【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第五十話~魔女の到来は不穏の幕開け~

 学術院の街から少し離れた荒野地帯。

 そこで、二体のデジモンが激しくぶつかり合っていた。片方のデジモンは一撃を重視したような、パワースタイルを貫いていて、もう片方のデジモンはリズムを刻むかのような、それこそ“蝶のように舞い蜂のように刺す”スタイルである。

 前者のデジモンはエクスブイモンで、後者のデジモンはスティングモンだ。彼らは今、お互いを高め合うために、模擬戦闘をしているところなのである。

 

「ぬぉおおおお!あったれぇー!」

「……ふ!……!」

「っくそぉおおお!」

 

 しかも、ちょうどいいことに両者の実力は拮抗している。

 自分の実力を上げるためには、確かに格上と戦うことも大事だ。だが、お互いに抜き抜かれの関係になるような――いわゆるライバルと言える関係になれるような、そんな実力の拮抗した相手と戦うことも同じくらい大事であるのだ。

 だからこそ、彼らの師匠とも言えるスレイヤードラモンは、二人を戦わせているのである。

 

「はっ……はっ……」

「おら、どうした?その程度か!?」

「うぬぅ……まだまだですぞ!」

「よし!その意気だ!」

 

 そして、スティングモンたち二人を戦わせている傍で、当のスレイヤードラモンはレオルモンの方を鍛えていた。

 まあ、レオルモンは戦う相手がいないので、必然的にスレイヤードラモンが相手をしている――のだが、スティングモンたちと比べて難易度が段違いな気がするのは、きっと気のせいだろう。

 とはいえ。格上と戦い続きのレオルモンは、そろそろ体力の限界が訪れそうだった。だが、彼自身はまだまだやる気のようである。ボロボロであるのに、流石の根性と言うべきか。

 そんなレオルモンを見て、スレイヤードラモンはさらに過激に攻める。手を緩めるなど、もってのほかだと思ったのだ。

 まあ、こんな感じで今日のトレーニングは過ぎていき――。

 

「ぜっは……ぜー……はー……」

「よし、今日はここまでか」

 

 日が暮れる頃には、レオルモンは死に体だった。流石に、実力が桁外れの相手と戦い続けていて、それで体力が残るなんてことはなかった。

 一歩間違えば虐待クラスのトレーニングではあるが、レオルモンは文句を言うつもりはない。どちらかといえば、どんとこい、という感じになっている。それほどまでに、レオルモンは強くなりたいのだ。

 死に体のレオルモンの横で、息一つ乱れていないスレイヤードラモン。そんなスレイヤードラモンに、僅かばかりの理不尽な思いを抱いたレオルモンだった。

 

「ぬがぁああああ!なんで勝ち越せないんだよ!」

「っく!勝ち越せませんでした……」

 

 そして、そんなレオルモンとは反対的に、スティングモンとエクスブイモンの二人は、一日中戦っていたというのに体力が有り余っているという感じなほど、テンションが高い。

 まあ、実際は有り余っているのではなく、テンションが高すぎて体力の限界に気づいていないだけなのだが――それはつまり、二人は体力の限界に気づけないほど、模擬戦闘に白熱していたということなのである。

 二人の勝敗は、十勝十敗十分。どこからどう見ても、引き分けとしか言いようがない結果である。

 機械里のリベンジを果たしたかったエクスブイモン。大成のパートナーは自分だけだと、力の差を示すつもりだったスティングモン。

 二人が二人、それぞれの想いを持って今回の模擬戦闘を望んだわけではあるが、二人ともその想いを果たすことはできなかったようである。

 

「くそぅ……!もう1ラウンド行くぞ!」

「……望むところです!」

 

 このままでは、二人とも引き下がれない。

 だからこそ、決着をつけるべく、二人はもうひと勝負しようとして――。

 

「いや、ダメに決まってんだろ」

「ぐはっ!」

「がっ……!」

 

 スレイヤードラモンに小突かれた。まあ、ただの小突きとはいえ、スレイヤードラモンほどの力を持った者にやられたのならば、それは相当な衝撃となる。

 それによってのダメージはほとんどなかったとはいえ、衝撃を受けた二人はよろめき、地面に倒れ込んでしまった。

 

「……スレイヤードラモンさん!?」

「ちょっと、待ってくれよ!今コイツと……!」

「いや、お前らそんな体力ねぇだろ」

「え?」

「あれ?」

「無理すんな。自分の限界くらい知っとけよ」

 

 呆れたように言うスレイヤードラモンの前で、一生懸命立とうとしているスティングモンたち二人。だが、二人が立ち上がることはなかった。彼らは、彼ら自身が思っていた以上に疲れていたのである。

 これではもうひと勝負どころの話ではないだろう。というか、レオルモンを含めた三人が立てるほどの回復を待っていたら、きっと夜遅くになってしまう。

 そんな彼らの様子を見て、「もう少し加減すれば良かったかな」と、思ってもいないことを呟いたスレイヤードラモン。溜め息を吐いた彼は、未だ体力の回復に四苦八苦しているスティングモンたち三人を半ば雑に抱えて、学術院の街と帰っていくのだった。

 

「手数をおかけしますな……」

「いや、いいよ。途中で放り出すのは好きじゃない」

「くそっ……今度は絶対にオレが勝つぞ!」

「負けません!」

「……元気ですな」

 

 スレイヤードラモンの速さならば、学術院の街まであっという間だ。

 レオルモンが呆れたようにポツリと呟いた頃には、もう学術院の街にたどり着いていた。とはいえ、約二名ほどは、街にたどり着いたことにも気づいていなかったのだが。

 まあ、あのスティングモンがムキになっているというこの光景は、ちょっと前なら考えられなかったような光景だ。まず間違いなくエクスブイモンが来たことが原因だろう。

 スレイヤードラモンもレオルモンも、具体的に何があったのか知らないが――この変化は、きっとスティングモンにとって良いことである、とは思っていた。

 

「つーかお前ら、ずっとスレイヤードラモンさんに師事してたんだな……羨ましいことのこの上ないぜ」

「やはりスレイヤードラモン殿は有名なのですな……」

「まぁ、いろいろやらかしてるからなー」

「やっぱお前らに着いて来て正解だったな!まさかスレイヤードラモンさんと会えるとは思わなかったし、稽古つけてくれるとも思わなかったしな!」

「ま、そんな大層なことはして……ん?ほら、もう自分たちで歩けるだろ」

 

 そう言ったスレイヤードラモンは、スティングモンたちを地面に下ろす。

 実にいきなりではあったが、スレイヤードラモンの視線の先には、大成と優希がいた。どうやら二人は、今家に帰るようだ。

 ちょうどいいタイミングで帰宅が重なったから、一緒に帰れ的な意味でスレイヤードラモンは彼らを下ろしたのだろう。

 地味な気遣いであるが、ありがたいことだ。そんなスレイヤードラモンに礼を言って、レオルモンたちは自分のパートナーの下へと駆けていく。

 

「お嬢様!」

「セバス?今帰り?」

「よう、イモ。エクスブイモンも!」

「っていうか、気になってたんだけど、そのイモってなんだ?」

「こいつの進化前がワームモンで、イモムシみたいだったから」

 

 それぞれがそれぞれのパートナーと話して、帰路につく。

 別に羨ましいわけではないが、ほんの少しだけいつかの日々を思い出して懐かしくなったスレイヤードラモン。彼はひとり、今の自分の住処へと帰るのだった。

 一方で、数分後に家へと着いた大成たちは、各々がリビングでリラックスしていた。まあ、リラックスしているとはいっても、座ってボーっとしているだけなのだが――ゲームがないのは仕方がないが、テレビくらいは欲しいと思った大成である。

 まあ、例えテレビがあろうと、テレビ局がないこの世界では面白い番組などやっているはずもない。

 

「今日いくら探してもドルが見つからなかったのよね」

「そうなのですか?」

「ドル?誰だ?」

「ドルモンってやつ。ああ、そうだ。ドルはこの街にいないらしいぞ。旅人とリュウを殴るために修行してくるとかなんとか……」

「何それ。なんでそんなことになってる……ああ」

 

 ドルモンの残した言葉に、一瞬だけ疑問を抱いた優希だったが、あくまで一瞬だけだった。優希も大成も知っているのだ。

 旅人が一人で()()()この街から旅立った次の日のドルモンの荒れ様を。

 あの時のドルモンのことを思い出せば、むしろ納得である。まあ、それでもスレイヤードラモンがそこに入っている理由はわからなかったのだが。

 ともあれ、ドルモンがいなければ、優希は自分の能力制御訓練ができない。ドルモン以外で、訓練に頼れる相手に、優希は心当たりがないのだ。

 本格的にどうするか……と優希が考え始めていたその時。大成は、ウィザーモンから言われた言葉を思い出していた。

 

「ああ。優希。なんか、ウィザーモンが頼みたい仕事があるらしいぞ」

「え?わかった……けど、何その顔?はっきり言って気持ち悪いわよ?」

「大成って顔が変になるんだな」

「自分の顔くらいは把握するべきですぞ」

「大成さん……フォローできないです……」

「みんなひどくね!?」

 

 まあ、そんな大成の顔はともかくとして。

 能力制御の訓練も大事ではあるが、仕事も十分大事なことだ。とりあえず、明日は朝一でウィザーモンのところに行くことにした優希だった。

 ちなみに。その結果、優希は後悔することになるのだが、それはこの時の優希には知らぬことだった。

 その後。大成はともかく、デジモン組と優希は一日中動いていて疲れていたこともあって、簡単な食事をした後は全員さっさと眠ることにした。だが、時刻的にはまだ九時にもなっていない。実に健康的というか、健康的すぎる生活だった。

 そんなこんなで――翌朝。

 

「あれ、優希は……?」

「優希さんならさっさとウィザーモンの所に行きましたよ?」

「今日の訓練は昼からだったな。……よし!昼になるまで昨日の続きだ!イモ!」

「イモと呼ばないでください!」

「はっ!オレに勝てたらやめてやる!」

「朝から元気だなー」

 

 まだ朝っぱらだというのに、もうスティングモンとエクスブイモンはやる気である。朝から血気盛んなことだ。

 眠い目を擦りながら、大成は呆れた様子で、されど朝だというのに元気な二人を羨ましそうに見るのだった。

 

「ほわ……まあ、先に飯食うか。おーい、朝飯はー?」

「食べます!これが終わってから!」

「食う!これが片付いたら!」

「仲良きことは良きことかな……うんうん。良いことだ!昨日の敵はいつまでも友!」

 

 どこぞのゲームのキャラのセリフを呟きながら、大成は朝食を口に運ぶ。今日の朝食は、手軽な朝食としての代表格。サンドイッチだった。

 まあ、サンドイッチといっても、日本で見られるような形の整ったものではない。形がバラバラながらも、それなりに近い大きさのパン同士で、野菜と肉を強引に挟んだ代物だ。一見すると雑すぎるが、まぁ仕方ない。

 ちなみにだが、この世界で食べることができる肉が何の肉なのか、大成は知らない。デジモンの肉ではないだろう。きっと。もしそうだとしたら、食べづらいことこの上ない。

 

「げふ……ちょっと食べ過ぎたな……」

 

 ともあれ、肉や野菜が人間世界の物と違おうと、安定して食べられるのは良いことである。この世界に来たばかりのことを思えば、余計にそう思えるだろう。

 そんなこんなで、朝食を食べ終わった大成は、満足感に浸りながら外を見る。そこには、相変わらず互角の勝負をするスティングモンたちの姿があった。

 スティングモンたちはこの後すぐに朝食にするつもりだろうか。戦闘という名の運動をした後すぐに。

 どうでもいいことだったが、少しだけ気になった大成だった。

 

「っく!また引き分け……!」

「おー……やっと終わったか。っていうか、エクスブイモンすげぇな。かっこいいぜ!腹からレーザー!」

「変な名前つけんな!エクスレイザーだ!」

「いや、似たようなもんじゃねぇか!」

「大成さん、僕の方はどうですか?」

「いや、カッコイイけどなんか、地味」

「かっこいい!って……地味……?」

 

 喜んだり、落ち込んだり、と忙しいスティングモン。彼としてはエクスブイモンと同じように大成に賞賛して欲しかったのだが、残念ながらそれは叶わなかった。

 パワーファイターであるエクスブイモンの技は、とにかく見た目のインパクトの大きい技が多い。それこそ、その見た目を重視する大成が惹かれるのも仕方ないことだった。

 まあ、スティングモンの方も大成は褒めているといえば褒めている。その後に余計な単語がついていたが――これは大成の感性による問題なので、スティングモンも諦めるしかないだろう。

 

「うぐぐ……」

「なんかさ、イモの奴に凄い睨まれてんだけど……」

「知らねぇよ。さて、腹減ったなー」

 

 そんな朝の一幕であった。

 だが、こんなある意味平穏とした朝の時間も、数十分後には終わりを告げることになる。

 平穏は、いつだって不穏の到来と共に終わりを告げる。言い換えれば、いつだって平穏が終わる時は、新たな局面や事件の到来だ。それは、今日という日も例外ではない。

 平穏な朝に出て行った者が、不穏を引き連れて戻ってくることだって、ありうるのだから。

 そう。帰ってきたのは、朝早くにウィザーモンの下へと行った優希たち。だが、優希のその顔はどこか疲れているようにも見えた。

 

「ただいまー……すぐ出かける準備をして」

「……なぜに?」

「仕事」

 

 その一言で、大成は大まかに状況を把握する。というか、結構万能すぎる一言である。

 ともあれ、ゆっくりとできる朝は終わりを告げた。なら、後に始まることは、忙しい仕事でしかない。

 すぐに部屋に戻り、簡単な身支度をしている最中にも、大成はこの仕事に面倒そうな予感を感じていた。具体的に言えば、機械里の時と同じように、重要なのは優希で、自分は労働力目当てではないのか、という。昨日のウィザーモンとの会話が、その予感を助長させていた。

 もちろん、仕事であるからして、労働力目当てで働かされるのは当然なのだが――やはり優希だけ何かあって、自分はそのオマケというか、体よく扱われているだけでしかないというのは、大成に取って不満が貯まることのようである。

 

「はぁ……ま、優希のように目をつけられるのも嫌だけどな」

 

 ともあれ。優希のように、研究上の興味対象としてウィザーモンに目をつけられるのも、大成は嫌だった。優希を見ていればわかるが、大変では済まないのだ。ウィザーモンの研究興味対象として認識されると。

 いろいろと面倒な手伝いをしなければならないだろう。自分のいろいろなことが探られるのだろう。

 それを思うと、仕事くらいやってやると思う気になる大成だった。

 ちなみに、大成の中のウィザーモン像は、普段はマシだが、研究となるとゲームや漫画でよくあるようなマッドサイエンティストになる人物、である。あながち間違いではないのだが、どうも誤解している感があるのだった。

 そんなこんなで、身支度を済ませた大成はリビングに戻る。リビングは、なぜか奇妙な雰囲気となっていた。

 そんな雰囲気に首を傾げた大成は、その雰囲気の中心を探して――それは、すぐに見つけることができた。そこにいたのは大成の知らない一匹のデジモンで。

 

「……」

「お嬢様、大丈夫ですかな?」

「だ、大丈夫……」

「別にそんな固まらなくても、とって食やしないわよ」

 

 そのデジモンは、魔女のような格好をして箒に乗って宙を浮いているデジモンで、ウィッチモンと呼ばれる成熟期デジモンだった――。

 




という訳で、第五十話です。ウィッチモンの再登場回でしたね。まだ一度も喋ってませんが。

というわけで、次回はウィッチモンの依頼です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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