【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第二十話〜鈍足なる友情!トゲモグモン〜

「……」

 

 沈黙。学術院の街を歩いている大成たち。だが、そんな大成たちの様子はその一言が体現していると言えた。

 現在、大成たちはウィザーモンからの依頼の真っ最中。まあ、ウィザーモンの依頼といっても、多くのデジモンたちが避難したことによって、閑散としている街中を歩き回るだけの暇な仕事だ。もちろん、何かあれば対応しなければならないが、そんな何かなどそうそうあるわけもない。

 一方の依頼が、そんなわかりやすい仕事内容だというのに、もう一つの人探しの依頼は意味不明という言葉では言い足りない依頼だった。

 そして、その人捜しの依頼のせいで、現在の大成たちの雰囲気はこうなっているのである。

 事の起こりは一時間前に遡る。

 

「優希と大成はこれを着て行ってくれ」

「なにこれ?」

「それを着て依頼の方は頼む。ああ、あと首からこのカードを下げていれば、不信には思われない。くれぐれも無くすなよ?滞在証明書でもあるからな。では、僕はこれから防衛会議があるのでね」

 

 などと言ってウィザーモンが持ってきた服が発端だった。

 用があるのだろう。早口で言いたいことを言ってさっさと去っていったウィザーモンを、受け取った服を見て唖然とした表情となりながら見送った大成たち。特に優希は、ウィザーモンが持ってきた服を顔を引き攣らせながら呆然と見ていた。

 だが、そんな優希の反応も当然だろう。ウィザーモンの持ってきたソレは、服というよりは着ぐるみの類だった。しかも、あまり着たくないようなデザインの。

 正気に戻った優希は、思わず部屋から出てウィザーモンを探すが、残念ながらウィザーモンはどこにもいなかった。

 

「これ……着なきゃダメかな……」

「まあ……仕事ですし……着なければならぬと思いますぞ。お嬢様」

「でも……」

「おーい?優希ー!これスッゲェ着心地いいぞー!」

 

 遠まわしに着たくないということをアピールする優希だったが、一応私的な依頼であっても仕事は仕事。レオルモンも味方はしてくれなかった。そして、未だ悩みながら部屋に戻った優希の前には、その服を着た大成の姿。気づかないうちに逃げ道を塞がれた優希だった。

 結局。数分後には大成たちの前にその服を着た優希が現れることになる。

 ちなみに、優希が着替える間は大成たちは部屋の外へと追い出されていた。服の上から着るのだから、別に同じ部屋にいてもいいだろう、という大成の言葉だったが、そこは優希も年頃の女の子ということだろう。

 

「ぅ……」

「お、お嬢様……似合っておりますぞ?」

「おお!似合ってる似合ってる!」

「絶対嘘……」

 

 オブラートに包もうと努力しているレオルモンはともかく、素で似合ってる発言をする大成に軽く殺意が沸いた優希だった。

 そんなこんなで、街へと繰り出した大成たち。結局、場を沈黙が占めているその理由は、優希が恥ずかしさのあまりに黙っているからである。だが、それも当然だろう。大成たちの現在の服装は、客観的に見ればそれほどのものだからだ。

 しかも、さまざまな異形の種族がいるこの世界ならばまだいい。だが、人間の世界でこの格好で出歩こうものならば、即座に通報ものだからだ。警察と病院。どちらに通報されるかは、通報する人の感性によるだろうが。

 結局、優希たちの格好は――。

 

「キノコ……だね……」

「でも、なんでキノコなんだろうな?」

「……」

 

 キノコだった。そう、キノコ“の”着ぐるみだった。しかも、ご丁寧に顔の部分に穴があいていて、そこから顔を出せるようになっている。サイズも大成たちにピッタリと合っている。しかも、着心地抜群だ。不思議を通り越して気持ち悪くなるほどである。

 そんな等身大キノコで、顔を晒しながら街を歩くことになった優希。その心は羞恥にまみれていた。だが、今の優希は恥ずかしさで、もじもじしながら歩くキノコそのものだ。ぶっちゃけるとキモかった。優希にとってせめてもの救いは、この街の住民のほとんどが避難しているために、街に人が少ないということだろう。

 ちなみに、大成はそこら辺に全然構っていなかったりする。

 

「このキノコ……肉の味がする……!なんで?」

「こちらは鮭の塩焼きの味ですな。食感ばかりはどうにもできませぬが……」

「でも……なんでこんな……キノコの格好でキノコを持って歩くのかな……」

「……」

 

 大成たちの背中にはキノコをモチーフにした籠にキノコがいっぱい詰まっていた。つくづくキノコ尽くしである。キノコであることに何の意味があるのか。ウィザーモンに問いたくなった大成だった。

 ちなみに、背負っているキノコは食べても良いという依頼主のお墨付きがあるために、大成たちは昼食替わりとして食べている。見た目とは違う、不思議な味のするキノコに大成たちは驚く。どれくらい色々な味があるのかと気になって、次々と食べてみる大成たち。

 数分後。大成たちはかなりの量のキノコを食べたはずだが、キノコは全然減っていなかった。自分たちの背中にはどれほどたくさんキノコを積んでいるのだろうか。少し怖くなった大成たちだった。

 

「不思議世界だな。うん。うまい」

「僕は……草のほうが……」

「やはり、いくら味が豊富であっても……このセバスは肉のほうがいいですな」

「……」

 

 優希がまったく喋らないということを除けば、まあ、平穏な時間だったと言えるだろう。数日前のことや今の非常事態を忘れることができるくらいには。

 優希も、それなりに良い気分転換となっただろう。まあ、羞恥による気分転換など嫌だろうが。

 だが、そんな時間も終わりを告げることとなる。突如として聞こえた破壊音。

 面倒くさいため、何事もなく終わることを大成は望んでいた。だが、事は起こってしまったみたいだ。依頼を受けた身としては、面倒でもやらなければならないだろう。

 一瞬顔を見合わせて、大成たちはそちらの方向へと走り出したのだった。

 

「ヒェッヒェッヒェ!こりゃァいいねェ!また使える呪文が増えそうだ!」

 

 そこにいたのは、真っ赤な体に邪悪な呪文のイレズミが刻まれた、不気味な魔人だった。ブギーモンと呼ばれる、成熟期のデジモンである。その手には主要武器であろう三つ又の槍といくつかの本が抱えられていた。

 明らかに泥棒の類だ。まさか、自分の家をぶち壊してまで、自分の家の中の本をとってきたわけでもないだろう。

 確信している。だが、万一間違っていては洒落にならない。というわけで、一応確認することにした大成だった。

 

「おい!お前!何してる!」

「ヒェ?ふふん?おお!学術院は本当に人手不足みたいだなァ!こんなガキ共に街の守護を任せるなんざなァ!」

「イモ。だってさ」

「た、大成さんもだと思いますよぅ」

「奇抜な格好してらァな。真面目そうな顔して……意外とご同輩かァ?」

「かふっ!」

 

 みょうちくりんなブギーモンと同列扱いされ、そして言い返せない事実に、多大な精神ダメージを受けた優希。

 そして、地面に手をついて落ち込む優希に大成たちが気を取られた瞬間。ブギーモンは動いた。ここまですべて計算ずくの行動である。清々しいほどの卑怯な不意打ち。だが、それがブギーモンの戦い方だ。

 ブギーモンの槍が優希へと迫る。戦闘能力のありそうなデジモン組より、怖そうに感じない大成たち人間組を先に狙うことにしたのである。突然の事態に大成たちは驚き、固まるしかない。

 迫りくる槍。それが優希へと届く――。

 

「お嬢様!」

「ひゃっ!」

 

 直前で、レオルモンによって転がるようにして助けられた。実に間一髪だ。

 その光景に一瞬だけ、大成は違和感を覚える。だが、それを長く考えることはできなかった。ブギーモンの攻撃は、まだ終わっていないのだから。

 

「大成殿!お嬢様を頼みますぞ!」

「っ!わかった!」

 

 大成に優希を任せて、レオルモンがブギーモンと応戦する。だが、成長期と成熟期の差がある。その差は簡単には埋まらない。

 ブギーモンもそのことをわかっているのだろう。得意なはずの呪文を使わなかったりと、どこか本気で戦っていない。いや、本気で戦っていないというよりも、レオルモンをじわじわと嬲り殺すつもりなのだろう。だから、本気を出さないのだ。

 だが、一方のレオルモンもどこか調子が悪いように、大成には見えた。いや、レオルモンだけではない。一緒に隠れている優希も――。

 

「おい、優希。大丈夫か?」

「ッ!だ、大丈夫よ……」

 

 その声色は、震えていた。明らかに大丈夫ではない。

 心配と疑問を抱いた大成は、一瞬考えて、すぐにその答えに辿り着く。それは、優希たちが数時間前に見せたモノ。未だ治りきらぬ、心の傷痕だった。

 もちろん、敵は成熟期のブギーモンで、あの究極と比べれば月とスッポンどころの話ではない。だが、問題はそこではないのだ。優希たちが、あの究極によって刻まれた心の傷。それは、戦闘という行為そのものへの恐怖として現れている。恐怖というのは、あるだけで影響をもたらす。それが大きなものであればあるほど。

 もちろん、優希たちは、恐怖に影響されているなど考えてもないし、考えていたとしても意識して平常を努めているだろう。だが、一度味わった恐怖というものは、意識してもなかなか忘れられないものだ。

 また無力を味わうかもしれない。今度こそ死ぬかもしれない。そんな恐怖が、優希たちの行動を無意識的に制限しているのである。

 

「こうなったら……行くぞ!イモ!」

「え?いやっ……え?ちょっ……!」

 

 そんな優希たちを見て、ブギーモンを倒すためにはただ見ていれば良い訳ではないということを、大成は悟った。なら、大成がやるべきことなど決まっている。一生懸命に地面に張り付いて離れようとしないワームモンを戦闘に引っ張り出すのだ。サッカーのフリーキックの要領で、大成は勢いをつける。

 そんな大成を見た瞬間、ワームモンは嫌な予感と共にデジャヴを感じていた。そして、それは現実となる。自分の体に走る衝撃。次の瞬間、空を飛ぶ感覚と共に、ワームモンはブギーモンとレオルモンの戦闘に乱入していた。

 

「蹴り飛ばすなんて酷いよぅ……」

「……ワームモン殿!?」

「ヒェヒェ……これはまたいじめがいのありそうなやつだなァ!」

「ひぃっ!?」

 

 ニヤリと笑ったブギーモンを前に、ワームモンは思わず逃げ出したくなる。だが、その足は一歩として動かなかった。

 ブギーモンもレオルモンも、ワームモンは恐怖で動けないのだと思っていた。だからこそ、ブギーモンはワームモンを無視して、レオルモンだけを先に片付けようとしているのだ。

 だが、ワームモンの足が動かなかったのは、恐怖で体が硬直していたからではない。ワームモンの足を止めていたのは、いつかの記憶が、いつかの自分が、今の自分を見つめていたような気がしたからだった。

 逃げるのは嫌だと。少しは立ち向かうと。そう言った、数日前にあの究極によって粉々に砕かれた“かつて”の自分自身。そんな自分自身が、“逃げるのか”、と今の自分を真っ直ぐに見つめているような気がしたのだ。

 だからこそ、ワームモンは動けなかったといっていい。逃げ出したい。でも、逃げ出してはいけない。そんな矛盾した気持ちがワームモンの中にあったのだ。

 

「あぁ、僕は――」

 

 ワームモンの中にそんな矛盾する気持ちがあるのは、諦めとは別に、ワームモン自身が自分の可能性に期待している事の証明だ。本当に自分のことを諦めているのならば、ワームモンはとっくに逃げ出している。そんな誰しもが持つ当たり前のことに、ワームモンは事この段階に至って気づいた。

 逃げるのか。逃げない。立ち向かえるのか。無理かもしれない。それでも、ここで逃げ出したら、きっともう二度と前へ進めなくなる。そんなことをワームモンは想い、ただ望む。

 別に大層なことを望むわけではない。ただ、今日が明日へと繋がるように。一歩目がダメだったのならば、また新しい次の一歩目を。それだけを望んで、未来を手繰り寄せるように。

 別に自分は一人じゃない。レオルモンもいる。優希もいる。あの時とは違って大成も無事でいる。誰かが一緒にいるということが、とても心強い。今なら、いける気がする。と、そんな漠然とした何かを感じながら、ワームモンが踏み出そうとした瞬間に――。

 

「イモっ!」

「へっ?あ!アーマー進化ぁー!」

 

 大成が投げた“友情のデジメンタル”がワームモンの下へと届き、光が辺りに舞う。それは、現在この世界にある進化と似て非なる現象。太古の昔、道具を使うことで可能となった疑似進化。アーマー進化と呼ばれる現象だった。

 一瞬後、そこにいたのはトゲモグモンと呼ばれる、超低温のクリスタルでできた背中の棘が特徴的なハリネズミのようなデジモンだった。アーマー体。現在の成長段階に属さない、特殊な成長段階のデジモンである。

 

「なにィ!進化しやがっただと!」

「余所見ですぞっ!」

「っちィ!」

「れ、レオルモンさん!ぼ、僕も行くよぅ!」

 

 進化とアーマー進化は異なるとはいえ、表面上を見ればその二つは大差ないといっていい。驚きを露にして隙を作るブギーモンに、レオルモンが追撃する。己が追い詰められ始めたということに気が付き始めたのだろう。先ほどとは打って変わってブギーモンの攻撃は苛烈なものに変わっている。

 このままでは、レオルモンが危ない。レオルモンに加勢するために、トゲモグモンは参戦しようとする、が――。

 

「おそっ!」

「これで精一杯……だよぅ……」

 

 その足は遅かった。全力で走っているだろうことは表情を見ればわかる。だが、そのスピードは人の歩きより少し速いくらいだった。当然、そんな足では高速戦闘をしているレオルモンたちに追いすがることなどできはしない。

 そんなトゲモグモンを見てか、ブギーモンは多少冷静になる。この場で危険を冒してまでこれ以上戦闘する価値がないことに気が付いたのだ。今この場にいるのは、スペックで劣っているレオルモンと鈍足なトゲモグモン。なら、逃げることはさほど難しくはない。

 

「ヒェヒェ!この場は逃げさせてもらうぜェ!あばよォ!」

「ぬぅ!またぬか!」

「セバスッ!」

 

 この場を飛んで逃げるブギーモン。

 自分では追い付けない。そのことにレオルモンは歯噛みしている。だが、その時のことだった。まるで確認するかのように、この場に声が響いたのだ。今まで、黙り込んでいた優希の声が。

 それが何を示すのか。そんなこと言葉にせずともレオルモンにはわかっていた。ニヤリと笑って、助走を始める。

 直後。レオルモンの体を光りが包み、レオルモンはライアモンへと進化した。それは、優希の強制進化の力である。 

 優希もライアモンもワームモンの一部始終を見ていたのである。あの気弱で臆病なワームモンが一歩を踏み出した。そのことに、二人は勇気をもらい、同時に自分のことを情けなく思ったのだ。ワームモンですら、前に進んだ。ならば、自分は?と。

 

「いっけぇえええええ!」

「了解ですぞ!お嬢様!」

「っっっ!なにィいいいいいい!」

 

 ライアモンの助走をつけた大ジャンプ。ライアモンは、空を飛んでいたブギーモンの下まで軽くたどり着く。これに驚くのは、すっかり逃げることができていたと思っていたブギーモンである。

 だが、ブギーモンの驚愕もそこまでだった。ライアモンの攻撃が、ブギーモンを再び地面に墜とす。かなりのダメージを受けたが、動けないほどではない。ブギーモンは体勢を立て直し、再び逃げるべく、動き出そうとして――。

 

「……なァっ!」

 

 ブギーモンは見た。先ほどまで動く気配が見えなかったトゲモグモンが、その背中の棘をこちらに向けている光景を。

 直後。トゲモグモンの背中の棘が一斉にブギーモンに襲い掛かった。“ヘイルマシンガン”と呼ばれる、トゲモグモンの必殺技だ。

 超低温のクリスタルによって体が凍りつくのを感じ、さらにその体が砕かれる感覚を感じたブギーモン。我ながら他人事だな、とそれがブギーモンの最後だった。

 

「お、終わった?」

「みたいですな」

「終わったぁあああ」

「お疲れー!」

 

 安堵と疲労で座り込んだ優希とレオルモン。トゲモグモンから戻ったワームモンも、慣れない戦闘で疲れてその場に倒れ込んでいた。唯一元気なのは、ワームモンを蹴っ飛ばし、“友情のデジメンタル”を投げた大成だけである。

 先の攻防で辺り一帯は荒れ果てていて、少しやりすぎの感が否めない優希たち。大成だけがそんなこと気にも留めていないようで、優希たちは苦笑するのだった。

 とりあえず休みたい。そう思う全員だったが、まだ依頼は終わった訳ではない。この後来るだろう警備員に事情を報告しなければならないのだ。それをしなければ、下手をすると自分たちが犯人にされかねない。

 早く警備員来ないか、と待っていると――。

 

「キノコが!キノコがたむろって……キノコってる!キノコ嫌ぁあああああああ!」

 

 聞きなれない第三者の、奇妙な悲鳴が辺りに響いた。まあ、奇妙というか、意味不明な言葉だったのだが。普通、キノコは動詞にはならない。

 驚いた大成たちが振り向くと、そこには額に石のある、青紫色の毛の獣竜が泡を吹いて倒れていた。

 




ちなみに、いろいろと格好つけたりしてますが、最後まで大成と優希はキノコです。
そして、最後に登場した獣竜……一体誰なんでしょうね?

それではまた次回もよろしくお願いします。
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