラ根性の、下衆な性格の金片のことが大成は好きではないのだ。
だからこそ、大成は無視したかったのである。
「うるさいなぁ……金片でチンピラって読むくせに」
「名前は関係ねぇだろ!」
「で?バトル?はぁ……いいよ」
溜め息を吐いて、大成は金片とのバトルに了承した。
大成は金片のことが嫌いだが、同時に負けたくないという奇妙なライバル意識を抱いていたりもする。だからこそ、いつものようにバトルを受けてしまうのだ。
ちなみに、その辺は大成の頭は悪いと言える。毎回のように金片のバトルを受けて、
「さて!俺のパートナーはアグモンだ!」
「お前……毎回のことだけど、本当に見た目がいいのだけを選んでいるんだな」
「いいだろ別に!」
「ま、どんな奴でも俺に負けちまうんだけどなぁっ!行けっ!エンジェモン!」
現れたのは、天使。成熟期のデジモンであるエンジェモンだ。
そしてその瞬間に、大成と金片はどこかの街へと移っていた。だが、街とはいっても廃墟だ。これこそが、二人の戦うステージだということだろう。そして、カウントが始まり、ゼロになる。戦いが始まった。
「いけぇ!アグモン!」
初めに動いたのは、アグモンだ。エンジェモン目掛けて突進していく。アグモンは成長期。エンジェモンは成熟期だ。つまり、アグモンの方が格下だ。様子見などしてた時点で、負けるのは目に見えている。
ゆえに、アグモンは速攻をかける。それが最良だと、大成が判断したから。アグモンが突撃すると共に吐き出した火炎弾。高熱量のその火炎弾は、真っ直ぐにエンジェモンへと向かって行き、直撃する。
「よし!当たった……当たった?」
「そんなへなちょこ火花が効くわけねぇだろ!」
「……マジか……」
大成が呟くのも無理はない。先ほどのアグモンの火炎弾は“ベビーフレイム”。アグモンの必殺技――すなわちアグモンの持つ技の中で最も高威力の技である。その技が真正面から防がれた以上は、もはや正面からの戦闘ではほぼ適わないことを意味している。
もっとも、それは大成もわかりきっていたことだ。普通のデジモンでは成長段階がひとつ違うだけで、地力にかなりの差が出る。その差は、天と地とまではいかないが、大人と赤子ほどの差はある。もちろん、例外も存在するにはするし、相性や戦い方如何では下克上も可能だ。とはいえ、基本的なスペックにかなりの差があることにも間違はない。
「っへ!やっぱりお前はたいしたことないな!やっちまえ!」
「っく!アグモン避けろ!」
大成の指示を受け取ったのか、それとも自前の判断か。武器である混紡をうまく扱うエンジェモンの攻撃を、必死にアグモンは避ける。アグモンの背丈とエンジェモンの背丈はだいぶ差がある。ようするにエンジェモンにとってアグモンは的が小さいのだ。だからこそ、なんとかアグモンは避けることができているのである。
だが――。
「ッ!アグモン!」
それでも実力差が埋まったわけではないのだ。
一瞬の隙をついて、エンジェモンはアグモンに攻撃を食らわせた。そして、一度掴んだチャンスを格下相手に手放すことなど、よほどの馬鹿でなければあり得ない。意外だが、金片は馬鹿ではない。つまり、そこからはもうエンジェモンの独壇場なのだ。
小さなアグモン目掛けて、幾十の攻撃が直撃する。それはもう戦いの光景ではなく、虐待の光景だった。
腕に、足に、顔に、喉に、アグモンの小さな体のあらゆる所に攻撃が当たる。だが、アグモンは避けることすらできない。このことは、エンジェモンの一撃を受けてしまった時点で決定事項でもあった。
「あ、……アグモン……」
「ッ!もういい!やめろ!エンジェモン!」
意外なことに、茫然自失としている大成に変わって、戦闘を止めたのは金片だった。
終了した戦闘。後に残ったのは、その場に立っているエンジェモンとアグモンに変わって存在する大きめの
ちなみに一週間に一、二話の投稿予定で、この第0章はすぐに終わって、第一章に移る予定です。
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では、これからこの小説をよろしくお願いします。