【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
第二十六話~大成の憧れ?日向勇!~
零たちの襲撃から数日後。
現在の大成たちは、旅人やスレイヤードラモンの零たち討伐の手伝いをした人間――と、微妙に事実が捻じ曲がっているような、その通りのような、そんな微妙な立場に置かれていて、未だ学術院の街に留まっていた。
まあ、立場については本人たちがあまり気にしてはいないようなのであるが、その本人たちにとってこの街に留まるという選択肢は、まさに渡りに船。降って湧いた幸運だった。ウィザーモンから斡旋される多少の仕事はしなければならないものの、この街にいれば衣住食が保証されるからである。大成たちにこれを断る理由はなかった。
ちなみに、その仕事内容は、パトロールのようなものから、研究の手伝い、荷物運び、果ては子守まで多岐に渡っている。
「……」
「ぐでーっとして……何やってんのよ」
「特に何も」
そんな大成たちだが、現在は学術院の街の中にあるそれなりに大きな一軒家に住んでいる。その建物は木造だが、丁寧な作りの洋館で、人間の世界にもありそうな建築様式だ。構造的には、複数の小部屋と共用のトイレなどがある、小規模の民宿のような感じである。
そんな家のリビングにて、大成は特に何をするわけでもなくグダグダとしていた。ここ数日の大成はいつもこうである。仕事がないときは、もっぱらこの家の自分の部屋か、それか共用スペースであるリビングでボーッとする日々だ。
「暇だ」
「外に出てくればいいじゃない」
「えー……面倒くさい。あぁ……ゲームしてぇ……」
「これで仕事してなかったら、ただのダメ人間ね」
「いいじゃん。ダメ人間でも。タダ飯食らいサイコー!」
「すでに思考がダメ人間だったか……!」
見かねた優希がいつも口を出すが、その結果もいつも通り。たった数日で、いつも通りという言葉で説明がつくほどである。傍から見ているレオルモンやワームモンからすれば、何回同じこと繰り返すんだという話だ。
もっとも、その人生の余暇のほとんどをゲームに費やしてきた大成だ。このゲームの無い世界で、自分の趣味として出来ることがわからないのだろう。まあ、その結果が、このダメ人間の雰囲気なのであるが。優希の言う通り、これで時々あるこの街の仕事を手伝ってなかったら、本当にダメ人間の仲間入りである。まだ中学生だというのに。
「私とセバスはこれからウィザーモンの所へ行くけど、あんまりグダグダしちゃダメよ?わかった?」
「はいはーい」
「……はぁ」
「絶対無理ですな」
ともあれ、あの始まりの街を出てからの、この世界に降り立ってからの、初めての平和で平穏な時間が過ぎていることには変わりなかった。
だが、平穏な時間が永遠と続くなどということはありえない。そんな時間もいつかは終わる。そして、その時はすぐにそこまで迫っていたのだ。
それは、優希が出て行ってすぐのことだった。この家にノックの音が響き渡ったのだ。
この家に住んでいる面々は、ノックなどしない。ということは、客だ。リビングでグダグダしていた大成だったが、ノックという来客の知らせが聞こえてきたことに眉をひそめた。この家に来る客など、この数日の間にはいなかったのだ。だからこそ、大成は眉をひそめて疑問を抱いた――のではなく、実は来客を迎えるのが面倒で眉をひそめただけだったりする。
「はいはーい、今開けますよーっと!」
ともあれ、来客は来客だ。大成はドアを開けて、扉の向こうにいるであろう者を迎え入れることにした。
まあ、ノックの音が聞こえてから、大成がドアを開けるまでの所要時間は実に五分以上経っていたりするのだが。それだけの間、客を待たせておいて、随分とまぁ呑気なものである。
そして、ドアの向こう側にいたのは――旅人だった。ドルモンとスレイヤードラモンは一緒に居らず、代わりに大成の知らない少年を連れていた。
「あれ?優希は?」
「優希ならウィザーモンの所へ行ったぜ?」
「あぁ、そういや、この前の……奇跡のデジメンタルだっけ?そのことを知ってから、ウィザーモン目がキラキラしてたもんなぁ……」
あの奇跡のデジメンタルはウィザーモン曰く、劣悪品だった。本来ならばあれでアーマー進化することはできなかったはずなのだ。だというのに、ワームモンは奇跡のデジメンタルを使ってコンゴウモンへとアーマー進化できた。
ということは、あの劣悪品を不完全ながらも奇跡のデジメンタルへと変えた何かがある。ウィザーモンは、その何かが優希にあると考え、研究しているのだ。つまり、優希はその研究の実験対象としてウィザーモンの下へと行っているのである。
よほど酷使されているのか、ワームモンとレオルモンが心配になるくらい、毎日ヘトヘトになりながらも帰宅してくる優希である。ちなみに、大成は心配していない。
「あれはどっちかって言うとキラキラってよりも、ギラギラだと思うけど……」
「……そうか、優希はウィザーモンの所にいるのか」
「……?いちゃまずいのか?」
「いやな。今、ウィザーモンの所にウィッチモンが来てるんだよ」
「ウィッチモン?あぁ、魔女みたいなデジモンか!あのギチギチした口元がいいよなぁー!」
「た、大成さん……旅人さんたちが引いてるよぅ……」
なにを思い浮かべているのか、気持ちの悪い顔で物思いにふける大成。そんな大成に全力で引いた旅人たちだった。
そして、ワームモンに言われて正気と表情を取り戻すことができた大成。最近はデジモンならなんでも良いというような雰囲気が漂い始めているようだ。
それはさすがに不味いんじゃない?――とレオルモンと優希とワームモンの三人で、“どうにかしたほうがいいのでは会議”が夜中密かに行われてたりするのだが、それはほんの余談である。
ちなみに、その会議は今まで何度か行われたのだが、結論は全く出ていない。それも全力で余談だ。
「んで、なんでウィッチモンがいると?」
「あ、ああ。優希のやつ、前ウィッチモンにトラウマを植えつけられたというか……いじめられたというか……まぁ、そんなことがあって。多分、苦手にしてる」
「へぇー……優希にもそういうのあったんだな」
ちなみにその頃、優希はウィッチモンと久しぶりの再会を果たし、全力で頬を引き攣らせていたりする。
「旅人ー……?あのー……オラはいつまで空気になっていればいいんでしょうかー……」
そんな時だった。情けないような、空気を読んだような、恐る恐るといった風な声がこの場に上がったのは。
先ほどドアを開けた時にも気になった、大成が知らない人。今まで自己紹介もなく、しかもひたすら旅人と世間話をしていたために、大成はその存在を半ば忘れていた。
そして、それは連れて来た側の旅人も同様だったりする。
「あぁ、忘れてたな」
――それこそ、忘れちゃダメニャ!――
「うるさい。最近ずっと出てこなかったくせして、いきなり喋るな!」
「……?えっと……旅人、どうかしたのか?」
「え?あっ……なんでもない……くそっ」
――ククク……哀れだなァ……!――
ポツリと呟いた旅人。その話すことのできない憤りは、残念ながら誰にも伝わらなかった。
ある事件から旅人の中にいる人格とでも言うべきものは、結構な頻度で話しかけてくることもあれば、全く話しかけてこないこともある。そして、その声は旅人にしか聞こえない。これらが曲者なのだ。
ようするに、旅人自身も忘れるのである。自分の中にいるという、姿が見えないことも関係しているのだろう。フッと思い出したように話しかけてくるので、つい旅人も結構な声量で返してしまう。そして、その結果、聞こえない他者からすれば変人扱いされる。この変人扱いが地味に旅人の精神を削ってくるのだ。さまざまな国で救急車を呼ばれたり、その地に伝わる呪術師に割と真面目に祓われたり、と。
せめてこの声が他の人にも聞こえれば……、とそう思う旅人であるが、それでも変人扱いは変わらなかったりすることに、旅人は気づいていなかった。
「さて話を戻して……」
「なんか誤魔化さなかったか?」
「戻して!コイツが、この世界で最近出会った――」
「よう!オラは日向勇!よろしく!」
「なんか爽やかオーラ……しかもイケメン……!あ、布津大成です」
ようやく、というべきか。
爽やかオーラを振りまきながら、元気よく自己紹介をした勇。そんな勇を前に眩しい何かを感じながらも、大成も自己紹介をする。
勇のようなやることなすこと全部がカッコつくようなタイプの人間は、今まで大成の周りにはいなかった。だからこそ、大成は珍しいものを見るような顔で勇を見ていた。一方で、そんな不躾な大成の視線を、当の勇が気にした風はない。そんな所が大成が眩しいと感じた所以だろう。
「俺のパートナーはこのイ……じゃねぇや。ワームモンなんだけどさ。勇のパートナーは?」
「オラのパートナーはグレイモンだな。デカイからこの家に入れなかったけど、外にいるぞ」
「グレイモン!いいなぁ……格好良いやつで……グレイモンかぁ……うへへへ……」
「ははは……ワームモンだっていいじゃないか!下手なデジモンより可愛げがあると思うけどな」
グレイモンという件でまた顔の形が変わった大成。その顔はどう贔屓目に見ても気持ち悪いものであるのに、勇はそんな大成に引くこともなく、苦笑するだけで留めている。それでいて、ワームモンのフォローまで入れていた。もはや、天然記念物モノの性格だ。
一方で、やはりグレイモンという、わかりやすい格好良さがあるデジモンをパートナーとしている勇が羨ましいのだろう。表情が元に戻っても、大成は卑屈に勇を見ていた。勇とは比べ物にならないくらい、どうしようもない性格である。
「本当にイケメンな奴だな!旅人!フツメン同士仲良くしようぜ!」
「おい、どういう意味だ。こら」
――オマエハ自分ノコトヲイケメンダト思ッテイタノカ?――
「いや、そう思ってはないけど、人から言われると腹立つんだよ……!」
「ははは……」
まぁ、勇の大成への第一印象は、“少し変わった奴”というものであることには間違いないだろう。一方で、大成の勇への第一印象は、“全方向にイケメンな奴”である。
ともあれ大成は、イケメンというだけで相手を嫌うような人種ではない。しかも、勇の持つ雰囲気は、人を惹きつけるような、それこそカリスマとでも言えるようなものである。そんな一方的な知識だけで嫌えるはずもない。それほどまでに付き合っていて気持ちがいい少年なのだ。勇は。
ようするに、ここまでの大成の行いはただのじゃれあいのようなものである。初対面ながら、なかなかに良い関係を築けたと言える。
そして、今までドアの所でずっと話していたのだ。ここでこれ以上立ち話も難だろう、と大成は奥のリビングへと旅人と勇を通すことにした。その途中で――。
「ん……?グレイモン?勇?……んん?んんん?」
「大成さん、ど、どうかしたのぅ?」
「……ランキングのことを思い出したんだよ」
大成はあることに気づいた。
大成の言ったランキングとは、言うまでもなくゲーム“デジタルモンスター”のランキングのことである。始まりのあの街で語られたことが真実だというのならば、この世界に来ている人間のすべては、例外を除いてあのゲームのランキング千位までに入っているメンバーのはずで。
大成たちの目の前の少年も、すでにパートナーが成熟期に進化していることを鑑みても、ランキングに入っている猛者だろう。ランキングに入っているということは、それだけ育て方や戦闘のさせ方がうまいということなのだから。
「勇もランキングに入ってたのか?俺は入ってなかったけど……」
「それじゃ、大成があの声の言っていた例外なのか。オラは……」
「……オラは?」
そう言いながら、勇はどこか恥ずかしそうに人差し指を一本立てた。そして、それの意味がわからないほど、大成はバカではない。そう、つまり勇は――ランキング一位ということで。全世界一億人のプレイヤーたちの頂点に立つ者ということで。
目の前にいる少年が思わぬビッグネームだったことに驚いた大成の奇声が、一瞬後に響き渡った。
ちなみに、ランキング自体知らない旅人やランキングの凄さがいまいちわかってないワームモンはあまり驚いていない。だが、一位ということが凄いことだとはわかったようだった。
「マジかぁあああああああ!」
「ははは……なんか恥ずかしいな」
「え?え?本当にあの勇気さん!?」
プレイヤーネーム勇気。ゲーム“デジタルモンスター”の最古参プレイヤーの一人で、ランキング第一位のプレイヤー。そして、同時にあのゲームの中で最も早く自分のパートナーデジモンを完全体に進化させることができたプレイヤーである。
そんな栄光を恨んだ多くのプレイヤーに囲まれながらもたった一人でその現状を覆しただとか、ゲーム開始時から負けなしであるとか、実は開発側の一人だとか、勝ちすぎていて時折開催されるの大会が成り立たないだとか、その手の噂が事欠かないプレイヤーでもある。
「うわぁ……本物かぁ!本物のあの勇気さんかぁ……!開発側にしばらく大会に出ないでくださいって土下座させたっていう
「確かに、オラのあのゲームの中でのプレイヤーネームは勇気だったけど……え?その話って結構広まってるのか?」
「すっごい大成の目がキラキラしてる……しかもさん付けかよ。年上のオレやリュウにもさん付けしてないのに」
「え、えぇっと……旅人さんたちも尊敬されてると……お、思いますよぅ?」
――あはは!どんな気分?芋虫に慰められるってどんな気分?――
「お前ちょっと黙ってろよ」
まぁ、あのゲームに入れ込んでいた大成にとっては、訳のわからない旅人たちよりもランキング一位だった勇の方が、わかりやすい憧れと尊敬の対象であるのだろう。
別にそんなことは気にしない旅人であるが、こうも対応が違うと、少し複雑な気分になるのだった。
「あれ?そういや、勇気の時って……言葉遣いとかは作ってたのか?」
「ん?ああ。ああいうのが格好良いと思って。アバターも青年だったし……けど、やっぱり面と向かって言われると恥ずかしいな」
「へぇー……」
「オラは田舎出身だからな。こういうところでやってかないと。田舎丸出しじゃ恥ずかしいからな」
そう言って恥ずかしそうに笑う勇。東北の山奥の田舎出身である勇は、幼い頃に東京引っ越してから、都会と田舎の違いに苦しめられたのである。微妙なイントネーションの違いや方言丸出しの口調。それらは、都会の中で使われるには違和感がありすぎだった。
だからこそ、このままでは疎外感を感じてしまうかもしれない。イジメに遭うかもしれない、とそう心配した勇の親が直させたのである。
まあ、今でも時々その頃の名残が出てくることがあるのだが。やはり幼い頃に学んだことというのは、なかなか消えないものであるのだ。
「……!そうだ!せっかくだし……」
「……?」
「ぜひ!バトルしてください!」
大成のそのお願いは、芸能人に握手やサインを強請る感じに近いだろう。
そんな大成のいきなりのお願いも快く承諾した勇。だが、実際にバトルするワームモンからすれば、この上なく嫌なことであることに違いなかった。
というわけで、今回から始まった第三章。初端は大成と勇の出会いでした。
第三章は極限状態が続いた一章や二章とは違って、少しほのぼのする予定です。いや、シリアスはありますけども。
次回はランキング第一位に挑む大成の話です。
あ、あとできれば評価や感想をいただけるとありがたいです。ここをこうした方がいい、みたいなものでもOKです。よろしくお願いします。
それでは、第三章からもこの物語をよろしくお願いします。