【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第四十五話~エテモンと遊ぼう!~

 沈黙。

 新たな乱入者の登場に、ビルの影から現場を目撃していた大成も、戦っていたスティングモンも、啖呵をきったエクスブイモンも、攻撃開始から一度も攻撃の手を緩めていなかったタンクモンでさえ。誰一人として言葉を発することができなかった。

 もちろん、圧倒的プレッシャー故に緊張して声を出すことができなくなった――などという訳もなく。

 ようするに。

 

「……」

「あらぁん?スゥーパァースタァーたるこのアチキの登場に驚いているのかしらぁん?」

「……」

「でも、ちょぅっとしつこいわねぇ」

 

 ようするに、()()()()()その乱入者に誰もが唖然としていたのである。

 珍妙過ぎる。新たな乱入者はその文字通りだったのだ。外見が猿のようだというのはまだいい。いや、確かに猿は猿であるのだが、完全に猿という訳でもなく。あくまでも猿の()()()、という形容詞付きである。

 腰に妙な人形をつけて、顔にサングラスをかけた猿のような外見の着ぐるみを着たデジモン。それが、エテモンというデジモンだった。ちなみに、ふざけた外見の割にまさかの完全体である。

 

「テヤンデェ!フザケテルンジャネェ!」

「あらぁん?」

 

 声色に似合わぬ言葉遣いやら、馬鹿にしているような外見やら、先ほどの口上にあった真偽怪しい戯言やら。もはや存在そのものがふざけているデジモンといっても過言ではない。そんなエテモンを前にして、真っ先に復帰したのはタンクモンだった。

 乱入したことか、それともその存在か。どちらにせよ、タンクモンはよほどエテモンのことが許せないらしい。スティングモンやエクスブイモンをそっちのけでエテモンに向かって攻撃を開始した。

 

「ノンノンノンノン!あちきの登場に舞い上がるのわぁ~わかるけどぉ!それじゃダメよォ!」

「ナニ!?」

「うわ……すっげ……」

 

 その光景を前にして、大成は驚きのあまり思わず呆然と呟いたが、それはスティングモンたちも一緒だった。

 タンクモンの猛攻をすべてエテモンは躱している。一発の被弾もなく、掠ることすらなく。ふざけた見た目の割に、かなりの実力を持っているようである。ふざけた見た目の割に。

 決してタンクモンが弱いというわけではない。エテモンが強いのだ。ふざけた見た目の割に。

 スティングモンもエクスブイモンも、この光景を見てまで自分たちとエテモンの実力差を理解できないほど馬鹿ではない。とはいえ、ふざけた見た目のエテモンが自分たちよりも強いというこの事実は、彼らにとってまさに悪夢でしかなかった。

 二人とも頭に手を当てている。きっと目眩でもしたのだろう。

 

「……やっぱ、格好良いと強いってことは違うんだな……」

 

 再度、呆然と呟いた大成。この様子ならば、エテモンに向かってはいつもの“パートナーになってくれ”発言はしないだろう。流石に、強いからといってエテモンにまで食指は動かなかったようである。

 だが、そんな風に大成たちが唖然としている前でも、戦況は動いている。

 タンクモンの攻撃の勢いが収まってきた。おそらくは撃つ弾がなくなってきたのだろう。先ほどから考えなしにぶち放ち続けていたのだ。それも当然と言える。

 

「そぉろそぉろ終わりのようねぇ!むぅ~ん!」

「ック!マジメニタタカイヤガレ!」

「いいわぁよぉ!じゃあ!頑張ってみなさいよぉ!」

「バカニシヤガッテー!」

 

 タンクモンはエテモンの態度に怒りを感じているようだったが、初めからエテモンには戦っているというつもりはない。戦っているつもりになっているのはタンクモンだけだ。

 というか、タンクモン以外の誰が見ても、エテモンは戦っていなかった。エテモンは、ただ自分の思うままに遊んでいるだけだ。それほどまでに、タンクモンとエテモンの間には力の差があった。

 とはいえ、観客に成り下がった大成たち三人はタンクモンの気持ちがよくわかっていたし、先ほどのことなど忘れて同情すらしていた。あの見た目の相手に苦戦するのは、なんというか、アレだ。情けない。自尊心を酷く傷つけることにしかならない。

 

「……それじゃっ!そろそろシメに行くわよぉ~!」

「ナッ!」

「スリー!ツー!ワン……で、死ねオラァ!」

「ガハッ!」

 

 エテモンがしたのは、カウントダウンを数えてからの、ただのパンチ。

 だが、侮るなかれ。ただのパンチといえど、タンクモンは空を舞ってビルに激突した結果となったのだ。機械系で大きさの割に重量のあるタンクモンが、である。

 それだけエテモンの力が凄いということなのだが――。

 

「大成さん……」

「イモ、俺たちは何も聞いてない。何も聞いてないんだ」

「……え?なんか――」

「言うなっ!」

 

 それよりも、大成たちにとってはエテモンのパンチの時の掛け声の方がインパクトがあった。というか、インパクトのあまりに、聞かなかったことにしていた。

 そう、聞かなかったのである。見た目にそぐわない、されどある意味で雰囲気にマッチした掛け声など、決して聞いていない。地獄の門番の声と聞き間違うばかりの野太い声など、絶対に聞いてなかったのだ。

 そう思ってないとやっていけなかった。そうしないと気色の悪い恐怖に飲まれそうだった。ある意味、それこそがエテモンの力なのだろう。嫌な力だが。

 ともあれ、これでひとまずの危機は去った。

 例えそれがふざけた格好の相手でも、助けられたことには変わりないのだ。だというのならば、お礼をしなければならないだろう。礼を言うために、ビルの影から出た大成はエテモンの下へと向かっていく。

 だが、結果的にはその礼を受け取ってもらえることはなかった。なぜなら――。

 

「悪い。助かった」

「あらぁん?いいのよぉ~。だって次はアナタたちなんだからぁ~」

「え?」

 

 なぜなら。次は、大成たちの番なのだから。

 エテモンの言葉に、わけがわからないとばかりに呆然とした大成だったが、エテモンはすでにファイティングポーズをとばかりに構えている。やる気のようだった。

 そんなエテモンの姿を視界に入れたスティングモンとエクスブイモンは、大成を庇うかのように前に出てエテモンと向かい合う。

 状況は悪化していた。敵は先ほど苦戦していたタンクモンを圧倒するエテモン。こちらは二人になったとはいえ、片や連戦で疲れていて、片や負傷している。どうあがいても希望は遠かった。

 だが、そんな崖っぷちの大成たちに希望の糸が垂らされる。ほかならぬ、エテモン(元凶)によって。

 

「うふふん~別にねぇ~アチキも鬼じゃないのよぉ」

「だったら、戦わなくていいんじゃないんですか?」

「いやねぇ~……坊やたちがイケてるから~ついイジワルしたくなっちゃうのヨ!」

「寒気が……!」

「まぁ、勝てとは言わないわ。坊やたち()()でアチキの腰についてるこのもんざえモン人形を取ることができたらぁ~引いてあげるわ!」

 

 そう言って、エテモンは自分の腰についている黄色いぬいぐるみを指した。

 つまり、大成たちはそのもんざえモン人形とやらをエテモンから奪えば勝利ということになる。完全体にして、自分たち以上の実力を持つエテモンを倒さなくても勝利となる、というその勝利条件は大成たちにとって願ってもないことだった。まさに、幸運である。

 これならもしかしたら、と大成は僅かな希望を見る。だが、事は大成が思っているほど簡単ではなかった。それに気づいているのは、気づけているのは、この場にいたデジモンたちだけだった。

 

「それじゃぁ~スタートねっ!」

「っ!」

 

 戦闘が、いや、エテモンにとっての戦い(お遊び)が始まった。

 そう。そこからの展開は一方的なものだったのだ。元々のスペック差がある上に、連戦での疲れに負傷。まるで話になっていない。倒す必要のない相手だというのに。腰にぶら下がっているものを取るだけだというのに。たったそれだけが、遠かった。

 疲れを無視して動くスティングモンに、痛みを無視して動くエクスブイモン。実に頑張っている。だが、そんな二人の頑張りなど無視するかのように、現実は無情でしかない。そんな二人など、エテモンにとっては赤子も同然だったのだ。

 戦いにすらならない。これはエテモンにとっての遊びなのだ。エテモンがどれだけ満足するか。それだけがこの時において必要なことだった。

 もちろん、エテモンにとっては遊びだから、この戦いも無事に終わるかも、という楽観は大成たちにはない。エテモンにとっては遊びでも、大成たちにとっては命懸けの戦いなのだから。

 

「っく!」

「ぬぐっ!」

「ほらほらぁ~ん。どうしたのぉん?」

 

 もっとも、エテモンは遊びだからこそ、スティングモンとエクスブイモンは今まで生きていられるとも言えるのだが。そう。もし仮にエテモンが本気だったら、二人は万全の状態であったとしてもすでにやられているだろう。

 それほどまでに、エテモンとの力の差はあった。確かに、スレイヤードラモンやムゲンドラモンといった最強に名を連ねるような者たちほどではない。だが、今の大成たちよりも、あの勇たちよりも、先日のハイブリッド体よりも。エテモンは強い。

 冷静に、そのことを認識する大成。見れば、スティングモンとエクスブイモンがエテモンの遊び相手として頑張っていた。

 

「ははっ……慣れたもんだな。俺も」

 

 だが、そんな状況を認識したというのに、大成の口から漏れたのは笑いだった。崖っぷちな状況だからどうした、とそんな気分になっていたのだ。大成は。

 確かにエテモンは強い。状況も崖っぷちだ。だが、大成はもっと絶望的な状況に触れたことがある。エテモンとは違って、本気で自分たちの命を取りに来た相手と相対したことがある。

 それでも、今までなんだかんだでやってこれたのだ。なら、今回だってなんとかなる。

 大成はそう思ったのである。ようするに、慣れたのだ。大成自身も嫌に思う慣れではあるが、それでも大成はありがたく思っていた。おかげで動くことができる、と。

 固まっていては何もできない。何かを成すなら、動かなくてはならない。そんな当然ながら、しかして当然に行えないそのことを、大成はこの世界に来ていろいろな者たちから学んだ。自分のパートナーに、優希に――本当に、いろいろな者たちから学んだ。

 だからこそ、大成は動くことを決断する、決断することができる。成したい何かがあるから。動かなければならないことを、知っているから。

 

「問題はタイミングだよな」

 

 一口に動くといってもいろいろな方法がある。

 今回の場合で言えば概ね二つ。戦いのサポートをすること。もしくは戦いに参戦することだ。この中で大成は後者を選んだ。相手が完全体デジモンであることを考えれば、普通に考えて愚かな選択である。だが、これは大成なりに考えた結果の選択なのだ。

 まず、エテモンは強い。そんなエテモンを相手にして勝利のサポートできるほど、大成はサポート能力に秀でていない。もちろん、まったくできないというわけでもないだろうが、大成がサポートしたところで負けは目に見えている。

 次に、大成は弱い。いつぞやの旅人みたいにデジモンたちの戦いの中に平然と入っていくなどという自殺願望的行いをすることなどできない。

 これだけを言えば、詰んでいる。まったくもっていつも通りだ。だが、今回はいつもとは違うことが一つだけある。

 そう。大成たちの勝利条件だ。

 エテモンの腰のもんざえモン人形を取れば勝ち。その条件は、大成にも付け入る隙を与えている。

 

「ほらぁ!お尻ペンペ~ン!」

「舐めやがって!」

「威勢だけはいいわねぇ!いいわぁ~!」

 

 人形を取るだけなら、そうたいして力はいらない――はずである。

 だが、もし大成が乱入して取れなかったら、その時の大成の末路など決まりきっている。それについて思いつかないほど、大成は馬鹿ではない。

 自分が死ぬことを想像の上でも実感するなど、恐怖以外の何者でもない。大成は今、そんな恐怖を感じていた。だが、それでも。そんな恐怖を感じながらも、震え、固まることなく大成は前を向く。

 結局、すべて今更なことだったのだ。慣れたのだ。大成は。誘拐され、圧倒的絶望に襲われ。さまざまな経験が大成の中の恐怖に対する耐性を上げていたのである。

 今更恐怖を感じたところで、もう恐怖におののく段階はとうに過ぎている。恐怖を感じていないわけでもないが、それ以上に望んでいるミライがある。

 だからこそ、大成はいつでも動けるようにして、その時を待つ。決してその時を見逃さないように。非力な自分だって、できることはあるのだ。

 大成がある意味で覚悟を決めていたそんな頃。

 

「このぉおおお!」

「ちょ!また焦っていますよ!」

「……ハッ!?いや、そんなことはねぇよ!」

「あらあらぁ……意外といいコンビみたいねぇ~」

 

 戦況は変化していなかった。

 まあ、戦況は変化していなかったが、スティングモンとエクスブイモンのコンビネーションが上手になってきた。それに伴って、性格上先走りしやすいエクスブイモンを冷静なスティングモンが補佐するという形で、二人の間の役割分担もキッチリとされている。

 エテモンの分析通り、二人は意外と相性が良かったのだ。

 

「これでっ!」

「無駄よぉ!」

 

 エテモンの背後へと回り込んだスティングモンは、自分の必殺技“スパイキングフィニッシュ”を放とうとする。

 そんなスティングモンを前に、エテモンはまるでダンスのようなリズムの最小限の動きで、スティングモンの両腕の延長線上に体が捕まらないようにしている。スティングモンの必殺技は、所詮両腕のリーチが伸びるだけ技だと見切ったからの躱し方だった。

 まあ、エテモンを見ていると簡単に躱しせる技のように見えるが、当然ながらそんな訳はない。

 だが、そんなエテモンを追い詰めるかのように、エクスブイモンが立ちはだかった。

 

「余裕こいてるんじゃねぇ!くらえっ!」

「あらあらぁ~?」

 

 直後、エクスブイモンの腹のX字の模様から放射されるエネルギー波が放たれる。“エクスレイザー”と呼ばれるエクスブイモンの必殺技だ。

 だが、そんなエクスブイモンの必殺技も、エテモンは当然のように躱した。

 

「……!ちくしょう!」

「いや、でも惜しいですよ。このまま行きましょう!」

 

 とはいえ。スティングモンたちは、戦闘開始よりもずっと善戦できているような気がしていた。いつの間にか、連戦の疲れも、傷の痛みも、感じていない。

 まるで相手と一つになったかのように相手の考えがわかる。体が動く。これならいけるかもしれない。スティングモンたちはそんな気さえしていた。

 そして、そんなスティングモンたちの思いと同じくして、エテモンは奇妙な感覚を抱いていた。二対一ではなく、まるで一対一で戦っているような、そんな奇妙な感覚を。

 エテモンがそんな感覚を味わっている時。それは不意に――。

 

「あらぁん?」

 

 それは、不意に起こった。

 目の前にいた二体のデジモンの姿が、いきなり一体のデジモンの姿になったようにエテモンには見えて。そのありえない現象を前にして、エテモンは思わず呆然としてしまった。

 そして、その隙を逃さないスティングモンたちではない。このチャンスをモノにすべく、エテモンに仕掛ける。

 とはいえ、致命的な隙を見せるほどエテモンも呆然としてはいない。すぐに復帰して体勢を立て直し、二人を返り討ちにする。だが、この時、エテモンは完全に復帰しきれていなかったのだろう。エテモンは忘れていたのだ。この場にいてチャンスを狙っていたもう一人の存在を。

 

「取った――!」

 

 そう。一瞬前。スティングモンたちの影に隠れるように大成は駆け出していた。その胸に()()()()()を引き起こした自分のパートナーに対する複雑な思いを抱きながら。

 スティングモンは大成のパートナーだ。それは間違いない。だが、出会った当初は頼りなかったというのに、今は多少マシになっている。まさに成長していた。そんな自分のパートナーを喜ばしいと思う反面、大成自身、知らぬ間に一足飛びで成長していく自分のパートナーに負けたくなかった。大成は、自分のパートナーと共に歩いていきたかったのだ。置いていかれたくなかったのだ。

 今回この無茶なことを敢行したのも、こうしなければならなかったというだけではなく、この辺りのことを無意識的に考えていたのかもしれない。

 そして、一瞬後。驚愕に震えるデジモンたちの前で、大成はその手にもんざえモン人形を掴んでいた――。

 




というわけで第四十五話。
エテモン大活躍?回でした。

次回からは優希たちの方に戻ります。

それでは、また次回もよろしくお願いします。
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