【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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すみません、遅れました。


第三十六話~魔術師は闇騎士に抗って~

 時は少し遡って。

 先ほどウィザーモンをその手に抱えて大成たちから逃走した男は、遠くに見えるセフィロトモンの姿に眉をひそめていた。

 

「馬鹿め。油断するからだ」

 

 そう呟いた男の顔には、侮蔑の表情がありありと浮かんでいる。もちろん、セフィロトモンへ向けてだ。元々、セフィロトモン――ひいてはセフィロトモンに進化した者のことも、男は好きではなかった。自分の流儀にこだわる点は評価しているものの、その流儀自体が自分とは相容れなかった。

 そして、相容れない考え方をする者同士が一緒にいるのは、誰でも精神上よろしくないだろう。この任務で組むこととなった時など、男は真面目にこの任務を言い渡した自分の上司を殺したくなったほどだ。

 

「……ふん」

 

 一瞬だけだが、男はセフィロトモンに向けて静かに目を閉じていた。その姿は、どこか黙祷を思わせる。いや、実際黙祷だったのだろう。男は知っているのだ。セフィロトモンになった者――より正確に言うのならば、男たちが持つ片方のスピリットを使ったものの末路を。

 だからこそ、どんな結末を迎えようとも、もう朽ち果てるしかないことを知っているからこその黙祷だったのだ。

 

「それでどこへ連れられていくのかね?」

「知る必要はない」

「ふむ……やれやれ」

 

 そう男に話しかけるのは、荷物のように抱えられているウィザーモンだ。思考という名の海を遭難していたために、一連の出来事に対処できなかったウィザーモンだが、今になってようやく意識が復活したのである。

 再び走り出した男に抱えられながら、ウィザーモンは今の状況を整理する。もっとも、その結果わかったのは、どうやら誘拐されているらしい、という傍から見たら至極当たり前のことだけだったのだが。

 

「これは誘拐か?なぜ僕は誘拐されねばならない?」

「黙っていろ」

「いや、気になったものでね。それで、なぜだ?」

「黙っていろと言っている。死にたいのか?」

「ふむ?わざわざ誘拐などという手間のかかることをしておいて、痛めつけるのならともかく殺すとは合理的ではないな。何が目的だね?」

「……」

 

 起きた途端の質問攻め。そんなウィザーモンに、男は早くもイラついていた。元々、余裕があるわけではないのだ。この学術院の街には、さまざまな強者がいる。別に負けるとは男は一ミリたりとして思っていないが、それでも任務達成率は下がるだろうし、最悪の場合は自分たちの組織のことが露呈しかねない。

 だからこそ、火急速やかな任務達成が求められているのだ。

 まあ、セフィロトモンが派手に暴れてくれたので、最高の任務達成を少しばかり諦めていたりするのだが。

 

「……ふむ?」

「……」

「ふむふむ」

 

 そんな風にメンタル面に微妙なダメージが入り始めている男とは反対に、ウィザーモンは冷静に情報を集め、整理していた。会話できなくとも、男の仕草や表情などから少しでも情報を得ていたのである。

 男、ひいてはその背後のいる何者かがなぜ自分のことを誘拐しようとしているのか、本当のところは当然わからるはずもない。だが、予想することはできる。よって、ウィザーモンは幾つかの予想をしていた。

 もちろん、その予想のどれかがあっているという保証はない。だからこそ、ウィザーモンはカマをかけてみることにしたのだ。

 

「何が目的だね?デジメンタルか?特別名誉教授か?それとも……」

「だから、黙れと――!」

「いつぞやに盗まれたあの試作品についてか?」

「――言っている!」

「ふむ?ああ、君は嘘が下手だな」

「なんだと?」

 

 嘘が下手。そのウィザーモンの言葉に、男は眉をひそめた。

 表情にも、雰囲気にも、どこにも変わりはなかったはずなのだ。だというのに、ウィザーモンは何らかの確信を得るに至っている。ハッタリかとも思ったが、それにしてはウィザーモンの雰囲気が真に迫りすぎている――と、男は表情や内心を読まれないようにポーカーフェイスを意識しながらも、内心では若干の混乱に襲われていた。

 まあ、男にはどこにも落ち度はなかっただろう。強いて言うのならば、落ち度がない態度だったことが落ち度だった、ということだ。

 普通ならば何らかの反応を見せるだろう単語を前にしても、何の反応も見せなかった。実に模範的なポーカーフェイスと言える。だが、模範的だったからこそ、その違和感をウィザーモンに気取られたのだ。とはいえ、普通はわかるはずもないのだが。きっとウィザーモンがさまざまなことに長けた研究者だったからこそ、気づけたことだったのだろう。

 

「さて、盗まれた試作品については惜しいが、みすみす誘拐されるつもりもないのでな」

「何?」

「そろそろお暇させてもらおう。よえもよおのほ!“フレイム”」

「ぐっ!?」

 

 ウィザーモンが何かの言葉を口走った瞬間に、男の腕が発火する。いや、男の腕が燃えているのではない。ウィザーモンが燃えているのだ。さすがの男も、これには耐えられない。ウィザーモンを手放すことこそしなかったが、それでも抱えている力が緩むのは抑えきれなかった。

 そして、ウィザーモンはその瞬間を狙う。男の力が緩んだ隙に、力づくで脱出。そのまま逃走を始めた。

 今回、ウィザーモンを狙ってきた男たちは、正真正銘の人間だ。人間のようなデジモンでも、人間離れした人間でもない。いくら人形のように見えるからといって、成熟期デジモンのウィザーモンに足の速さで敵うはずもない。しかも、ウィザーモンには魔術がある。

 だから――。

 

「スピリットエボリューション!」

 

 普通ならば、ウィザーモンは逃げ切ることができるはずだったのだ。そう、普通だったならば。

 男が懐から取り出したのは、台座から何から何まで漆黒の物体だった。それが、闇のスピリットと呼ばれるものであるということなど、ウィザーモンには知る由もない。

 だが、その後の展開にはウィザーモンとて、驚かざるを得なかった。

 男が光に包まれて、その一瞬後に男がいた場所に立っていたのは、さまざまなデジモンに詳しいウィザーモンも知らぬデジモンだった。二振りの真紅の剣がそれぞれ両腕と同化しており、さらに全身に計七つの目を持つ、不気味ながら騎士であるかのような風体のデジモン。それが、闇のスピリットで進化することができる、ダスクモンと呼ばれるハイブリッド体のデジモンだった。

 

「……これは、まずいかな?」

 

 逃げることも止めて、ダスクモンを観察するウィザーモンは、驚きと共にそう呟いていた。

 人間がデジモンに進化する。もちろん、ウィザーモンとて似たような現象を全く知らなかったという訳ではないし、むしろそういう可能性があることは予想していた。

 かつて、とある人間とデジモンが力を合わせた時に、新しい進化への扉が開かれたように。人間とデジモンの関係は時として奇跡以上の現象をもたらす。これは学会での通説であるし、そもこの世界の一般常識でもある。

 だからこそ、不味いのだ。ダスクモン目の前の存在がどういった存在であるかは、情報が足りないからわからない。だが、人間とデジモンのハイブリッドが普通であるはずがない。

 

「こちらとしても時間も余裕もない。催眠で片付けてもいいが……こちらもイラついている。だから――」

「っ!れもまをれわよちつ!“アースバリア”!」

「――死にかけるまで痛めつけて行くとしよう!」

 

 感じた悪寒とともに呪文を唱え、ウィザーモンは目の前に土で出来た壁を構成する。たかが土と侮るなかれ。魔術で作られ強化されたその壁は、並の攻撃ではビクともしない硬度を持つ。

 だが、残念ながら、ダスクモンは並ではなかった。その手の剣を一閃。それだけで、並の攻撃ではビクともしない壁に大きな亀裂を入れた。

 数秒で壁を破壊されるだろうことを悟ったウィザーモンは、頭をフル回転してこの状況を打破する案を考える。

 逃げる。一番理想的だが、ここは自分のホームとも言える街の中。逃げ場はいくらでもあるが、なりふり構わずの強行策に出られてはたまらない。

 警備隊や専門家などに助けを乞う。こういう荒事に慣れている専門家(スレイヤードラモン)たちは街の外にいる。警備隊にはウィザーモン以上の実力を持つものなど少ないし、先ほどからセフィロトモンの対応に追われている。

 自分で倒す。壁を破壊するダスクモンの強さからして、素のスペックは明らかにウィザーモンより高い。そもそもウィザーモン自身、戦闘向きではないのだ。倒せないことはないだろうが、勝率は低いだろう。

 見事にどれも一長一短だ。もちろん、何もせずに捕まるのは論外だ。何をされるかわかったものではない。だからこそ、ウィザーモンは折衷案で行くことにした。

 つまり、なるべく逃げながら、助けを待ち、隙あらば倒す、と。まあ、割合としては五対四対一くらいだろうか。

 

「ハッ!」

「……っく!もう突破されるか!」

 

 そして、その結論を出した時、壁が突破される。ダスクモンが攻撃を始めてから二秒。実に良い攻撃である。一応、完全体の一撃でも一撃だけという条件付きで防ぐことのできる強度だったのだが、ダスクモンは同じ(・・)場所を連続で攻撃し続けることで突破したらしかった。

 全く同じ場所を攻撃する。それだけでも、ダスクモンの強さの一端を垣間見ることができる。

 

「……ん?逃げてないようだな。諦めたのか?」

「諦める気は毛頭ないのだよ。諦めの悪さなら天下一品の者たちを知っているのでね。僕は諦めない者にこそ、イグドラシルが微笑むことを知っている。……まぁ、彼女が微笑むわけもないが」

「戯言だな」

「フフ……確かに。だが、目の前で実証されたことがあるのでね。研究者としても、実証された結果に駄々を捏ねることはしたくないのだよ。……れどおようのほ!“フレイムダンス”!」

 

 直後、炎が踊り、ダスクモンを襲う。もちろん、ウィザーモンの魔術だ。

 驚くべきことに、ダスクモンは炎を切り裂いている。その鎧のような体からして、切り裂かれた炎の欠片ではダメージなど見込めないだろう。

 ウィザーモンもそのことは想定済みだ。だからこそ、連続で魔術を行使する。使用する魔術は、ダメージを見込める大規模なものよりも発動スピードの速いものだけを選択する。大規模で時間をかけるものを選択すれば、こちらが不利になるとわかっているからだ。

 そして、主に使う属性は土と炎。それ以外の系統の魔術も使えないこともないが、この状況ではより得意なものを選択した方がいいからだ。

 

「――“アースショット”!れしはようのほ!“フレイムショット”!」

「っく!っち!悪あがきを!」

 

 そうして、逃げるための算段と魔術を整えながらの攻防だったが、ウィザーモンの心にはある思いが生まれていた。

 簡単に言うのならば――“これ勝てそうじゃね?”というものだ。当初の予測やそのスペックとは裏腹に、戦闘が始まってからのダスクモンは、まるで素人丸出しの戦闘をしていたのである。

 まあ、当然だ。このダスクモンは人間が中身であるのだから。男は剣道の経験があるために、ダスクモンの体をある程度扱える。だが、命のやりとりの経験をしたことがある訳ではない。経験と呼べるものも、剣道の試合のみだ。

 だからこそ、“弱い”のだ。零と同じ、人間だからこその弱点である。これがキメラモンだったら、そのスペックで強引な強さを演出できただろう。メルキューレモンだったら、その特殊な能力で何とでもできただろう。

 だが、ダスクモンは剣を扱う。素の能力がモロに出てしまうデジモンだったための悲劇とも言える。

 まあ、弱いと言ってもあくまでウィザーモンが思う範囲だが。これが人間相手であったり、成長期デジモンだったりすれば、充分に無双できるだろう。成熟期以上であれば怪しいが。

 

「っ!なめるなっ!」

「……む!?」

 

 だが、戦況が傾き始めた。ダスクモンの方へと。初めはウィザーモンの魔術の物量に押されていたというのに、今は魔術の合間を縫ってだんだんとウィザーモンに接近し始めている。この調子では、あと少しでウィザーモンの下へとその白刃が迫るだろう。

 そんな風に急激に戦況が変化したのは、ダスクモンの力と速さがだんだんと上がってきたからだ。だからこそ、能力が変わらないウィザーモンが不利になってきたのである。

 それは、“エアオーベルング”と呼ばれるダスクモンの必殺技。その手の二振りの妖刀“ブルートエボルツィオン”で相手の力を吸収して自分の物にするという技。つまり、ウィザーモンの魔術を片っ端から切って、その力を自分のものにしていったということである。

 そんな技のことは露知らず、予想を外したことにウィザーモンは苦い思いをしていた。すでに撤退へできるターニングポイントは過ぎている。倒せるかもしれないと思ってしまった時点で、ウィザーモンは詰んでしまったのだ。

 

「ふん!死んでなければいいらしいからな。手こずらせてくれた分だけ切り刻んでやる!」

「っく……!ん?……賭けだなこれは」

 

 だが、運命はまだウィザーモンを見放した訳ではないようだった。とはいえ、その内容が勝ち目のほぼない賭けである辺り、見放していないというよりは、足掻いているウィザーモンを見て嘲笑っているのかもしれないが。

 意を決したウィザーモンは、逃走用に準備していた自分の力を一斉に解放する。もはや逃走できないと悟ったからの暴挙。これを失敗したら、それこそ負けだと確信したからの行為だった。

 その力で放つのは、自身の必殺技。“サンダークラウド”と呼ばれる、雷雲を呼び出して強烈な雷を繰り出す技。

 その技を前にして、何を思ったのか。もしかしたら、その技すら斬って己の力の糧としたかったのかもしれない。とにかく、ダスクモンは防御でも回避でもなく、迎撃を選択したのだ。

 

「放つ!」

「……!ぐっあああああああああああ!」

 

 だが、さすがのダスクモンも、雷という超速で動くものを捉え、斬ることはできなかったらしい。雷の直撃をくらい、苦痛に耐える声が上がる。明らかにダスクモンの選択ミスだった。

 これに耐えられるか、耐えられないか。耐えられなかったらウィザーモンの勝ち、耐えられたらダスクモンの勝ち、という訳だ。

 だが、ダスクモンの力は上がっている。よってこの攻撃でも、戦闘開始時ならともかく、現在のダスクモンを倒しきれるかどうかには不安が残ってしまう。

 

「……!」

「がはっ!」

「……ふぅ。やれやれなんとか――」

 

 その結果、ダスクモン“は”耐えられなかった。よって、ウィザーモンの勝ち――。

 

「っ!あぁアあアアあああアアアア!スピリットエボリューションンンンンンンンンン!」

「何っ!?」

 

 とはならなかった。

 ダメージで意識が朦朧としているダスクモンは、もはや自分が何をしたのかもわかっていないだろう。だが、わかっていてもやったかもしれない。例え、それが自分にとっての破滅となろうとも、苦痛をもたした目の前の存在を許すことなどダスクモンにはできなかっただろうから。

 一瞬後、現れたのは骨でできた不気味で巨大な鳥。その怪鳥と呼ぶに相応しいデジモンは、男が持つもう一つの闇のスピリットによって進化できる、ベルグモンと呼ばれるハイブリッド体デジモンだった。

 




はい、というわけで第三十六話。例によって長くなったので、次回に続きます。
今回は珍しくウィザーモン活躍回。なんかダスクモンが噛ませっぽいですね。
本当はもっと強いハイブリッド体を書きたかったのに、どうしてこうなったんでしょう……いや、どうしてもこうなったんでしょうけど。
現段階であんまり強いの出すとまた前作メンバー頼りになりかねませんし。

さて、次回は後半戦。いろいろと吹っ切れて弱点を克服した鳥さん相手に、アイツが戦います。

それでは次回もよろしくお願いします。
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