【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
第四十九話~帰還!そして、太古の伝説~
昨日の夜遅くに大成たちは機械里から学術院の街へと帰還した。
学術院の街を離れていたのはたかが数日だったが、たったそれだけの時間でも、自分たちの住む家が思わず懐かしく思えてしまった大成たちである。どうやら大成たちは、自分たちが思っている以上に、この街に愛着が湧いているようだった。
まあ、この街というよりはこの家、と言うべきなのかもしれないが――それはともかくとして。
「ふむ……大変だったようだな」
現在、大成は仕事の完了報告と帰還報告を兼ねてウィザーモンに会いに来ていた。
さも労っているように話すウィザーモンだったが、そんなことで大成は誤魔化されない。帰りのトレイルモンの中で、大成は優希から聞いたのだ。今回の機械里へ行くことになった真の理由を。自分は、労働力として体よく使われていただけだったことを。
まあ、大成とウィザーモンの関係は雇用者と雇主の関係だし、元々今回はただの仕事だ。そのため、労働力として行くのが当然なのだが――それでも大成が不満を抱いてしまっているのは、ウィザーモンがいろいろと隠したままに自分たちを向かわせたからなのだろう。きっと。あとは優希たちにだけ何かあるという不公平感か。
「大変だったようだな……じゃねぇよ!」
「何を怒っている。こちらとて大変なのだぞ。主に君たちが連れてきたエテモンのせいでな」
「うぐ……」
流石にエテモンのことを出されては、大成の中にある不満の火も鎮火せざるを得ない。
それほどまでに、エテモンがこの街に来てからの被害は甚大なのだ。まあ、被害といっても物的なものではなく、精神的なものなのだが――大成たちがこの街に戻ってきたのは昨日の夜遅く。まだ来て一日も経っていないというのに、これである。
そのことが容易に想像がつくからこそ、大成も黙り込んだ。仕事で仕方なかったとはいえ、エテモンをこの街に連れてきたのは悪いことだったと本気で思っているのである。
「エテモン……昨日この街に着いてから別れて、それから会ってないんだけど……」
「はぁ。ガワッパモンと共に大声で歌いながら街を練り歩く、通行人を無理矢理に歌わさせる……そんなのはザラだ」
「……そうか」
そのエテモンとガワッパモンの師弟コンビの破壊力たるや、ウィザーモンに退治依頼の嘆願書が数多く届いたほどである。とはいえ、いくらウィザーモンでも、実力的にはエテモンに劣っている。嘆願書が送られてきても、どうしようもない。
まあ、それはともかくとして。大成や優希が危惧したとおり、エテモンによってこの街はだいぶ辛い目にあっているようである。
「はぁ。まだ復旧作業が終わったわけではないというのに……どうしてこう次から次へと……!」
この学術院の街は、元々学ぶものが集まる研究者の街で、他の街と比べても比較的静かな街だったのだが――この街に住んでいる研究を志す者たちにとっては大変迷惑なことであるが、最近のこの街の騒がしさは群を抜いていると言えた。
零たち襲来に、ハイブリッド体の襲来。さらにエテモン襲来。見事に襲来ばかりである。いっそ、街全体をお祓いしてもらったほうがいいかもしれない。運の悪さでは大成とどっこいどっこいと言えるだろう。
「そういえば、他の面々はどうしたのかね?」
「え?ああ。デジモン組はスレイヤードラモン監修でトレーニング。優希はドルを探して力の制御訓練をするって。なんでもセバスに負担をかけないように……とかなんとか」
「……む?ドルモンは今この街にいないはずだぞ?」
「え?そうなのか?」
そう。ウィザーモンの言った通り、ドルモンは今この街にいない。
大成たちが学術院の街に出発した次の日に、「リュウと旅人を一発殴るために修行してくる!」と言って姿を消したのだ。よほど旅人に置いていかれたことが堪えたらしい。スレイヤードラモンについては、単なるトバッチリである。
ともあれ、そんな感じでドルモンは今この街にはいない。つまり、今現在の優希は、いるはずのないドルモンを探して街を彷徨っているということで。
ちょっとだけ、優希やそんなドルモンに同情した大成だった。
「大変だな」
「そうだな。ああ、今日は
「って、ちょっと待った!」
もう話すことはない、とすっかり解散の雰囲気を発し始めたウィザーモンを、大成は慌てて引き止めた。まだ大成はウィザーモンに用があったのだ。
つまり――。
「なんだね?僕は忙しいのだが?」
「いや、ちょっとな。あのな――」
つまり、困った時のウィザーモン教授である。まあ、今回は困った事というよりは、知りたいことなのだが――それはともかくとして。
大成は、ウィザーモンに聞きたいことがあったのだ。純粋な知識量なら、ウィザーモンは凄い。きっと大成の知るこの世界の誰よりも。
きっと天才、とそう呼ばれる者なのだろうと。そう大成が初めて思った相手でもある。だからこそ、そう純粋に思っているからこそ、大成はウィザーモンを頼るのである。
まあ、一方のウィザーモンとしても、教えを請うてくる者に自分の知識をひけらかすのは嫌いではない。研究とどちらが好きかといえば、おそらくどっちもどっちと言うだろう。
つまり、何が言いたいかというと――真剣な顔をして聞いてくるのなら、ウィザーモンとしても応えるのはやぶさかではないということだ。というか、ちょっと嬉しげだった。
「それで、何が聞きたいのかね?」
「機械里でちょっと不思議な現象を目にしたんだよ。もしかしたら見間違えかもしれないから、自信はないんだけどな……」
「ふむ……先を続けたまえ」
「ああ、実は……」
そう言って、大成はウィザーモンに話し始めた。
エクスブイモンとの出会いを。タンクモンとの戦いを。その後のエテモンとの戦いを。そして、あのスティングモンとエクスブイモンが混ざり合ったかのような、そんな不可思議な現象を。
「それで、俺がエテモンの腰の人形を取って――」
「もしや……いや……だが……」
「……聞いてないな」
より正確に伝えたかったが故に、無い頭を一生懸命振り絞って話していた大成だったが、話し終えた彼が見たものは、ブツブツと呟いているウィザーモンの姿だった。
まず間違いなくウィザーモンは最後の方はほとんど聞いていない。スティングモンとエクスブイモンの不可思議な現象が語られた時点で、また思考の迷路に潜り込んでいた。
一方の大成は、語ることに一生懸命だったために、話を聞かなくなったウィザーモンに気付けなかったのである。
「おーい?もしもーし?」
「……むぅ。状況的に……ジョグ……いや、だが……早計な気……」
「またか……」
ウィザーモンがこうなるのは何回か見たことがあるために、流石に大成としても慣れてきていた。だが、慣れてきているとはいえ、こうなられると手持ち無沙汰で仕方なくなるから止めて欲しい大成である。
まあ、この癖とも病気ともとれる状態にウィザーモンがなることは、そう簡単に治るようなものではないことを大成は知っている。諦めてウィザーモンの復帰を待つこと十数分。大成が眠くなってきた頃に、ようやくウィザーモンは復帰したのだった。
「ふむ。にわかには信じられないが……」
「ふわ……」
「何を欠伸してるんだ」
「いや、だって長いんだよ。もっと早く戻って来い」
「こちらとて考察してたんだ。無理言うな」
少し気を使ってくれるだけでだいぶ違う。少なくとも無理じゃない。とそう思った大成であるが、口には出さなかった。早いところ話を先に進めて欲しかったからである。
「しかし……ふむ。興味深いな」
「だから、はっきり言ってくれよ」
「君が目撃したのは、“ジョグレス進化”の前兆かもしれない」
「“ジョグレス進化”?」
「ああ。前例の少ない進化だ。異なる二種のデジモンによって行われる……融合や合体といった概念に近い進化だな」
ジョグレス進化の概要は、だいたいはウィザーモンの言った通りのものである。異なる二種類のデジモンが、互いの足りない部分を補い合い、混ざり合い、一体のデジモンとして進化する。正に融合進化や合体進化という名前が付きそうな進化方法である。
とはいえ、ジョグレス進化には、そのデジモンたちに相応の相性が必要であったり、そのデジモンたちが信頼し合っている必要があったり、とさまざまな達成困難な条件が存在する。しかも、その条件すべてがわかっているわけでもない。
だからこそ、難易度は普通の進化よりもずっと上であるし、そのせいで前例も少ない。進化の条件を探るなどという酔狂な者など、この街の研究者以外でいるはずもないし、普通の進化とは違って偶然起こるような進化でもない。
そんなわけもあって、ジョグレス進化は知る者もあまりいないマイナーな進化であったりするのだ。
「へぇ……アーマー進化以外にもそんな進化があるのか」
「最初に確認されたのは……太古の戦争時代だな」
「戦争?」
「ああ。文献が少ないから、戦争自体についての詳しいことは未だわかっていないのだが……その部分だけはどの文献にもはっきりと記されている」
「そんなに!?」
「それによると善を願う者たちの強い意思によって、二体の究極体デジモンが交わって一体の聖騎士デジモンへと変わったそうだ」
終わり無き戦争。それは正に悪の具現。
善を願う者たちが祈りを捧げし時。
始祖たる聖騎士が応えん。
かの聖騎士の想いを継ぎて今。新たなる世代の聖騎士が生まれん。
其の騎士。正に竜人と機狼の勇気と友情。そして善の具現なり。
「細部は異なれど、だいたいこんな文が記されている」
「はー……なかなか壮大だなー……」
「これの続きに未来における始祖たる聖騎士の復活の一文が記されていたりするのだがね。始祖たる聖騎士が何者なのかはわかってはいないのが現状だ」
「あれ?……究極体と究極体がジョグレス進化?……え?究極体の上があるのか?」
それは、大成でなくとも抱いた疑問だろう。デジモンの成長段階は究極体が最高のはずだ。そして、基本的には上の成長段階へと進むのが進化だ。それはジョグレス進化でも違わない。
だが、この最初のジョグレス進化では、究極体同士がジョグレス進化している。大成でなくとも混乱するだろう。このある意味矛盾した進化をした結果は、究極体のままなのか、それとも究極体の上にはまだ何かあるのか。
「ふむ……まあ、前例は希を通り越すレベルだからな。研究者の間でも正式には決めてはいない」
「あ、そうなの?」
「ああ。そもそも最古の究極体たちは、当時では超完全体などと呼ばれていたほどだ」
「超完全体って……」
「今も似たようなものだな。究極体がいくら進化しようと究極体は究極体だという説。とりあえず超究極体と言っておけばいいとする説。いろいろある」
「……」
大成は、自分の頬が引き攣っているのを感じていた。まあ、そんな大成の気持ちも理解できなくもないだろう。微妙というか、適当なのだ。名前の付け方というか、その他諸々。
もっと格好いい名前をつければいいのに、とそう思う大成。だが、人間の世界でもだいたいはこんなものである。
かっこよさげな横文字の名前も、和訳すると途端にシンプル過ぎて微妙に思える。それと似たようなものだ。
まあ、究極体まで進化できる者が少ないのも、この論議を微妙にさせている一因であるのかもしれない。
「この騎士こそが、かのロイヤルナイツの一人。オメガモンではないか、というのが学者の間の通説だな」
「ロイヤルナイツ?」
「ああ。この世界を守護する十三体のデジモンたち……まぁ、今はその全員が現存していないという噂だがね」
「はっきりしないなー」
「仕方ないだろう。もはや伝説の中にのみその名を残しているかと思えば、五年前に生き残りが現れたこともあったのだ」
「ってことは、生き残りがいるかもしれないってことか?」
「ああ。まぁ、可能性は僅かだろうがな」
ロイヤルナイツとは、例外を除いてその全員が究極体。
しかも、この世界でもトップクラスの力を持っていた者たちで構成されていた集団だ。例え、同じ究極体であっても、彼らには及ばない。それほどまでの強さを誇っていた――という噂である。ウィザーモンの言う通り、今は伝承の中にのみ存在する者たちであるため、噂ばかりが先行している状態になってしまっている。
とはいえ、ロイヤルナイツという組織が何度も世界を救ったという伝承は幾つも伝わっていて、それだけでも彼らの凄さの一端を垣間見ることはできるだろう。
「オメガモン、ねぇ……」
「話がズレたな」
「ズレたっていうか、ズラされたというか……」
「揚げ足を取るな。話を戻すと、だ。君たちの間に起こった出来事をジョグレス進化だと仮定するならば……」
「なんで仮定なんだよ?」
「僕は実際その場を見ていない。それに、君の証言だけでは証拠としては不十分だからだ」
「……」
ノリノリで解説してくれた割には、ウィザーモンは結構あっさりとしている。というか、酷い言い草である。
まあ、言っていることはわかるが、それでも目の前で冷静に突きつけられると、大成としても少しイラッとしてしまう。
ウィザーモンはもう少しオブラートに包むことを覚えるべきであるが、この調子ではきっと難しいだろう。言いたいことをはっきりと言う。知りたいことは、はっきりと知る。それがウィザーモンだからだ。
「ともかく。君は彼らの様子を見ていてくれ。何か変わったことがあれば、逐一教えてくれたまえ」
「えー……面倒くさ」
「あと優希にも言っておいてくれないか?能力制御は結構だが、仕事もしてくれと」
「ああ……ニート化してるもんな」
そう。ここ最近の優希は、自分の能力制御のトレーニングのためにあまりウィザーモンが斡旋する仕事を受けていない。仕事をしているのは大成ばかりだ。
まあ、ウィザーモンとしては、仕事などよりも能力制御のトレーニングをしてくれた方が研究のしがいがある為に嬉しいのだが――ちょうど良いことに、優希に任せたい仕事もあるのだ。機械里の時と同じ、経験を積ませることが目的にもできる仕事が。
「ふふふ……優希がどこまで行けるか。楽しみだな」
「……なんか、ウィザーモンが悪役に見えるな」
ちなみに、この時。優希は得体の知れない悪寒を感じていた。その悪寒の正体を優希が知るのは、もう少し先のことである。
ウィザーモンによって、優希が苦労する未来を容易に予想することができた大成。とりあえず、優希に合掌しておいて、大成はウィザーモンの部屋から出て行く。
この時の大成は、自分も巻き込まれることに気づいていなかった。
というわけで、第四十九話。
ここから第五章が始まります!
さて、次回は依頼の前のあれこれです。
また、感想やら評価やらその他諸々は随時お待ちしております。
それでは、第五章以降もよろしくお願いします!