【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第三十三話~過去の遺産は今を狙う~

「大成さんですね?ウィザーモン特別名誉教授が呼んでおります。今すぐウィザーモン特別名誉教授の研究室へ行ってください」

 

 そう、大成に告げたのは白いチェスの駒のようなデジモンだ。ポーンチェスモンと呼ばれる成長期のデジモンである。この学術院の街にも大勢いるデジモンで、大成もこの街に来てから何度となく見たことがある。

 だが、そう言われたのはいいが、今の大成は仕事の途中である。とある店の開店前の清掃中なのだ。今日は一日この店でこき使われるのが、大成の仕事なのだが――。

 

「いいって。行ってきな」

「え?いいのか?」

「ああ、特別名誉教授様からのお呼び出しとあっちゃ、こっちもワガママ言うわけにはいかねぇ。さっさと行きなっ!」

 

 意外なことに、店主から許可が出た。店主は赤い植物のようなデジモンで、レッドべジーモンと呼ばれる成熟期のデジモンである。店を手伝いに来てから、大成に嫌がらせのような手伝いをさせ続けたということもあり、性格はお世辞にも良いとは言えないのだが――そんなレッドベジーモンですら、あっさりと許可を出したのだ。そのあまりのあっさり具合に、特別名誉教授というものの凄さが垣間見れた気がする大成である。

 まあ、許可も出たことなので、店主に別れを告げて大成はウィザーモンの研究室へと向かうことにする。最後、レッドベジーモンは地面に手を叩きつけて悔しがっていたが、それを大成は見なかったことにした。

 で、数十分の道のりを歩いて、大成が研究室へとたどり着くと――そこでは呆れ顔のウィザーモンが大成を出迎えた。

 

「遅い。何をしていたんだね?」

「いや、いきなり呼び出しといてそれはないだろ」

「ふむ……まぁ、そうか。む?ワームモンはどうした?」

「イモはリュウとどこか行ってる」

 

 どこか、と大成は言うものの、何をしに行っているのかはわかっていた。修行だ。ムゲンドラモン襲撃の際に、中断されていたソレを再開することになったのだ。

 ちなみに、レオルモンも一緒である。本格的な修行の開始の際に、初めは優希の傍を長時間離れることとなるために難色を示していたレオルモンだったが、代わりにドルモンが優希と行動することになったため一応の納得を示した。まあ、自分よりもドルモンの方が強く、そして頼られているという事実をつきつけられて、半ばヤケになっていると言えなくもないのだが。

 

「そういや、なんで優希はドルを連れて街の外へ言ってんだ?どうせウィザーモンの入れ知恵だろ」

「ふむ?まぁ、そうなのだがな」

 

 そう。好季との戦いの後から、優希はドルモンと一緒に街の外へと出かけることが多くなった。それは、大成の言う通り、ウィザーモンからの入れ知恵だ。

 以前、好季との戦いで起こったレオルモンの未知なデジモンへの進化。ウィザーモンは、それは完全体への進化なのだろうと考えたのだ。そしてそう考えた時に、レオルモンが倒れたのは完全体の力に耐え切れなかったからだと予想がつく。

 

「へぇー……あれ、でもそれが優希とドルが一緒に街の外に出るのとどう関係あるんだ?」

「それはだな――」

 

 それと同時に、レオルモンがいきなり完全体へと進化したのは、優希の力が上がったからだという予想も成り立つ。完全体へと進化させることが可能になるくらいに優希の力が上がっていたのだ、と。

 だが、先に述べたように、レオルモンは完全体の力に耐えきることができない。であるならば、レオルモンが完全体の力に耐え切れる体作りをするのは当然として、成熟期を視野に入れた力の行使ができるように優希も自身の力をコントロールしなければならない。

 よって、完全体の力に耐え切れるだろうドルモンを使って、優希自身も自身の力の制御トレーニングを行うことにしたのである。

 

「ああ、それでドルと街の外に……しっかし完全体かー……!いいなー」

「未だ成熟期にも進化できていないパートナーを連れている分際で何を言う」

「いや、そうだけども!憧れるだろ!?」

「……さて、ワームモンがいないのか。困ったぞ」

「無視すんな!」

 

 そんな優希たちのことはともかくとして、ウィザーモンは大成とワームモン両方に用があって呼び出したようだった。だが、実際に来たのは大成だけ。二人が一緒に行動していないというのは、ウィザーモンにとって予想外のことだった。

 どうしたものか。そう考えたウィザーモンだったが、すぐに打開策を思いつく。すなわち、いないのならば呼べばいい、と。

 ウィザーモンが、空中に魔法陣を浮かべて何かをブツブツと唱えたかと思えば、しばらくの後に空中から部屋に響き渡るように聞こえてきたのは――。

 

――ん?これ、ウィザーモンの奴か?もしもーし?――

「ああ、無事につながったようで何より。さて、旅人――」

 

 旅人の声だった。

 いきなりの事態に、大成は驚きを隠せなかった。が、しばらく考えて、ゲームでよくある通信手段的な何かなのだろう、と大成は納得する。

 いや、そもそも現実世界ですら携帯電話という身近な通信手段が存在するのだ。この世界でも似たようなものがないと考えるのは早計だろう。

 

「大成のワームモンを連れてきてほしい」

――いきなり何言ってるんだ!?――

「さっさとしてくれ。君の滞在中の費用を出しているのはこちらだぞ」

――いや、ムゲンドラモンたちを倒した功績ってことになってなかったか?……まぁいいや。暇だし――

 

 短い通信だったが、それだけで終わった。旅人が最後にポツリと呟いた言葉が彼の今を物語っているようで、哀れみを誘われた大成だった。

 

「便利だな」

「ん?ああ、通信のことか。専用の設備があれば誰でも使えるし……そもそも旅人と優希はアナザーがあるからな。専用の設備がなくても楽に連絡は取れる」

「アナザー……なんだっけ?どこかで聞いたような気が……」

 

 しばらく考えて、大成は思い出した。優希が持っていた携帯電話に似た機械だと。初めはレオルモンがその中に入っていたりもして、なかなかに多機能な機械だった覚えがあった。

 あの時はまだこの世界に来たばかりのことだった。あれからまだ一ヶ月も経っていないはずであるのに、随分と長い時間が経っている気がする大成。きっとこの世界に来てからの濃い日々がそう思わせるのだろう。

 

「旅人の持つオリジナルは違うが、優希の持つアナザーは僕が作ったものでね。通信機能その他諸々、熟知している」

「ストップ。あれって、ウィザーモンが作ったのか!?」

「何を今更。人間の世界でも使えるように調整を加えたりしてな」

「人間の世界に行ったことあるのか?」

「ない……が、そこら辺は想像で何とでもなるだろう。そういえば、その辺りのことを優希に聞いてなかったな。今度聞くか」

 

 アナザーが凄い機能を持つということは大成も知っていた。が、まさか身近にいた者が製作者であった事実に、大成は驚きを隠せなかった。さすがに開発者ではなかったようだが、それでもあれを作ることができる時点で、その凄さがわかるだろう。

 とはいえ、大成が日頃からお世話になっているデジメンタルを作ったのはウィザーモンだ。そう考えると驚くまでもないことかもしれない、と一瞬でも思ってしまった大成はだんだんと感覚が麻痺しているのかもしれなかった。

 なんだかんだで、そろそろ驚き疲れてきた大成である。が、きっとまだまだ驚くことにはなるだろう。それは、容易に予想がつくことだ。

 

「でも、なんでイモが必要なんだ?」

「フフフ。優希の協力もあって、デジメンタルを改良してね。ぜひ実験したいのだ!」

「改良?」

「うむ!まあ、成功しているかどうかを確かめねばならないのだが――」

 

 一応、友情のデジメンタルは大成が肌身離さず持っていたために、改良されたのはそれ以外のデジメンタルとなる。具体的にどこが改良されたのか。それを聞きたい大成だが、すべてはワームモンが来てから、とウィザーモンはもったいぶってなかなか言おうとしない。

 そのもったいつけた言い方に若干イラっとした大成である。

 そして、数分後。待ちに待ってようやくワームモンが到着する。まあ、旅人が抱えてきたのだが。当のワームモンは、スレイヤードラモンのしごき(修行)を受けていたにしては元気がいい。どうやら、本格的に始まる前に旅人に連れてこられたようだった。

 

「連れてきたぞ」

「うん、ありがとう。もう行ってもいいぞ」

「本当にこれだけのためにオレを呼んだのかよ……」

――天才と馬鹿は紙一重とはよく言うたもんやな~――

「一応天才だろ。多分な」

「何を一人でブツブツと言っている。さっさと行きたまえ」

「……嫌がらせか?」

 

 まあ、退室を促しておきながら難だが、ウィザーモンは旅人がこの場に一緒にいてもそれはそれで構わなかった。旅人がこの場に残りたいと言えば、溜め息を吐きながらもこの場にいる許可を出すつもりだったのだ。どちらでも構わなかったからこそ、その選択を旅人に任せたのだ。まあ、遠まわしに告げる、いやらしいやり方だが。

 一方、旅人はこの場に残る利点はあまりなかった。好き好んで、ウィザーモンの実験談義を聞こうと思わなかったのである。

 よって、ワームモンだけ置いて、旅人は部屋から出ていった。その姿を前に、彼はいろいろと体よく扱われている気がした大成。まあ、あまり間違ってはいないだろう。

 

「ぼ、僕はなんで連れてこられたんですかぁ……?」

「いやなに。改良版デジメンタルのためにな。現状、デジメンタルを使えるのは君だけだ。よって君がいないと始まらない」

「えぇ……」

 

 あんまりな言い分にワームモンは言葉が見つからなかった。

 せっかくやる気を出してスレイヤードラモンの修行に参加し始めたところだったというのに、具体的に始まる前に有無を言わさず連れてこられ。気を取り直して何かあったと思えば、実際はウィザーモンのワガママ。ワームモンは脱力感を感じられずにはいられなかった。

 一方、そんなワームモンとは対照的にウィザーモンのテンションは高かった。自分の研究成果を試せるという機会が嬉しいらしい。

 

「フフ……では見せよう!これが改良版デジメンタルだ!」

「……」

「……」

「どうだね?」

「……いや、どうだと言われても」

「ま、前と変わってないですよぅ……」

「当たり前だろう。何を期待している」

 

 だが、ウィザーモンが持ってきたデジメンタルは、その全てが以前と変わりなかった。もちろん、外見の話だが。まあ、機能を改良するために、ウィザーモンはデジメンタルの中身構造を弄ったので、外見が変化するはずもないのだが。

 とはいえ、改良版と言うくらいだから、わかりやすい何かしらの変化があるとばかり思っていた大成とワームモン。正直言って、その以前と変わりない姿は期待はずれだった。

 

「で、見た目は何も違わねぇけど……」

「もちろん、中が違うに決まっているだろう。今までのデジメンタルは大成とワームモンの二人の相性で、使用に耐えうるものかどうかが決まっていたのは覚えているだろう?」

「ああ。俺とイモが二人共そこそこ相性が良かったのは友情のデジメンタルだよな?」

 

 そう、以前までのデジメンタルは大成とワームモン二人の相性の総合で最終的な相性が決定していた。例えば勇気のデジメンタルの場合、ワームモンはマイナス八で大成がプラス五。総合的に見ればマイナス三。という具合にだ。

 そんな感じで総合した相性の結果、友情のデジメンタルの相性が一番マシだったのである。

 

「今回のデジメンタルは“人間側”の相性だけで使用できる優れものだぞ!」

「それって」

「ああ!例えデジモン側の相性が悪くとも関係ない。暴走の危険があるデジモンに進化しようとも、人間側の相性でアーマー進化が成り立つために、その辺りもクリアできるというわけだ」

「すっげぇ」

「まぁ、進化しても性格はそのままという欠点があるのだがな。進化先の種族の性格を多少なりとも得られないということだ」

 

 つまり、今までワームモンは、アーマー進化すると進化先のデジモンの種族の性格とワームモンの元の性格が足されて二で割ったような性格となっていた。だが、今度からは元の性格のままとなるということだ。

 これは進化先の種族の性格に影響されないというメリットもあるが、この気弱な性格のまま戦わなければならないというデメリットも存在するということである。

 これを考えると改良前と改良版。どちらでアーマー進化しても一長一短であると言えるだろう。

 

「でも、進化先が増えるのはすげえな。なんで今までやらなかったんだよ」

「仕方ないだろう。元々デジモン単独での使用を前提としていたんだ。人間の存在を想定していなかったのだ」

 

 大成自身も人間ということもあって忘れかけていたが、そもそもこの世界には人間というものはいなかったのだ。ウィザーモンに限らず、人間という存在を前提としたものを作ることなど滅多にいなかっただろう。

 だが、人間という存在がこの世界に現れ始めた。それも、五年前やそれまでと比べ物にならないくらい大勢の人間が。そのために、人間とデジモンの関わり合いの中で力を発揮するものをウィザーモンは作ったのであるが、それでも解せないことはいろいろとあるだろう。

 何か悪いことの前兆でなければいいがな。そう考えるウィザーモンは思考という名の海を漕いでいる最中であり、大成がデジメンタルを使ってお手玉をしていることにも気づいていなかった。

 そして――。

 

「ほっ……ふっ……」

「た、大成さん……怒られますよぅ……?」

「別にいいだろ」

 

 そんな時のことだった。

 

「よくはありませんねぇ~……せっかくのものを……」

「ッ!」

 

 突然、部屋に響き渡った第三者の声。

 いきなり耳元で聞こえた声に驚きながらも、大成とワームモンは振り返ってその声の主を見た。そこにいたのは、“人間”の二人の男。その誰もが偉そうな態度を全身で体現しているかのような、見た目だけでその当人の性格がわかるような、そんな人間だった。

 そんな二人の男たちを前に、大成もワームモンも警戒していた。男たちの雰囲気は、友好的な者たちのそれではなかったのだ。男たちがいきなり現れたことも、その警戒に拍車をかけていた。

 しかも、未だにウィザーモンは思考の海から戻ってきていない。この場で動けるのは大成たちだけだ。

 

「ほうほう……警戒されているようですねぇ……」

「当たり前だ。バカが。さっさと気絶させればよかったものを」

「しょうがないでしょう?そんな余裕のなさそうなことをするなんて、スマートじゃない」

「目的はそこのウィザーモンの確保。それだけだろう」

「貴方の完璧主義には同意ですがねぇ……完璧主義を気取るなら美しさやスマートさも大事ですよ?」

「ふん……だからお前は詰めが甘いのだ」

「……何ですって?」

 

 ところが、警戒する大成たちの前で二人の男の喧嘩が始まった。どうやら、あまり仲は良くないらしい。

 あまりのアホらしさに脱力感に襲われた大成たちだが、それでも気を抜くことはしない。先ほどの男たちの会話の中に、見逃せない言葉があることに気づいたからだ。

 ウィザーモンの確保。それが目的だと。目の前での誘拐宣言を見逃せるほど、大成たちは馬鹿ではない。

 これは気を抜けない。そう思った大成たちだが――直後、男の一人が大成へと距離を詰める。

 

「なっ!」

「た、大成さん!」

 

 突然の攻撃。慌てて避ける大成だったが、男の狙いはそもそも大成ではなかった。

 自分の攻撃を大成に避けさせて(・・・・・)、未だ思考の海を溺れるウィザーモンを確保する。それが男の作戦だったのだ。

 

「コイツは連れて行く。そこのガキは任せたぞ」

「帰ったら覚えておいてくださいねぇ……!」

 

 そして、まんまと大成たちを出し抜いてウィザーモンを抱えた男の一人は、部屋を出て行く。慌てて追おうとした大成たちだったが、その前にもう一人の男が立ち塞がった。

 男は懐からある物体を取り出しながら、大成たちの前に立っている。

 その物体で何をする気なのか。大成たちが警戒している前で――。

 

「さて、では時間稼ぎしましょうかねぇ……スピリットエボリューション!」

「なっ!」

「えぇっ!?」

 

 男の姿が変わった。

 それは、大成たちもつい最近に見たことがある現象だった。人間がデジモンになるという、あの零に通じるものがありながらも、それでもどこか違う現象。

 そう、零の場合はデジモンになる(・・)という感じだった。だが、目の前の男はデジモンに進化する(・・・・)という感じで――そして、一瞬後。

 

「この姿はメルキューレモン。短い間ですが、どうぞお見知りおきを」

 

 大成たちの目の前には、鏡の盾を両手に装備した緑色の魔人がいた。

 




と、いうわけで第三十三話。いよいよ第三章ラストバトルの開始です。
敵はハイブリット体。まあ、コイツとあと一体くらいしか出ませんけども。
いや、たくさん出そうとしたんですけど、そうするとやっぱり主人公勢よりも前作メンバーばかりがはっちゃける結果になりかねないので断念しました。ハイブリット体自体は登場させないと展開上困るんですけどね。ジレンマでした。
なぜスピリットがあるのか。なぜウィザーモンが狙われたのか。という部分については後々明らかになります。

さて、次回はアーマー体VSハイブリット体。成長段階外デジモン同士の戦いです。

それでは次回もよろしくお願いします。
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