【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
「またここに来るなんて……」
そう呟いた大成がいるのは、学術院の街から数キロメートル離れた荒地。数日前、キメラモンとなった零と死闘を繰り広げた場所である。
この場所に大成たちが来た理由は言わずもがな、緊急事態でもないのに街中でドンパチとバトルするわけにも行かないからである。特に、大型で火力のあるデジモンのグレイモンが戦うのだ。仮に被害が街に及んだらシャレにならない。
そんなわけで。グレイモンが戦っても良さそうな空き地を探して彼方此方彷徨うのが面倒くさくなったので、手っ取り早く学術院の街の外まで来たのである。
「んじゃ、ルール確認な。始めって言ってから、どちらかが参ったって言うまで。殺さないこと。やりすぎと判断したら実力行使で止めるから。以上。……なんでオレが審判やらないといけないんだ」
――そりゃ、暇人だからって感じだしー?――
「そりゃ、暇じ……じゃなかった。公平な人が旅人しかいないから」
「それにオラたちじゃ、実力行使でデジモンを止められないしな」
せっかく無視した、自分の中から聞こえてきた腹立たしい声。だが、それとほぼ同じことが大成の口から発せられかけたことに、旅人は溜め息を吐いた。どうしてこうも、オレの扱いは似たような感じになるのだろう、と。
ちなみに、そんな旅人の疑問に答えるのならば、旅人だから、の一言で事足りることに、本人だけが気づいていなかった。
そんな面倒事に溜め息を吐いている旅人とは反対に、大成と勇は至極やる気である。
「いっち……にっ!さん……っし!」
「っていうか、勇のグレイモンすげえな!」
「ごー……ろっく!え?何が?」
大成がそう感嘆するのも無理はない。勇のパートナーであるグレイモンは、ラジオ体操をして戦いに備えていたのだ。
ラジオ体操。子供たちが、夏休みにしたくもない早起きをしてさせられたり、体育の授業で怪我をしないように授業開始直後にやったりするアレである。まあ、大抵の子供は適当にやったりするのだが。真面目にやるのは、それこそ真面目な子供やラジオ体操の大切さを知っている子供など、とにかく少数派であることには違いない。
そんなラジオ体操をグレイモンは第一から第二まで丁寧にやっている。傍から見ているととてもシュールだ。
「え?だって、運動する前は必ずやらなきゃいけないものだって……ボク、勇から聞いたよ?」
「いや、間違っちゃいないけど……」
――このグレイモンを見ていると毎回思わされる……戦いの本質。それは運動にあるのでは?と……――
「思ってもないこと言うのやめろ」
とにかく、勇以外の全員が、戦いの前にラジオ体操を逐一やるグレイモンに呆れていることには違いなかった。
ちなみに、勇たちと出会ったばかりの大成は知らないことではあるが、グレイモンがラジオ体操のことを知った当初は、それこそ命を賭けたような生存闘争の場面でもラジオ体操をしようとしたことがあったらしい。
旅人と出会って、指摘されることで直した――のだが、それまでは戦いの最中にラジオ体操をやりきってから本格的に戦いを始めていたりする。襲われているというのに、それでもラジオ体操をしてから戦って。そんな戦い方で、旅人と出会うまで、二人きりでこの世界を生き抜いてきた勇たちの実力は本物と言えるだろう。
まあ、馬鹿であることも言えるのだが。
「いやぁ……朝起きた時の日課のラジオ体操をオラがしているのを見てたら興味を持ったらしくて。気に入っているみたいだから言い出しにくくて……」
「えぇっ!ってことはウソだったの!?」
「いや、運動の前にするものだってことは本当だぞ?ただ、戦闘前にまでするかというと……」
「だから旅人はやめろって言ったんだね……」
「勇のグレイモンってあのラジオ体操を戦闘前にまでやってたんだな」
「た、大成さん……も、問題はそこじゃないと思いますよぅ……」
そう、勇のグレイモンは天然な性格だった。先ほどのように、時々大成も発言内容に天然が少し入ることもあるが、ソレとは比べ物にならないくらいグレイモンは天然な性格なのだ。どのくらい天然かというと、大抵のことは嘘でも信じてしまうくらい天然だった。それでも、その天然を押し通してしまう強さがあり、またその強さをさらに引き立たせるパートナーがいるために、非常に始末に悪い。
もっとも、始末に悪い性格をしてはいるが、パートナー共々の元来の人付き合いのうまさが幸いして、構築されている人間関係は至極良好であることが多いのだが。
「でも、グレイモンって格好良いよな」
「え?ボクそんなことないよ?」
「いやいや、少なくとも俺のイモ……ワームモンよりはいいだろ」
「うぅ……確かにグレイモンは格好良いけど……そんなはっきり言わなくてもぅ……」
「ど、どうなんだろう?勇はどう思う?」
「ああ、かっこいいぜ!」
「そ、そうなのか。ボクって格好良いのか……!」
そんなグレイモンは、煽てれば、きっとどこぞの王様のように裸の服を真面目に着るくらいのことはするだろう。もしかしたら、思い込みだけで空を飛ぶようになるかもしれない。
やはり、馬鹿としか言い様がないだろう。
そして、そんなグレイモンだが、やはりデジモン同士の交友に興味があるらしい。ワームモンと同じく、初めて会った生命体がパートナーの勇だったグレイモンにとっては、デジモンの友達などいないに等しい。だからこそ、大成や勇をそっちのけで、頑張ってワームモンに話しかけていた。
その光景は、まるで入学式を終えた小学生たちが新しい友達を作ろうと緊張しながらも頑張っているようで、とても微笑ましい。
のだが、まあ――。
「そうだ、ラジオ体操やると調子が上がるよ?君もやってみたら?」
「ひっ……ぼ、僕はいいですぅ……」
「そう?」
「仲良くなったみたいだな」
「いや、大成。あれはどっちかって言うと……」
悲しいかな。ワームモンが、そんなグレイモンの頑張りを受け入れることができるかは、また別問題だが。
二人の話しているその光景を傍から見ていた旅人は、思わず言葉を濁してしまった。だが、濁すまでもないことだ。
割と本気で合っていた。食う側と食われる側的な意味で。まあ、それは実力を見ても当然の帰結であったりするのだが――その辺りの勇たちの実力のことを少し大成は甘く見ていた。それは、大成のここ数日の体験からくるものだ。
確かに、スレイヤードラモンや数日前の零とあの究極体に比べればたいしたことないかもしれない。いや、彼らと比べたら、大抵の者は弱く見えるだろう。
だが、それでも、今の大成たちよりもずっと――。
「それじゃ、そろそろはじめるぞー」
「はぁい……はぁ」
「よっしゃ!行くか!ほれっ!」
「ワームモン!アーマー進化――!」
もはや慣れたものだ。とでも言うかのように、大成が投げた友情のデジメンタルは放物線を描いて、ワームモンめがけて飛んでいく。そして、それを受け取るワームモンも、慣れた感を見せながらそれをキャッチした。そして、キャッチした瞬間に始まる、アーマー進化。
現れるのは、ここ数日で随分とお世話になっているトゲモグモンと呼ばれるアーマー体デジモン。進化が完了したトゲモグモンは、調子を確かめるかのように、大地を踏みしめていた。
「大成、なんだそれ!」
「え?なんだ……ってアーマー進化だけど?」
「アーマー進化。アレが擬似進化ってやつなのか。へー……
だが、アーマー進化が完了するのと同時に上がる、驚愕の声。
どこかおかしいところがあるのか?と大成たちは疑問に思う。だが、アーマー進化は、大成とワームモンにとっては見慣れたものでも、それ以外の面々にとっては未知の進化であることに変わりないのだ。このメンバーの中で、一番長くこの世界に関わっている旅人ですら、アーマー進化というものを言葉でしか聞いたことがなかったほどなのだから。
「すっげぇー!いいのできんじゃん!何ていうデジモンなんだ!?」
「アーマー進化……!そんなのができるなんて、ワームモンすごいんだ!」
「ぅ……今はトゲモグモンですぅ」
「あ、ごめん」
「へー!トゲモグモンか!」
やはり、勇もあのゲームにハマった身。未知のデジモンや未知の進化というものには、心惹かれるのだろう。グレイモンと共に、キラキラした目で大成とトゲモグモンを見ている。
まあ、アーマー進化というものはデジメンタルという道具の使用によって成される進化で、大成たちがすごいというよりも、その失われたはずのデジメンタルを再現したウィザーモンがすごいというべきなのだが――その辺りのことを、勇たちが知るはずもなかった。
「おーい、そろそろいい加減に始めるぞー」
「あ、はーい」
話すだけなら後からでもできる。だが、帰りの時間も考えると、この場に留まることのできる時間は必然的に限られてくる。だからこそ、いつまでもこうしてグダグダしていると時間が勿体無いと踏んだのだろう。少し強引だったが、この場での審判である旅人がこうやって双方に声をかけたのだ。
そして旅人の声に従って、両者は十数メートルの距離をとる。成熟期とそれ相当の力しか持たない彼らにとって、一足では埋められない距離。だが、そんな距離もお互いに近く感じていた。それは、戦闘へのやる気か、それとも相手への畏怖によってか。
「始めって言ったら始めろよ。それじゃあ――」
「……」
「……」
そして、辺りに静寂が満ちる。両者とも、旅人が言う開始の合図を今か今かと待っていた。
時間にして一秒も満たないその刹那。先ほどまでとは全く違うグレイモンの雰囲気に、ゴクリ、と大成とトゲモグモンは唾を飲み込んだ。先ほどまでは嘘か夢だったのではないのか、とそう思わせるほどにグレイモンの雰囲気が違う。
有り体に言えば、大成たちはそのグレイモンの雰囲気に呑まれていて、無意識にでもビビってしまうくらい緊張していたのだ。
そして――。
「始めっ!」
「ガァアアアアアアア!」
「ひぅっ!」
開始の声が上がる。そして、それとほぼ同時に叫ばれたグレイモンの咆哮。
ほぼ同時のタイミング。だが、決して同時ではない。ゆえに、反則でもない。思わず反則行為ではないのかと疑ってしまうくらい、その咆哮は開始の声が上がってから反則的な速さで叫ばれた。だが、だからといって決して反射行為でもない。グレイモンは、狙ってその咆哮を叫んだのである。
そして、開始直後でありながらも、開始の声によって意識が逸れていたその時に、その咆哮を受けたトゲモグモンの方はたまったものではない。不意打ちと同じだ。思わぬ攻撃に驚かされて、一瞬の空白時間が生まれている。
もちろん、時間にして一秒にも満たないだろう。だが、グレイモンの狙いはそこではない。現状、一秒も満たないその一瞬に敵を倒すだけの力など、グレイモンは持っていない。
この行為は、威嚇だ。それと鼓舞。グレイモンは空白時間を作るためではなく、威嚇と鼓舞のために咆吼したのである。
「わ、ちょ、ひっ!」
「おい、イモ!落ち着け!」
そして、その効果は充分にあった。グレイモンは咆哮によって気合が入り、一方のトゲモグモンは開始直後に自身のペースを乱されたことによって若干のパニックに陥っている。
当然、トゲモグモンが回復するまで待つなどということをグレイモンがする必要はない。先手必勝、攻撃こそ最大の防御とばかりに、グレイモンは次の攻撃へと移る――直前で、それまで黙っていた勇が声を上げた。
「グレイモン、相手の背中の刺に注意しろ!宝石か氷か……硬いか凍らされるか……どちらにせよ、遠距離攻撃だ!」
「わかった!」
「なっ!」
勇の指示に従うように、グレイモンはその両手で大地を
自分の身長以上の地面の欠片が自分目掛けて飛んでくるのだ。トゲモグモンとしてはそれは怖いことだろう。
そして、そんな光景を前にして大成は驚愕の声を上げていた。だが、大成が驚いていたのはグレイモンにではない。いや、あのグレイモンのパワフルな戦術にも驚いたことには違いないが、この世界に来てそれなりに猛者を見た大成にとっては今更でもあった。
大成が驚いていたのは勇に、だ。勇はトゲモグモンを初めて目にしたはずである。だというのに、その特徴を冷静に観察し、そして有効策を考え、アドバイスをする。そんなことができる勇に、大成は驚いたのだ。
「ひぅっ!」
「躱した!でも、足は早くない!」
「……氷か!待て、グレイモン!メガフレイムで対応しろ!近づくな!」
投擲された地面の欠片をなんとかギリギリで避けることができたトゲモグモンだったが、助かるのと引き換えに致命的な情報を勇たちに渡してしまった。
躱した時に、その背中の針が僅かに投擲された地面の欠片に触れたのである。トゲモグモンは、一瞬触れただけでも凍るほどの低温の針を背中にビッシリと生やしている。確かに、超低温の針に触れた部分は凍る。だが、実際に接触し凍ったのは、ほんの僅かでしかない。
それを勇は目ざとく見つけたのだ。そしてすぐに、起こった事実と今までの予想と作戦との擦り合せを行う。しかも、今までの予想が事実をほぼ捉えていたのである。凄まじい観察眼であると言う他ないだろう。
そして、修正した新たな指示をグレイモンに与えた。グレイモンも、そんな勇のことを信頼しているからこそ、その指示に従うのだ。
「……!これでっ!」
近づいてこないことがわかったのだろう。そして、このままでは鈍足な自分が狙い撃ちにされるだろう、ということも。だからこそ、トゲモグモンは攻勢に出た。先ほどグレイモンが行った先手必勝の理念を、次は自分がしようと考えたのだ。
だが、そんなトゲモグモンだが、この時の判断が冷静なものだったかと言うとそうでもない。この攻撃は、次に攻撃されたら負けるという事実を、半ば恐慌状態に陥りながら理解して放ったものだから。
そして、トゲモグモンの背中の針が、一斉に高速で発射される。“ヘイルマシンガン”と呼ばれる、トゲモグモンの必殺技だ。
だが、残念ながら、半ば恐慌状態に陥りながら放たれた攻撃が通じるような相手ではなかった。
「全弾撃ち落とせ!」
「ああ!」
勇のそんな指示と共に、グレイモンの口から放たれたいくつもの大きな火球。“メガフレイム”と呼ばれる己の必殺技の連撃を持って、グレイモンはトゲモグモンの攻撃に応じたのだ。
いくつものアイスクリスタルの針が、火球によってすべて打ち消される。
一瞬後、放たれた火球の一つが、トゲモグモンの真横に着弾した。もちろん、これはグレイモンがわざと外したのである。だが、もしグレイモンにその気があったのなら、確実にトゲモグモンに当たっていただろう。
よって――。
「そこまで!勇とグレイモンの勝ち!」
この勝負は、勇とグレイモンの勝ちが決定したのである。
これが、ランキング第一位。これが、一億人のプレイヤーの頂点。確かに、零たちやスレイヤードラモンほどではなかった。
が、それでも今の自分よりもずっと上にいる者のその力を、確かに大成は感じていた。
「すごいな……勇気さん!戦闘中もパートナーに指示だしするなんて!」
「だって、パートナーが戦ってるのに、応援だけなんて嫌だし、そんなのだったら役立たずじゃないか。だろ?オラにできること、オラにしかできないことをやらないと。あのゲームだってそうだったじゃないか」
「でも、ゲームとこの世界は違――」
「確かに違うけどさ。でも、学べるところは学んでかないとな」
「……やっぱり勇気さんはすっげーや」
実に自然に言い切った勇を前に、大成は何度目になるかもわからない感嘆の息を吐いた。
確かに、戦闘中突っ立ってだけなのならば、勇の言う通り、役立たずであることに違いない。であれば、今まで応援や見ていることしかできなかった大成も、勇のように何かをできるようにならなければといけないだろう。
その何かが、まだ大成にはわからないのではあるが。
「怖かったよぅ……」
「あれ?ワームモンに戻ってる!?」
「え?ああ。アーマー進化は一時的なものなんだ」
「へー……それじゃ、連戦とかになるとキツそうだな」
トゲモグモンからワームモンに退化した現象を見て、勇やグレイモンが驚いている。やはり、進化したらそのままということが一般的らしかった。そして、さらっとアーマー進化の難点を見つけ出す辺り、さすがの勇である。
まあ、ともかく。これで目的の試合が終わったことには違いないく――。
「ああ、そういえば、ワームモン。リュウからの伝言。そろそろ修行再開するからって。頑張れよ?」
「う……わかった」
「おりょ、イモ。お前のことだから、てっきり嫌がるかと……」
「ぼ、僕にだって悔しいって思う気持ちくらいありますよぅ」
穏やかな雰囲気の中、こんなことを話しながら大成たちは学術院の街へと戻っていく。
そんな中で、大成は今回の試合のことを振り返る。ここ数日にあったような命の危険がある“戦い”ではなく、それこそあのゲームに近いような“試合”。
そんな試合が、思った以上に楽しかった大成だった。
というわけで、第二十七話。大成たちのボロ負け回。
まあ、ランキング外にいた奴が、ランキング一位にそう簡単に勝てるわけもないということですね。
さて、次回は……優希やウィザーモンの話ですね。
それでは次回もよろしくお願いします。