【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
そんなこんなで話が盛り上がって来たところではあったが――いきなり、ドラグモンがハッと何かに気づいてような表情をして、大声で言い放った。しまった、と。
「そういや……今この街にあのトカゲ騎士が来てるんだってな……メカノリモン作戦は失敗しちまったが……よし、ちょっくらやってくるぜ!」
その内容は至極私的かつどうでもいいことだったが、言った当人としては一刻も争う自体だったのだろう。そう言った直後に、ドラグモンは慌てて建物から出て行った。
おそらくはスレイヤードラモンを探しに行ったのだろう。だが、他人との話を切り上げて、さっさと去って行ったその様子からは、忙しないと言う言葉しか見つからない。
そんなドラグモンの姿に、何度目になるかもわからない頭痛を感じていたアンドロモンだった。
「……大丈夫かしらね」
「お嬢様。それはどちらに対してですかな?」
「……さぁね」
「このセバスとしては、ぜひ己の身の丈を知って欲しいものですがな」
ドラグモンが去ったその場には、嵐が過ぎ去った後のような微妙な静謐感だけが残った。まあ、それだけ、あのドラグモンは良くも悪くも個性的だったということだろう。
ともあれ。ターゲットにされているだろうスレイヤードラモンと手を出してボコられるだろうドラグモン。どちらを心配すればいいのか、悩んでしまった優希たちである。
「……さて、ドラグモンのせいで話がズレたな。この建物に君たちを誘ったのは、個人的な礼をするだけではない」
「どういうことですかな?」
「君たちのことは前もって学術院のウィザーモンから聞いていたのだ。ヒントを与えてほしいとも。そのために君たちはこの街に来たのだろう?」
「え?」
ドラグモンが原因よる接触は予想外だったものの、元々優希たちとは接触するつもりだった、とアンドロモンは言う。
それにはどうやらウィザーモンが関わっているらしい。それに、アンドロモンの言うことが正しいのなら、ガワッパモンの依頼はあくまでついででしかなかったようだ。
つまり、ガワッパモンの依頼は関係なく、優希たちはこの街に来ることになっていたということで。
それならそうと初めに言ってくれればよかったのに、とここにはいないウィザーモンに対して思う優希たち。だが、こうした方が、ウィザーモンとしても鬱陶しいガワッパモンの依頼も片付けられるために、一石二鳥だったのである。
「君のその特異な力にも興味はあるが……その辺りは学術院のウィザーモンの専売特許だな。私はただ学術院のウィザーモンから頼まれただけだ」
「頼まれた?」
「そうだ。しかし……これは学術院のウィザーモンもやろうと思えばできるはずなのだがな」
ウィザーモンでもできるならば、わざわざこの街まで来なくてもよかったはずである。ウィザーモン自身ができる内容ならなおのこと。
だというのに、なぜこんな回りくどいことをしたのか。そこに、ウィザーモンの企みがあった。
まあ、企みといっても悪いものではないのだが。ウィザーモンは、しつこいガワッパモンの依頼を片付けさせるのと同時に、優希とレオルモンに経験を積ませたかったのである。どんな形であれ、学術院の街にいては経験できないことを経験してきてほしかったのだ。次の進化へのためにも。
ちなみに、ウィザーモンの中では大成は、完全にガワッパモンの依頼を片付けるための労働力という扱いであったりする。
「それで、頼まれたことって何の――」
「君たちの完全体への進化についてだ。君たちの完全体は機械系だったそうだからな」
「――っ!」
そのことについては、アンドロモンはウィザーモンから聞いたのだろう。容易に想像がつく。
だが、優希たちとしては、思ってもいなかったことを言われたために完全に意表をつかれてしまった。
優希たちが驚きに目を見開く一方で、そんな優希たちを気にすることなどなく、アンドロモンは話を進めていった。マイペースというか、なんというか、だ。
「全く異なる生態のデジモンへと進化するにはよほどの何かが必要だ。しかも、一部だけ変化する、という訳でもなく……生物系から機械系へと全身が変化する進化ともなればな」
「何か……」
「もちろん、それは各人によって異なる。経験の場合もあれば、往々にしてそれ以外の場合もある」
「それ以外?例えば?」
「例えば……そうだな。良い概念ではないのだ。外部の力によって進化先を決定する、という概念なのだが……数ある方法の大半が廃れている。その一つはウィザーモンによって復活したようだがな」
ウィザーモンによって復活した方法というのは、デジメンタルを使ったアーマー進化のことだろう。
だが、アンドロモンはそれを良い概念ではないと言い切った。ウィザーモンの努力の結晶を否定的に捉えている。ウィザーモンに世話になっている身の優希たちとしては、あまりいい気はしなかった。
もっとも、アーマ進化が廃れていたのは事実。アーマー進化のみならず、何かが廃れていくのはそれなりに理由があるからで、その理由を各々が考える。良い概念ではなかったからこそアーマー進化は廃れた、とアンドロモンは考えているというだけの話である。
「他にも、さまざまなデジモンのパーツや情報を対象に取り込ませることで進化先を限定するなどだ」
「へぇ……いろいろあるのね」
「しかし、何故それが良い概念ではないのですかな?」
「機械系デジモンの私が言うのもアレだがな。自然の摂理に逆らっているという面もある」
確かに、デジモンの進化の先を限定するということは、未来を限定するということであり、自然の摂理に逆らうことだ。それをよく思わない者も当然いるだろう。アンドロモンもその一人という訳だ。
だが、まあ、ある意味ではアンドロモンも自然の摂理を外れていると言えるし、さらに機械系のデジモンではそのようなデジモンなどザラにいる。
であれば、アンドロモンのその言葉は、多少の自虐を含んだ言葉だったのだろう。
とはいえ、アンドロモンが良い概念ではないと言ったのはそれだけが理由ではない。他にも理由はある。
「さらにコストパフォーマンスの面から言ってもだ。専用の設備に使われる素材に……さらにそれを揃えても必ず進化できるとは限らん。正直言って、費用対効果があっているかというと合ってない」
「なるほど……」
「今の時代にこれを行うものなど、ウィザーモンのような研究目的か、それかよほどの狙いがあるものかに限られるだろうな」
進化先を限定できるとは、明確な未来を思い描くデジモンたちにとっては進んで望みたいことだろう。だが、アンドロモンの言う通り、現段階では費用対効果が見合っていない。それこそ、成熟期クラスに限定するだけでも並々ならぬ労力を必要とするのだ。
完全体以降の限定をしようとしたのならば、どれほどの労力がかかるのか。想像に難くない。
「あとは……そうだ。人間との関係を持つものは人間に見合ったデジモンへと進化するらしい。専門ではないからよくわからんがな」
「……というと?」
「人間とデジモンはお互いに影響している。個人だけではなく、世界としても。だからこそ、人間の感情や行動にデジモン自身が影響を受けるということもあるのだ」
「……へぇ」
「この辺りのことは学術院のウィザーモンの方が詳しい。気になるならそちらで聞け」
まあ、そうだろう。ウィザーモンは進化について専門的に研究しているのだ。しかも、学術院という学ぶものが集まる街で。特別名誉教授として。最先端の研究をしているのだ。こと進化については、ウィザーモンは指折りの存在と言える。
ちなみに、他の面々は、太古から生きているようなデジモンやら、この世界の神やらなのだが――そこまで行くと比較対象が悪すぎると言えなくもない。
「まぁ、そうですな」
「前置きが長くなったな。それでは本題に入るか」
「……む?この話を以外にも何か?」
今までの話が本題ではなかったことに驚いているレオルモンだが、むしろ当たり前だろう。この程度の話なら、先ほど述べたようにアンドロモンよりもウィザーモンの方が詳しい。いくら経験のためとはいえ、学術院からこの機械里へと来る必要はない。
だとしたら。優希たちがこの街に来たことには、ここでしかできない、あるいはこの街でした方がいい何かがあるはずなのである。
「そうだ。ウィザーモンから頼まれたのだ。個人的には反対なのだが……押し切られた」
ウィザーモンに頼まれた時のことを思い出したのだろう。アンドロモンは疲れた様子で、何かを取り出した。アンドロモンは大きな街のみに設置されている通信機械にてウィザーモンと会話したのだが、その疲れた表情からして何かがあったことは想像に難くない。
ウィザーモンはアンドロモンに何を言ったのか。もしくは何をしたのか。聞きたいような、聞くのが怖いような、そんな微妙な気持ちになった優希たちだった。
「押し切られたとは……一体何を頼まれたのですかな?」
「断ってくれて構わない。というかむしろ断ってくれ。……これだ」
「これは?」
断ってくれて構わない、と前置きしたアンドロモンが取り出したのは注射器だった。中には何らかの液体が入っていて、いつでも打てるようになっている。
だが、それだけ見せられても、優希たちには何が何やらわからない。それで何をするのかも、アンドロモンがそれをしたくない理由も。だからこそ、もう少し詳しい説明を聞きたい、とアンドロモンに先を促した。
「この注射器の中には、機械系デジモンの情報が入っている」
「え?」
「簡単に言えば、これをレオルモンに注射することで、君たちが完全体へと進化しやすくし、進化した時の負担を軽減できる。多少のドーピングのようなものだな」
「それって……」
優希たちにわかりやすいようにアンドロモンは簡単に言ったが、実際の概要は本当にそんなところなのだ。
量的にも、体内に入ったところでレオルモン自身が目に見えるような変化はない。機械系デジモンの情報をレオルモンの体内に入れることで、レオルモン自身に機械系デジモンへと進化する土台を整えておく。そして、その状態で経験を積むことによって、機械系デジモンに類する進化をほんの少しだけしやすくさせる。さらに、進化した後の負担が減る――という寸法なのである。
とはいえ、これは先ほどアンドロモン自身が好きではないと言った概念を元にした方法である。好きではないと公言している方法をさせるとは、ウィザーモンはアンドロモンに何をしたのか。
ますますもって気になるところだ。
「もちろん、進化先が極端に限定されるほど濃い情報は入っていない。あくまで補助程度だ。それにこれだけでは意味がない。あくまで君の……ああ、君たちの努力もいるだろう」
「リスクはあるんですよね?」
「強いて言うのなら……そうだな。機械系以外のデジモンに進化しにくくなるということか。まあ、進化できなくなるというわけではない。そこまでの量でも質でもないのだからな」
「……」
「むぅ……」
あくまで補助的な程度で、リスクと言えば無いも同然のものが一つ。アンドロモンは渋い顔ながらも、そう説明して――レオルモンが悩んだのは一瞬だった。
そう。一瞬。答えなど初めから決まっていたようなものだったのだ。
「頼めますかな?」
「……!いいのか?」
「はい。このセバス。確かにお嬢様を守りたいと思っていますぞ。できれば自分だけで。ですが、それでは……今のままで意地を通しているだけでは、何もできない」
レオルモンは知っている。
自分の力など到底及ばない者たちがいることを。今のままでは自分の力だけで優希を守ることなどできないことを。
だからこそ、レオルモンは思うのだ。自分たちは、この上なく他者に恵まれたと。
出会ってから、自分の思いを押しとどめてまでずっと世話してくれるスレイヤードラモンやドルモンは言わずもがな、個人的な思惑はあるのだろうがこの機会を用意してくれたウィザーモン。この世界でもいろいろな意味で有数の者たちに世話をかけている。
今すぐ彼らに追いつけるとはレオルモンも思ってはいない。そう思うことなど思い上がりだ。だが、彼らに追いつけるように、訪れたチャンスだけは欠かしたくないと――。
「だからこそ、縋り付けるものには縋り付きたいのです」
そう思ったのだ。
そんなレオルモンの決意を秘めた顔を見て、アンドロモンは説得は無駄だと思ったのだろう。そも、この注射をしたくないのはアンドロモン自身だ。レオルモンが望むとあれば、アンドロモンに止める言葉はない。
それに、アンドロモンは、こういう自分の意志で何かを決める者には弱かった。自分が、かつては機械人形に過ぎなかったがゆえに。
「決意は固いようだな。優希。君もいいか?」
「ええ。セバスが決めたのなら」
「なるほど。では行くぞ」
「うっ……」
アンドロモンがレオルモンの腕に注射をする。その様子は獣医が
レオルモンの表情は一瞬だけ痛みに歪んだものの、すぐ元の表情に戻った。まあ、注射なんてそんなものである。
「これで終了だ」
「どう?何かおかしなところはない?」
「……そうですな。何も変化はありませぬが……」
「当たり前だ。先ほど言っただろう。あくまで補助的なものだと。過度の影響が出るようなものをするのは私としてもゴメンだ。それに学術院のウィザーモンからもするなと言われている」
「ウィザーモンからも?」
「ああ。あとは君たちの努力次第だ。これはほんの少しだけ方向を定めただけに過ぎない」
アンドロモンの言う通り、今回の注射はそういうものだ。
例えるのならば、ゴールまでの荒れ果てた道路を舗装し直しただけに過ぎない。いくら道は直ろうと、そこを走らなければならないということに変わりはない。そして、その道を走り切れるかどうかは優希とレオルモン次第だ。
とはいえ。その道の先は未だ遠いことには変わりなかった。
「さて少し休んでから帰るといい」
「ありがとうございます」
「ありがとうございました」
「私は用があるからむ?」
「どうしたのですかな?」
話は終わったとばかりに元の早口に戻ったアンドロモンだったが、何故かその場でしきりに頷き始めた。
傍から見ていた優希たちには何をしているのかさっぱりわからなかったが、アンドロモンは今、この街の部下から通信を受け取っていた。
アンドロモンがそうしていた時間は一分にも満たない。だが、その中でアンドロモンが受け取った通信内容は優希たちにも――というか、主に優希たちに関係あることだった。
「君たちの連れが何かをしでかしたそうだこの街のある施設に拘束されている釈放手続きはされているが行ったほうがいい」
「大成たちが?何やってるのよ……」
「呆れますな」
「話を聞く限りその者たちだけが悪いという訳ではなさそうだが早く行ってあげたほうがいいだろうな」
大成たちが何かをしでかしたという事態に呆れるしかない優希たちだったが、事実的には大成たちは巻き込まれた側である。だが、当然ながらそんなことを優希たちが知るはずもない。
まあ、ともあれ、迎えに行った方がいいだろう。アンドロモンに礼を言った優希たちは、溜め息を吐きながらもその場を後にする。
ちなみに、急いでその場に行った優希たちが見たものは、妙な猿のような姿のデジモンと疲れた顔をした大成たちの姿だった――。
というわけで、第四十七話。
怪しげな薬を打たれたレオルモンの話でした。
この選択が正解だったのか、不正解だったのか、はたまた無意味なものだったのか。それはまた次回以降の話です。
次回は、大成と優希の合流。そして機械里からの帰還です。
それでは次回もよろしくお願いします。