【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
第十三話から番外編の文字を取りました。
理由は、番外編扱いじゃなくてもいいんじゃないか?と思ったからです。
この話を含めて番外編扱いのままにして欲しい!という方がもしいたら、おっしゃってください。検討します。
チリリリリッと甲高い音が目覚し時計から部屋一帯に鳴り響く。それは、朝を告げる合図であり、同時に起床しなければならないという警告音だ。
だが、そんな音が聞こえたというのに■■は、己の眠りを妨げるその音を止めるべく、目覚まし時計をスイッチを押した。押してしまった。
結果はたいていの人が予想できるだろう。そう――。
「まだ……寝れる……」
再びの眠りにつくことになったのだ。まあ、単なる二度寝であるのだが――たかが二度寝。されど二度寝。二度寝は、会社勤めの社会人、育ち盛りの学生、果ては家事に忙しい主婦。全ての人を堕落させ、遅刻へと誘う魔力を持っている。その力に抗えるものなど、滅多にいない。
いや、意外に多いかもしれないが。
とにかく。この少年には不可能だった。この少年は名前を■■といい、まだ十歳にもなっていないような幼い子供だ。
そして、年齢が十にも満たないということは、理屈よりも感情や感覚を優先する年頃であるということで。そういった子供を律するのは、当然――。
「こら!■■!いい加減に起きなさいっ!」
親の役目である。
そうして■■は、母親に怒鳴られて、渋々起床する。それは、毎朝の習慣と言えるほど、繰り返されている一連の行為だった。ご近所の人たちも、“ああ、またか”や“今日はいつもよりも大きい声ね~”などと寛容に話しているくらいである。
まあ、■■からすれば、どうして毎回毎回怒鳴られないといけないんだ、という話なのだが。とはいえ、もう一方の母親も、いろいろと時間のない朝に家事をするために早起きをし、その傍らで■■を起こすのだ。朝が時間との戦いである以上、そう優しく起こせるわけもない。
「おはよう……あふ……」
「おう。おはよう。なんだ?また夜ふかしか?」
欠伸をしながら、リビングへと行く■■。そんな■■を出迎えたのは、食事をしながら新聞を読んでいる■■の父親だった。■■の姿を見た瞬間、ニヤリとした笑顔をする。たったそれだけのことなのに、それすらもどこか格好良く見える。
■■の父親は、昨今の女性にモテるようなイケメンではないが、言うなればそんな渋いかっこよさと魅力を持つ人物だった。
そして、そんな格好良い父親が、■■は大好きで、密かな自慢だった。まあ、恥ずかしいので口には出さないが。
「パパと一緒にしないでよ」
「ははっ、手厳しいなぁ……なぁ?」
「パパ、新聞読みながら朝ごはんを食べるのはやめて頂戴。ながら行為は行儀悪いわ」
「おぉう……手厳しいのはママもだったか……」
とはいえ、今は朝の忙しい時間帯だ。
すっかり目の覚めた■■も、初めから食事をしていた父親も、■■が来たことでようやく食べ始められるようになった母親も。全員が、食事に集中する。
それが、■■の毎朝の風景。そして、どこにでもあるような、平凡な日常のひとコマである。
ちなみに、■■の家では、食事時にはテレビをつけない。が、食事を終えてから出勤や登校するまでの僅かな合間にはテレビをつけており、主にニュース番組が流れている。
まだ子供である■■はニュースなど興味はないが――。
――現地でが環境汚染が深刻な被害を出しており、住民の不安の声が上がっております。しかし、原因は依然として不明で……――
「またこのニュースか」
「いやねぇ……」
「……?」
さすがにここ数日何度も同じ内容のことについて放送していれば、嫌でも内容を覚える。まあ、理解しているとは言い難いが。
テレビのニュースで流された内容は、■■の住んでいる街のことである。■■には内容が難しく、内容について理解できないものの、大人たち全員が揃いも揃って難色を示していれば、良いことではないことくらいはわかっていた。
「カンキョウオセンってどういう意味?」
「え?ええ。えっと温室効果ガスとか、産業廃棄物とかがね……」
「まて、ママの説明は難しすぎる。ようするに、世界が汚くなっているってことだよ」
「へー」
「それは簡単すぎ」
ともあれ、■■にはどうしようもないことであるし、そんなことに頭を悩ませるくらいならば遊んでいた方が楽しい。気になって聞いたのはいいが、すぐに興味を失ったようだった。
そして、そんな■■に、父親も母親も苦笑している。が、決して苦言は言わなかった。このような問題は大人の問題であり、子供は楽しく過ごしていればいいという考え方を二人は持っていたからだ。
だが、そうこうしている間にも、時間は過ぎていて――。
「……?あっ!パパ!時間時間!」
「え?やべっ!それじゃ、行ってくるよ!」
「いってらっしゃい!ほら、■■も急がないと!」
「はーい。行ってきまーす!」
結局、遅刻ギリギリを覚悟しなければならない時間に、父親と■■は出かけることとなった。
車で出かける父親と別れて、■■は学校までの道を行く。かれこれ数年も通い慣れた道だ。道に迷うはずもない。だが反対に、その足取りは重かった。
それもそのはずで、■■は学校に行きたくなかったのだ。いや、学校に行きたくないというよりは、学校を面倒に感じていると言うべきか。今日の授業の時間割は、■■にとって嫌いな科目が多く、しかもトドメとばかりにテストまである。そんな嫌なものが重なっている今日だからこそ、■■は学校に行くのが面倒だったのである。
「はぁ……サボろっかな……」
そんな弱気なことを言いながらも、学校をサボったことのない■■にそんな度胸がある訳もなく。重い足取りながら、一歩一歩学校に向かって着実に近づいていた。それのことに気づいて、■■はため息を吐く。もう学校はすぐそこだった。
あの曲がり角を曲がればもう到着する――その時だった。■■がその人と出会ったのは。
「△△のバカ~!迷っちゃったじゃん~!」
「オレのせいかよ!〇〇がキノコに驚いて走ったのが悪いだろ!」
■■の目の前にいるのは、曲がり角から現れたなんだか賑やかに話す一人の少年。
■■には遠目でよくわかないが、中学生か高校生くらいだろう。その傍らには見たこともないような犬らしき生物がいる。
だが、そんなことはどうでもよく。単純に■■は驚いていた。自分よりはだいぶ年上だとしても、見るからに学校に通う年頃の少年が、ペットであろう犬と共にこの登校時間に歩いているというその事実に。そして、その犬が話しているというありえない事態に。
「えっと……あの……」
「だから――ん?えっと……君は?」
「あ、はい。僕は■■と言います」
少年は不思議そうに■■を見ている。何の用で話しかけられたのかわからないからだろう。
まあ、それは■■も同じなのだが。
知らない人には話しかけてはいけない。そんな学校で習う当たり前のことを、■■はなぜか真っ向から破ってしまったのだ。自分の気持ちに整理がついていないということもあって、■■は今、混乱の極地にあった。
「オレは△△。こっちは〇〇。えっと……君はこの近くの学校の生徒か?なにか用か?」
「あ……えっと……僕は■■と言います。で、その……えっと……そ、その犬……喋ってませんでした?」
「え?何のことだ?犬が喋るわけないだろ?なぁ?」
「いっ……じゃない!ワン!ワン!」
さらりと確信を持って言われた■■の言葉を前にして、一方の少年は頑張って取り繕おうとしているが、犬のような生き物は誤魔化すのが下手だった。もう、どうあがいてもどうにもならないレベルだ。
そして、誤魔化しきれないと悟ったのだろう。少年は溜め息を吐いてジト目で犬を睨んでいた。反対に、うまく誤魔化すことのできなかった犬は、明後日の方向を向いて愛想笑いを浮かべている。
「はぁ。もっとがんばれよ……〇〇。役立たず」
「ひどいっ!△△だってオレのことを犬って呼ぶって……語彙が少な過ぎでしょ!」
「……語彙?」
「それくらいの単語はわかるでしょ~!バカ~!」
「バカとはなんだよ!」
「えっと、あの……?」
お互いに罵り合っているようで、喧嘩しているようで、それでも確かに仲がいいとわかる。不思議な関係の二人組だと■■は思っていた。まあ、存在自体がすでに不思議であると言えるのだが。
そして、そんな不思議の塊のような二人を前にして、好奇心が刺激されたのだろう。この二人組と■■は、もう少し一緒にいたくなったのだ。
それは、■■にとって最初で最後の学校をサボる決意となった。
「お二人は?」
「だから――!え?オレたち?……まぁ、世界中を旅してるんだよ」
「つい最近日本に戻って来たんだよね~」
「へぇ!なんだかすごいんですね!」
「やばい、なんか初めて尊敬の眼差しを受けて気がする……!」
世界中を旅している。なんともスケールの大きい話である。自分の街からほとんど出たことのない■■は、そんな少年の言葉に感激し、少年に尊敬の眼差しを送っていた。
一方で、幼い頃から旅をしていて、多くの人に頭おかしい子扱いや乞食扱い、果ては難民扱いされていた少年。そんな少年は、そんな■■の尊敬の眼差しを嬉しそうに受け取っていた。
まあ、その場にいた中で犬だけは、その尊敬の眼差しが純粋な子供であるが故の虚しい産物であることをなんとなく察していたのだが。
「っていうか、君は学校いいのか?」
「えっと……はい!あの、もうちょっと一緒にいてもいいですか?」
「……?いや、いいけどさ。別に得るものなんてないぜ?なぁ?」
「うん。△△はバカだし……」
「盛り返すなよ」
「大丈夫です!」
何がこの目の前の子をここまで駆り立てるのだろうか。そう思った少年であったが、テレビや漫画の中でしかないような“不思議”が目の前にあるのだ。年頃の少年なら憧れるその“不思議”が。だというのなら、■■が興奮して、つい強引に迫ってしまうのも無理はないことだろう。
■■がいかにも学校に通う途中の子供であったことに、初めは渋っていた少年。だが、やがてどうでも良くなったのだろう。気軽な感じでOKを出すのだった。
まあ、その少年の気軽というか、軽率な行動に、犬は溜息を吐いていたのだが。
とはいえ、大人ならいざ知らず、子供では数歳年上の子供に相対するだけでもかなりの勇気がいる。少年に話しかけた■■のそんな勇気を犬もわかっているのだろう。だからこそ、溜息を履くだけで何も言わなかった。
「ありがとうございます!」
「いいってことよ。あ、そうだ……せっかくだしな。この街って良いところある?」
そんなこんなで話は纏まった。そして、いざ行動を開始しようとしたところで、こう少年は■■に尋ねたのである。
いきなりの質問に驚いた■■ではあるが、律儀にこの街の良いところを言おうとする。だが、たかが十にも満たないような歳の子供が言えることなど、せいぜい観光名所くらいだろう。
申し訳なさそうにそのことを言う■■に対しても、少年は気にすることなく、その観光名所をとりあえずの目的地と定める。
実に適当であるが、そんな行き当たりばったりの行動をする少年が、どこか自分の父親と重なるようで。そんなことに、■■は不思議な感覚に陥りながらも、少年の話に興奮したりして目的地までの道中を楽しむのだった。
そして、数十分後――。
「ここか?」
「ここ……なんですけど……」
目的地である場所に辿りついた。だが、そこに広がっていた光景は、期待するようなものではなかった。少年たちにとっても、■■にとっても。それまでの道中の楽しさや興奮が嘘みたいに消え去るような光景が、そこには広がっていたのだ。
目的地は、河だった。一級河川でもあるその河は、この街のシンボルになるほどのものである。確かに全国単位で見れば有名ではないが、それでも壮観な光景を見せるほどのものだった。
それが。そんな河が。
「なんだこれ……」
「汚い……それに臭っ!」
「これって……ニュースの?」
とてつもなく汚かった。河の色は見るも耐えないようなものへと変わっており、漂ってくる臭いはそれこそこの場にいるのが辛いほどだ。
呆然としていた■■も、ようやくわかってきた。ニュースで頻繁にやっているのは、これなのだと。あの雄大な河をこんな風にしてしまう何かがあるのだ、と。だから、大人は必死になって騒いでいるし、ニュースでも頻りにやっている。
もっとも、おかしいのは、これほどのことが起こっているのに、この現象を起こした原因は不明であるということなのだが――それを■■や少年が知る由はなかった。
「いつもこうなのか?」
「いや……少なくとも、一週間前は普通で……」
「一週間でこうなったってのか?」
この街に住んでいる■■が、あまりな光景にショックを受けているのがわかったのだろう。少年も犬も何も言わない。
そして、そんな時だった。天を震わすほどの轟音が辺りを襲ったのは。突然の事態に、少年と犬も■■も、その音が響いたであろう方向を見た。
そこにあった、いや、
「ギャァアアオオオオオオオオオ!」
「デジモン!?おい、〇〇!デジモンってのはこの世界にはいないんじゃないのか!?」
「知らないよ~!」
怪獣だった。全身の筋肉が腐り落ちていて、酷い悪臭を放っている。はっきり言って生きているのが不思議なレベルだ。体の一部を機械にして生存しているようだったが、体が崩壊しているところを見てもほとんど意味はないのだろう。
それが、レアモンと呼ばれる成熟期のデジモンだった。とはいえ、その悪臭から幼年期レベルには脅威であるものの、同世代である成熟期デジモンの敵ではないレベルのデジモンだ。
「え?△△さんたちはアレが何か知っているんですか!?」
「いや、知っているような知らないような……?」
「知識として知っているみたいな!」
レアモンは土手に上がってきて、■■たちの方へと向かってきている。はっきり言って、非常事態だった。
しかも、レアモンの出現によって、凄惨たるこの場を見に来ていた野次馬の人々もパニックになり、一目散に逃げ出し始めている。まあ、突然怪獣が現れればパニックにもなるだろうが。
そして、その例に漏れず、■■たちも逃げ出し始めている。だが、レアモンは■■たちをロックオンしているらしく、■■たちを執拗に追い掛け回していた。
「〇〇!」
「了解~!あ、一気に完全体で」
「なんでだ!アイツ弱そうじゃないか!」
「だって、戦うの初めてだよ!?怖いよ~!」
そんな中で、少年と犬は何かを話していた。どうやら、この場を打開する策があるらしい。だが、初めてだの、怖いだの、■■が不安になるような単語がいくつも出てきている。
「知るか!どっかでライオンとガチバトルしたことあっただろうが!」
「その後に現地の警察に勝手に野生動物を殺したとかで追い掛け回されたりもね!でも、やっぱり怖いものは怖いの~!」
「△△さん!なるべく早く……!ドロドロお化けがそこまでっ!」
「っち!set『二重』『進化』!」
「○○○○!ダブル進化――!」
その時見た光景を、■■は決して忘れないだろう。少年が取り出した二枚のカードが消えた瞬間に、犬の姿が光と共に変化したのだ。より大きな赤と白の竜へと。
そして、変化したその瞬間に竜は空を駆け、レアモンを攻撃する。やはり怖いのか、攻撃と退避を繰り返す戦い方。だが、竜とレアモンでは、竜の方がずっと強そうである。少なくとも、■■はそう思う。
しかし。現実はうまくいかないもので、レアモンには竜の攻撃はまったく効いてなかった。しかも、そこで予想外のことが起きる。それは――。
「グギャウアアアアアアア!」
「って……えぇっ!?」
「あのドロドロも変わった!?しかも……!」
レアモンの姿が変化したのだ。目の前に存在する竜と同じ姿へと。その場にいた誰もが、その有り得ない事態に呆然としていた。いきなり、戦っている相手がこちら側と同じ姿になったのだ。それは驚くことだろう。
そして、トドメとばかりに能力も上がっていた。ただでさえ、攻撃が通じていなかったというのに、さらに能力が高くなったのだ。もう、厳しいを通り越して無理である。
その状態で取れる手段などそう多くはなく――。
「くそっ!○○!逃げるぞ!」
「え?あっ!了解~!」
「えぇっ!△△さん!」
一時撤退。それだけが、この場でできる策だった。
もっとも、それができるかはまた別問題なのだが――。
というわけで、第三十二話。登場人物たちの名前が伏字になっているのは仕様です。
まあ、わかる人にはわかりますが。■■は無理ですが、○○や△△はわかりやすいです。
さて、思いのほか長くなったので、またも分割します。
次回は後編。この話がどういう意味を持つのかは、後編で明らかになります。
そして、今作と前作の両方を読んでいる人には、この先の展開が少し読めるかもしれません。
まあ、前作での今回の件の扱いは全文の中で一文くらいは触れたかな?くらいの扱いなので……大変わかりにくいと思います。
さて、それでは次回もよろしくお願いします。