【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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すみません、書いていておかしくなったので、今回の冒頭に入るはずだった五百文字くらいを前話の最後にくっつけました。
ですので、そちらを読んでいない方はそちらからご覧ください。



第五話~意思と強制と~

「……どこだここ?」

 

 大成は見慣れぬ部屋で目を覚ました。

 目を覚ました大成は見慣れぬ部屋で眠っていたことに疑問を抱く。だが、大成が口に出したそんな疑問も、意識がはっきりするにつれて自然と氷解していくこととなる。

 疑問が氷解していくのと引き換えに、思い起こされる記憶。見知らぬ世界。スクリーンに映る謎の人影。究極体。さまざまな記憶と共に、ここが大成たち連れてこられた者が過ごす宿泊施設だということも思い出していた。

 現実世界からこの世界へと連れてこられた約千人余りの人数を収容してまだ余りあるほどの、巨大さを誇る施設。そんな巨大な宿泊施設の一室に大成はいるのである。

 あの人影の説明の後、大成たちは呆然としながらも、とりあえず現実逃避をするためにゆっくりと休むことのできるこの施設にやってきたのだ。

 もっとも、それは数日前のことなのだが。

 そう、数日前なのだ。今、連れてこられた人々は概ね三つのタイプに分けられる。一つ目は人影の話を真実だと認識し、行動を起こしているもの。二つ目は人影の話を真実だと認識しながらも、この事態を前に諦めて救助を待つもの。そして三つ目は現実逃避をしているものである。

 ちなみに、大成は非常に判断が難しいが、強いて言うなら三つ目である。

 

「……はぁ」

 

 意識がはっきりした大成は、今の状況を思って溜息を吐いた。大成とてしたくて現実逃避をしているわけではないのだ。大成が現実逃避しているのも、すべては――。

 

「すぅーすぅ……」

「……はぁ」

 

 大成の隣で眠っているデカイ芋虫のせいである。もちろんただの芋虫なわけがない。

 名前をワームモン。成長期のデジモンだ。そして大成にとって遺憾ながら、彼のパートナーデジモンである。

 あの説明会の後、それぞれにパートナーデジモンが割り振られた。次々とパートナーデジモンを獲得していく周りに人々を前に、大成も状況を忘れて今か今かと楽しみにしていたのである。だが、実際彼の元に来たのは芋虫。

 ちなみに、ワームモンと出会ったその時の大成の顔は、近くにいた優希をして“思わず哀れんでしまうような顔”と言わしめたほどである。

 大成とてこの非日常に巻き込まれて、自分が主人公の物語というものを妄想しなかったわけではない。それは、大成くらいの年頃ならば、ほとんどの人は一度は考えてしまうことだろう。だというのに、実際のパートナーは派手さのない地味な芋虫。泣きたくなった大成である。

 もっとも、半ば強制でこんな大成のパートナーになったワームモンはそれ以上に不幸というしかないだろうが。

 

「すぅ……はっ?あれ……あ、おはよー」

「はぁ……なんでこんなのが……アグモンとかさ、ギルモンとかさぁ……もっと格好良いデジモンならたくさんいるだろ。なんで……こんな芋虫……」

「僕は芋虫じゃないよ。ワームモンだよぅ……」

「ぁぁもう!うるさい!お前なんかイモムシ……いや、イモで十分だ!」

「イモ……酷い」

 

 ワームモンは気弱で臆病な性格をしている。数日の付き合いでそれを知った大成は、せめてそんな性格だけでもなんとかならないものかと切に思っていた。

 大成とてこの見知らぬ地で、奇妙なことに巻き込まれた身。いくら、非日常に多少の興奮を持てたからといって、それでもまったくの不安がないというわけではない。ただでさえそんな状況なのに、近くでこのウジウジとした性格を撒き散らかされては、イライラが溜まるだけだ。 

 

「あぁもう……そら、行くぞ、イモ」

「だから、ワームモンだよぅ……」

 

 とはいえ、いくら現実逃避しても、現実は変わらない。この世界に連れてこられたことも、パートナーが臆病な気持ち悪い芋虫であることも。現実逃避という言葉は、現実が何も変わらないからこそ、逃避という言葉が付いているのだから。

 仕方なく、大成は食堂へと歩いて行く。そんな大成の後ろを必死について行くワームモンは健気というのか、アホというのか。

 ちなみに、食堂は一日三食を支給する大成たちのこの世界での生活の要とでもいうものである。残念ながら、味は普通だ。とりわけて美味しいわけでも、不味いわけでもない。

 

「今日は何を食うかな……」

「僕はキャベツ」

「……。それは料理じゃねぇよ」

 

 食堂は食券式なのだが、無駄に高度なコンピュータが設置されていて、さまざまな料理や食材がある。味はともかく、種類だけならば数千は行くだろう。無駄に種類は豊富だった。

 ちなみに、大成は出てきたカレーを手に持って、机の空きを探して歩いて行く。時間が時間だから仕方ないのだが、大勢の人々が食事している。しかも、見渡すと人々に混じってさまざまなデジモンがいる。思わず自分の芋虫と見比べて、溜め息を吐いた大成だ。失礼すぎである。

 そんな中で、食事をしていた優希を発見した大成は、そちらへと向かって行く。近づいてくる大成に、優希も気づいたようだった。

 

「おはよう」

「もう昼なんだけど……ていうか、カレーと生キャベツ一個って……」

「これは俺の分じゃねぇっ!だいたい、生キャベツなら千切りだろっ!」

「……。ま、まぁ、ちゃんとワームモンにもごはんを上げているのね。てっきり……」

「ペットを飼う上で常識だろ。こんなんでも命は命だ」

「ペット……こんなん……酷いよぅ」

 

 大成の隣で上がった非難の声はあっさりと流された。というよりも、小さすぎて聞こえなかったというのが正しい。気弱なワームモンとしては、大声で突っ込むことなどできない。だが、抗議の感情はある。結果、小さな声で呟くこととなったのだ。

 もっとも、大成としては聞こえていても、無視した可能性が高いが。

 そんなワームモンにキャベツを与えて黙らせ、その間に大成は優希を話をする。

 

「そういえば、優希最近どこに行ってるんだ?」

「私?調べたいことがあってね……個人的に動いてる。それに究極体まで進化させたら、元の世界に返してもらえるってのも不明だしね」

「でも……」

「わかってる。それしか、今のところ方法がないっていうのも。でも、あの人影は自身の目的を明らかにしてない。信用するには危険すぎる」

 

 優希の言うことは正論だ。それに現実逃避でこの施設の中に留まって動こうともしない大成に、どうこう言えるはずもない。優希はすでに行動を起こしているのだ。そんな優希の口調は、現実逃避で時間を無駄に使っている大成のことを責めているような、冷たい口調である。

 もっとも、優希にはそんな意図はないし、大成としてもそんなことで動じることはない。

 

「そ、そういえば、優希のパートナーデジモンってどんなんなんだ?あの時は見なかったけど……まさか、受け取ってないなんてことは……」

「そのまさかよ。あ、大丈夫。でも、パートナーデジモンはいるから」

「どういう意味?あっ……まさか妄想の中で……?いくらなんでも」

「それはない」

 

 寿司を食べている優希は、大成の戯言を眼力で封殺した。

 ちなみに、その時の優希の様子は大成曰く“ガチで殺されるかと思った”とのことである。口は災いの元とはよく言ったものだ。

 食べ終わった優希は、片付けをして食堂を出て行く。また調べ物をしに行くのだろう。そんな優希の後ろ姿を、複雑な気持ちで見送った大成だった。

 

 

 

 

 

 食堂で御飯を食べた後、大成は部屋へと戻ってきていた。そのまま布団に倒れ込んで、仰向けで何かを考え始める。そしてそのうちに眠ってしまうのだ。これが、最近の概ねの大成の生活だ。

 そんな大成に呆れながらも、ワームモンは何も言わない。ワームモンとて、わかっているのだ。大成が元の世界に帰るためには、自分が究極体にならなければならないことが。

 デジモンの進化する条件は明らかにされたはいない。だが、その条件に戦闘行為が助けになるということはほぼ確定された事実である。そして、それはそのままワームモンが戦闘を行わなければならないことを示している。だからこそ、ワームモンは自分から何も言い出さない。

 ようするに、ワームモンとしては、自分を戦闘に導くようなことを自分から言い出すなど、怖くてできないのだ。

 

「……」

「……。やっぱりこのままじゃ……いけないよな……」

「……」

 

 大成の心の中は複雑だった。

 物語の主人公や非日常的な出来事に憧れる気持ちはある。だが、それだけでやっていけるほど、大成は向こう見ずな性格をしてはいない。図太い性格はしているが。

 誰よりもそれに憧れたからこそ、ゲームというものにハマった。そして誰よりもそれに憧れているからこそ、主人公たちの道のりが楽ではないことくらいわかっている。大成は、そんな辛い道のりを歩くことをすぐに覚悟できるほどのブッ飛んだ思考をしていなかった。

 これが必要に迫られるほどの出来事だったのなら、まだ大成も割り切ろうと努力できたし、その図太い性格からして割り切れたのだろう。だが、現実は安全地帯を設けられている。ここにさえいれば、安全“だけ”は保証される。そんな甘い毒に、大成は抗えないのだ。

 ようするに、わざわざ苦労する必要などないだろう、ということである。

 

「……そうだな。おい、イモ……くかー」

「って寝るのっ!?」

 

 ごはん後の睡魔に抗うこともせず、大成は眠気に身を任せる。

 何か話しかけられると思っていたワームモンは、そんな大成に驚くのだった。だが、言っても仕方ない。すでに大成は眠りについている。仕方なく、ワームモンも眠りにつくのだった。

 ちなみに、大成が起きたのはこの六時間後。日が暮れてからのことである。眠りすぎたせいで夜眠れなくなるのだが、それはほんの余談だ。

 そんな大成は起きてから、眠る前に考えていたことを実行すべく、ワームモンを叩き起こす。

 

「……よしっ!さて、行くぞ」

「すぅすぅ……はっ!?えっ!?」

 

 突然の事態に慌て出すワームモンを、大成はそこら辺にあった紐で縛って吊るし、引きずって歩く。

 ちなみに手で持たないのは、さすがの大成も気持ち悪い巨大な芋虫を手で持ちたくはない――などというわけでもなく、ただ単にそちらの方が見栄えがいいと思ったからである。大成が巨大芋虫を手に抱いて歩くことに微妙な嫌気を感じた結果なのだ。もっとも、その結果はさらに格好悪い見栄えとなっているのだが。

 ちなみに、泣きながら引きずられていくワームモンのその姿は、さながら牛飼いに買われていく牛のようだったと、目撃者は語っていたりする。

 

「うぅ……どこ行くの……」

「ちょっと出口まで」

「へぇ~……って!えぇっ!?今なんて!?」

「だから、出口。行くぞ」

 

 大成の突然の意思表示に驚くワームモン。

 確定された情報ではないが、一度この街から出ると戻ってくることなどできないといわれている。この街から出た者が誰も戻ってきていないことから、そんな話が出てきているのだ。

 だからこそ、出口を目指している大成にワームモンは驚いたのだ。そして、それが意味することを察したワームモンは顔を青くする。元から緑色なのに、さらに青くなるというシュールな生き物だ。

 

「なんで……嫌だよぉ……怖いよぉ……」

「別に出て行こうなんて考えてないって。食っちゃ寝してるのも飽きたし、ちょっと様子見するくらいならいいだろ。暇つぶしになるし」

「本当?本当だよね?絶対に出ていかないよね?」

 

 大成にこの街を出ていく気がないと知って、パアッと顔を明るくさせたワームモン。一瞬で青かった顔が元に戻るという、ある意味で生物の範疇を逸脱した現象を目の当たりにした大成は微妙な顔になるのだった。

 そんなこんなでしばらくして、大成たちは出口へとたどり着いた。出口は巨大な扉だ。門と言い換えてもいい。この街を包み込む外壁、その向こう側へと出ることができる唯一の扉。

 そんな時、凝った装飾のその扉を感心して見ていた大成は、扉を怪しく調べている人影に気がついた。

 

「これが出口ね……まるで巨大な扉だな。ん?あれって優希か?」

「大成?こんな所で何してるの?」

「いや、部屋でグダってるのも飽きたし……ちょっと探検でもしようかと」

「ふーん……っていうか、ワームモンよね?それ」

 

 扉を調べていたのは、優希だ。そんな優希が指差したのは、未だ引きずられているワームモンである。さすがの優希でも、大成の行動は予測できていなかったらしい。頬を引き攣らせている。

 一方で、ワームモンも、優希に対してこの状況を何とかしてくれるかもしれないという希望を抱く。先ほどからワームモン自身も紐を切ろうともがいているのだが、紐は丈夫だ。ワームモン程度の力ではビクともしない。自分ではどうにかできないからこそ、ワームモンは優希に何とかしてほしかったのだ。

 ちなみに、大成が解いてくれるかも、なんていう甘い考えはワームモンの中には存在していなかったりする。その辺り、短い付き合いながらもワームモンも大成のことを理解し始めていた。

 

「……そろそろ解いてあげたら?」

「えー……?まあ、いいけどさ」

「ありがとう!優希さんっ!」

 

 解放されたうれしさにはしゃぐワームモンを優希は宥める。はたから見れば、もはや大成よりも仲がいいといえるだろう。そんな光景に、ほんの少しばかりの謎の敗北感を抱いた大成だった。

 

「お前が優希か……」

「ッ!」

 

 その時だった。現れたのは、男だ。大成も優希にも見覚えはない。背丈は高い。二メートル近くはあるだろう。だが、その男が何より異様に見えるのは、まるで生気の宿っていないようなその目だ。生気の宿っていないその目は、その男に機械のような印象を抱かせる。

 そんな異様な男を前に、優希たちは動けずにいた。その男が作り出している雰囲気にのまれているといってもいい。

 

「ふむ……情報にはない不要分子もいるが……まぁ、いい。命令は外へと追い出すこと。それだけだ」

「何を……ッ!」

 

 その瞬間に、男が取り出したのはSDカードのような何かだ。よく見れば何かが描かれているのがわかる。だが、それだけだ。優希たちの場所からでは何が描かれているのか理解できなかった。

 男を警戒したまま動けない大成たちを放っておいて、その男は腕に取り付けられた機械にそれを挿入する。

 

「セット『グレイモン・メガフレイム』」

「なっ!」

 

 現れたのは、火炎弾。

 優希も大成もそれを知っている。男の言葉が正しければ、成熟期デジモンであるグレイモンの必殺技だ。目の前にある火炎弾が本当にそれと同じものならば、大成たちが食らえばひとたまりもないだろう。

 いや、疑うべくもない。火炎弾は空中に待機しているだけだというのに、周囲の温度は比べ物にならないくらいに上がっている。それは、火炎弾が本物だということの証明だ。

 命の危険を感じて、その火炎弾から逃げるように大成たちは動こうとする。だが――。

 

「セット『テイルモン・ネコパンチ』」

 

 その瞬間に、大成たちの前へと回り込んだ男は、大成たちに殴り掛かる。人間とは思えないほどの俊敏さで動くその男の拳を大成たちが避けられるはずもない。ご丁寧に全員がまとめて殴り飛ばされる。

 人間とは思えない怪力。まるで漫画のように吹き飛んだ大成たちの行く先にあるのは、いつの間にか“開いている”あの出口だ。

 

「なぁっ!」

「出るつもりなかったのに!」

 

 その瞬間に大成たちは出口の向こう側へと消えた。

 後に残ったのは、その場から立ち去る男の後ろ姿だけだった。

 




というわけで、大成のパートナーデジモンはワームモンです。
まあ、加筆修正した前話で分かったことではありますが。

さて、ようやく本格的に始まります。
次回は早速アイツが登場します。

では、また次回もよろしくお願いします。

いい加減に題名とあらすじから(仮)を取らないと……。
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