【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
朝。まあ、朝と言っても昼と区別がしづらい微妙な時間帯であるのだが。
ともかく。そんな時間帯に、優希たちは学術院の街の外のある場所へと向かっていた。そう、先日に零たちと戦ったり、大成と勇がバトルしたあの場所である。
理由は前回の時と同じで、街に余計な被害を出さないためなのだが――真っ先にそこへ行こうとする辺り、もうバトル専用の場所として大成たちに認識されていると言えるだろう。
ちなみにメンバーは大成と優希と勇と好季、そしてそれぞれのパートナーである。大成と勇は審判役だ。とはいえ、優希的には、本当は旅人に審判役を務めてもらいたかった。だが、当の旅人は昨日の夜にドルモンに捕まってご機嫌取りに尽力しているため、今日は来られなかったのである。
そんな中で――。
「……」
「えっと、お嬢様?」
「何?」
「う……怒ってます?」
「別に」
事態の中心にいる優希は、勝手にいろいろなことが決まったために、絶賛機嫌急降下中だった。
どれくらい機嫌が悪いかというと、今日の事を決めた張本人であるレオルモンが、思わず顔色をうかがってびくびくしてしまうほどに機嫌が悪かった。
というか、優希に冷たい態度をとられたせいで、レオルモンの精神に多大なダメージが入っている。今日、実際に戦うのはレオルモンだが、そのせいもあって精神的コンディションは最悪に近かった。まあ、自業自得なのだが。
レオルモンとしては優希のためを思っての昨日の発言だったのだが、優希にとってもレオルモンにとっても裏目にしかでなかったようである。
「えっ!?好季ってあのゲーム会社に勤めているのか!?」
「ま、勤めているとは言っても入社してまだ三年目だけどね」
「いやいや、あそこっていろいろなゲームを出してる大企業じゃねぇか!毎年すごい入社希望者がいるんだろ!?」
そんな頭の痛い思いをしている二人組とは裏腹に、大成と勇と好季の三人は意気投合していた。
好季は優希のことが絡まなければ、ごく自然な青年だったのだ。しかも、そこにゲーム好きという共通の話題があることに加えて、ゲーム会社に勤めている好季とこのゲームのランキング一位の勇、と話題には事欠かなかったのだ。
まあ、大成だけ特に何もないのだが。だが、本人もその他の二人も気にしていないようなので、いいのだろう。きっと。
「昔からゲーム好きだったからね。親には心配されたけど……なんとか良い会社に入れてよかったよ」
「へー……どんなゲームが好きなんだ?」
「やっぱり王道系かな。あのワクワク感はいくつになっても良いものだからね。いずれは僕もそんなゲームの制作に立ち会いたいものだよ。やっぱり最高なんだよね――」
「いいよな!王道系ゲーム!やっぱ最高なんだな――」
久しぶりにゲームについて語れる相手とあって、大成のテンションが若干高い。
確かに、人間の世界で友達が少なかった大成は、趣味の話で盛り上がることなどあまりなかった。大成自身も話で盛り上がることよりも、ゲーム自体をやっていたいと思うタイプだったこともあって、その現状を特に気にすることはなかった。
だが、この世界に来てからの大成は、そのゲームすらできなくなった。だからだろう。自然と自分と話が合う相手を無意識のうちにでも欲していたのだ。そして、ようやく勇や好季という待ち望んだ存在が現れた。そんな二人を前にして、テンションが上がってしまうのも無理からぬことだと言える。
だが、そんなテンションも好季と大成が同時に言った次の単語で、急激に別ベクトルへと向かうこととなった――。
「――RPGは!」
「――ギャルゲーは」
「……」
「……」
空気が凍った。
いや、もちろん比喩表現なのだが、その時のことを言葉で表すのならば、正にそういう表現が的確だったのだ。そして、一瞬後に訪れる、大成と好季の雰囲気の変化。両者とも、怒りにも似た雰囲気を纏っていた。
いきなりの雰囲気の変容に、何事か、と勇もデジモン組も大成と好季を驚いた顔で見ている。そして、それは機嫌急降下中の優希も例外ではなかった。
「君はバカかい?現実にはありえない容姿端麗な女性の登場。いくつもの壁を乗り越えて素晴らしい女性たちと結ばれる!それができるギャルゲーこそ、ゲームの中のゲームだろう?」
「お前はアホか!仲間との協力!そして友情!いくつもの危機を乗り越えて成長した主人公!そしてそんな主人公が世界を救う!そんなRPGこそが、ゲームの頂点だろうが!」
「まぁまぁ、落ち着いて……」
「勇気さんは黙ってろ!」
「勇くんは黙っていてくれないかい?」
ヒートアップしていく大成と好季の喧嘩。まあ、その理由もその喧嘩も、その何もかもが傍から見ているとあほらしいものであるのだが。
この場で最も年齢が高いのは好季であるはずなのだが、最も大人な対応をしたのは勇である。ヒートアップする二人を慎めようとしたのだから。まあ、実際は二人から優柔不断と取られてしまったのだが。最も大人な対応をした者が一番酷い扱いを受けるという、哀れなことになっていた。
「なら、白黒はっきりつけようぜ?RPGとギャルゲー。どちらがゲームの頂点に相応しいか!」
「ふっ、望むところ……と言いたいけどね。今日の所は遠慮させてもらおうかな」
「なんだ?怖いのか」
「どうとでも。好きなように取るといい。今日のメインは優希さんに僕の本気を見せること。君じゃない」
静かながら、その言葉には不動の意思のようなものが感じられて、大成は思わず萎縮してしまった。そして、大成がそんな様子だからこそ、これ以上自分に突っかかってこないことを悟ったのだろう。
おや、そろそろいい場所だろう。とそんなことを呟いた好季は自分のパートナーデジモンに臨戦態勢を整えさせた。
だが、対する優希は、まさかここで自分のことが再び持ち出されるとは思ってなかったのだろう。頬を引き攣らせて驚いていた。今の今まで蚊帳の外だったこともあって、もしかしたらこのまま自分のことが忘れられることを祈っていたのだ。まあ、所詮は叶わぬ思いだったのだが。
周りはすでに目的地の近く。そんなことを気づかないまでに手一杯だった優希は、すぐさまレオルモンに臨戦態勢を取らせる。
「ギャルゲーでよくある一目惚れなんて嘘だと思ってた。だからこそ、僕はギャルゲーにハマったんだ。そんなこと現実にはないから。でも、一目惚れはあったんだ。ゲームみたいなこの現実。僕は必ずモノにしてみせる!」
「ってことは、女ならなんでもいいのか!」
「そんなわけないよ。というか、昨日聞いたよ?大成くんこそ、デジモンならなんでもいいみたいだね」
「なっ!そんなわけあるか!おい、やっぱり俺とイモが――」
「……さて、準備はいいかな?」
「無視すんな!」
いろいろと言われて喚く大成。まあ、売り言葉に買い言葉なのだが。
一方で、ゲームみたい、とその言葉を聞いた優希は好季に軽い殺意を覚えていた。
まるで自分がゲームの特典として扱われているように思えたのだ。誰だって、勝手に自分をゲームの特典扱いされればいい気はしないだろう。
そして、そんなことを平気で思う好季に、優希は嫌悪感を抱く。この時点で好季への優希の好感度は最低に近くなった。優希の嫌悪ランキング上位に一気に躍り出たほどである。自業自得ではあるが、好季の望むようにはなりそうにないことが確定した瞬間だった。
そして、優希が内心でそんなことを思っている間にも、優希たちは数メートルの距離を挟んで向い立つ。
その数秒後――。
「さぁ、見てくれ!僕と僕のパートナー……ミケモンのワルツを!」
「いちいち芝居のかかった言い方を……!私はアンタの装飾品なんかじゃない。セバス!」
「はぁ、了解ニャ……」
「了解ですな!」
戦闘は始まった。
好季のパートナーはミケモン。三毛猫のようなデジモンで、小さいが立派な
一方のレオルモンは事の半分が自分のせいということもあって、やる気を急上昇させていた。試合開始の合図と共に、初撃を叩き込むべく全速力でミケモン目掛けて突進していく。
「ふっ!」
「……」
「避け――っ!」
「隙だらけ……ニャ!」
勢いの乗ったレオルモンの初撃をミケモンは軽々と躱す。それだけではない。すれ違いざまにカウンターをレオルモンに叩き込んでいる。
カウンターを受け、吹っ飛びながらもレオルモンは態勢を立て直す。確かに一撃を先に決められたが、先に一撃を決めた方が勝ちというルールではない。レオルモンは負けたわけではないのだ。だからこそ、レオルモンは冷静に状況を見据えるように努力する。
それは、ここ数日のトレーニングの賜物だった。というか、スレイヤードラモンにフルボッコされた賜物である。
もちろんスレイヤードラモンほどの相手だと、レオルモンが初撃を決めるのは――いや、それどころか一撃を加えることすら不可能だ。そんな相手と毎日戦っているからこそ、自分の攻撃が躱されたり防がれたりしても動揺しなくなってきているのである。
ようするに――。
「ならっ!」
「ニャ!?このっ!」
「……ぐっ!」
当たらなかった前より当てる次が重要なのだ、ということをレオルモンは身をもって知っているのだ。
だが、だからといって戦況は特に変わることがなかった。レオルモンの攻撃は確かに鋭い。しかも、戦闘中にどんどんミケモンに当たるように調整されていっている。
だが、そのどれもをミケモンは素早い動きと軽やかなフットワークで躱し、カウンターを叩き込んでいた。このままいけば、レオルモンの攻撃がミケモンを捉えるより前に、レオルモンの体力の方が先に尽きてしまうだろう。
「いいねミケモン!見た感じレオルモンの攻撃は威力が高そうだ。無理してカウンターを入れる必要はない!」
「ニャ!」
「っ!セバス!」
状況はレオルモンが劣勢だった。
しかも、これが自分に対する一種の試験的な意味合いを持つということで、好季の方には手加減するという考えはない。必死にレオルモンの隙を探し、ミケモンの役に立とうと頑張っている。
一方で、優希はそんな好季にただ驚いていた。
強制進化という、優希にもパートナーデジモンを補助する力はある。いや、その力があるからこそ、優希はレオルモンを補助してこれたと言っていい。もちろん、仮にその力がなかったからといって補助しないというわけではないのだが――結局は、たらればの“もしも”の話である。
対して、好季の方はそのような力を何一つ使っていない。まあ、持っていないのだから当然なのだが。だというのに、自分に出来ることを必死に探して頑張っている。
それが――そんな行動こそが、そしてそんな行動を好季がしているという事実が、優希には驚きだったのである。奇しくも、昨日同じ場所で驚いた大成と同じ部分のことを、優希も驚いたのだ。
自分とは違って何の力などなくとも。それでも何かでパートナーの補助をすることはできるのだ、と。優希はそれを思い知らされたのだ。
もっとも、優希のような特別な力を持つ者が少数である以上、これが本来の補助の仕方と言える。直接戦うことはできないが、それでも共に戦う者として戦況を客観的に見ることができるからこそできる補助の仕方だ。
だが、優希がそんなある意味でのカルチャーショックを受けている間にも、戦況は進んでいた。レオルモンが、とうとう地面に倒れてしまったのだ。
「がはっ!……」
「セバス!」
「お、お嬢様……大丈夫です、まだ行けます……!」
「もう諦めたらどうだい?これ以上は君のパートナーも……」
「……」
「ね?」
「セバスはまだいけると言った。なら、ここで諦めさせるのはセバスに失礼に決まってる」
「なるほど。諦めない強さを支える優しさ。さすがだね。でも、諦めさせるのも優しさだ」
そのように言う好季の視線に、優希たちを貶めるようなものはなかった。本気で真面目に優希たちと向き合っているがゆえに、レオルモンの底が好季には見えたのだ。
これは、だからこその提案である。君たちでは勝てない、と。これ以上傷つくこともないだろう、と。残酷なまでのその事実を、好季は突きつけたのだ。それが好季の優しさだった。好季にとってこのバトルは、自分の真剣さを優希に見せるためのものでしかない。ミケモンにレオルモンを痛めつけさせるのは、好季の本意ではないのだ。
まあ、これ以上続けると見ていても辛いというだけではなく、優希からの好感度も下がるのではないか、というかなり切実な懸念もあったりするのだが――好感度の方はもうどうしようもないレベルだということに、好季は気づいていなかった。
「……はっきり言うわ。私はアンタのことが好きじゃない」
「……。ははっ照れて――」
「たとえ優しさでも、一緒に苦しむこともしないで人に諦めさせる人を好きになんて……私は絶対にならない。セバス!」
「はっ!お嬢様!」
「そっちも
その瞬間。優希のペンダントが光を放つ。以前よりも遥かに強く。
それと同時にレオルモンは以前よりも大きな湧き上がる力を感じていた。一方で、ミケモンは、突然の事態に困惑するしかなかった。攻撃や回避を止めるまではいかないが、その変化を前に手を出しあぐねているようだ。
だが、その一瞬で。進化は完了する。
レオルモンの姿が光に包まれる。一瞬おいて、現れる
そして――。
「ッ――!進化し――!」
「はっ!」
「ニャ?ニャがっ!」
すべては一瞬だった。
機械の獅子が駆けた――と優希たちが思った瞬間には、もうミケモンは機械の獅子から攻撃をくらってしまってノックダウンしていた。それだけではない。ミケモンだけではなく、機械の獅子から退化したのだろうレオルモンまでもが
そんな結末に、誰もが唖然としている。
あまりの事態に、審判役の大成と勇、そのパートナーたちでさえ何が起こったのか理解できていなかったほどだ。
「え?あれ……引き分け?」
「たぶん……」
「じゃ、じゃあ引き分けっ!」
そんな、締まらない掛け声と共に不完全燃焼のままこの勝負は幕を閉じることになる。
だが、優希も好奇も勝負の終わりを告げる大成たちのその声を聞く暇もなく、自分のパートナーの所へ駆け寄っていた。幸いにも、デジタマ化する様子も、光となって消える様子もない。両者とも生きていた。
それだけにホッとして好季はミケモンを抱えて、優希の下へと歩いて行く。だが、優希はレオルモンが心配なのだろう。好季の方を見ることすらしなかった。
「……僕の想いは受け取って――」
「しつこい。何度来たって――」
「そっか。ははっ……フラレちゃったか……」
最後に呟かれたその言葉。
思わず驚いた優希が、気絶したままのレオルモンよりも好季の顔をガン見してしまうくらい、その言葉は衝撃的なものだった。
昨日あれだけ聞き分けのなかった好季が、あっさりと優希の言葉を聞き入れたのだから、当然と言えるのだが。
「意外かい?僕だって社会人だ。相手が嫌がっているかどうかぐらいわかるよ。嫌がる女性を必要に追い詰めるのは趣味じゃない」
「だったら、昨日はなんで?」
「やっぱり……諦め切れることじゃなかったからかな」
「……?」
「それじゃあ、もう行くよ」
それだけ言い残して、好季はミケモンを抱えて去っていく。その悲しそうな雰囲気は、フッた張本人である優希ですら声をかけようとしてしまうほどだった。
優希は知りようのないことだが、自分の好季という人間にとって優希との出会いは鮮烈なものだった。まあ、一言で片付けてしまえば、確かに“一目惚れ”の一言だけで済む。だが、例え一目惚れだとしても、好季にとっては生まれて初めて恋だった。生まれて初めての本気の好きだったのだ。だからこそ、自分の主義を曲げても、持て余した気持ちを届けたかったのだ。
まあ、結果はこうなったのだが。
去っていく好季を優希は見つめる。だが――。
「ああ、そうそう」
「……?」
ある程度歩いた所で好季は振り返った。その雰囲気は相変わらず悲しそうだったが、これだけは言っておきたいことがあったようだ。
「優希さんはミケモンのことを成長期だと思い込んでたけど……ミケモンは成熟期だよ」
「……え?」
「ああ、あと旅人さんとは幸せにね」
「……あ」
最後の最後で優希は気づいた。誤解していたことに。そして、誤解を解いていないことに。
今日はいろいろなことがあった。いや、ありすぎた。未だどうしたらいいかわからず所在無さげに立っている大成たちの下へと歩きながら、疲れた溜め息を吐いた優希だった。
というわけで第三十話。少し戦闘は短めでした。
最後に進化したのは一体何なんでしょうか!?いや、バレバレですけれども。
好季さんはこれで退場。彼の初恋は叶いませんでした。が、いずれまた再登場します。
そして、その時こそギャルゲーとRPGの代理決戦になるかもしれません。
さて、次回はようやく主人公に日の光が……と見せかけて、忘れられかけているあの人たちとあの話題に触れます。
では、次回もよろしくお願いします。