【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
ウィザーモンの計らいがあったとは言え、いろいろと世話になったアンドロモンに別れを告げた優希たち。その後は、大成たちと合流するべく大急ぎで足を動かした。
その甲斐もあって、大成たちのいる場所までは十数分とかからなかったのだが――。
「いいわぁ!気に入ったワ!非力ながらも前へと出たその心意気!すっごくいいわぁ!」
「ああ、そうですか……」
だが、そこにたどり着いた優希たちが見た光景は、何故か奇妙な猿のようなデジモンに気に入られて、疲れ果てていた大成の姿だった。
もちろん、奇妙な猿デジモンというのはもちろんエテモンのこと。そして、大成の様子を見るにあの戦いの後にもいろいろとあったのだろう。
ただでさえ戦いで疲れていた大成たちは、その後に騒ぎを聞きつけて集まってきた警備兵たちに事情徴収を受けて、さらにその後のエテモンの会話相手までしたのだ。
大成たちの疲労感は推して知るべし、である。
「これは……どういう状況ですかな?お嬢様わかりますか?」
「さぁ?わかるわけないでしょ」
「それもそうですな」
とはいえ、そんな大成たちの事情を全く知らない優希たちにとっては、大成の疲労感を知ることも、現状についていくことも、できるはずがなかった。
何故か疲れている大成。我関せずを貫いているようで、内心ではオロオロしているスティングモン。さらに優希たちにとっては初対面となるデジモンが二人もいる。しかも、片方はやたらとテンションの高い
こんな訳のわかならない空間に放り込まれて、速攻で現状を把握できるほど、優希たちは人間離れした洞察力を持っていない。今の優希たちは、本当に何が何やらわけわからんといった感じだった。
「ああ、優希たちか……」
とはいえ、優希たちがやってきたということに、ようやく大成も気づいたようである。
ようやく気づいてもらえたので、優希たちとしてはこの状況について少しでも聞きたかった――のだが、明らかに様子がおかしい大成を前にして、聞くに聞けなかった。
それほどまでに、大成のその顔からは“疲労”の二文字しか見えなかったのだ。
「ちょっと、大丈夫?」
「ああ、疲れただけだから……ダイジョウブ……サ!」
「……大丈夫には見えませんな」
そんな姿に、思わず心配する優希だったが、当の大成は大丈夫ではなさそうだった。ここではないどこか遠くを見据えている。その大成の目は濁っていた。例えるのならば、死んだ魚の目のように。
そんな大成の大成らしからぬ様子に、何があったのか知らなくとも、思わず哀れんでしまった優希たちである。
とはいえ。これではこの状況を把握することはできない。とりあえず、大成はそっとしておくことにして、優希たちはその他のデジモン組に話しかけることにする。
だが、優希たちが一番初めに話しかけたのは、こともあろうにエテモンだった。何を考えてその選択をしたのか。まあ、きっと近くにいたとか、そんな感じなんだろうが、運が悪いというしかない。
「あらぁん?ふぅうん?」
「……何よ?」
「あっちの坊やもイケてたけどぉ……お嬢ちゃんもイイわねぇ~……食べちゃいたい。ウフッ」
「……寒気が!」
「お嬢様!?大丈夫ですかな!?」
話しかけた直後から自分を観察してくるエテモンの視線。ジロジロと見られて優希も良い気はせず、それどころか謎の悪寒まで感じていた。強さ云々は関係ないとばかりの、ただ気色悪い感覚が優希の背筋を襲ってきたのである。今まで感じたことのない感覚に、優希は震えるしかない。
そんな感覚を前にして、正直に言えば、優希は今すぐ帰りたかった。
一方で、そんな優希を見て、エテモンはますます楽しそうな顔をしている。エテモン的に、大成だけではなく優希のことも気に入ったらしい。まあ、不運としか言えないだろう。
「あっ!アチキとしたことが……自己紹介を忘れるなんて!この世界のスゥーパァースタァー!キング!オブ!デジモン!それがアチキ!エテモンよォ~!」
「セバス、帰っていいかな」
「いや、流石に……」
正直言って、優希はエテモンのことなどどうでも良くなっていた。基本真面目な優希がここまで他人に無関心になるのも珍しい。
とはいえ、その気持ちもわからなくもないが。エテモンはとにかくウザかった。あと、気持ち悪かった。野太い声で無理矢理に高い声を出そうとしている辺りとか、オカマを意識したような口調とか、そのテンションとか、その他諸々が。
とにかくエテモンの全てが、優希や大成の心の平静をガリガリと削ってくるのだ。
「で、エテモンはともかく……そっちは?」
「……てめぇも違いそうだな」
「……?」
やってられない、と未だ自己紹介で騒いでいるエテモンを放っておいて、次に優希たちが向かい合ったのは我関せずを貫いていたエクスブイモンだ。
人間に対して不信感を抱いていたエクスブイモンは、優希たちのことも観察していたようである。
とはいえ、優希は大成の仲間ということだし、エクスブイモンが噂に聞いたような人間ではないと思ったのだろう。すでに警戒を解き始めていた。
「オレはエクスブイモン。まぁ、今回の事件の原因だな……」
「原因ですと?何をしたのですかな?」
「大成たちが噂の人間たちだと思ってな。間違って襲っちまった。ま、返り討ちにされたけどな」
返り討ちにされた、という部分を言うエクスブイモンはだいぶ苦々しい顔をしている。まあ、悔しかったのだろう。それに、勘違いで襲いかかって、さらに返り討ちにされたのだから、傍から見ているとだいぶ格好悪い。
今日のことは、エクスブイモンの今すぐ忘れたいこと一位に堂々とランクインしていた。
とはいえ、優希たちはそんなエクスブイモンの心情を知ることなどなく――エクスブイモンの言う、“噂の人間たち”という部分に引っかかりを覚えていたのだが。
「ああ?噂の人間たち?……オレも詳しくは知らねぇが……でも、だいぶ噂になってるぜ」
「そんなに?」
エクスブイモンからその噂の部分を聞いて、優希たちは頭を抱える。思えば、アンドロモンも似たようなことを言っていた。
どこの誰だか知らないが、くだらないことをしてくれるものだ。何の罪のない者たちを虐殺するなど、とても許せることではない。おまけにこの噂が広がれば、今回のエクスブイモンみたいに、関係のない人間を襲うデジモンが出てくるかもしれない。
先ほどとは別の意味で気分が悪くなってきた優希たちだった。
「それで、大成はこれからどうするんだ?」
「あはは……ゲームしてーなー……え?あれ?何?悪い、ちょっとボーッとしていた」
「大成……」
今の今までどこか別の場所へと意識が飛んでいた大成。
だが、エクスブイモンの言葉によってようやく復帰したようだ。
そんな大成の姿を前にして、ますます哀れに思えてしまった優希である。それほどまでに、大成の今の様子は酷かった。
「いや、だから、これからどうするんだよ」
「ああ。とりあえす、ガワッパモンの依頼は達成したしな……」
「え?ウソ、私聞いてないわよ?」
「そりゃ、さっきだからな」
そう言った大成は、優希の後ろの方に視線を向ける。
いつの間にか仕事が終わっていたことに驚いた優希も、釣られて大成の視線の方向を見て――すぐに後悔した。
そこにいたのは、エテモンだった。誰も聞いていないというのに、訳のわからない呪文だか歌だかを喋ったりしている。まあ、マイクを持っているので十中八九歌なのだろう。
だが、あれは本当に歌なのだろうか。歌型兵器なのではないのか。思わず大成たちがそう思ってしまうほどに、エテモンの歌はアレだった。よく言えば独創的と言えなくもないのだが、悪く言えば下手と言い切ることしかできない。
「え?どういうこと?」
「エテモンって、ガワッパモンの歌の師匠らしいぜ?俺たちの仕事は、学術院までエテモンを連れて行くことみたいだ」
「……連れて行って大丈夫なの?」
「……連れて行くしかないだろ」
正直言って、エテモンは関わり合いにすらなりたくない部類である。いや、エテモンという種が悪いという訳ではもちろんない。大成たちは目の前にいる個体とは関わり合いになりたくないだけなのだが――ともあれ、これは仕事。いくら大成たちが嫌だと思おうと、選択肢は一つしかないのだ。
所詮、下っ端でしかない大成たちには、学術院の街の明るい未来を祈ることしかできない。
エテモンを連れて行くしかない自分たちを許してくれ、と今の段階から大成たちは真剣に懺悔し始めていた。
「ってことは、学術院に行くんだな」
「ああ、そうだな。っていうか、エクスブイモンはどうするんだ?」
「オレ?オレは大成に着いてくに決まってるだろ」
「えぇぇえええええ!?」
エクスブイモンに何の気もなしに聞き返した大成だったが、その質問は大成自身が思った以上に地雷だったようである。
主にスティングモン専用の。エクスブイモンの返答の直後、一秒も経たずにスティングモンの絶叫が辺りに響き渡ったのだから、見事に踏み抜いたらしい。
ワームモンから進化してから、ここまで大声を出したスティングモンを大成は見たことがない。それほどまでに、スティングモンにとっては、驚きだったのだろう。
「聞いてませんよ!大成さん!」
「いや……っていうか、何で?」
「お前が言ったんだろうが。パートナーになれって」
言った。確かに言った。はっきりと言った。いつもは即答で断られていたために、大成はすっかり忘れていたのだ。まあ、その後にエテモン相手の命懸け接近を試みたせいもあるのだろうが。
つまりスティングモンが絶叫したのは、大成のせいということで、大成は自分で埋めた地雷を自分で踏み抜いたというだけの話なのだ。
「大成さん!?」
「いや、確かに言ったけど!」
「なんだ?ウソだったのか?」
「いや、本気だったけど!」
「じゃあいいだろ。オレとしても少しくらいは償いたいしな。まぁ、流石に一生とかは無理だけどな」
まさかの事態にスティングモンは顔を青くして、さらに頭を抱えて唸っている。その光景はワームモンだった頃を思い出させる。そんな光景を前にして、自然と懐かしい気分になった大成だった。
とはいえ、ある意味で自分のアイデンティティがかかっているのだ。当のスティングモンは、そんな大成のように安穏とした気分で居られるはずもなかった。
そんなスティングモンが、学術院の街に帰ってからのトレーニングに一層身を入れたのは、ほんの余談である。
「んじゃ、しばらくよろしくな」
「ああ、よろしく」
「っく!よろしくお願いします」
「セバスです。よろしくお願いしますぞ」
「大成、しっかりしなさいよね。ああ、私は優希。よろしくね」
まあ、各々に思うところはあるだろうが、それでも共にいる者が新しく増えたというのは喜ばしいことである。
特に、人間世界で友人が少なかった大成は尚のこと。これからの日々に若干の期待をして、大成たちは宿泊施設に帰ることにしたのだった。
背後で熱唱しているエテモンを置いて。
まあ、とはいえ――。
「あらぁん?どこに行くのかしらぁん?アァン?」
「……」
そんな風に、自分のことを置いていこうとする大成たちを、エテモンが気づかないはずもないのだが。周りが見えないほど熱唱したというのに、それでも気づくとは流石の完全体と言うべきか。
大成たちとしては、そのまま気づかなければ良かったのに、と思っていたのだが――エテモンはしっかりと気づいてしまったのだ。
しかも、おまけとばかりにそんなエテモンの声は若干低くなっている。どうやら、少し頭にきたらしい。
悪寒を感じながらも、大成たちは勇気を振り絞る。大成たち全員は頷き合って――。
「あ、こら!待ちなさいヨ!」
我先にと逃げ出した。
大成たちのその行為は、エテモンの機嫌や仕事のことなど考えていない、それこそ後先考えないと言える実に馬鹿な行為だったが、それが功を奏したようだった。結果的に、エテモンの機嫌を誤魔化せたようなのだから。
まあ、とはいえ。そのせいでエテモンとの追いかけっこが始まってしまったのだが。
「今度学術院の街に帰るから!その時にまた!」
「いやねぇ!何言ってるの!今夜は寝かせないワヨォ!」
「いや、俺たちは寝たいんだ!」
今夜、一体何をされるのか。自分たちが知らないような恐ろしいことをされるのではなかろうか。
気になって仕方なかった大成たちだが、何のことはない。ただのエテモン主催の徹夜ライブである。まあ、エテモンの下手くそな歌を徹夜で聞き続けるなど、恐ろしいことではあるが。
ともあれ、そんなことを知らない大成たちは、想像だけが先走っていく。捕まるわけには行かない。そう心に刻んで、大成たちは逃げ続ける。
やがて人間の足では限界があると、スティングモンが大成を、エクスブイモンが優希たちをそれぞれ抱えて、飛ぶことになった。
まあ、それでもエテモンはバッチリ大成たちの後を着いて来ているのだが。とはいえ、エテモンほどの力があって、大成たちを捕まえられないというはずはない。きっと、エテモンもこの追いかけっこを楽しんでいるのだろう。
大成たちとしては迷惑なことだが。
「嘘よ!アチキと徹夜できるなんて……ファンなら泣いて喜ぶワ!それなのになんで逃げるのよォ!」
「それはきっと泣いてじゃなくて……泣き叫んで、の間違いだろぉー!」
「ガワッパちゃんは泣いてたわよォ!」
「きっとアイツは頭がおかしいんだ!」
スティングモンに担がれながら、エテモンに向かって叫ぶ大成の顔は楽しそうだった。見れば、エクスブイモンに担がれている優希たちも笑っている。いや、苦笑しているというべきか。
ともあれ。この楽しくアホらしい追いかけっこは、この後に毎日、それこそ出発する時間ギリギリまで続くこととなることを、この時の大成たちはまだ知らなかった。
機械里を爆走する謎の集団――という噂を聞きつけたスレイヤードラモンが、そんな大成たちを上空から呆れたような目で見ていたりしたのだが、そのことも大成たちは知らなかった。知る余地もなかった。
というわけで、第四十八話。
とりあえず、機械里での最後の話です。
とはいえ、また後々に再登場する可能性もあります。機械里と機械里メンバー。
というわけで!さんざん悩んで考えて……第四章はここで終わりにして、次回から第五章に入ることにします!
いや、盛り上がり不足だとは自分も思うんですけどね。
キリがいいんですよね。今回の話。
さて、次回からの第五章。
新キャラ……のような既存キャラでます!
ちょっといろいろある予定です!
というわけで、第五章もよろしくお願いします。
業務連絡。
新たに、ゼヴォリューションの小説も始めました。こちらと違って不定期ですが、週一くらいでやっていきたいので、そちらの方もよろしければよろしくお願いします。