【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第三話~そして開幕の鐘が鳴る~

「ぬがあぁあああああああ!ムカつくぅううううう!」

「……はぁ、どうしたの?」

 

 朝。珍しく遅刻しなかった大成は、盛大に優希に愚痴っていた。一方で優希は面倒くさそうだ。

 事の始まりは数分前。大成が登校してきた時から始まる。登校して来た大成を一目見て、優希はいろいろと悟った。つまり、今の大成は至極面倒くさいと。だから、そんな大成を優希も初めは無視していた。だが、しつこく話しかけてくる大成を前に、優希も無視し続けることができなかったのだ。だから、こうなったのである。

 ちなみに、大成は優希と普通に話す。年頃の男子は女子とあまり仲良くしたがらないものだというのに。まぁ、優希も大成もそんなことを気にしないタイプなだけなのだが。

 別に大成の友達が少ないことは関係ない。優希しか話す人がいないというわけではない。

 

「金片がー!」

「……あぁ、またなのね」

 

 金片って言葉を聞いただけで、だいたい何があったのか優希は察した。というか、大成が金片にやられているのはいつものことなのだ。優希としては、そろそろ学習または成長しろと言いたいくらいである。

 

「っていうか、デジタマに戻っちまったんだぜ!?」

「そこまで?珍しいわね」

 

 ゲームとは楽しむものだ。だが、楽なだけのゲームなど存在しないし、存在したとして面白くもない。ゲームとは、敬遠する要素や難しい要素など所謂大変な要素が存在する。それらがあるからこそ、ゲームは楽しいと言っていいだろう。

 そしてこのデジタルモンスターもゲームである上で仕方ないことなのだが、そのような要素が存在する。このデジタルモンスターの中にある幾つかの敬遠する要素。その中でも最も敬遠される要素とは、デジタマ化だ。

 デジタマとは、その名通りにデジモンの卵のことだ。そしてゲーム“デジタルモンスター”は、デジモンを育てるゲームである。ようするにデジタマ化とは、せっかく育てたデジモンが卵まで戻ってしまうことであるのだ。

 デジタマ化が起こる条件は幾つか存在する。主なものは、デジモンがバトルで一撃で負けてしまうこと、そして勝率の良くないデジモンが圧倒的差で負けることの二つ。ようするに、バトルで発生するのだ。

 もっとも、条件さえ揃えば故意にデジタマ化をすることもできたりする。新しいデジモンを育てたくなった場合など、これをする者が多い。この場合などは前の経験値などが引き継がれるなどの特典が存在する。

 だが、バトルでデジタマ化した場合にはそれがない。手間暇かけたことが一瞬でゼロに戻る。だからこそ、デジタマ化は敬遠されているのである。

 

「せっかくネットで調べて、アグモンにしたのにー!」

「はぁ……そういうのって自然のなり行きで決まるものでしょ。ネットで攻略サイト見て、自分が育てたい者を育てるのって、なんか違わない?」

「そんな真面目回答はいいんだよ!ゲームなんだから!」

「まぁ、いいけどね」

 

 成長期くらいまでなら、ネットで調べれば進化する先を選べる方法が載っている。これは、成長期辺りの数が一番多いためだ。ようするに一番わかっていることが多いのである。

 未だ未練があるのか、大成はグダグダブツブツと言っている。そんな大成の愚痴を右から左へ聞き流しながら、優希はボーッと次の授業のことを考えていた。もはや、まともに聞く気など優希には微塵もない。

 だが、数分後。それだけ経っても未だに大成の愚痴は続いている。よくそこまで続くものである。鬱陶しいことこの上ない。だから、優希は話題を変えることにした。

 

「そういえば……大成って、プレイヤーネームは何て言うの?」

「へ?なんで?」

「いや……私も始めようかなって」

「……」

「何その顔?」

 

 その時の大成の顔は、唖然としたものだった。

 優希はデジモンに詳しいくせに、デジタルモンスターはやっていない。大成が何度も誘ってもやらなかったくらいだ。その優希がデジタルモンスターをやると言っている。

 これを驚かずして何と言う?そんな大成の心境だった。

 

「ちなみに、理由は?」

「懸賞で当たったから、やらないのはもったいないと思って。院のチビ達に上げてもいいけど、一番初めに私がやって……って言われちゃって」

「……で?なんで俺のプレイヤーネームが知りたいんだ?」

「知り合いにレクチャーしてもらったほうがわかりやすいじゃない」

「チュートリアルはちゃんとあるぞ?」

 

 それには一人でやるのは寂しいからという理由が優希にはあったのだが、大成には伝わらなかった。

 ちなみに、大成のプレイヤーネームは現実と同じ大成である。プレイヤーネームはゲーム内の名前とも言えるもので、ネットゲームでは匿名性という点で割と重要なものだ。だというのに、大成は現実世界とほぼ同じ姿のアバターを作り、名前も現実と同じものを使っている。危機意識が足りないと言うしかないだろう。

 

「それに俺は新しく育てないといけないからな」

「……はぁ」

 

 こういう自分本位な所が、大成の友達が少ない理由であるのかもしれない。

 それがわかっているからこそ、優希もしつこく食い下がることをしなかった。大成を頷かせる労力を考えて、面倒くさくなったのである。

 ちなみに、溜め息を吐いている優希の横で、大成は次は何を育てようかと考えていたりした。つくづく自分本位な男である。

 

 

 

 

 

 大成と優希が学校で話していたその頃。どこかのビルの一室にて、二人の男女が話し合っていた。二人とも共通してどこか覚悟を決めたかのような、戦地に赴く兵士のような顔をしている。まるで今いる場所が、今後を左右する重大な別れ道であるとばかりに。

 

「……そろそろ始まりますね」

「あぁ。絶対に成功させるぞ」

「大丈夫ですよ。そのためにこの五年。すべてを尽くしてきたのだから」

 

 二人の話している内容はどこか断片的で、おそらく部外者にはわかりようもない。

 だが、二人の雰囲気も相まって、仮に部外者がその話を聞いても、この内容を軽んじる者は皆無だろう。それだけの雰囲気を二人は発していた。

 

「失敗作はやはり……あの世界に?」

「だろうな。此度の実験体たちと接触しないように気をつけなければな」

「大丈夫ですよ。以前の失敗作のようには決しません!」

「……」

 

 失敗作。そしてあの世界。その言葉が女性の口から出てきた瞬間、僅かに男の顔が歪んだ。

 それは思い出したくもないことを思い出したような、悲しみと喜びとさまざまな感情が入り混じった複雑な表情だった。いや、どちらかといえば、それは贖罪を望む表情だったのかもしれない。

 だが、それもすぐに消えた。自分がやるべきことを思い出したのだろう。そのやるべきことがあるからこそ、弱音を吐くわけにはいかないのだ。

 

「アンノウンは我々の目論見通りに、北極に向かったそうです」

「アンノウン……世界を救った英雄も、我々力無きものから見れば、正体不明の怪物か。うまくいかないものだな」

「ご冗談を。結果論では何とも言えます。我々にとっては、彼はかの生き物たちと同じ。彼がいない今こそが……」

 

 アンノウンと呼ばれた彼。世界を救った英雄、正体不明の怪物。明らかに誇大と思わしき表現が出ている。だが、それを言った男の顔には冗談を言っている感じはない。正真正銘、そう思っているのだ。

 一方でアンノウンと呼ばれた彼の話題に移ってからというもの、女の表情は忌々しげなものへと変わっていた。女は自身の感情を隠そうともしていない。嫌悪の感情が出るあまり、その表情が醜く変わっている。

 そして、そんな女を男は冷めた目で見ていた。それは、間違っても仲間に向けるような視線ではない。男にとっては女は仲間ではないのだろうか。そんな男の心中は男のみが知る。

 

「あとは……とりあえず、言われた通りに手をまわして、彼女をあのゲームに誘い込むことには成功しました。数日中には始めるかと」

「ふん。必要とあれば、子供さえ利用する。わかっていたことだが、ロクな死に方をできそうにないな」

「かの生き物に迎合する可能性があるものなど、人間と見てはなりません。しかし、彼女は……わざわざ手をまわす必要があるほどの素質があるのでさすか?」

「……。謎の力と高い素質を持つ。それだけではない。すでにパートナーが存在しているのだ」

「……!それは……つまり、かの生き物と……あの世界と既に接触していると?」

「おそらくな」

 

 また女の顔が醜く歪む。女はあの世界とかの生き物。そしてアンノウンと呼ばれた彼に相当な思いがあるらしい。

 男は、もちろん女のその思いを知っている。その上で、放っておいていた。というよりも状況的には男も似たようなものなのだ。ただ、女とは感じ方が、見据える先が違うだけで。

 

「……場合によっては接触する可能性もあるのだろう。感情をもう少し抑える工夫をしろ」

「わかってますよ。そこまで子供ではありません」

「まあいい。もうすぐ……もうすぐだ。……プロジェクト“D"を始める時は。何度も言うが――」

「わかっています。失敗は許されません。……ずっとこの時を待ち続けたのですから」

 

 落ち着いた雰囲気の男とは対照的に、女の雰囲気は復讐者のソレだった。

 プロジェクト“D”。それが何なのかを知るのは、この男女のみが知ることである。

 

 

 

 

 

 放課後。真っ直ぐに家に帰宅した大成は、一目散にデジタルモンスターへとログインしていた。

 過ぎたことを悔いても仕方ない。大切なのは次どうするか。そんな考えの下、大成は昨日デジタマ化した己のパートナーを孵そうとしているのだ。

 ちなみに、次どうするか、なんて考えて起きながら毎回の如く学習できていない大成は馬鹿というほかないだろう。

 

「おぉおおおおおおお!」

 

 そんな大成は、初心者から熟練者まで訪れるゲーム内の必須施設にいた。

 この施設はさまざまな施設が集まる複合施設とでもいうべきもので、ゲーム開始時のチュートリアルもここで行われる。しかも、デジタマの孵化はここでないと行えない。そんなさまざまな理由が相まって、初心者から熟練者まで、多種多様なプレイヤーが集まるのだ。

 大成は必死になって、高速でデジタマを撫でる(・・・)。傍から見るとバカみたいだが、デジタマを孵すためには、プレイヤーがデジタマを撫でる必要があるのだ。

 ちなみに、高速で撫でている理由は、一時流行ったある噂のためである。孵るまでに百回以上撫でることに成功すると、強いデジモンが生まれるという噂だ。もっとも、それは根も葉もない噂である。強いという抽象的なことも相まって、今では誰も信じていない。

 そんな噂を大成はご丁寧に信じ続けているのである。いや、どちらかといえば、そんな噂にも縋り付きたいという感じだろう。その鬼気迫る表情からして。

 周りの人から生暖かい目で見られながら、大成は必死に卵を撫でる。そして、卵を撫で始めて一分が経過しようという時、ついに卵に罅が入る。ここまでくれば、もうすぐだ。

 

「よしっ!あとちょっとで――!」

「……アンタ何やってんの?」

「ッ!?あ……」

 

 突如として後ろからかけられた声に、大成はびっくりして手をもつれさせてしまった。今、大成は高速で手を動かしていた。その手が、目標からずれたのだ。その先はどうなるかわかるだろう。

 もつれた手が、その勢いを保持したまま、卵に当たる。結果、ボールのように吹き飛ぶことになったのだ。卵が。面白いくらいに吹き飛んだ卵は、壁に激突してようやく止まった。結構な勢いで当たったにもかかわらずに、割れることがなかったのはここがゲームだからだろう。

 

「ぬぅあああああああああ!」

 

 奇声を上げながら卵を回収した大成は、事の現況たる声の主を見るために振り返る。そこには呆れた顔で大成を見つめる優希の姿があった。

 ちなみに、優希のアバターは現実世界の優希の姿とほぼ同じだ。その上でプレイヤーネームも同じ優希なのだから、これで本人を見間違うはずもない。というか、大成といい優希といい、ネット上での危機意識が足りなすぎる。

 

「何すんだ!」

「アンタが何してんのよ」

「見りゃわかるだろ!」

「見てわからないから聞いてるのよ」

 

 優希の方には黒い産毛の生えたスライムのようなデジモンが乗っていた。ボタモンと呼ばれる幼年期第一段階のデジモンである。

 一方で大成が優希に抗議の視線を送ったその瞬間に、何かが割れる音があたりに響いた。その音を聞いた瞬間、大成は優希をそっちのけで自分が持っている卵に目を向ける。先ほどの音はデジタマの孵る音だ。つまり、大成の新しいパートナーとなるものが生まれたということである。

 

「プワ?」

「おぉ!」

 

 現れたのは尻尾部分に葉をつけた、スライムのようなデジモンだ。リーフモンと呼ばれる成長期第一段階のデジモンである。

 ともあれ、無事に生まれたのだ。ならば、大成の次にすることは決まっている。リーフモンを抱えて、大成は優希には目を向けずに、トレーニング施設へと向かおうとする。

 ちなみに、バトルコーナーではなくトレーニング施設なのは、バトルができるのが成長期からだからだ。その制限があるために、幼年期デジモンは専用の施設でトレーニングするのである。

 

「はぁ……トレーニング施設とやらに案内してよ」

「えー……ま、俺も行くからいいけどね」

 

 ため息を吐きながら歩く優希を連れ立って、大成はトレーニング施設に向けて歩き出した。

 この時点で時刻はだいたい午後六時過ぎくらい。一番プレイヤーが多い時間帯だ。道も施設も混んでいて、歩くのにもそれなりに気を使う。現実張りのリアルさがあるからこその現象だった。

 大成と優希は人混みを押しのけて、トレーニング施設の中へと入っていく。さまざまなトレーニング機器がある部屋。機器は、人が使うようなものからデジモン用の小さなサイズのものまである。中には、一体何に使うのかさえわからないような、謎機械さえあるのだ。初めての人はここへと訪れて、微妙な表情をするのがほぼ通例となっている。

 そして、優希もその通例通りに微妙な表情をしていた。優希が見つめているのは、謎機械のうちの一つ。数メートルはあろうかという巨大な石像が、空中に浮いて回転している機械だ。

 

「何……アレ……」

「……気にしない」

「……」

 

 興味深そうに機器類を一つ一つ見て回っている優希を放っておいて、大成はリーフモンを機器の一つに乗せる。スイッチを押すと、機械が作動するのだ。

 そうして、大成がトレーニング開始のために機械のスイッチを押そうとした瞬間、世界に音が響き渡る。

 

 

「ん?」

「何?」

 

 突然の事態に大成も優希も疑問を抱くが、二人がそうやって呆然としている間にも、世界に響き渡る音はどんどん大きくなっていく。数分もすれば、大成も優希も耳を塞がずにはいられないほどに、それは大きくなっていた。

 優希と大成の耳に届くその音。それは言うなれば、これから始まる物語への開幕の鐘の音というところだろう。いや、あるいは――。

 

 

 物語とはそれぞれの人々が交わり、紡ぐものである。それはつまり、物語は一つではないということ。いや、さまざまな物語が一つの世界という巨大な物語を紡いでいるといってもいいだろう。

 それは逆に言えば、一つの物語が終わっても世界は続くということ。であれば、一度終わった物語に続きがあるのも、半ば必然だったのだろう。いや、世界が続く限り、物語は生まれ続けると言うべきかもしれない。

 さて。開幕の鐘は鳴った。

 もし、この物語に始まりがあるのなら、ここが――。

 

 




はい、第三話です。
これにて第零章は終了で、第一章に移行します。プロローグ部分が終わった感じですね。
ここから本格的に物語が始まります。

では、次もよろしくお願いします。
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