【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
第四話~ゲームorリアル~
仮想世界に音が響き渡っていた。その音は時間が経つにつれてどんどんと大きくなっていき、数分後にはもはや無視できないほどの大きさになっている。
そして音が大きくなるにつれて、優希は正体不明の頭痛に蝕まれていた。一方で同じ場所で同じ音を聞いているはずの大成は頭痛など感じてはいない。どうやら、その頭痛はこの場で優希だけが感じているモノのようだった。
「ぐっ……ぁああああああああ!」
「ちょ!おい!大丈夫かよ!」
耳を塞ぎながら駆け寄る大成の言葉は、当然ながら優希には届いていない。世界に響き渡る音が、大音量であるということを差し引いても、頭痛のせいで優希には届かなかっただろう。それほどの頭痛に苛まれているのだ。
いかに自分本位な大成といえども、そんな優希を放っておくほど外道ではない。どうにかしようとするが、そもそもこのような状況をどうにかできるほど、大成の頭はできていなかった。
「うぐぅ……ァアアァアァアアアアア!」
「ッ!なんだよこれ!何が起こってるんだよ!」
大成が驚愕の声を上げたのも無理はなかった。優希の体が光っているのだ。いや、正確には優希の体の
そして、その直後に空間が歪む。まるで、ここではないどこかへと繋がるように。ここではないどこかから、何かを呼び込むように。
そんな風に空間が歪み始めた時から、だんだんと優希のアバターは薄れていっている。大成にはそれが何を示すのかわからない。だが、このままボーッと見ているだけというのもできなかった。
もし、ここで大成は行動を起こさなかったら。あるいはどうなっていただろうか。どれほど考えても、所詮は“IF”の話。現実に大成は行動を起こしてしまった。
負担を軽減できないかと、そんな浅はかな考えで薄れ行く優希の手を大成は握った。
その瞬間――。
「ッぁああああああああああああ!」
まるで、体が引き剥がされるような、混ざり合うような頭痛が大成を襲った。叫んでも楽になどなれようはずもない。だが、叫ばずにはいられない。そんな頭痛が、大成を蝕んだのだ。
コレが優希を蝕む頭痛であることを、微かに残った理性でぼんやりと大成は理解した。そして優希の手を握ったせいで、こうなっているのだとも。手を離せば、大成はこの頭痛から解放されただろう。あくまで頭痛の主体となっているのは優希だ。だが、極度の頭痛は大成にそこまで考えさせなかった。
いや、例えそこに考えが至っても、それを実行するのは不可能だっただろう。痛みというものに耐える時、人は自然と力が入る。まして、耐えられないほどの激痛の中だ。そんな中で特定部位の力のみを抜くなど、常人にはほぼ不可能だ。
「ぁぁああああああ!」
「あぁああああああ!」
二人が激痛で叫ぶ中、いよいよその苦行にも終わりの時が訪れる。
大成たちを襲っていた激痛が突如としてなくなったのだ。ようやく解放されたことへの安堵か、二人は自分の意識が薄れていくのを感じた。そんなボンヤリとした頭で、最後に何処かへと引っ張られていく感覚を味わいながら、大成と優希は意識を手放した。
「……はっ!」
「ここ……まさか?」
大成と優希は目を覚ました。広場で。
明らかに先ほどとは違う場所で目が覚めたことに二人は混乱している。先ほどまで二人はトレーニング施設にいたはずなのだ。誰かが二人をここに運んだとしか考えられない。だが、なぜここへ運ばれたのかのかがわからない。
しかも、奇妙なことに二人は、今いるこの場に仮想世界以上の現実世界のようなリアルさを感じていた。いくらデジタルモンスターが現実張りのリアルさがあるとはいっても、所詮仮想世界だ。現実には及ばない。
さまざまな疑問が湧き上がって、二人は混乱の極致にあった。
もっとも、優希に関しては大成とは別の意味で混乱しているのだが。
「いったい何がどうなってるんだ?……なぁ、優希はなにかわかるか?……優希?」
「……」
「おーい?」
「はっ!え?いや、私にわかるわけないでしょ。今日初めてよ?」
混乱しながらも無理矢理に自分を落ち着け、大成は情報を得ようと辺りを見回す。そして少しでも落ち着くことができたためか、大成は二つのことに気づくことができた。
一つ目は自分たちのパートナーがいなくなっていること。そして二つ目は、この場にいるのが自分たちだけではないことだ。混乱の極致にあった先ほどの大成や未だ混乱の中にある優希は気づけていなかったが、よく見なくても桁外れの数の人間がここに倒れている。というか、なぜ気づかなかったのか不思議に思えるくらいだ。
その中で一番初めに起きたのが、大成と優希だったのだろう。そして、二人が起きた直後から、次々と辺りの人々が起き始めたようだった。
起き上がった人々は大成たちと同じく、突然の事態に混乱している。そうして、騒がしい周りの人々によって、ようやく優希も辺りの状態に気づいたようだった。というか、気づくのが遅過ぎである。
「どうなってるの?」
「それさっき俺が言った」
「いや、そんなことわかってるわよ」
この場にいる人々は、大人子供も男女も果ては国籍までも関係ない。さすがに老人と呼ばれるような年齢の人はいなかったが、それでも多種多様な人々がいた。
しかも、この広場の入口辺りには見えない壁があるらしい。先ほどから何人かの人々がこの広場から出ようと必死に足掻いている。しかも、それだけではない。ご丁寧にゲームからログアウトすることすらできないらしいのだ。誰も彼もが必死になってこの状況の打破をしようとしている。だが、その努力も虚しく、この場を離れることは誰にもできそうになかった。
「あれじゃね?なんか新しいイベントとか……」
「本気で言ってる?」
「いや……」
もちろん、大成もそんなことはないとわかっている。あのような、一歩間違えれば発狂ものの激痛を与えて始まるイベントをするなど常識的にありえないし、そんなことをするゲーム会社など潰れて当然だ。
だが、だからこそ理解できない。この“世界”が一体何なのか。何が目的なのか。
得体の知れない不気味さが足元から這い上がっているのを感じたのだろう。誰かがヒステリックな声を上げ、それに怯えた小さな子供たちが泣き出している。
そしてそんな空気は伝染するものだ。大成たちが起きてから数分も経たずに、この場は阿鼻叫喚としていた。
「……これ……なんで?」
「……?優希どうかしたのか?」
「え?あ、いや……なんでもないけど……」
「けど?」
「あのね……ッ!」
何かに気づいた優希が、そのことを大成に伝えようとするが、それよりも早く事態は進行した。
突如として空中に投影されたスクリーン。そしてそこに映る人影。人影はノイズがかかっていて、詳しい容姿を判別することはできない。だが、それがこの場の事態の打破につながる何かだというのは気づいたのだろう。感情の制御がうまくできない子供たちを除いて、全員がスクリーンを注視した。
そして、ある程度の視線が自分に集中したことがわかったのか、それまで一言も発さずに黙っていたスクリーンの人物は話し始めたのだった。
――ふむ。突然の事態に混乱しているようだな。無理もない。こちらとしても、謝罪したいが……まぁ、私が謝罪をした所で諸君らは納得しないだろう。よって、このまま話を進める。いいかね?一度しか言わない。まぁ、聞きそびれた者は……運がなかったと思って近くの者にでも聞き給え。これでも私は忙しい身なのでね――
その言葉を聞いた誰もが、巫山戯るなと思っただろう。
言葉の内容からして、この事態はこの人影によって引き起こされた、またはこの人影が関わっているということが理解できる。だというのに、一つの謝罪もないのだ。
この場にいる人々は暇人ばかりではない。仕事中に突然連れてこられた者もいれば、睡眠中や食事中にこの場に連れてこられた者もいる。誰もが、大成みたいにゲームを楽しんでいる途中で連れてこられたわけではない。ここにいる人々の中には、この瞬間にも生活が危うくなっている人もいるのだ。
――この場にいる人々にはだいたいある共通点がある。勿体ぶらないで言うと、ゲーム“デジタルモンスター”のランキングに登録されている千人だ。まぁ、偶然近くに居合わせたなどの理由でこの場に来てしまったなどの例外もいるがね――
その言葉で、例外とは自分のことであると大成は思い至る。口ぶりからしてまだ何人かいるのだろう。
だが、大成が気になるのは優希だ。優希は今日あのゲームを始めたばかりだ。そんな優希がランキングに入っているはずもない。大成は優希に巻き込まれたとして、なぜ優希はここへ連れ込まれたのか。それは、本人である優希にもわからなかった。おそらく、これを企んだ者しか知らないだろう。
――さて、前置きはここら辺にして本題にいこうか。先ほども言ったが、ここはあのゲームの中ではない。ここはデジタルワールド。ネットワーク上の擬似空間……まぁ、ネットの中にある異世界と思ってくれていい――
「ッ!やっぱり……」
「優希?どうかしたのか?」
「え?あ、いや……なんでもない……」
――誰だったかな。現実とは違うもうひとつの現実……とはうまいことを言ったものだ。あのゲームはこの世界を元に作り上げたのだからな――
それは皮肉だろう。そのことが理解できたものは、全員が微妙な気分となっている。
ちなみに大成はその皮肉がわからなかった方である。
「だからなんだっ!」と誰かが叫んだ。聞きたいことはそこではない。そんなことはどうでもいい。そんな思いがこもった叫び。そして、一度ブレーキが外れてしまったのなら、後はもう収集転がり落ちていくだけだ。
次々と不平不満を漏らす声が人影めがけて上がる。
――ふむ。聞きたくないのなら、聞かなくてもいい。その代わり……この後は保証しないがな――
その言葉で、誰もが黙った。当然だ。今、自分たちの生命はこの人影が握っていると言ってもいいのだから。
人影の言っていることが正しいのならば、ここにいる人々は見知らぬ地に放り出されたも同然なのだから。だが、この場のリアルさや人影の雰囲気がその言葉に真実味を持たせていた。
いや、それはもはや暗示にも似た不思議な説得力を持っていたのかもしれない。現実逃避をしている者でさえ、心の底ではこの話が真実だと認識していた。
――話の続きといこうか。あぁ……あと、ゲームに酷似しているからといって、ゲーム気分でいないほうがいい。まぁそれは、君たちの顔を見れば分かることだと思うがね――
誰もが、その言葉の意味を測りかねていた。顔を見ればわかる。どうして、それでわかるというのか。
そんな疑問を抱くことを人影はわかっていたのだろう。混乱する人々に構わず、話を先に進めた。
――まぁ、後で自分の顔を確認してみるといい。君たちのあのゲームで使っていたアバターはどこへ行った?とな。それか、ポケットの中を探ってみれば、あのゲームにはないモノを持っている者もいるだろう。この中にはな――
「……どういう……」
「大成……コレ」
「これって……スマホか?そんなものあのゲームには……」
優希が大成に見せたのは、スマホのようなナニカだ。だが、そんなものはゲームの中にはない。それはつまり、今の優希が持っているソレは、ゲームにログインしていた時には持っているはずのなかったものだということを示している。
――ふむ。何人かは気づいたみたいだな。君たちは現実の体でもってこの世界にいるのだ。ふむ?例えランキングに入っている者でも、常時ログインしているわけではない。ログインしていた者ならともかく、ログインしていなかった者がどうやって呼ばれたか……疑問かね?――
「……あ、そういえば」
「大成……アンタ気づいてなかったのね」
「う、うるさいやいっ!」
――先ほど述べただろう?この世界はネットの中にある異世界だと。つまり、この世界に通ずる道はネットやコンピュータだ。携帯にパソコン、テレビでさえ……このご時勢ネットに関わりのない場所の方が少ないだろう?ならば、どこにでもゲートは開くことができる――
それは、どこにいようと関係ないということなのだろうか。
あのゲームにログインしていた者だけがこの場に連れてこられたと思っていた優希にとって、その言葉の意味するところのものは衝撃的だった。
――ネットを介してゲームと現実を繋ぎゲートを開く。そしてゲーム内の情報を元に君たちの肉体をこの世界に呼び寄せた。まぁ、理解する必要はない。君たちは君たちの現実でもってここにいる。それがすべてだ――
「……現実……ね……」
――さて。君たちが一番気になっているのは元の世界に帰ることだろう。安心したまえ。そのために必要なことは至極単純だ。君たちに一体。君たちに相応しいパートナーデジモンを任せよう。君たちはそれを
「は?究極体?」
――究極体とは、完全体の上の存在。つまりあのゲームと同じ。進化させればいいのだよ――
「ふざけるなっ!完全体にすら進化させられないのに……その上だと!?」と、また誰かが叫んだ。当然だ。あのゲームで、一億人のプレイヤーの中で完全体へと進化させることができたのはたった五人だ。
そんな状態で、完全体のさらに上を目指すなど、誰もが不可能だと思うだろう。
もっとも――。
――できなければ、帰れないだけだ――
「究極体かぁ。ぐへへ……」
「いまいち何を考えているかわかるわね……」
大成を除くことだが。優希は大成から目を逸していた。理由は言わずもがな。その気持ち悪い顔のせいである。
究極体という弩級の存在の示唆をされて、大成はお得意の妄想をしているのだ。どのような妄想かは当人のみぞ知ることだが、その気持ち悪い中にニヤケが入っていることからして、きっと本人にとって幸せな妄想なのだろう。とにもかくにも、緊張感のないことである。
――この話が終わった後、各自にそれぞれのパートナーがいく。これは例外たちにも同様だ。楽しみにしているといい――
「おぉ!パートナー!」
「緊張感ないわね……この状況でそれって……」
――まぁ、デジタルワールドの中でもこの街だけは安全だ。この街の中での衣住食は保証しよう。だが……究極体を目指すのならば、この街の外にはでなければならないがな――
呑気な大成以外、その言葉に何度目かもわからない憤りを感じたことだろう。
この街の中では安全。帰りたいのならばこの街から出なくてはならない。だが、異世界であるここで外に出るということは、外国に手放しで放り出されることに等しい。いや、外国の方がマシだろう。ここは自分たちの常識が通じるとは限らないのだから。
――……まぁ、この世界では私もわかってないことが多い。君たちの幸運を祈ろう――
「って、そんな世界に放り出すのかよっ!」
「今更すぎる……」
それを最後に、スクリーンは消えた。話はそこで終わりということだろう。
後に残されたのは、行き場のなくなった人々だけだった。だが、次の瞬間、空から光の柱が次々と降り注ぐ。さらなる事態に誰もかれもがパニックだ。
だが、そんなパニックもすぐに収束することとなる。なぜなら、その光は人々に危害を加えなかったからだ。光の柱は、人々の前に寸分違わずに落ちる。だが、人々にあたることは絶対ない。
つまり、その光こそがこの世界で生きながらえるためのキーなのだ。人々一人一人の前へと落ちてくる光の柱。その光の中から現れるのは、さまざまなデジモン。
その現れたデジモンがその人のパートナーデジモンということなのだ。デジモンたちは一括して成長期だ。それ以上のデジモンもそれ以下のデジモンもいない。
そしてそのことに思い至った大成は、先ほどまでとは別の意味でテンションが上がってきていた。
「さあっ!こいこい!」
「大成がっつきすぎでしょ……」
「ここが俺の人生の分かれ目なんだよっ!」
「はぁ……」
相変わらず緊張感に欠ける大成を前に、優希はため息を吐いた。
そうして、大成の前にも光の柱が落ちてくる。まぶしくてよく見えないが、大成はその中にいるであろう己のパートナーに思いを馳せていた。
「さぁこいっ!アグモンか?ギルモンか?はたまたブイモンとか……っ?あれ?あれれ?」
そうして、現れたのは緑色の芋虫。大成の期待を大幅どころか明後日に裏切る結果である。
「……どうも。僕ワームモンです」
「……。ウソだぁああああ!」
残念ながら、現実はこんなもんである。
第一章開始です。
今回からどんどん話が進んでいきます。
11月19日加筆修正しました。