【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第四十六話~起床!未来のいたずら王!~

 時は少し遡って、大成たちがエテモンの強さに舌を巻いていた頃。

 優希たちはアンドロモンに連れられて、機械里の中心地にある一際大きい建物の中に案内されていた。先ほどメカノリモンの中にいたデジモンも、アンドロモンに背負われて連れて来られている。

 そして、優希たちが案内されたその建物は、外見上は他のビルと同じながらも、大きなビルが立ち並ぶ機械里の中で輪をかけて大きい。同じ大きさで同じ外観の建物という、正に規格が統一されているようなこの機械里の建物の中にあって、この建物だけが一際大きいというのは異様だった。

 

「この建物はこの街の中心なのだゆえにこの建物にはこの街の技術のすべてが集められている」

「早口ですな。お嬢様……ついていけてますかな?」

「なんとかギリギリね」

「ああすまん外来の客に対して私の口調はいつも不評だ曰く聞き取りにくいと」

 

 優希たちが出会ったアンドロモンの話し方は、なんというか、すごく早口だった。句読点をちゃんと使え、と言いたくなるほどの早口だ。

 アンドロモンもそのことは自覚しているらしい。まあ、外来の客がいつも同じようなことを言ってくるらしいのだ。揃いも揃って同じことを言ってくれば、流石に自覚するだろう。

 とはいえ、この街に多く住むデジモンは機械系のデジモンである。何が言いたいのかというと、機械であるが故に、早口程度を聞き取れないデジモンなどいるはずもないということで。つまり、早口であっても会話が成り立つということだ。

 この結果、アンドロモンは早口を直そうとしないのである。

 だが、優希たちにとってはこの話し方は聞き取りづらいことこの上ない。少し会話するだけで、かなりの労力がいるのだ。この少し、が長々と、になった場合の労力など考えたくもない。

 

「……普通に話せないんですか?」

「普通というものの意味は一般化された概念のことであり私にとってはこれが普通の状態である」

「いや、そういうことを言っている訳ではなくてですな」

 

 だからこそ、優希たちは普通に話せるか聞いたのだが、当のアンドロモンにはうまく伝わらなかったようである。

 というか、優希の質問に対してこの切り返しの仕方では、いっそ嫌がらせ感を感じさせる。まあ、アンドロモンの様子を見るに素なのだろう。この街のアンドロモンは感情を得ているという話だが、こんな微妙な会話をしている時点で、本当に感情を手に入れていることができていると言えるのか。疑問である。

 

「ようするに、皆みたいな話し方はできないんですかって話ですね」

「皆?しかしこの街の者たちは者によってそれこそ話し方が違うそんな者たちの話し方を統括し平均した話し方では余計に聞き取りにくいと思われる」

「だから、そういうことではなくてですな!このセバスやお嬢様のようにゆっくりと話せないのですか?ということですな!」

「セバス、一応この人偉い人だから……もうちょっと抑えて」

 

 少し怒ったような、ともすれば無礼と見られる雰囲気で言葉を返したレオルモンを、優希は窘める。

 当のレオルモンも、言葉を発した後でそのことに気づいたのだろう。やってしまった、とそんな表情をしていた。

 とはいえ、レオルモンがこんな反応をしたのも、優希が先ほどから敬語を使っていたのも、すべてはアンドロモンがこの街の長であるが故で、すなわち偉い人であるからなのである。

 だが、レオルモンはともかくとして、優希は学術院のウィザーモンやスレイヤードラモンには普通に話していた。一応彼らもアンドロモンに匹敵するほどの偉い存在であるといえるのだが――その辺り、優希はきっと気づいていないのだろう。

 

「話せないのなら仕方ないですね。すいません、変なことを言ってしま――」

「ああ、そういうことか。一般的な会話速度で話せ、と言いたかったのだな。君たちは」

 

 だが、そんな時。優希たち二人の耳に飛び込んだのは、聞き慣れない声だった。いや、声自体は先ほどまで聞いていた声であるのだが――それでも聞き慣れなかった。

 

「――って……え?」

「むむ?」

「……?何を驚いているのだ?」

 

 それは驚くだろう。なにせ先ほどまで聞き取るのが辛いまでの早口だった()()()()()()が、いきなり普通の会話速度で話すことができるようになったのだから。それで驚かない方がおかしい。

 というか、本当にいきなりである。

 まさか、今までのはすべて自分たちに嫌がらせをするための演技だったのか。

 思わずそんな妙な疑念が頭の片隅に思い浮かんでしまう程度に、優希たちは驚いていた。まあ、あくまで片隅であるのだが。

 今の優希たちの頭の中の大部分を占めていたのは、なぜ初めからそうやって話さなかったのか、という疲れた思いだった。

 

「アンドロモン殿……普通に話せるのですな」

「話せるに決まっている。ある程度の言語会話パターンはインストールされている。話し方を変えることなど造作もないことだ」

「だとしたら何故なのですかな?」

「決まっている。たくさんの言葉を話したいからだ」

 

 たくさんの言葉を話したいから、早口になる。

 そこは優希たちにも理解できる。だが、アンドロモンは何故たくさんの言葉を話したいのか。そこがよくわからない。結局、アンドロモンはおしゃべり好きということで片付けた優希たちだったが――本当はそうではなかったりするのだ。

 とはいえ、優希たちが本当のところを聞くことはなかった。聞くことはできなかったというべきか。

 なぜなら。

 

「ふわぁーあ……よく寝たー」

 

 その時、アンドロモンに背負わられていたデジモンが起きたからだ。

 あまりに場違いな声が発せられ、必然的にそちらの方に全員の気が向いたために、先ほどまでのことは忘れられたのである。

 

「起きたか……」

「げぇっ!クソロボ!」

 

 起き抜けに失礼な言葉を言い放ったそのデジモン。そのあまりの変わらなさに、アンドロモンは頭を抑えていた。

 メカノリモンの暴走という、あれだけの目にあったのだ。少しは変わったか、とアンドロモンは期待したのだが、そんなことはなかったようである。

 

「自己紹介しろ。お前の暴走を止めてくれた者たちだ」

「いつものキモイ話し方じゃないのな……って、んー?おい、クソロボ。片方は人間じゃんか。本当かー?」

「ああ。この者たちはお前を殺さずに助けたのだ。それだけで噂の者たちとは違うことはわかる」

「っけ。脳内お花畑ロボットめ。そうやってまたヘマすんなよ」

 

 いい加減に置いてけぼりな優希たちだったが、アンドロモンとそのデジモンの会話を邪魔するのも気が引けていたために、声を上げることはしなかった。

 それほどまでに、優希たちにはアンドロモンとそのデジモンの仲が良いように見えたのだ。確かに、そのデジモンのアンドロモンに対する言葉は汚い。一見するとアンドロモンを敬っていないようにも見える。だが、そこには確かに親愛の情があった。

 そして、そのデジモンを見るアンドロモンの目も心なしか優しいように見える。それはまるで、根は優しい不良の子供を見守る父親のようにも見えて。

 優希たちにはこの二人のことが親子のように見えていたのだ。

 

「って!お前ら何ニヤニヤしてやがる!」

「別に?仲がいいと思ってね」

「そうですな」

「冗談じゃねぇ!誰がこんなクソロボと……!」

「……素直じゃないわね」

「……!っち!やっぱ()()()()()()()()()()()()()()()だな!」

「……?」

 

 そのデジモンのその言葉は、まるで人間についての妙な噂が出回っているようで。

 心の中に妙なシコリが残り、僅かにスッキリとしないままに――それでも、今この世界に来ている人間の中の誰かについて噂になったのだろう、と優希たちは流すことにした。

 そして、優希たちがそんな心のシコリに引っかかったその頃。そのデジモンは、密かに機嫌が下がり始めていたアンドロモンに気づいた。

 まあ、アンドロモンの機嫌が下がるのも当然だろうが。そのデジモンは助けてくれた恩人相手(優希たち)に礼どころか、自己紹介すらしようとしていないのだから。

 

「“ドラクモン”……?」

「ああもう、わかったよ!俺様はドラクモン!世界一のいたずら王になる者だ!」

「……いたずら王?」

 

 名前を呼ばれただけ。機械系デジモンらしく声の雰囲気は変わっていなかった。だが、それだけでアンドロモンの機嫌が相当悪くなっていることを察知したドラクモンは、焦りを内心に留めて自己紹介を始めた。

 まあ、アンドロモンが機嫌が悪くなっていたことは、優希たちには全くわからなかったのだが。そこはドラクモンの付き合いの長さ故、ということだろう。

 それはともかくとして。自己紹介をされたことによって、ようやくドラクモンのことを知ることができた優希たち。ツッコミどころはあったものの、それまでのアンドロモンのやり取りも含めればドラクモンの性格がそれなりに見えてきていた。

 

「コイツはいたずらが好きなのだ。先ほどのメカノリモンとて、無理矢理に乗ったのだ」

「お、う……ばれてーら。っていうか、断言かよ」

「ドラクモン殿。正気ですかな?それでどれほどの者たちが迷惑したと?」

「誰にも迷惑かからないいたずらなんて……いたずらじゃねぇだろ?」

 

 そう言い切るドラクモンはある意味では潔くもある。

 だが、目の前で好き勝手言うドラクモンを見るレオルモンの顔は自然と厳しいものになっていた。

 人に迷惑をかけることを公言し、しかもそれが冗談という訳でもない。そんなドラクモンにはレオルモンも良い感情を持てなかったのである。

 

「そう怖い顔すんなって。それにな!今の俺には目標がある!大層な肩書きの、あのスカしたトカゲ騎士に落書きをするってな!」

「……はぁ。やめておけ。どうせまた失敗する。今度は本気で殺されるぞ」

「はっ!やる前から失敗の想定なんかするかよ!情けない!」

「それに、もし仮に成功したら……その時は私でも庇えんぞ」

「庇う気なんかないくせに。そしたら、お前は積極的に俺様を殺しに来るだろ」

「当然だ。恩知らずでは済まないからな。黒い歯車に囚われた私を救ってくれたスレイヤードラモン様に……そんなことをされたとあってはな」

「え?」

 

 一瞬、優希たちは驚きのあまり固まった。まあ、思わぬ所で、思わぬ名前が出てきたのだ。そうなるのも頷けるだろう。

 スレイヤードラモンが何らかの形でこの街で何かをしたのは知っていたが、まさか街の長の命を救っていたとは。何をしているんだ、という話である。

 しかも、話の流れからいくと、救った挙句にドラクモンにいたずらを仕掛けられている。未遂で終わったようだが、何をされているんだ、という話だ。

 

「という訳だ。コイツは命の恩人だろうが、英雄だろうが、神様だろうが、平気でいたずらする。君たちも気をつけてくれ」

「そこはそっちで止めてくださいよ」

「すまん。これをなくしてはコイツではないのでな」

 

 言っておきながら、アンドロモンは頭を痛そうにしている。いや、痛いのだろう。

 だが、叱ることはあっても、怒ることはあっても、頭を悩まされても――それでもドラクモンの性格を直そうとしないのは、アンドロモン自身が言ったように、ドラクモンの性格を理解し、尊重しているからなのだろう。

 機械系デジモンではないドラクモンがどうやってアンドロモンと出会ったのかは知らないが、羨ましくなるほど良い関係の二人だった。

 

「ほんとはロイヤルナイツだの、四聖獣だの、そんな伝説の中の連中相手にやらかしたかったんだけどな。ま、いないもんはしかたない」

「命懸けでイタズラするなど……!正気ですかな?」

「おいおい、たかが命でビビってられるかよ。そんなんにビビってちゃ、大切な場面を見逃しちまう!」

「っ!狂ってますな!」

 

 狂ってる。ドラクモンは、命という一つしかないものをたかがで言い切ったのだ。そうとしか言いようがないだろう。

 レオルモンは、そんなドラクモンのことがどうにも好きになれなかった。自殺願望があるわけではないようだが、それでも場合によっては命をドブに捨てるのも厭わないその性格が気に食わなかったのだ。

 まあ、自分のためだけに生きるドラクモンと他者と共に生きるレオルモン。二人はその在り方からして、正反対だ。特に真面目なレオルモンでは、ドラクモンのような考え方をする者を嫌ってしまうのも仕方ないのかもしれない。

 

「はっ。誰だって自分のために生きてる!なら、思い通り好き勝手したっていいだろ」

「このセバス、そんなことはないですぞ!」

「へぇ?でも、そんなのはありえない。自分のために生きていないやつなんて、それこそ人形だ。この街の奴らのような……!」

 

 吐き捨てるように言ったドラクモンのその言葉は、ともすればアンドロモンさえ含んで侮辱しているようにもとれる。だが、それでもアンドロモンは気にしていないようだった。いや、それどころか、ドラクモンの言葉に共感しているようにさえ見える。

 それが、レオルモンには不思議だった。自分たちのことが侮辱されているというのに、この街の長たるアンドロモンはドラクモンの言葉に共感していたのが。

 

「……それでいいのですかな?アンドロモン殿」

「うむ。ドラクモンの言っていることは正しい。我々機械系デジモンはその大半が誰かの為に生きることしかできない。自分のために生きるということができないデジモンだ」

「……それは」

 

 機械というものは、誰かに使われてこそだ。人間の世界で生きていた優希とレオルモンにはそれがよくわかる。だが、同じくらいにデジモンという生物はただの生物で片付けられない生き物であることも知っている。

 だからこそ、優希たちは思うのだ。アンドロモンの言うように、それを認めてしまうのは、とても悲しいことではないのかと。

 そして、同じくアンドロモンの言葉を聞いていたドラクモンは、目に見えて機嫌が下がっていた。

 

「っち。クソロボが」

「だからこそ、私はこのドラクモンが羨ましいと思う。我々機械系デジモンにはない自由な生き方をできる者だからな」

「でも、アンドロモンは感情を得ているって聞いたんです。なら、アンドロモンでもそういう生き方はできるのでは?」

「私はダメだ。いくら感情を得ようと、それまでの自分が消えるわけではない。それまでの生き方を大きく変えることはできないのだ。個人的にも、立場的にも」

 

 ふと思ったから聞いた優希だったが、アンドロモンの返答は芳しいものではなかった。それに、個人的云々はともかくとしても、立場というものはそう簡単なものではない。それがアンドロモンのようなより責任ある立場であったらなおのこと。したくとも、できないのだ。

 それは、可能性を持ちながらもそれを捨てなければならないという、常識と社会に囚われている生き物であるが故のもどかしさ。現実の非情。

 未だ子供の優希では、責任ある立場というものも、現実の非情さも、そのすべてを知ることができない。想像だけならばいくらでもできるが、それはあくまで想像でしかない。

 ゆえに、優希にできたことは、せいぜい苦し紛れの言葉を探すことだけだった。

 

「でも……」

「ふむ。人間の中では、君の年は若いらしいな。なら、焦ることはない。いつか知ることになる」

「……」

「それに、私は感情を得て、その素晴らしさを知ったのだ。だからこそ、私はより早くたくさんの話をする。感情を確かめたいがゆえに。それができるだけで私は満足だ」

「……けっ!クソタヌキ系ロボめ。満足なんかできるわけないだろ」

 

 ドラグモンが何かを言っているようだったが、アンドロモンは軽く流した。

 一方、ドラクモンとしては、アンドロモンにそんなことを言って欲しくはなかった。口ではなんと言おうとも、ドラクモンはアンドロモンのことが大好きなのだ。だからこそ、そんな自虐ともとれることを行って欲しくはない。ドラクモンがアンドロモンにいろいろと口悪く言うのは、ようするには発破をかけているのと同じなのである。

 とはいえ、アンドロモンもそのことには気づいている。気づいていながらも、流しているのだ。

 

「それに、若い君なら……どんな可能性もある。悲観することはない。我々デジモンと同じだ。君たち人間も進化はできるからな。進化はデジモンだけの特権ではないのだ」

「お嬢様は進化などできませぬぞ?」

「そういうことを言っている訳ではないのだが……まぁ、いつか気づくだろうな」

 

 アンドロモンの言っていることは、優希たちにはよくわからなかった。

 だが、疑問顔で顔を見合わせる優希たちとは対照的に、「クソジジイロボめ」と呟いているドラクモンの姿がどこか印象的だった。

 




というわけで、第四十六話でした。
さて、あと一二話で機械里での話は終わりなのですが、章を五にするか、四のまま行くか……悩んでます。

次回はアンドロモンと優希たちですね。

それでは次回もよろしくお願いします。
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