【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第四十三話~息抜きは大事~

 大成たちがそんなことになっている一方で。

 優希とレオルモンは大成たちと同じく移動しながらの聞き込みをしていた。だが、大成たちとは違うのは、移動方法が地道に歩いていたというところだろう。

 まあ、当然である。レオルモンが優希を背負って移動するなどということは、体格的にも不可能に近い。とすれば、ライアモンへと進化すればいいのだが、優希の力での進化はデメリットがある上に、好季の時の件を鑑みるにそもそも現段階での進化を試すのは危険すぎる。

 そんなこんなで、優希たちは徒歩で地道にこの広い街を移動していたのである。

 そんな時。優希は自分の耳にアナザーを当てていた。

 

「どうですかな?」

「……出ない」

「まぁ、ウィザーモン殿も忙しいのでしょうな」

「……いい案と思ったんだけどね」

 

 そう。優希の持つアナザーには、携帯電話のような連絡を取り合う機能が取り付けられている。しかも、普通の携帯電話とは比べ物にならないほど桁外れに高性能な機能が。

 まあ、アナザー自体はこの世界に来てからほとんど使うことがなかったために、その存在を持ち主である優希ですら半ば忘れていたりした。だが、先ほどその連絡機能も一緒にふと思い出したのだ。

 だから、優希はアナザーを使ってウィザーモンと連絡を取ろうとしていたのだが――結局、ウィザーモンが優希の連絡を受け取ることはなかった。

 こうなるといっそわざとを疑ってしまいかねないが、一応ウィザーモンの弁明をするならば、今の彼は珍しく徹夜疲れで夢の中に旅立っている最中なのである。

 ともあれ、連絡がつかないならば仕方ない。

 ウィザーモンに改めてガワッパモンの依頼について聞く。名案だと思った優希たちだったが、所詮は机上の空論だったようだ。

 結局、また歩いて地道な聞き込み活動をしなくてはならなくなった優希たちだった。

 

「大丈夫ですかな?お嬢様?」

「……うん。疲れたけど、まだ大丈夫」

 

 しかし、いくら優希が体力があるとはいえ、それでもデジモンたちの体力には及ばない。この街の桁外れの大きさも相まって、流石の優希でもそろそろ疲れが見え始めていた。

 優希が疲れ始めている。そのことはレオルモンもわかっている。だが、レオルモンにはどうすることもできなかった。進化すれば優希に楽をさせてあげられるだろう。だが、今はその進化ができない。レオルモンにとって、実に歯がゆい現実だった。

 

「……セバス?」

「……むぅ……あのスティングモン殿も進化できたというのに……このセバスは……」

「何をブツブツ言ってるの?聞こえないんだけど……」

「しかし……いや……でも……」

 

 思えば、好季との一件以降、ずっとこんな風な歯がゆい思いばかりをレオルモンはしていた。

 あの時の進化失敗以降、レオルモンは一度たりとして進化していない。

 まあ、あれは正確に言えば失敗ではなく、あれこそが完全体への進化だったということはレオルモンもウィザーモンから聞いて知っていた。だが、現段階ではレオルモンは完全体の状態に耐えられず、そして優希も現段階では進化先の成長段階を選ぶなどという器用な真似はできない。

 だからこそ、レオルモンは進化できなくなっている。それはつまり、今のレオルモンはほとんど役立たずということだ。

 

――もっとマシなパートナーだったのなら、とその身の不幸を呪うんだな――

 

 いつだったか、襲撃してきた男が優希へと言い放っていた言葉がレオルモンの脳裏に思い起こされる。

 本当にその通りだ、と。もっと自分がマシだったなら、と。例えばドルモンやスレイヤードラモンのような、と。

 そんな、嫉妬にも似た思いがレオルモンの中に生まれてきたのも無理からぬことだった。

 能力制御のために優希がドルモンと特訓し始めたことや、同時期に進化の見込みがなさそうだったワームモンがスティングモンへと進化したことも、そんなレオルモンの思いに拍車をかけている。本当にタイミングが悪いというか、なんというか、だ。

 

「……ふぅ。セバス」

「むむむ……これでは……やはり……このセ……オレより……」

「……」

 

 とはいえ。これだけ欝オーラを撒き散らしておいて、隣にいた優希が気づかないはずもなかった。

 レオルモンに声をかける優希だったが、当のレオルモンに応える気配はない。無視である。まあ、自分の世界に閉じこもっているからなのだろうが、誰だって無視されるというのは堪えるものだ。

 だから、というわけではないが――。

 

「えいっ!」

 

 優希は、実力行使することにしたのだった。

 

「痛い!って何をするんだ!優希!」

「口調が素に戻ってるよ?」

「はっ!?……何をするのですか?お嬢様」

 

 今更元に戻しても遅い。どうあがいても、取り繕うことは不可能だった。

 普段、レオルモンは口調を作っている。ちなみに、そのほとんどがレオルモンが読んだ漫画の登場人物の真似であったりするのだが、それはともかくとして。

 レオルモンが素の口調を出す時は、余裕がない時であることを優希は知っていた。まあ、余裕がないほどテンションが上がっているのか、余裕がないほどテンションが下がっているのか、と同じ余裕がないでも違うことはあるのだが。とはいえ、今回の様子から言って、前者であることなどあり得ないだろう。

 今のレオルモンは、思わず素の口調が出てしまうほど、そして欝になってしまいそうなくらい、余裕がなくなっているのだ。

 

「そりゃ、返事しないからよ」

「む……すみませぬ。少し考え事をしていたもので……」

 

 レオルモンがこうなることは昔から度々あった。

 レオルモンは抱え込みやすい性格をしているために、抱え込みすぎて一度こういう風になると行くところまでとことん行く。そのために、周りとしても困るのだ。

 しかも、レオルモンのこういう状態になる時のたいていの場合は、自分が密接に関わっているために、優希としても気まずいなどというものでは済まない。

 まあ、それが理由ではないし、だからというわけでもないが、優希としてもレオルモン一人に辛い思いをさせるのは嫌だった。

 だから――。

 

「……よし。セバス……」

「お嬢様?」

「サボろっか。大成たちには悪いけどね」

「はい?」

 

 だから、少しでもレオルモンの抱えているものを軽くできれば、とそう思って優希は提案したのだ。

 その時のレオルモンの顔は見ものだった。口をあけて一瞬だけだが呆然とするレオルモンのそのアホ面には、優希も少し笑ってしまったほどである。

 だが、当のレオルモンとしては驚きでは済まない。優希からサボるという言葉が出たのだ。いや、レオルモンとて、優希が聖人君子ではないことくらい知っている。だが、それでも真面目な人間であることには違いない。そんな優希の口から出たサボるという言葉。

 はっきり言って、レオルモンはショックを受けていた。

 

「お、お嬢様!?大成殿にサボらせないといった手前――!」

「いいじゃない。黙っていれば」

「なんですとー!?い、いやですな。お嬢様。そんな子に育てた覚えはありませんぞ!」

「あら、私もセバスに助けられたことはあっても、育てられた覚えはないわよ?」

「ぬぉおおお!」

 

 いや、ショックを受けていたどころではない。レオルモンにとっては驚天動地の事態と同じだ。先ほどまでの欝的考えなど彼方へと吹き飛んでしまっていた。

 まあ、それが優希の狙いなのだが。内心で大成たちに謝りながら、優希はレオルモンを連れて好きなように街を歩く。レオルモンには、優希を置いて行くという考えはなく、ついていくしかない。結局、優希の思い通りに、レオルモンも半ば強制的にサボりの共犯となっていた。

 ちなみに、優希が内心で謝っているその大成たちは、この時、戦場と見間違うかのような弾丸行き交う街中にて命がけで戦っている最中だったりするのだが、この時の優希には知る由もないことだった。

 

「ほらほら、いくよ!」

「ちょ、待ってくだされ!」

「あははっ」

 

 レオルモンもいい感じで肩の力が抜け始めている。優希としてはこの調子で、喫茶店でも、ショッピングでも、それこそゲームセンターでも、思いっきり気晴らしができるような場所へと行きたかった。

 だが、人間の世界の街ならばともかくとして、この機械里ではそのような店はない。いや、もしかしたらあるのかもしれないが、よく知らず、さらに画一的な見た目の建物ばかりのこの街でそのような店や場所を何の情報もなしに探すことは不可能だった。

 下手に適当なところで足を止めると、レオルモンがまたグダグダと考え始める可能性もある。だから、こうやって歩き回ることしかできない。

 体力的にもそろそろ厳しい優希だったが、そこはやせ我慢で行くしかなかった。

 

「……」

「ほら、セバス!早くー!」

「……仕方ありませんな。今行きますぞー!」

 

 ちなみに、この頃。楽しげな優希たちに対して大成たちは、一見イロモノにも見える難敵に立ち向かっていたりした。

 ともあれ、ちょっとは気晴らしになったようである。レオルモンにとっても、優希にとっても。

 

「大成たちには悪いけど、少しは息抜きもしないとね」

「後でちゃんと謝っておいた方がいいですぞ」

「何よ。セバスだって共犯じゃない」

「うぐ……わかりました。自首しましょうぞ!」

「なんでそうな――」

「む……?」

 

 だが、そんな時。二人の耳に聞こえたのは、奇妙な音だった。

 まるで何かを壊しているような、破壊音。それと機械が動いているかのような駆動音。音の大きさにして僅かなものだったが、確かに二人の耳に入ってきていたのだ。

 しかも、初めは僅かだったその音も、二人にはだんだんと大きくなっているような気がしていた。常識的に考えて、音源が近づいてきているのだろう。

 破壊音が聞こえ、そしてその音に呼応するかのように周りのデジモンたちが逃げ始めたという時点で、二人は共通に嫌な予感を覚えていた。名残惜しいが、楽しい時間は終わりのようだ。

 

「どうしますかな?」

「……どうしよう?」

 

 顔を見合わせてどうするか話し合う優希たち二人だったが、その二人ともが考えるこの先の展開は一つしかなかった。

 というのも、その音源が近づいてきている速度が半端なものではなかったのだ。このままではあと数秒くらいで、その音源の主が優希たちの目の前に現れることになるだろう。そして、その数秒で隠れられるようなわかりやすい隠れ場所はこの辺りにはない。

 つまり、どうあがいても展開は一つしかないのだ。

 この後に起きるだろう展開を理解して、明後日の方向を向いた優希たち。その目は諦観したように濁っていて、痛々しい。

 まあ、それでもレオルモンは一応警戒しているらしく、頭の毛からパチパチといった静電気によって発せられる警戒の音が辺りに響いていた。

 そして、ついに、あの音の主が優希たちの目の前に現れる。思わず優希たちが溜め息を吐いたその数秒後に。近くにあったビルを突き破って。

 

「ぅがぁああああ!止めてくれー!」

「……」

「……」

「うわぁあああああ!」

 

 現れたのは、銀色の機械でできたデジモンだ。現れた直後から、あらぬ方向を攻撃したり、フラフラしたり、と奇妙な動きが目立っている。

 そんな、四角い箱に手足が生えたような外見のデジモンの頭の部分には丸い窓がついていた。窓の中はよく見えないが、黒っぽいデジモンがいるのが確認できる。デジモンらしき機械にさらにデジモンが乗っているという、明らかにおかしい見た目だ。

 優希もそんなおかしな見た目に驚いている。とはいえ、その優希も、つい最近に似たようなコプセントのデジモンに出会ったことがあるのだが。この街、機械里へと来る時に。

 そう。つまり、この銀色のデジモンはあのトレイルモンと同じ、乗り物の形をとったデジモンということなのであり、このデジモンについてはあの奇妙な見た目で正解だという訳だ。

 

「あれは……?」

「メカノリモンというデジモンですな。学術院の街で一度だけ見たことがありますな」

 

 学術院の街で見たことがあるレオルモンが、メカノリモンについて優希に説明する。

 メカノリモンとは、小型デジモン専用のパワードスーツ型デジモンであり、他のデジモンが乗り込んで操縦しないと活動すらできない特異なデジモンである。ちなみに成熟期だ。

 もちろん、メカノリモンの中には自ら思考し、動くことができる個体もいるのだが、そんな個体はかなり希少である。

 目の前にいるメカノリモンは、中にデジモンが入っていて、さらに暴走しているような行動をとっていることからして、おそらくは普通の個体なのだろう。もちろん、希少な個体である可能性もあるのだが。

 

「あっ!そこにいる奴ら!助けてくれぇー!」

「どういうこと?」

「おそらく、あの中のデジモンが乗ったのはいいですが、操縦方法がわからずに暴走させてしまっているのでしょう」

「ああ……」

 

 レオルモンの言葉を聞いて、優希も納得する。

 現実世界だって、車やら飛行機やらを免許を持っていない者が運転すればどうなるか、想像に難くない。あのメカノリモンに乗っているデジモンもその口なのだろう。レオルモンの言う通りという訳だ。

 まあ、当の乗っているデジモンからすれば、早く助けてくれ、という話なのだが。こんな風に優希たちが呑気に話している中でも、メカノリモンに乗っているデジモンは相当な恐怖を味わっていた。

 

「セバス。いける?」

「うむ……まぁ、なんとかなるでしょう」

「早くー!ひぃいいいいい!」

「やれやれ。情けないことですな……」

 

 情けない悲鳴を上げるデジモンを助けるべく、メカノリモンの腕から放たれる狙いの定まっていない光線を躱しながら、レオルモンは駆ける。

 成長期と成熟期という差はあるものの、今回の目的は倒すことではない。さらに、メカノリモンはただその場で暴れているだけだ。理性なきデジモンのように、敵というものを定めた上で暴れるような訳ではない。

 つまり、指向性を持って暴れている訳ではないのだ。そんな、自分を狙ってすら来ない相手に何かを仕掛けるなど、レオルモンにとっては簡単なことだった。

 

「これしきなんの!これなら、スレイヤードラモン殿の剣を躱すことの方がよっぽど難しいのでな!」

「……いや、比較対象がおかしいでしょ」

「ほわちゃっ!」

 

 メカノリモンの下にたどり着くと同時に、掛け声と共に爪を一閃。そのレオルモンの鋭い爪撃によって、メカノリモンのコクピット部分の窓が破壊される。

 あとは簡単なものだった。コクピットの窓が割られた状態では、中にいたデジモンは暴れるメカノリモンの動きに耐えることができない。つまり、暴れるメカノリモンが体を振った時に、その勢いに耐えられずに――。

 

「ふぎゃっ!」

 

 吹っ飛ぶ。

 まさにボールのように。中にいたデジモンは吹っ飛んだまま、ビルに激突する。そして、中にいたデジモンが離れた直後、メカノリモンは動きを停止した。メカノリモンの方はどうなっているのかわからないが、中にいたデジモンはビルに叩きつけられながらも無事なようだった。頑丈である。

 とはいえ、これで優希たちにもようやく中にいたデジモンの姿をはっきりと見ることができるようになった。中にいたデジモンは、落書きのような赤色の右目と同じく落書きのような緑色の左目を持つデジモンだった。

 

「きゅー……」

「気絶してますな。どうしますかな?」

「どうする……って言ってもね」

 

 起きるまで介護して待つ。もしくは誰かを呼ぶ。この状況で優希がやることといえば、そのどちらかである。

 とはいえ、その必要はどちらもなかった。先ほどこの場から逃げていったデジモンたちが、あるデジモンを連れて戻ってきたからだ。

 連れて来られたデジモンは人型のロボットのようなデジモンで、メカノリモンと優希たち、そして中にいたデジモンを見て驚いたような表情をしている。

 

「これは?なるほど君たちがやってくれたようだな」

「えっと……」

「そちらは?」

「ああこれは失礼した私はアンドロモンこの街の長だ」

 

 妙に早口ながら、それでも一字一句に感情を込めるように話している。それが、普通のアンドロモンとは違うという、この街の長たるアンドロモンだった。

 




というわけで、第四十三話。
優希たちの話でした。ちなみに、今回の話では所々で次回以降の大成たちの状況が地味に書かれていたりします。

さて、次回は再び大成たちの方に戻ります。

あと、感想や評価は随時お待ちしておりますので、よろしくお願いします。
また感想でなくとも、ここはこうした方がいい、これはおかしい、などの批評批判でもいいのでよろしくお願いします。

それでは、今日はお願いしてばかりな気もしますが、次回もよろしくお願いします。
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