【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第三十八話~過ぎ行く平穏と這い寄るナニカ~

 キメラモンの四本の腕から放たれた熱線。その熱線を受けたベルグモンは、四肢がバラバラになって地面に落ちていく。ベルグモンは、キメラモンの最大攻撃に耐えられなかったのだ。

 この世界のデジモンにとっての死とは、光となって消えていくこと。特殊なデジモンであると言えるベルグモンと言えども、それは変わらないようだった。だんだんと光となって天へと登っていっている。

 それは、これでこの一連の事件の全てが終わったことを意味する。

 

「ふん……これで俺は自由だな。約束は守ってもらう」

「ああ、どこへなりとも行くといい」

 

 そして、そんなウィザーモンの目の前で、キメラモンはデジタマをその手に抱えて飛んでいく。きっと、この街から出て行くのだろう。それこそ、せっかく脱獄したのにまた捕まらないように。

 その先で彼がどこへと行くのか。未来を見通す能力などないウィザーモンにはわからないことではあったが、どこかへと去っていくキメラモンのそんな姿がどこか迷子の子供を思わせるようで。

 思わず同情的な感情が湧きあがっていたウィザーモンだった。

 

「さて……何かわかるといいがな」

 

 そして、そんなキメラモンを見送った後で、ウィザーモンは街の荒れ果てた一角を見ながらひとり呟いた。この後、ウィザーモンにはやることがあるのだ。いや、“やること”というよりは“やりたいこと”ではあるのだが。

 ウィザーモンがやりたいこと。それは、調査だ。ベルグモン並びにダスクモン。その異なる二種のデジモンには、一人の人間が進化した。まあ、それだけでも特異といえるのだが、それを差し引いても同じ者がまったく別の同一成長段階のデジモンへと進化したというのは通常ありえない。

 だからこそ、ウィザーモンはそんな通常あり得ないことの実現を可能にしたのは、あの男が持っていたスピリットにこそあると考えていた。まあ、あれだけ意味深な感じで使っていれば、ウィザーモンでなくとも何か気づくだろう。

 自分自身に寄らない、スピリットという物体を使った進化。それは、どこかデジメンタルを使ったアーマー進化に似ている部分がある。

 いや、それだけではない。外部の力によって進化するという点では、旅人の持つカードや優希の強制進化にも通じるものがある。

 スピリットというものを調べれば、新しい発見があるかもしれない。いや、確実にあるだろう。ウィザーモンは確信していた。だからこそ、ウィザーモンはなんとしても自分の知的好奇心をこの上なく刺激するスピリットを確保したかったのだ。

 

「ふむ……見つからないな。アーマー体と同じく本人と融合状態にあるのか?だが、完全に死体は消滅したのだがな……」

 

 バラバラになったベルグモンは完全に光となって消滅した。それと同時に、ベルグモンへと進化した男の姿もどこにもない。

 消滅したベルグモンと運命を共にしたのか、それとも元々人間がデジモンへと進化した副作用だったのか。ウィザーモンにはどちらかわからなかったが、どちらにせよ人間の男も消滅したという事実には変わりなかった。

 だから、この場にあるのは戦闘後の瓦礫と荒地だけだ。つまり、男が使っていたスピリットもここにあるはずである。まあ、スピリットも男と運命を共にしていなければの話だが。

 

「ふむ……む?おお!」

 

 そして、粘ること十数分。ウィザーモンは、荒地の一角の瓦礫の下にようやく目的のものを発見することができた。まず間違いない。ダスクモンやベルグモンを象ったかのようなこの二つの物体は、男が使っていたスピリットだ。

 目的の物をようやく見つけたことに喜びを露わにしながらも、ウィザーモンはそのスピリットを手に取った。咄嗟に解析系の魔術を使って探った所、スピリットとはやはり構造的にはデジメンタルに近い。デジメンタルとスピリット。それぞれの違う点は、その宿している力が段違いであるということだろうか。

 いや、それだけではない。それほど大きなものではないが、ウィザーモンにはこのスピリットに何者かの意思のようなものが感じられていた。

 もしかしたら、何者かが自分の力を残すために作ったのかもしれない。そんな仮説を頭の中に思い浮かべながら、スピリットを懐に仕舞おうとして――。

 

「待て」

 

 そのスピリットを後ろからいきなり奪い取られた。

 この時まで、誰かが近づいてきている気配などなかった。だからこそ、いきなりの事態にウィザーモンは警戒を露わにする。バッと後ろを振り向いて、その奪い取った者を睨む――が、その姿を確認した瞬間に、ウィザーモンは警戒を解いた。その者はウィザーモンも知っている者で、そしていろいろな意味でウィザーモンが警戒しても無駄な人物だったからだ。

 

「……!君は……いや、貴方は(・・・)、と言うべきかね?どちら(・・・)の名前で言うべきかな?」

「どちらでも」

「ふむ。イ……いや、せっかくだ。ナム、こちらの名で呼ぶことにしよう」

「構わない」

「くくく……呼び捨てか。今は亡きかの騎士たちが見れば即倒モノかもしれないな。それとも気に入っているのかね?ふむ……なるほど面白い」

「ウィザーモン。うるさい」

 

 明らかに複数の名前が存在するような口ぶりではあったが、ウィザーモンはそんな少女のことをナムと呼んだ。少女自身も否定はしていない。つまり、一応はナムというのがその少女の名前であるようだった。

 ナムは、まるで純白と見間違うばかりのドレスを着た白髪の美しい少女だ。仮に人間の世界にいることがあれば、その美しさ故に浮いてしまうかもしれない。いや、絶対に浮くだろう。それほどまでにナムのその容姿は、俗世離れした美しさを持っていた。さらに、そんな俗世離れした美しさを、その人形の如き無表情が際立たせている。

 姿だけ見れば、明らかにデジモンではない。ナムの姿は、俗世離れしたものではあるが人間のソレだった。

 

「さて……それを返してくれるかな?実に興味深いシロモノなのだが……」

「無理。これ。この世界のスピリットじゃない」

「ふむ。別世界の物ということか。それに、この世界“の”スピリットではない……か。つまり、この世界にもスピリット自体は存在すると」

 

 相変わらず機械のような喋り方をする感情の読めないナムだが、ナムとはそういう人物であることをウィザーモンは知っている。よって、気にすることはなかった。

 ともあれ。別世界の産物とは、それだけで研究意欲が湧くシロモノである。ウィザーモンとしては、なんとしても手に入れて研究したいシロモノではあるが――。

 

「無理だろうな」

「当然」

「ふむ。別世界の産物がこの世界にあり……これにナム。君が直々に動いている。そして、ここ最近でこの世界に訪れ始めた大勢の人間。……これは偶然で片付けられることか?むむむ……」

「偶然。少なくとも。現れ始めた人間とこのスピリットは無関係」

「……。やれやれ。考察している傍から答えを言われるとはな」

 

 まあ、そんなウィザーモンの研究者としての微妙なプライドはともかくとして。

 ナムの言うことを信じるのならば、大成たち大勢の人間がこの世界に現れ始めたことと別世界のスピリットがこの世界にあることは無関係であるらしい。

 ナムが嘘をつく人物ではないことはウィザーモンも知っている。いや、正確には嘘をつく必要のない人物と言うべきか。どちらにせよ、ナムが言ったのならば確かなことだろう。ナムのことを知っているが故に、ウィザーモンはその情報を信用した。

 まあ、その情報を信用しながらも、それでも個人的に調べて確かめようと思っているのは、ウィザーモンが研究者であるが故なのだろう。

 

「私。行く。回収まだある」

「む?もうかね?この辺りには旅人たちもいるが……」

「いい。彼らとはまたそのうちに会うことになる」

 

 正確な内容の言葉をいくつも告げる割には、全てを明かすことはない。それがナムという少女である。

 まあ、全てを明かされてはウィザーモンとしてもつまらない。ウィザーモンは研究者だ。知りたいことがあるのならば、自分で見て、聞いて、学んで、確かめる。答えだけ教えられるクイズなど面白くはないのだ。

 文字通り、目の前で消えて(・・・)この場を去って行ったナムを見送りながらも、ウィザーモンは考えていた。

 ナムは人間とこのスピリットは無関係だと言った。だが、あくまでスピリット自体は無関係でも、スピリットを使っていた男と人間たちとの関係は無関係ではないのではないか、と。

 今回、自分が誘拐されたことを含めて、考えれば考えるほどに厄介事の気配が漂い始めている。そんな気配を前に、これからの未来を想ったウィザーモンだった。

 

「おーい!ウィザーモーン!だいじょーぶかー?」

 

 だが、ウィザーモンがそんなことを思っていた時だった。ウィザーモンには、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた。

 せっかく良い気分で考察しているのに……と自分が誘拐されかけていたことなどサッパリ忘れて、ウィザーモンはその声の主を睨む。

 対して、睨まれていることに気づいているのか、気づいていないのか。ウィザーモンを呼んだ声の主――大成は、呑気に手を振っていた。その周りには勇とグレイモン、そしてスティングモンがいる。

 

「まったく。君というものはもう少し静かにできないのかね?こちらは真面目に考えているのだぞ」

「何だよ。さらわれてったお前を心配して来たんだよ。こっちは!」

「……む?……そういえばそうだったな」

「っていうか、もう一人は?ウィザーモンが無事ってことは……」

「ああ、僕が倒した」

 

 決して、その気にさせた犯罪者()に倒させました、とはウィザーモンの立場上言えるはずもない。一瞬だけ悩んで、自分が倒したことにしたウィザーモンだった。

 ちなみに、零の脱獄については、ウィザーモンは内心で死人(ベルグモン)に責任を押し付けることにしていたりする。

 

「へぇ?そういや、ウィザーモンを連れてった男にはなんかなかったのか?こっちはス……なんとかって言うデジメンタルみたいなやつを使って人間がデジモンに進化したんだけど」

「スピリット、だ。しかし……そちらもそうだったのか?ふむ。どういったデジモンだったのだ?そのスピリットはどこに行った?どうやって倒したのだ?そういえば、僕の研究室はどうなった?」

「うわー!一度に聞くな!えっと、鏡みたいなデジモンと丸がたくさんのデジモンだった!研究室は潰れた!えっと……みんなで倒した。あと……あと……」

「大成、後はスピリットはどこへ行ったって質問だよ」

「ゆ……じゃない。勇、サンキュー!えっと、スピリットとかいうのはなんか訳わからん白い女子が持ってった」

「……やはりか」

 

 聞いておいて難だったが、スピリットがどうなったかなど、ウィザーモンにはすぐ予想がついていた。

 あのナムという少女は、言うなれば非常識の塊なのだ。というか、非常識(ナム)と当て字してもいいくらいだと、ウィザーモン個人は思っている。だからこそ、そのナムが直々に回収にまわっているのならば、自ずと予想はつく。

 なら何で聞いたんだという話だが――内心で少しは期待があったために、思わず口から出ちゃったのである。

 ともあれ、やはり予想通りは予想通りだったことに違いはない。だからこそ、ショックを受けることなどなく、ウィザーモンのその興味は他へと移った。

 

「君は?」

「ああ、オラは日向勇。こっちがパートナーのグレイモンだ」

「よろしく」

 

 ウィザーモンの新しい興味。それは、大成と共にこの場に現れた、ウィザーモンにとって初対面となる人間の存在である。まあ、言わずもがな、勇とグレイモンだ。

 

「ふむ……僕はウィザーモン。この街の特別名誉教授を担当している」

「と、特別名誉教授!?すごいんだな!あ、握手してくれ!」

「ぼ、ボクも!」

 

 特別名誉教授という、ウィザーモンの肩書きに驚き、そして握手を強請る勇とグレイモン。

 その姿は、さながら芸能人に出会ったおばちゃんのようである。しかも、それが誰だかよくわかっていないのに、テレビに出てるから、雑誌で見たから、有名人だから、という安易な理由で握手を強請るタイプの。握手を強請られる方にとっては一番微妙な気分になるタイプである。

 そんな勇の姿に、大成は田舎のイメージを垣間見た。まあ、グレイモンまで握手を強請っている理由がわからないのだが――やはり、パートナー同士似通う部分があるのだろうか。

 そんなことを考えた時、自分と自分のパートナーにも似通っている部分があるのだろうか、と悩んだ大成だった。

 

「やれやれ……む?そこにいるのはスティングモンか?」

「あ、そ――」

「そう、進化したんだ!あんなイモムシがこんな昆虫人間に……意外とちょっとはカッコよくね?」

「い、意外と……ちょっと……」

 

 大成はウィザーモンにスティングモンのことを見せつける。それは、まるで子供が新しいおもちゃを見せびらかすかのようだ。

 そんな大成の姿に、勇とグレイモンは苦笑している。どうやらここへ来るまでの道中に、だいぶ自慢されたらしい。

 まあ、ゲーム時代を含めても、大成の初めての成熟期へと進化したパートナーデジモンだ。嬉しくなるのもわかるだろう。とはいえ、嬉しくなるあまり、大成は本音をボロボロ漏らしている。

 そんな大成の何気ない一言に、当のスティングモンは精神的ダメージを受けているのだが。

 だが、大成の喜びようなど知らないかのように、ウィザーモンは大成に詰め寄った。

 

「なぜ進化させたんだ!」

「えぇ!?」

 

 随分な言い様である。進化したのに、おめでとうの一言もないとは。

 まあ、ウィザーモンからすれば凡庸な成熟期よりも、アーマー進化のできる成長期の方が研究的にはよほど価値があるのだろう。

 

「いいじゃねぇか!進化したって!」

「そこら辺の成熟期よりもいくらか多様性のあるアーマー体へと進化のできる成長期の方がいいに決まっているだろう!」

「っぐ……!けど、完全体に進化すれば……!」

「人間がパートナーにいるということも差し引いても、そう簡単に完全体に進化できると思っているのかね?」

「うぐぐ……」

「はぁ。貴重な古代種の成長期デジモンが……」

 

 どうにも大成の旗色が悪い。やはり、一子供の大成と特別名誉教授のウィザーモンでは、結果は明らかだ。

 まあ、こんな風にのんきに言い争えるにも事件が終わったからと言えるだろう。

 




ということで、第三十八話。
第三章エピローグです。次回から第四章に入ります。
まあ、本来第四章に入る予定だったものを第五章以降に回すことにしたので、ちょっと予定していた物語の流れから変わっています。
またその関係で、前作登場のブラッキーズの再登場も第五章以降になります。

また、感想や評価なども随時募集しておりますので、よろしくお願いします。
では、第四章もよろしくお願いします。

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