【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
学術院の街にこの世のものとは思えない亡者の悲鳴が響く。いや、実際は悲鳴ではなく、亡者の悲鳴としか聞こえないような禍々しい鳴き声なのだが。
その鳴き声の主、ベルグモンは現在、ウィザーモンのみを敵と定めて手当たり次第に暴れている。周りを気にしないような暴虐の行動の数々と先ほどよりも強大な力を前に、ウィザーモンも必死に耐えることしかできなかった。
「キュァアアアアアアア!」
「っく……これは不味いな!」
ダスクモンからこのベルグモンに変わったことは、ウィザーモンにとって最悪に近かった。
ベルグモンは、まるで理性がないような狂った動きが目立つ。実際、やはりベルグモンには理性などなく、獣に近いのだろう。
そして、だからこそ厄介だった。ダスクモンはそのスペックはともかく、戦闘自体は素人丸出しだったから良かったのだ。対して、このベルグモンは理性がない、言うなれば暴力の塊である。
理性ある強者と理性なき暴力。この二つを比べた時、どちらの方が強いかといえば人によるだろう。
だが、このダスクモンとベルグモンにおいては、ダスクモンに存在した戦闘経験の皆無という弱点を克服したと言っても過言ではないベルグモンの方が圧倒的に強い。
「れしはよちつ!“アースショット”!」
「キシュアアアアアアアア!」
「やはり効かないか!」
試しにウィザーモンが魔術を放ってみるが、やはり効いた様子はない。ウィザーモンは元々戦闘向きのデジモンではない。ゆえに、その知識と魔術を組み合わせて戦う。それは、さまざまな相手にそれなりの効果を出せる戦い方と言えるのだが――その性質上、魔術も搦め手も作戦も、その全てを力で粉砕するような相手とは相性が悪い。
ただでさえスペック負けしているのに、相性すら悪いのだ。これでは、本格的にウィザーモンに勝ち目などあるはずもなかった。
まあ、だからといって諦めるわけもなかったのだが。
幸いにも、ベルグモン出現の際に近隣に住んでいたデジモンたちは一目散に逃げ出している。ベルグモンがウィザーモンのみを敵と定めているということも相まって、周囲の人的被害がないというのはまだ気が楽だ。
そんなこんなで誰もいなくなった近くの建物の影に身を潜めながら、ウィザーモンはベルグモンを観察する。ウィザーモンが近くに潜んでいることはわかっているのだろう。ベルグモンはこの辺り一帯を飛び回りながらウィザーモンを探している。
こうなっては、先ほど以上に逃げることなど不可能であるし、そもそも迂闊に逃げるわけにも行かない。敵と定めている対象がいなくなった時のベルグモンがどのような行動をするか想像できないからである。
だからこそ、建物の影に隠れながらベルグモンを観察しているのだが――ウィザーモンの予想をベルグモンは上回っていた。
「キゥアシャアアアアアアア!」
「何!?っく……!れもまをれわ!“バリ――」
瞬間、崩壊していく建物。
もちろん、ベルグモンが引き起こしたものである。
ウィザーモンは咄嗟に魔術で身を守ったが、突然の事態に大層な魔術を発動できたわけではない。せいぜいあるから便利程度の魔術だ。
そして魔術を発動しながらも、崩壊していく建物に巻き込まれまいと逃げ出そうとしたウィザーモン。だが、突然の崩壊から逃げ切ることなどウィザーモンにはできなかった。咄嗟に防御用の魔術を発動できただけでも御の字である。
つまり、ベルグモンが引き起こした崩壊に巻き込まれたのだ。
「アアキシュアアアアアアア!」
数瞬前、ベルグモンのした行動は至極単純である。己の持つ武器の一つである、その巨体を使ってウィザーモンのいる建物に上空から超高速で体当りしたのだ。
ウィザーモンがいた建物は、その体当たりに耐え切ることはできなかった。それだけのことだ。
そして、完全に崩壊に巻き込まれてしまったウィザーモンは瓦礫に埋もれてしまっている。生きているのか、死んでいるのか、それすらもわからない。
もちろん、ベルグモンにもわかりようがない。だが、“ウィザーモンが生きていようが、死んでいようが関係ない。ただ、全力で吹き飛ばすのみ”というそんな考えがあったのだろう。いかに理性なき暴力であろうとも、勝利を確かなものにするために追い打ちする知能はあるようだった。
「シ、アキュジュアアアネアアアアア!」
羽ばたきとは、翼というものを持っている生き物特有の行為である。ベルグモンというデジモンも鳥の形をしている以上、当然それをすることができる。
直後、ベルグモンが行ったのは、自身の最大パワーでの羽ばたきだった。
それは、もはや突風で片付けられるものではない。ベルグモンの羽ばたきで巻き起こったのは、破壊の二文字だ。いや、破壊などと言う言葉でも生温い。
穴だ。まるで現実感のない穴。そう、
穴の先にあるのは、この世界とは物理法則が違う異空間とでも言うべき場所。そこでは、並大抵の者は存在することを許されない。つまり、ベルグモンのこの技は、“敵を吹き飛ばす”のと“異空間での生存を強いる”という二段構えの恐るべき攻撃なのである。
とはいえ、その二つを乗り越えられれば勝機はある。空間に開いた穴は健在なのだから、そこから戻ってくればいいのだ。
まあ、空いた穴は徐々に小さくなっていっている。よって、この穴が塞がってしまえば、異空間でいくら生存していようとも帰還は絶望的になってしまうだろう。
つまり、タイムリミットが存在するということだ。しかも、空間の穴の縮小スピードからして、タイムリミットはそう長くはない。
実際、空間の穴はこの数秒でもう消え入りそうなほど小さくなっている。これではウィザーモンが例え生きていたとしても、出てくることはできないだろう。
そして、その事実はつまり、ベルグモンの勝ちが決定したということで。勝利の雄叫びをあげようとしたベルグモンは――。
「……!」
すぐに異変に気づいた。
もはや消え入りそうな穴から、空間に亀裂が走っている。さらに、その亀裂に連動するかのように、空間が揺れている。微弱な揺れだ。気を張っていなければ誰も気づけなかっただろうほどの。
この異質な状況で、ベルグモンは本能的に気づいていた。それは、何者かが異空間からこの場に出てこようとしている前触れなのだ、と。
そして、それを裏付けるかのように、空間の穴を無理矢理に広げて――。
「キュエ!?」
腕が飛び出した。それはウィザーモンの腕ではない。その禍々しい漆黒の腕は、ウィザーモンのものであるはずがない。
自分が倒したのはウィザーモンであるはずなのに、全く別の者の腕が出てきたことに、ベルグモンは若干の混乱に襲われていた。
そして、混乱収まらぬベルグモンの前で、また新たな腕が空間から突き出てきた。今度の腕は骨だ。その無骨な骨は、まるで長き時をひたすら己の強化に費やしてきた者のモノのようで。
毛色の違う二本の腕は、空間を引き裂くような動きをしている。いや、引き裂こうとしているのだろう。腕の主は無理矢理にでも空間を引き裂き、異空間からこの世界に戻ってくるつもりなのだ。
「……!クキュシャアアアア!」
これは、不味いと。本能的に悟ったベルグモンはただその腕を攻撃しようとする。もちろん、理性なきベルグモンに深い思考ができるわけもない。それは、先に言ったような本能的なもので、言うなれば防衛本能から来る行動だった。
だが、そんなベルグモンの防衛本能的行動も――。
「……!」
「ガッ……ギャ……!」
新たに登場した二本の腕で返り討ちに遭うこととなった。
新たに登場した二本の腕の内の一つは、先の禍々しい漆黒の腕と同じような腕だ。だが、もう一つの腕は、先に登場した二本のどれとも似ていない、赤い腕だった。まるで鎧のような硬い腕。ともすれば昆虫の腕のようにも見える。
攻撃しようとしたのに逆にカウンターをもらったベルグモン。空を飛び態勢を整えながら、再び攻撃を仕掛けようとする。だが、すべては遅かった。
その態勢を整える数秒で、その腕の主は異空間からこの世界へと帰還できたのだから。
空間が割れ、その向こうから現れ出てる腕の主。まるでさまざまなデジモンを合成したかのような、そのデジモンは――。
「まったく……これだからデジモンはゴミなんだ」
零こと変身したキメラモンだった。
なぜ零がここにいるのか。それは少し前に遡る。
その時、零はいつもの如く牢屋で眠っていた。牢屋というものは退屈で、零には眠ることくらいしかやることがなかったのだ。
「……ん?」
だが、そんな零はこの牢屋、ひいてはこの建物の軋む音で目が覚めた。そう、堅牢という言葉では言い尽くせないほどのこの牢屋の軋む音で。
この牢屋の堅牢さは、零は嫌というほど思い知っている。ここに入れられた直後にキメラモンの姿となって破壊を試みたものの、破壊できなかったくらいだ。だからこそ、この牢屋の軋む音というのは疑問でしかなかった。
そして、その直後に零は衝撃に襲われた。
「っく……!なっ……!」
突然の衝撃になんとか耐えた零は、辺りを見渡して目を見開いた。まあ、それまでいた牢屋が消え、代わりに訳のわからない空間が広がっていたのだから、当然と言えるが。
しかも、無重力空間だ。所々に牢屋の残骸が浮かんでいるものの、まるで削れていくかのように、少しづつ小さくなっていく。アレが自分の未来であることは、想像に難くない。
自分の未来が残り僅かな可能性が出てきたことで、零の頭にはある考えが浮かんでいた。それは、“これは何者かによる暗殺行為や自分の死刑執行なのでは?”という考えだ。
なまじ自分が死刑囚並の犯罪者であったために、この考えを否定することは零にはできなかった。
まあ、元々生きて牢屋を出る可能性を考えていなかった零だ。ここで終わりか、と半ば生存を諦め、ただ自分の命が消えるその時をボンヤリと待っていた。
だが、そんな時だ。零がこの場を漂っているウィザーモンを見つけたのは。
「ふむ……これが異空間か。助かった矢先に興味深いものを見れるとは……運がいいな」
「……お前は」
「む?君は……ああ、先日の学術院襲撃の犯人か。ふむ……そうか。あの辺りには君が収容されていた牢屋があったな。巻き込まれたのか」
「巻き込まれた?なるほど、俺を狙った暗殺やら死刑やらじゃなかったのか」
「自分がそれほどの者だと?なるほど。君はよほど自信家なのだな」
「……。今ここでお前を殺してやってもいいんだぞ」
零の呟いた“自分を狙った暗殺や死刑執行ではなかった”という部分に対して、ウィザーモンはからかうように零はそれほどの者ではないと言った。が、いくつもの街を壊滅させた零だ。まず間違いなくそれほどの者である。
まるで、自分が自意識過剰な者であるかのように感じさせられるウィザーモンの言葉だ。思わずイラっときた零である。
一方、ウィザーモンとて零がそれほどの者であることも、零がイラつき始めたこともわかっている。先の言葉は、ただ単に零の人なりを知るために投げかけた軽い冗談である。
「ふむ。沸点が低いな。このような状況だ。生きて出たくば、冷静にならないと意味がないぞ」
「……そうか。別に俺はここから出ようなどと思ってない」
「む?このままここにいては死あるのみ。気づいていないわけはないだろう」
「ああ……だが、もうどうでも良くなった」
それは大成たちに負けてからずっと思ってきた零の思いだった。
零が今までしてきたのは、元々特定対象のいない、しかも八つ当たりの気が多大に含まれていた復讐だった。何もかも失って、その後で生まれた行き場のない憎しみ。そして、それを向けるにちょうどいい相手。その二つがうまく噛み合って生まれた復讐行為。
つまり、零は振り上げた拳を振り下ろす先が欲しかったのだ。そして、その拳を振り下ろす先が都合よくその憎しみに関係していたデジモンに向かった。
デジモン側からすればなんとも傍迷惑な話だが、そういうことである。
「だいぶ弱っているというか、参っているというか……だな。何があったのか、気になるところだ」
「ふん。うるさい。黙ってろ」
「む?黙っていろ。先ほども言われたな。ふむ……うるさくした気はないのだが……僕はうるさいのか?」
「……っち」
無理矢理に足を止められて、そして足を止めたからこそ、零は気づいた。もう、復讐を遂げようと遂げまいと自分が求めたモノは手に入らないことに。
零自身、そのことに本当は心のどこかで気づいていたのかもしれない。いや、気づいていたのだろう。だが、復讐という行為に身を費やしていたことで目を背けていた。今回、その復讐もできなくなったために、気づいてしまったのだ。
もちろん、デジモンに対する憎しみや復讐心が消えたわけではない。未だその胸の内に存在している。だが、立ち止まってしまったからこそ、もはや零には動く気力がなかった。それは一種の堕落であり、一種の燃え尽き症候群のようなものでもある。
例えるのならば、今までの零はブレーキの壊れた車だった。だからこそ、走り続けられた。だが、ここへ来てそのアクセルも壊されたのだ。そして、一度止まってしまったからこそ、もう外部の力がなければ動けない。自分では動くこともできない。今の零は正しくそういう状態だった。
「……」
「……何だよ?」
「いや、何。君は結構短気なのだなと思ってね」
「あァ?」
「ほら、声を荒げる。そういう所が短気だというのだ」
今の零はまるで自殺志願者である。ウィザーモンは、自殺志願者に自殺を思い止まらせる方法など知らない。自殺するなら、自殺させておけ。それがおおよそのウィザーモンのスタイルだ。まあ、その自殺志願者が自身の知的好奇心の対象であるのならばまた別なのだが。まあ、なんというか、意外と薄情である。
ちなみに、自殺志願者が自身の知的好奇心の対象だった場合、“死ぬ前に教えてくれ!”とウィザーモンはしつこくまとわりつくことになったりするだろう。それこそ、自殺志願者が自殺を考えたくなくなるほどの勢いで。
ともあれ。このままでは二人は死ぬだろう。現在、零が死んでないのは零自身が完全体のキメラモンという消滅に時間がかかるほどの存在だからで、一方のウィザーモンは魔術によって身を守っているからだ。
だが、両者ともこの異空間でこのまま何事もなく生存し続けるには決定的に足りてなかった。主に存在とか、その辺りのものが。完全体のキメラモンほどの存在でも、消滅に時間がかかる程度なのだ。この異空間で長時間存在するとなれば、それこそ究極体クラスでなければならない。
だからこそ、ゆっくりとだが二人は消滅に向かっていた。
もちろん、ウィザーモンとしては死ぬ気はない。未練はまだあるのだ。だからこそ、脱出を確実にするために零の力を借りる必要があるのだが――当の零はここで死ぬ気である。これではもれなくウィザーモンも道連れだ。いや、初めに道連れにしたのはウィザーモンの方だが。
「ふむ……困ったな」
「……何?」
「僕はここから出たいのだよ。君と違ってやりたいこともあるしね」
「言わせておけば……!」
「死ぬ気な者が何を言う。いくらここが異空間で、おそらく時間の流れが外の世界とは違うからといって……これ以上ここにいれば本当に消えてしまいそうだ」
そう言ったウィザーモンが目を向けた先にあるのは、穴だ。ウィザーモンや零がここへ飛ばされてきた時のものだろう。だが、穴はゆっくりと小さくなっていて、もう閉じそうである。
それを見た零は、すぐに自分には関係ないことだ、と目を閉じて眠る態勢に入った。こうすれば、目の前のウザったらしいウィザーモンの姿も見ることはないだろうし、さらに気づかないうちに死ぬだろう、と判断してのことだ。
無重力空間の中で眠れるのか疑問ではあるが、眠気はあるのだ。眠れるだろう、と永眠の扉を零は開きそうになって――。
――生きろ――
「ッ!」
その瞬間に、どこかで聞いた誰かの声が聞こえた気がした。
聞こえたのは一瞬。しかも、まるで夢であるかのように、その内容も記憶から薄れて消えていく。それが誰の声だったのか、何を言っていたのか。もはや零にはわからなくなっていた。
ただ、大切な誰かの言葉だったを聞いたことだけは覚えていて。
「っち」
舌打ちと共に、零は近くにいたウィザーモンをその手に抱えた。
「む?なんだね?僕は今脱出する算段を……」
「黙ってろ」
「やれやれ、またかね。僕はそんなにうるさくは――」
「取引だ。脱出に手を貸す。その代わり脱出後は俺を見逃せ」
突然、脱出の意思を見せるようになった零の心情の変化に関心を寄せながらも、ウィザーモンは思案する。零を見逃すということは、また零による犯行が起きるかもしれないということである。それは、誰しも遠慮したいだろう。誰だって、凶悪犯を逃がすことに素直に頷きたくはない。
だが、ウィザーモンの答えなど、悩むまでもなく決まっていた。
「ふむ。いいだろう」
イエスだ。ウィザーモンにとって最重要なのは、研究だ。もちろん外道なことは論外だが、それでもちょこっとだけ外道なら手を出すかもしれないという、限りなく白に近いグレーゾーンという立ち位置である。
だからこそ、零を逃がすことで外に出ることができるということは、研究を続けることができるで、つまり悩むまでもなく快諾することになるのだ。
まあ、ムゲンドラモンのいない零単体がどうあがこうとも、どうにでもなるだろうという思いが無い訳でもないのだが。
「それで、俺を見逃す。俺
「たち?俺以外の……」
誰がいる。そう言おうとした零だが、その言葉は続かなかった。ウィザーモンがあるものを指さしていたからだ。
それは、零と一緒にこの異空間に流れてきたもの。この数年、ずっと一緒にいた者の形見とでも言うべきもの。そう、ムゲンドラモンのデジタマだった。
捨てていってもよかった。だが、いつかの日に自分なんぞについて来たムゲンドラモンの姿が思い起こされて――結局、零はそのデジタマも持っていくことにしたのだった。
「……ああ。俺たちだ。いいな」
「もちろん。君の……いや、君たちの存在は興味深い。せっかく逃がすのだ。出てすぐに舞い戻ることにはならないでくれよ?」
「……っは!どうあがいてもお前の利益になるということか?これだからデジモンってやつは……」
「フフ……ではよろしく頼むぞ」
そして、ウィザーモンのその言葉を皮切りにして零の姿がキメラモンへと変化する。ウィザーモンとデジタマを抱えたキメラモンは、そのまま遥か先に開いた穴へと向かっていく。
動き出して始めてキメラモンは気づいたが、なるほどこの異空間は動きづらい。完全体のキメラモンでも動きがかなり制限されるのだ。成熟期では脱出すら無理だろう。
だが、動きが制限されたからと言って、キメラモンは諦めようとは思わない。当人もなぜか知らないが、死にたくなくなったのだ。だからこそ、生きるために、この場を出なければならないのだ。
もう閉じそうになっている穴に、無理矢理に腕の一つを突っ込む。だが、足りない。もう一つ。それでも足りない。ならば、と。
「こちらのことは心配ない!出てからも遠慮なくやれ!」
「そういや!外には一匹いるんだったなぁ!」
自分の持つ四本全ての腕を使う。無理矢理も無理矢理な強引な方法だったが、キメラモンは空間をこじ開けることに成功した。それはつまり、異空間の脱出に成功したということで。だが、その余韻に浸る余裕はキメラモンにはない。真の敵は、異空間ではなくその外にこそいるのだから。
あの異空間からの脱出には、キメラモンをして意外に思うほど体力を使った。もう、あまり無駄遣いできる体力は残ってないだろう。
だからこそ――。
「は!なんで出てこれたのか理解できないのか?これだからデジモンはゴミなんだ」
「キシュアアアアアアアアアアアアア!」
「死ね!」
脱出に成功したその瞬間に、キメラモンは自分の必殺の技を、最大火力で放つ。
“ヒートバイパー”と呼ばれるキメラモンの四本の腕から放たれたその死の熱線。その熱線が、キメラモンたちの脱出に対応しきれていなかったベルグモンを飲み込んだ――。
というわけで、第三十七話。零ことキメラモンが脱獄(偶然)した話でした。
ベルグモン戦はこれで決着です。
本当はもっと強敵然としたベルグモンを書きたかったのに、どうしてこうなったんでしょう……。
やっぱり個人的に気になるので、今度加筆修正するのなら、大幅に書き足して分割し、2話構成にするかもしれません。いや、加筆修正するのかまだ決めてませんが。
ちなみに零ですが、少し丸くはなりましたが、それでも作中にある通りデジモン憎し精神は変わってはないです。
現在はある意味で燃え尽き症候群中。これから復讐者として復帰するのか、それとも別の何かになるのか。それはまた四章以降で。
さて、次回は第三章エピローグです。
それでは次回もよろしくお願いします。