【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
ウィザーモンの研究室から出た優希は、レオルモンを抱えていつも通りの帰路へとついていた。そう、いつも通り。その言葉が示すように、ここ数日は毎日その道を行き来している。そして、毎日行き来しているだけあって、その足取りは慣れたものだ。
優希もレオルモンも、この帰り道はそんないつも通りの帰り道であると疑っていなかった。だが、今日は一つだけ。そう、たった一つだけ。だが、確かにいつも通りとは行かないことがあった。
それは――。
「おお!そこな可憐な少女!是非僕と結婚してくれないか!」
「……は?」
街の角から現れた、三毛猫のようなデジモンを連れた人間の
いきなりの事態に優希とレオルモンは口を開けて呆然とするしかなかった。いや、優希たちの反応は当然のものだ。誰だって街角ですれ違った初対面の相手に求婚されるなど思いもしないだろう。
「ごめんなさい。今なんて?」
「ああ!聞こえなかったのか!……おお!そこな可憐な少女!是非僕と結婚してくれないか!」
「聞き間違いじゃなかった……!嫌よ」
「そう言わずに!」
恥ずかしげもなく求婚してきたその青年は、自分に悪いところなどないとばかりに胸を張っている。だが、一方の優希はどうしてそう言う結論になるのかが理解できない。ただ、彼の後ろで溜め息を吐いている三毛猫のようなデジモンが妙に印象的だった。
優希にとって頭の痛い話ではある。まるで無限ループのように、断っても断っても食い下がってくるのだ。そんな様子の青年を前にして、これはとにかく話を聞かなければ先には進めないと考えた優希。結局、立ち話も難であるし、この青年も家に連れて帰ることにしたのだった。
そして、その数分後。優希は家に着く。いや、着いてしまった。今まで優希は、これほどまでに家に着かなければいいと思ったことはなかった。
もちろん、この人ともっと一緒にいたいから、などという思春期特有の甘い思いからくるものなどではない。ただ単に、コイツの言うことはきっと頭の痛い話だぞ、ということがわかったが故の思いである。
ちなみに、そんなことを思った優希ではあったが、道中でも充分頭が痛かった。道中延々と青年が愛の言葉を呟いていたからである。
なぜか、家の色がオレンジ色に見える……とそんなことを考えて現実逃避しながらも優希は玄関を開けて家に入る。
そして――。
「ただいま……」
「お帰りー」
家にたどり着いてしまったそんな優希を出迎えたのは、しばらく前に模擬試合から学術院へと帰ってきた大成たちだった。しかも、優希にとって幸か不幸か。旅人たちまでもが未だ自分の宿へと帰らずに、この家で寛いでいる。
ただでさえ、今からするのは頭が痛くなると予想される話だ。だというのに、大成たちのみならず、旅人や勇までもがこの家にいるというのは、優希にとって気の重くなる話だった。
「う……旅人。あれ?そっちの人は?」
「なんでオレを見て呻くんだよ。まあ、いいや。紹介しようと思ってな。この世界で最近知り合った――」
「オラは日向勇!よろしくな!ちなみにパートナーはグレイモンだ。ゴメンな。家に前にいたからびっくりしたろ?」
「私は小路優希だけど……アレ?グレイモン?」
その勇の言葉に一瞬固まってから、優希は走って窓から外を見る。いた。確かにいた。家の目の前にオレンジ色の恐竜が居座っていた。家の色がオレンジ色に見えたのは、優希の現実逃避などではなかったのである。
まあ、そんな風に精神的に参っていたせいで、グレイモンに気づかなかったのであろうが。とはいっても、巨大なグレイモンに気づかずに家にさっさと入る辺り、今の優希の余裕のなさというか、心情がわかるようである。
「気づかなかったのかよ……んで?そちらは?」
「あ、えっと……そういえば名前……」
「やっと気づいてくれたようだね?僕らは未だ自己紹介もしてない仲だということを!ふふ……以外におっちょこちょいなんだね」
「……なんだこいつ?」
「さぁ?」
気取った口調のその青年に、その場にいたほとんどの者が、“何言ってんだコイツ……”と言うかのような呆れた目を向けていた。だが、その青年だけが気づいていない。
そして、その青年の横で優希が頭を抱えていた。
「僕の名前は早乙女好季!さあ、僕の運命の人!君の可憐な名前を教えてくれ」
「とりあえず運命の人じゃないわ。私は優希。小路優希よ」
「優しい希望で、優希。なるほど、君にぴったりの名前だ」
「優希、コイツ本当に何なんだ?」
大成は、いい加減に好季が何をしにここへ来たのか知りたかった。だが、そんなことは優希の方が知りたいだろう。
優希だって、好季がなんであんな戯けたことを言い出したのか、その理由を聞くために自分の家に招待したのだから。とはいえ、初対面の人に求婚する奴を家に招待する行為など、下手をすればストーカーに餌をやる行為となりかねない――のだが、さすがの優希でも求婚発言でそこまで頭が回らなかった。
「さて、それで返事を聞かせてくれないか!」
「……?返事?……何かわからないけど、優希。そういうのはちゃんと返し――」
「旅人は少し黙ってて」
「だから、最近のオレの扱い……」
――やれやれ、諦めた方がいいな――
「お前はちょっと黙ってろ」
自分の内から聞こえてきた声にそう返す旅人。だが、その対応こそが、最近自分がされている対応であるということに気づいていなかったりする。
「さっきも言ったでしょ。っていうか、だから何で私?」
「それは、運命を感じたからというしかない。君も感じただろう?この僕との運命を」
「全然」
「ははっ。運命の人は冗談も好きらしい。いや、そういうエンターテインメントが好きなのかな?」
好季の一連の発言内容で、好季が優希に何を求めたをなんとなく察した面々。さすがにここまで露骨だと、かなりわかりやすいと言えるだろう。
当の言葉を言った好季は、真っ直ぐに優希を見つめていた。気取った言葉とは裏腹に、その眼差しは真っ直ぐだ。その眼差し
とはいえ、その一方で優希は好季との一連の会話によって、本気で怖気と身の危険を感じいたりするのだが。だが、好季はそんな優希の様子には気づいていないようだった。脳内がお花畑というか、幸せな奴である。
「優希も変な奴に好かれたなー」
「言ってるなら助けてよ旅人」
「さっき黙ってろって言ったのはお前だろ」
「……先ほどから僕の運命の人と親しいようだけど、貴方は?」
その言葉を前にして、これだ、と優希はそう思った。
優希とて年頃の女の子だ。異性からの告白が嬉しくない訳が無い――が、さすがにこうまで唐突なものは、嬉しさ以前に引く。一応、今回の好季の発言は、愛の告白としてとっていいと言えるだろう。そして、愛の告白だというのならば、当然のように返事が必要となる。まあ、優希の返事は初めに彼女が言ったとおりで、断固としてNOというものなのだが。
だが、問題は、好季がその返事を受け取らないということである。だからこそ、何かの理由をつけて諦めさせようと、優希は頭を働かせていたのだ。そして、その甲斐はあったと言える。まるで天啓のように、以前漫画で見たとある作戦が頭をよぎったのだ。
その作戦とは――。
「オレ?オレは――」
「この人は私の彼氏。だから、私のことは諦め――」
「えぇっ!?」
「――て……旅人。やっぱり黙ってて」
そう、偽装恋人作戦である。古今東西あらゆる場所で活用された伝統の作戦でもって、優希はこの場を切り抜けようとしたのだ。さまざまな人々に使われ続けたということはあって、確かに良い案ではある。
とはいえ。その作戦は、恋人役となる相方との事前の打ち合わせが前提であるのだが。その大前提に、自分のことでいっぱいいっぱいだった優希は気づいていなかった。
当然、事前に話を聞いていなかった旅人は何のことかと疑問の声を上げるしかない。咄嗟に機転と気を利かせる頭は、旅人にはなかった。
そう、えぇっ!?と旅人は叫んでしまったのである。優希は明らかに失敗したと頭を抱えており、好季だって、このようなわかりやすい嘘に引っかかる訳も――。
「なんだって!?運命の人!それは本当か!?」
あった。
脳内がお花畑の可能性がある幸せな好季には、先ほどのわかりやすい嘘も見抜けないようだった。愕然とした表情で額に手を当てて、よろめいている。
勇のグレイモンとどちらが騙されやすいか気になった旅人たちだった。
「……。運命の人って呼ばないで」
「なら、優希――」
「呼び捨てもしないで」
「……っく」
「別にいいじゃねぇか。俺も旅人も呼び捨てで呼んでるんだから」
「大成もちょっと黙ってて」
傍から見れば、今の優希たちはきっと面白い見世物のように見えるのだろう。少し離れた所で経過を見守る大成たちにイラっときた優希だった。
優希の呼び方を考えている好季。突然の恋人発言に戸惑うしかない旅人。イライラする優希に、面白がっている大成。心配しているデジモン組と勇。状況は、軽いカオスだ。
そして数分後。好季が優希の呼び方を決めた所で、ようやく話が元の流れに戻るのだった。
ちなみに、好季の優希の呼び方は優希さんで統一された。まあ、そこに至るまでには、マイエンジェルやら、僕の優希ちゃんやら、優希自身が断固として断った呼び方がいくつもあったりするのだが。
「それで優希さん。そんな男よりも僕の方が優れてる!そんな――」
「……いや、だから」
「そんな頭も悪そうで、金も職も持ってなさそうな者よりも……僕の方がずっと君に相応しい!僕はこれでもそれなりに良い職についているんだ。今すぐに君を養うことだってできる!」
「なっ!ちょっと、旅人。何か言い返――」
「……」
「え?あの……」
「ごめん」
ポツリと呟いた旅人。その表情は暗い。落ち込んでいる。
付き合いからそのことを理解した優希だったが、なぜ落ち込み始めたのかが理解できない。だが、一瞬考えて、その理由にすぐ思い至った。
旅人は幼い頃から旅をしている。それゆえに、小学校中退という現代日本では考えられないような履歴を持っている。しかも、今ですら旅をしているために、特定の職や住所を持っていない。金なし、知恵なし、宿なし、職なし、ということである。
つまり――ニートである。否定しようがないくらいに。自分がそんなアレな人物であることを思い出して、旅人は落ち込んだのでしまったのだ。まあ、旅人の背景事情を知る者からすれば、自業自得だろと言うのだろうが。
「どうだい?思い直してくれたかい!?」
「……はぁ。旅人のことはともかくとして……私はアンタと付き合うつもりはないわ」
「付き合うんじゃありません!結婚して欲しいだけです!」
「どちらにしても断固としてお断り」
「なぜっ!?」
そんなこんなで、話は振り出しに戻った。先ほどまでと変わったことといえば、旅人が落ち込んでいることくらいだろう。
平行線の一途を辿っているこの話題に、優希は何とかして終止符を打ちたかった。
対して、好季の方は何とかして優希の心を射止めようと、必死になって言葉を紡いでいた。少なくとも、本人は必死であるつもりはないだろう。だが、傍から見ていると思わず哀れんでしまうほどに必死の
そして、そんな好季たちを差し置いて――。
「……そろそろ腹が減ってきたな」
「あ、大成。オラが何か作るか?材料はある?」
「え?勇気さ……じゃない、勇は料理できるのか?材料はあるけど……」
「料理は人並みくらいにはね」
そんな会話をするのは、傍から見ている大成たちである。優希と好季のやりとりなど、もうどうでも良くなってきたのだ。
ちなみに、あのバトルの後で大成は勇のことを呼び捨てではなく勇気さんと呼ぼうとしたのだが、それは恥ずかしいからやめてくれ、と勇に頼まれることとなったりする。だが、この調子だと呼び捨てが定着するまで長そうだ。
そんなこんなで家主の一人に許可を取った勇は料理を始める。随分と手馴れた感じで料理を進める勇。この感じだと、普段から料理をすることもあるのだろう。
そして、料理開始から十数分経つ頃には、勇作の美味しそうな料理が机の上に並ぶことになった。ここまで早く料理出来たのも、勇の料理慣れの賜物なのだろう。
「おーい、旅人に好季さんに優希ー……晩御飯できたぞ」
「是非……え?」
「だから……え?」
「やっぱり学校には通うべきだったのか……はぁ」
三者はまだそれぞれやっていたらしい。
飽きないのかよ、と大成は思う。だが、飽きないのだろう。きっと。全員が自分についてのことを真剣に考えているのだから。おざなりにしていいわけがない。
勝手に晩御飯にお呼ばれしたと喜ぶ好季がいの一番に机に向かった。だが、その時でも優希をエスコートして行こうとする辺り、徹底していると言えるだろう。
そんな自分に差し出された手を無視して、優希は旅人を引っ張って机へと向かった。
「勇が作ったの?」
「ああ。料理は人並みにはできるからね」
「優希さん。この人たちは……?はっ!?まさか、この人たちも君の?いけない!僕が君に真実の愛を教えて――」
「アンタの中で私はどんな悪女になってるのかしら?」
妄想道を突き進む好季を前にして、思わず優希の頬が引き攣っている。
というか、自分の運命の人と言う割には、いろいろと酷いイメージを抱いている。だが、さすがに今のはないと思ったのだろう。優希の様子を確認するまでもなく、好季は素直に謝罪した。まあ、だったら初めから口に出すな、という話であるのだが。
「ふむふむ。なかなか美味しい……!」
「ゆう……勇って弱点ないよな」
「はは……弱点なしとはいかないだろ。人間なんだからな」
ちなみに、気を利かせてデジモン組は外で食べている。わかりきったことではあるが、気を利かせた相手は外でひたすらに待っているグレイモンだ。断じて、この場を人間同士の交流として気を利かせたのではない。
そして、そんなデジモンたちの優しさにグレイモンは涙していたりする。
「さて、ご飯も美味しく頂いたわけだし……婚姻届を出しに行こうか」
「はぁ。さっきも言ったでしょ。お断りよ」
「だから、なぜそうなるんだい?」
「それ、本気で言ってる?そうね……アンタだって、巫山戯半分で言われたことを真面目にとることなんてできないでしょ?」
「……そうか。だったら、本気を見せればいいんだね?」
「……?」
「わかった。どうすればいい?僕の真剣さをわかってもらえるには」
「いや、だから……」
先ほどまでとは違った雰囲気で優希に詰め寄る好季。
その雰囲気は、先ほどまでとはまた違った種類の真剣さだった。その真剣さは、言うなれば必死だということなのだろう。それも、先ほどまでとは違って、
そんな好季の突然の雰囲気の変容に、優希はついていけていなかった。そして、だからだろう。晩御飯を食べ終わったレオルモンがこの場に乱入してきたのは。優希が固まっていたからこそ、レオルモンは手助けをしたかったのだ。
だが、それは言うなれば――。
「好季殿!お嬢様が欲しければ、このセバスを倒してその覚悟を示しなされっ!」
それは言うなれば――。
「なるほど、バトルで見せればいいんだね。いいのかい?手加減はできないよ」
「心配無用。このセバス、そんなにヤワではございませぬ!」
言うなれば――。
「じゃあ、今日はもう遅いからね。明日にしよう。また朝来るよ。お休み。僕の優希さん」
「まだお嬢様は好季殿のものではございません!」
それは、どこまでも余計なことだった、と言えるだろう。
ほんのり香ったラブコメ臭。まあ、ほんのり過ぎですし、ラブコメ路線に入ることはないですが。
次回は優希と好季の(パートナーたちの)バトル。
そして、好季が優希に求婚した理由が明らかに?
では、次回もよろしくお願いします。