【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第二十二話~リベンジ!最強争奪戦!~

 そこは、一言で言えば戦場だった。多くのデジモンたちが傷つき、倒れ、光となって消えていく。そこにはただ、死があった。

 先ほど、己の街を守ろうとして、街を害そうとする二つの脅威にたくさんのデジモンたちが相対した。だが、現実は無情である。圧倒的なまでの力を誇るその二つの脅威に、デジモンたちはなすすべなく倒れていったのだ。現在残っているのは、運良く助かった数体のデジモンとそのデジモンたちを率いていたダルクモンと呼ばれる、成熟期の天使のような女性デジモンだけ。事実、残っているデジモンたちの数は、戦闘開始時の数と比べて三割ほどにまで減っていた。

 

「っく……」

「はぁっ……はぁっ……雑魚が抵抗しやがって……」

「ハイジョ」

 

 二つの脅威。それは数日前に大成たちを襲ったムゲンドラモンとキメラモンだ。今回は、零は初めからキメラモンの姿で現れている。だが、やはり怪我が治ってないのだろう。キメラモンの方の動きはどこか無理しているような動きだ。まあ、だからこそ、学術院の街のデジモンたちがここまで粘れたとも言えるのだが。

 だが、そろそろ限界だろう。そのことをこの軍勢を率いていたダルクモンはわかっていた。ここまで持ち堪えることができただけでも奇跡に近いのだ。これ以上の奇跡は望めないだろう。これ以上は無駄死にを増やすだけだ。

 だからこそ、ダルクモンはひとつの命令を下した。それは、戦略的撤退の命令。すなわち、逃げろという命令を。

 

「しかし……!ダルクモン先生!」

「いいからいけっ!殿は私が務める!」

「逃がすかっ!」

「逃がさせるさ!」

 

 一瞬戸惑って、だが、やはり命は惜しかったのか、それとも命令だからか。それぞれがそれぞれの想いで学術院の街へと逃げ帰る。

 一方で、ダルクモンはキメラモンめがけて突っ込んでいた。一見、無謀にも見えるその行為をしたのは、何もダルクモンが自暴自棄になったからではない。ダルクモンとて死にたくはない。だからこそ、無茶でも、一番生存確率が高い方法を選んだだけなのだ。

 

「っく……ちょこまかと……!」

 

 思い通りに運ばない事態に、キメラモンがイラついたような声を上げる。

 一方で、ダルクモンはここまでの戦闘で気づいていたことがあった。それは、キメラモンの戦闘経験はそう多くはないということだ。腐っても完全体。確かにスペックは高い。だが、戦闘技術が、戦闘運びが、拙すぎる。完全体に進化するまで何をやっていたのか、と疑問に思うレベルだ。

 まあ、それはキメラモンが零という人間であるためなのだが。

 ようするに、キメラモンはスペックだけ(・・)で戦っていて、その他が付随していないのである。それに加えての不調。だからこそ、ダルクモンにも付け入る隙はある。技術的に拙いキメラモンの傍に張り付くことで、一番の脅威であるムゲンドラモンの攻撃を牽制する。そして、ウィザーモンからの援軍を待つ。それが、ダルクモンの生き残る確率が一番高い方法だ。

 だが――。

 

「はっ……はっ……」

 

 不調で拙い技術しか持たないとはいえ、キメラモンは腐っても完全体。しかも、己を赤子の手を捻るかの如くあしらえるだろうムゲンドラモンが絶えず自分を狙っている。一瞬の判断ミスも許されないような、何本もの針の穴に糸を通し続けるような、極限の集中力を必要とされるそんな状況が、ダルクモンの体力を著しく消耗させていた。

 そんな極限的状況において、現状をいつまでも持たせることができるはずがない。数分後に、その時は訪れた。

 ダルクモンの判断にミスはなかった。ただ、消耗した体が、その判断を実行できなかっただけで。

 

「っ!今だ!」

「ターゲットロック」

 

 あ、と。自分のことであるはずなのに、ダルクモンはその瞬間をどこか他人事に感じていた。目の前に迫るムゲンドラモンの破壊の閃光。その光は、一瞬後にはダルクモンをこの世から消し飛ばすだろう。

 そんな光景と共に、ダルクモンは己の半生を回想していた。天使型デジモンたちの里で育ち、邪悪なデジモンたちと戦う日々。そんな戦いだけの殺伐とした日々に疲れて、学術院の街へとやって来た。癖はあるが、生徒と触れ合う日々は、ダルクモンにとって殺伐とした己の半生を癒すかのような日々だった。

 俗に言う走馬灯と呼ばれる現象だが、それをダルクモンは他人事のように見つめていた。ダルクモンの心にある思いはただ一つ。死にたくない、それだけである。

 戦いに生きていた自分だ。ろくな死に方ができないのもわかっている。だけど、まだあの街で暮らしていたかった。そんな未練を刹那の間際に思うが、当然のことながらそんなダルクモンがこの状況を打開できるはずもない。

 まあ、ダルクモンが(・・・・・・)、この状況を打開できないというだけなのだが。

 

「ふん……雑魚が。行くぞムゲンドラモン」

「……」

「……?どうした?ムゲンドラ――ッ!」

 

 すっかり終わった気分で先を急ごうとするキメラモン。だが、ムゲンドラモンはそんなキメラモンの命令にも従おうともせず、何かを警戒しているように動かない。

 そんなムゲンドラモンにキメラモンが疑問を抱いた直後、上空からとてつもなく長い剣がキメラモンを襲った――。

 

「なっ!」

 

 突然の事態にキメラモンは対応できない。剣であるはずなのに、伸縮自在という有り得ない特徴のソレは素早い動きでキメラモンを拘束する。その強度も然ることながら、伸縮自在であるが故に、キメラモンはその剣をうまく振りほどくことができなかった。

 その事態にムゲンドラモンが動き出すその刹那に、猛スピードで剣が縮み始める。上空から伸びていた剣が縮んでいくのだ。どうなるのかは言わずもがなである。キメラモンは上空へと引っ張り上げられることとなったのだ。

 そして、一度勢いづいたキメラモンは、拘束から解放されても、なすすべもなくあらぬ方向へと吹き飛ばされていくしかない。つまり、キメラモンはムゲンドラモンと分断されたのだ。

 キメラモンが最後に見たものは、ダルクモンを抱えて、遥か上空にいた白き竜騎士の姿だった。

 

「……!」

「おっと!行かせないぜ?この前はよくもやってくれたな。リベンジに来たぜ?」

「スレイヤードラモン様……?」

「動けるのなら、さっさと逃げろ。こっちは余裕ないんでね」

 

 助かったことに呆然としていたダルクモンだが、スレイヤードラモンとムゲンドラモンの戦いの中に入るには、自分では役不足ということはわかっているのだろう。即座に羽を広げて逃げていった。

 一方で、キメラモンを追おうとして足止めを食らったムゲンドラモンだが、逃げていくダルクモンを前にしても動かなかった。いや、動くことができなかったというべきだろう。いくら傷が治りきっていない相手だとは言え、その相手はあのスレイヤードラモン。無駄な動きなどできやしないということを理解しているのだ。

 

「さて。邪魔者もいなくなったしな。やるか」

「……!ターゲット――!」

「遅いっ!」

 

 スレイヤードラモンの動きに合わせて、攻撃を始めようとしたムゲンドラモン。だが、それを上回る速度でスレイヤードラモンは踏み込んでいた。実際、単純な移動スピードであればスレイヤードラモンに軍杯が上がる。そのために、攻撃を仕掛けることもできずにムゲンドラモンは連撃を食らうこととなった。

 一方で、タダではやられぬとばかりに、ムゲンドラモンも腕などに取り付けられた近接装備で応対する。が、やはり近接戦闘でもスレイヤードラモンの方が上手だった。

 

「っち。やっぱ最強のデジモンって肩書きは伊達じゃないなぁ!まっ!俺の方が強いけど……なっ!」

「……!ダメージ……セントウゾッコウカノウ……!」

「おらぁっ!」

 

 スレイヤードラモンの攻撃を何度もその身に受けながらも、未だ倒れないのは、ムゲンドラモンのその防御力故である。

 ムゲンドラモンは、この世界最強のデジモンと呼ばれることもあるほどのデジモンだ。だが、それもあくまで噂。その存在が最後に確認されてから久しいため、今まで噂の域を出なかった。

 所詮噂は噂。最強なんて抽象的なものがあるはずもない。それこそ、五年前に自分が戦ったような者たちレベルならば、そう言われるのも頷けるだろうが……と半信半疑だったスレイヤードラモンだったが、戦っていくうちに、そう呼ばれるのも頷ける、とムゲンドラモンの強さを実感していた。

 圧倒的な攻撃力と防御力。戦場や戦況を選ばない武装の数々。桁違いの処理能力を誇る頭脳。ムゲンドラモンは、それらすべてを併せ持っていて、それらすべてが高水準のものである。最も強い。だから、最強。なるほどシンプルだ。確かに、ムゲンドラモンは最強の名を冠するとして、噂になるのも頷けるデジモンではある。

 実際、五年前に自分と戦った者たちほどではないが、スレイヤードラモンよりもムゲンドラモンの方が総合的なスペックは高いだろう。スレイヤードラモンが勝っている部分など、近接戦闘技術とスピードくらいしかない。だが、だからといって自分が負けるとは、スレイヤードラモンは思わなかった。

 相手が最強だからといって、負けるつもりでこの場にいるのではない、と。結局、スレイヤードラモンは――。

 

「さて!その分不相応な称号(最強)を返上させてやるよっ!」

「……!ツイカ、ダメージ。セントウゾッコウ!フルパワー……ファイア!」

「食らうかっ!」

 

 ただの挑戦心からくる、プライドを賭けたリベンジがしたいだけなのである。

 そして、そんなスレイヤードラモンを見て、近接戦闘では勝ち目がないと判断したムゲンドラモンが、防御力頼みの無茶を承知で大振りな攻撃を行う。右腕と左腕の同時攻撃だ。それぞれが、並みのデジモンならば大ダメージ必至の攻撃である。

 だが、所詮は大振りの攻撃だ。早い段階でそれを予知したスレイヤードラモンは、背後に回り込み、その無防備な背中に攻撃を仕掛けた。

 なるほど、相手の攻撃に対するカウンター。良い手ではある。だが、ただ一つスレイヤードラモンに計算ミスがあったとすれば、それは数々の武装を持つムゲンドラモンに死角など存在しなかったということだろう。

 

「なっ……!」

「ターゲットロック!ファイア!」

「っち!」

 

 ムゲンドラモンの背後に回り込んだスレイヤードラモンが見た光景。それは、ムゲンドラモンの背中の銃口から覗く、暗闇だった。ムゲンドラモンの身体の中でもとりわけて目を引く二つの砲身、その間にある銃。戦闘が始まってからまったく使われなかったそれを、スレイヤードラモンは見落としていたのだ。

 銃口から放たれる弾丸。それを自慢のスピードで躱すスレイヤードラモンだったが、ムゲンドラモンのさらなる追撃が来ている。スレイヤードラモンはその追撃も余裕で躱すことができる。が、すべてはムゲンドラモンの作戦だった。

 スレイヤードラモンは以前の傷が完全に治っておらず、万全ではない。それゆえに、一撃でもくらってしまえば、戦闘を続行することは難しいだろう。だからこそ、すべての攻撃を躱さなければならない。

 そのことを見越した上で、ムゲンドラモンは作戦を立てたのだ。自分の攻撃をすべて躱させ、本命の攻撃のための距離と時間を稼ぐという作戦を。

 そして、スレイヤードラモンは、まんまとその作戦に乗せられてしまった。気づいた時にはもう遅い。ムゲンドラモンから引き離された一瞬の間に、それぞれが必殺クラスの威力の込められた攻撃が絶え間なく放たれて、自分の下へと向かってきている。

 スレイヤードラモンのスピードをもってしても、この状況で再びムゲンドラモンに接近するのは困難を極めていた。

 

「くそっ!ゆだ――」

「ターゲットロック。フルチャージ!フルファイア!」

「――ん、ってあぶねぇ!」

 

 すべてを消滅させる威力を誇る閃光と敵を追い回すミサイルが幾重にも飛び交い、敵を圧殺する左腕が伸びる(・・・)。閃光の威力は言わずもがな、ミサイルは核兵器にも匹敵する威力を持ち、さらに左腕はスレイヤードラモンの剣と同じように延々と伸びる。

 そのどれもが自分めがけて飛んでくるのだ。しかも、閃光以外の攻撃はすべて追尾式である。時には同士討ちさせ、時には剣で切り払い、時には逃げる。そんな感じで、スレイヤードラモンは、個人相手に使うには明らかに過剰とも思える飽和攻撃に対応していたのだが、やはり苦い顔をせざるを得なかった。

 鈍ったな、とスレイヤードラモンは一人自分を戒める。思えば、スレイヤードラモンにとって一番のチャンスは最初に接近できた時だったのだ。だというのに、そのチャンスを逃してしまった。チャンスは二度は来ない。万全ではないスレイヤードラモンが、再びチャンスを掴もうとするのならば、それ相応の無茶が必要となるだろう。

 覚悟は決めた。あとは、行動するだけだ。一瞬後、迫り来る左腕をくぐり抜けて、スレイヤードラモンはムゲンドラモンめがけて突っ込んだ。

 

「っち!しょうがねぇか!」

「……!タイショウセッキン。オールアームズ!ファイア!」

「させるかっ!」

 

 当然、近接戦闘ではスレイヤードラモンに敵わないムゲンドラモンが、その接近を許す訳が無い。持ちうるすべての兵装を使って、妨害する。

 だが、スレイヤードラモンとてこの次へと見送るつもりはない。チャンスは一度。それを逃し、尚もチャンスを自らの手で掴もうとするのならば、次があるなどという消極的な考えではダメなのだ。

 閃光を避け、上空から来る左腕を剣で切り払う。スレイヤードラモンがその二つを躱した所で、やって来たミサイル。それを見て、スレイヤードラモンはニヤリと笑った。

 

「これだぁあああああ!」

 

 勢いそのままに、スレイヤードラモンはミサイルを蹴り返す(・・・・)。ミサイルを蹴り返されたという事実は驚くべきものだったが、それだけでムゲンドラモンが止まるはずもない。蹴り返されたミサイルに、追撃用のミサイルを当てることで、誘爆させて無効化する。

 とはいえ、直撃していないというだけで、その威力はほとんどムゲンドラモンに襲ってきている。だが、いくら核兵器クラスの威力を持つミサイルとはいえ、それでムゲンドラモンが倒されるということなど有り得ない。ムゲンドラモンはそんな柔なデジモンではない。

 

「……!セッキンカクニ――」

「俺の勝ちだな。これで終わりだァっ!壱の型――!」

 

 スレイヤードラモンの目的は、ムゲンドラモンに再び接近すること。そして、ミサイルの爆発に紛れて、その目的は見事に達成された。

 煙に紛れて姿は確認できない。だが、ムゲンドラモンの優れたセンサーはそこに敵がいることを察知していた。すぐに攻撃態勢に移る。敵の確認から攻撃態勢に移るまで、実に一秒もかかっていない。素晴らしいまでの処理速度だ。

 だが、この場においてムゲンドラモンの敵であるのは、速度において最強(ムゲンドラモン)を遥かに超えているスレイヤードラモンである。

 

「――天竜斬破ァ!」

 

 直後、回転によって加速された剣がムゲンドラモンの脳天に直撃する。“壱の型・天竜斬破”。スレイヤードラモンの持つ剣、フラガラッハから繰り出される究極剣法“竜斬剣”の技の一つである。

 加速に加速を重ねた剣が、ムゲンドラモンを両断する。真っ二つに切り裂かれたムゲンドラモンは、最後の抵抗とばかりにその腕を振るうが、その手はあらぬ方向を薙ぎ払っていた。

 

「これで、お前の最強も返上だな」

「……ダ……メー……ジ……セン……トウ……ゾッコウ……フカ……」

「……イテテ、ちょっと無理し過ぎたな。それに鈍ってる。やっぱ鍛え直さないと」

 

 一瞬後、ムゲンドラモンが光となって消えていく。その光景を、スレイヤードラモンは疲れた体を引きずって眺めていた。繰り返すが、スレイヤードラモンは傷が治りきっていない。そんな時に無理をしたのだ。座り込むほどではないが、やはりそれ相応にキツかったのである。

 だが、キツイからといって帰ることはできない。なぜなら――。

 

「あ、しまった。キメラモンのこと忘れて……ん?」

 

 敵はまだいるのだから。

 キメラモンのことをすっかり忘れていたスレイヤードラモンは、そちらにも行かなければならないことを思い出して、歩き出す。が、誰かに呼ばれたような気がして振り返った。

 だが、そこは先ほどまでムゲンドラモンがいた場所で、そこにあったのはあるはずのないもので。そう、そこにあったのは卵。ムゲンドラモンのデジタマだった――。

 




というわけで、第二章ラスボス戦その1.ムゲンドラモンVSスレイヤードラモンでした。
その1とその2はどちらが先に来ても良かったのですが……話の展開上こちらが先の方がわかりやすいだろう、ということでこちらが先になりました。

次回は時を少しさかのぼって今回吹っ飛んでいったキメラモンとの戦いです。
キメラモン戦といえば欠かせないアレが登場します。

それでは、また次回もよろしくお願いします。
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