【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
家を出た大成たちはウィッチモンに連れられて、学術院の街を歩いていた。
優希とレオルモン以外は、ウィッチモンと初対面である。さらに、何故か優希はウィッチモンを苦手にしているということもあって――大成たちはウィッチモンに興味津々だ。
そして、その地味に優希に距離を置かれているウィッチモンが言うには、今回の仕事はこの街の中で行う仕事らしい。前の機械里のように、遠くまで出向かなくていいということは、大成たちにとってもありがたいことだった。
「っていうか、ウィッチモンって随分と優希に嫌われてるんだな」
「嫌われてるのは間違いないけど、そういうよりは……苦手にされてるのよ。多分ね」
「苦手?どういうことなんですか?ウィッチモンさん」
少し気難しそうな雰囲気を漂わせていたウィッチモンだったが、大成たちが話してみるとなかなかに話しやすかった。
優希に苦手とされているウィッチモンだが、コミュニケーション能力に難がある訳ではない。彼女としても、会話をしてくれる大成たちの存在はありがたかった。
理由は言わずもがな。レオルモンがいるとは言え、自分を苦手としているだろう優希と一緒にいるのは気まず過ぎて、御免被りたかったからだ。
「前に優希がこの街に来た時にやらかしちゃってね」
「……何を?」
「ちょっとね」
「怖ぇよ!」
ニヤリ、と寒気がするような笑みを向けられれば、大成もそれ以上聞く気はなくなる。いや、大成だけでなく、スティングモンやエクスブイモンも同様の思いを抱いたのか、押し黙っていた。よほどウィッチモンの笑顔が怖かったらしい。
ちなみに、ウィッチモンがその笑みを大成たちに向けた時、優希は何かを思い出したのか、ぶるりと体を震わせていたりする。
「まぁ、いいや。んじゃ、せっかくだし俺の――」
「嫌よ」
「まだ何も言ってないんだけど」
「なんとなくね」
何がせっかくなのかはわからないが、大成お決まりのナンパ発言は、ウィッチモンの“なんとなく”という理由で、言い切ることもできずに即拒否された。
拒否されることを半ば予想していた大成だったが、言い切らせてさえもらえないと傍から見ていて見ていて流石にちょっとかわいそうである。
まあ、隣で優希たちやエクスブイモンが呆れていたり、何も動じていないようなスティングモンが内心でホッとしていたりしていたのだが――まあ、エクスブイモンがいること以外は、いつもの光景だった。
「……それで、今日の仕事はなんなのですかな?このままではお嬢様の精神衛生上よろしくないですのでな。なるべく早く終わらせたいのです」
「うーん……優希には悪いけど、結構長丁場になるわよ?下手すると数日かかるかも。運が良ければ一日もかからないだろうけどね」
「ってことは、優希は下手すりゃ苦手なウィッチモンと毎日顔を合わせることになるのか」
「っ!」
「お、お嬢様が涙目に!?」
早く仕事を終わらせてウィッチモンと別れたい優希。
対照的に、大成はもう少しこの状況が続いてもいいと思っていた。優希に知られれば、激怒されそうなことを考えている。
だが、ウィッチモンといると、今涙目になっていることのように、大成のそれまで知らなかった優希の一面が見られるのだ。これが、なかなかに面白い。特に今の涙目の優希など、激レアもいいところである。大成としてはもう少しこの状況を楽しみたかった。
まあ、今回は
「……で?仕事って何なんだよ?っていうか、オレまで手伝わせるのな」
「文句言わずに手伝いなさい。大成の関係者でしょ?」
「悪い、エクスブイモン……」
家からオマケ扱いでここまで連れて来られたエクスブイモン。まあ、彼としては大成たちの仕事を手伝うというのには、若干の不満があるのだろう。
エクスブイモンには大成たちの仕事を手伝う義務はないのだから。それでも律儀に手伝おうとするのは、機械里の一件のことがあるからだ。
とはいえ。やるからには、中途半端なことをするつもりはエクスブイモンにはない。何気にレオルモンに次ぐくらいにはやる気が高いエクスブイモンだった。
さらに、そんなエクスブイモンを見て、スティングモンも負けたくないとやる気を出し始めている。
今日のデジモン組は、いつも以上にやる気があるようで、何よりだ。
「さて……さっきから横道にそれまくってるけど、今日の仕事内容言うわよ。しっかり聞いてなさい」
「……半分はウィッチモンが悪いと思うんだけどな」
「人の揚げ足を取らない!」
「大成殿、話が進みませぬ!少し黙っていてくれませぬか?」
「……扱い酷いな」
ようやく本題である。
先ほどから仕事内容を説明したかったというのに、いざ説明開始するまで予想以上に長くかかったと思うウィッチモン。とはいえ、それはウィッチモンだけが思っている訳でもない。ここにいる面々全員が思っていたことである。
そんなこんなで。ごほん、と咳を一つしてウィッチモンは説明を始めるのだった。
「ま、簡単に言えば、汚物掃除よ」
「……」
簡単どころか、一言で済んでいる。というか、汚物掃除。普通に考えれば、きっとトイレ掃除とか、ゴミ拾いだとか、その辺りだろう。もしくは、裏世界の云々という、どこぞの映画にありそうな方を想像するかもしれない。
だが、大成だけは、その一言に嫌な予感を覚えていた。
大成はゲーム時代に知っているのだ。やたらと進化しにくいくせに、ほぼ役に立たないほどの――その見た目からも、汚物、とそう言われるデジモンがいることを。
「別に心配しなくても、簡単な仕事よ。ほら、付いたわ。あそこの路地裏ね」
「……」
「行かないのですかな?」
「いや、汚物掃除するならさ、専用の装備とかあるじゃん?軍手とか、あのトイレのカポカポとか……」
「そんなものいらないわよ」
もはや、大成の中で嫌な予感は確信に変わっていた。というか、その確信が外れていたとしても、大成は行きたくない。いくら大成でも、道具もなしに汚物掃除などしたくないのだ。
まあ、どこぞの異世界の少年は、素手で汚物を何個も拾い集めた実績があったりするのだが――同じことを大成にやる度胸はなかった。
ともあれ。早く行け、と目線で急かすウィッチモンを前にして、「じゃあ、お前が先に行けよ」と言いたかった大成だった。
「行きますぞ」
「……はぁ」
「お、お嬢様、そんな顔をせずとも!このセバスが行ってまいります!」
「……いいよ。行くから……仕事だしね」
勇気を出してレオルモンは路地裏へと突き進んでいく。先陣を勇ましく歩いて行くレオルモンに勇気づけられて、その後を大成と優希は着いて行ったのだった。
「オレらは入れねぇな」
「二人はここで待ってて。……逃さないようにね」
「……?」
ちなみに。場所が狭い路地裏だったために、スティングモンとエクスブイモンはその場で待機となっている。ウィッチモンがこっそりと二人に言った、“逃さないようにね”という部分に首を傾げた二人だった。
ともあれ、安全圏に残るそんな二人を恨めしく思った大成である。
そんなこんなで、路地裏を進んでいった先にあった光景は――。
「……あれ?」
大成の予想に反して、ただ汚いだけの光景だった。その光景に、構えていた大成は拍子抜けする。
いや、まあ、そうは言っても大成の予想に反しているだけで、そこは相当汚い。そして、臭い。誰のものかもわからない糞や腐りかけの生ゴミがそこら中に落ちている。
もしここが人間の世界であったのならば、異臭や汚染の環境問題として取り上げられそうなレベルだ。
「これを片付ければいいのか?」
「正しくはこれ
「だから、専用の道具を用意しろって……!」
ウィッチモンの引っかかる言い方に再度嫌な予感を覚え始めた大成だが、その予感は、次いで湧き上がった不満と怒りによって押し流されていった。
まあ、不満もするだろうし、怒りもするだろう。これから見渡す限りの生ゴミや糞を片付けるというのに、渡されたのが大きめのゴミ袋一枚だったのならば。
優希など、引き攣った表情のままに固まっている。やはり、年頃の女の子に素手とゴミ袋で汚物掃除はキツイということだろう――まあ、女の子でなくても、こんなのは誰だって嫌だが。
「お、お嬢様はお戻りくださいませ!ここはこのセバスが!」
「……」
「いいなー……優希は。セバスがいて。アイツらなんてここまで来てさえないもんなー」
優希に汚物を触らせまいと、自ら汚物に触れ、ゴミ袋に押し込めるレオルモン。実に健気である。
そんなレオルモンをパートナーに持つ優希が、今この瞬間だけ心底羨ましくなった大成だった。
とはいえ、このまま突っ立っていても、仕事は終わらない。レオルモンが頑張っているから、彼にすべて任せたくはあるが、そうは問屋が下ろさないだろう。
溜め息を吐いた大成は、ゴミ袋を駆使しながら、なるべく汚物に触れないように掃除を進めていったのだった。
「……優希も手伝ってくれよ」
「大成殿!自分が頑張るので、お嬢様はさせずともいいのです!流石にこれは……」
「だ、大丈夫。やる……から……」
とはいえ、ここまで来てレオルモンや大成に任せっきりというのは、優希も嫌だったらしい。頬を引き攣らせたままに、大成のやり方の真似をするようにして掃除を始めた。
まあ、掃除を始めたとはいっても、彼女の掃除する速さは、レオルモンにも大成にも及んでいない。ほとんど戦力に数えられないというか、この場が狭い路地裏であることを踏まえればいない方がマシなレベルだった。
そうして、数分後。未だ終わりの見えない汚物地獄の中で、掃除するでもなく、箒に乗って宙に浮いていたウィッチモンは一人呟く。
「そろそろね」
「……いや、まだまだだろ」
「いや、そろそろよ」
「いやいや、まだだって。っていうか、ウィッチモンも手伝ってくれよ。優希だって、頑張ってるんだぞ」
「嫌よ。それに私がそっちに行ったら、今以上に優希が使い物にならなくなるわよ」
「……そのままでいてください」
確かに、全然役には立っていないとはいえ、今の優希が動いていられるのは、ウィッチモンがそれなりの高さの場所にいるからだ。具体的は、地面から四メートルくらい。
ウィッチモンが近くにいると、優希がポンコツになることは確認済み。つまり、ウィッチモンが地面に降り立てば、ただでさえ役立たず気味な優希が、本当に役立たずになってしまうのである。
こうも、大変な仕事の時に限って、誰かにいろいろと事情があるというのは、地味に勘弁してほしいと思う大成だった。
「あ、だったら、その箒を貸してく――」
「殺すわよ?」
「……ごめんなさい」
口は災いの元とはよく言ったものである。
大成は、軽々しく冗談を言ってしまったことを本気で後悔していた。それほどまでに、ウィッチモンは怖かった。本気で殺されるかと思えたのだ。
「さて、冗談はこれくらいにして」
「絶対本気だったって……」
「本命が来たわね」
本命。そのウィッチモンの言葉に、大成は頬を引き攣らせた。
この掃除以外にもまだ何かあるのか、と。次こそはアレが来るのではないのか、と。
残念ながら、大成のその外れて欲しかった予感は、現実ものとなってしまった。
直後。上空から何かが落ちてきた。空を飛んでいたウィッチモンはともかくとして、優希も大成も、思ってもみなかった方向から来たソレを発見することなどできなかった。いや、大成たちだけでなく、レオルモンもだ。彼もこの汚物の中で鼻が自由に利かず、気づけなかった。
ともかく。彼らがそれに気づくことができたのは――なんというか、それを頭から被ってしまった後だった。
「……」
「……」
「……」
沈黙。自分の今の状況を確認した三人の間にあったのは、痛々しいほどの沈黙。
大成も、優希も、レオルモンも。全員がこそ思いがけない事態に、頬が引き攣ることも、嫌そうな顔をすることもなく――ただ、無表情で黙ることしかできなかったのである。
というか、半ば放心状態で現実逃避している。まあ、それも仕方ないだろう。今の大成たちの姿は、それほどのもの。
誰もが現実逃避すること請け合いの――頭の先から足の先まで、体中がすべて糞まみれとなっていたのだから。
「あっはっはー!見ろよぉー相棒!あいつらまともに食らいやがったぜ!」
「うがー?」
「おい、聞いてんのか?相棒!」
「うがー!」
「そうだよ!おれたちの住処を荒らす者たちに正義の鉄槌をしてやったんだよ!」
「うが!」
この状況の原因は、大成たちの頭上、この路地裏を形成している建物の屋上にいた。ご丁寧に、大成たちに聞こえるような大声で、大成たちを嘲笑っている。
姿は見えないが、やってくれたものである。現実逃避もそこそこに、大成は頭に来ていた。確かに仕事は汚物掃除だった。だが、ピンク色の糞にまみれ、鼻が曲がるような異臭を自分から発するようになる仕事を、大成は受けた覚えはない。
絶対にボコボコにする。黒い思いをその胸の内に滾らせながら、大成はふと優希を見て――。
「……あの、優希さん?」
「……」
その瞬間に、その胸の内に滾らせた思いは消滅することとなった。
まあ、ありていに言えば――優希はキレていたのだ。その恐ろしさは、優希相手だというのに、思わず大成が敬語を使ってしまったほど。
優希と付き合いの長いレオルモンですら、優希のこの状態に驚き、目を見開いて固まっている。
「お、おい!セバス!何とかしろ!」
「む、無理だ!ああなった優希は……!」
思わず素が出てしまうほど、そしてそんなレオルモンに気付けないほど、大成とレオルモンは焦っていた。
だが、その当の優希はそんな二人を気にした様子はない。未だ黙ったままだ。それが、二人にはなおのこと恐ろしかった。
「セバス」
「りょ、了解!」
抑揚のない平坦な優希の声。だが、それだけに恐ろしさを助長させる。
逆らう、意見をする、そんな選択肢などレオルモンの中にはない。直後、レオルモンは糞まみれの体を引きずって、壁を走るかのような要領で上へと登っていく。
そんなレオルモンが、建物の屋上にたどり着いた先で見たのは、スティングモンとエクスブイモン、そしてウィッチモンが二体の奇妙なデジモンを追いつめている光景だった。
「これは……」
「あら、来たの?」
「ええ、ゆ……お嬢様に言われて」
正しくは、脅されてであるが、そこは優希のためにも言わなかったレオルモンである。
まあ、ウィッチモンにはなんとなくだがわかっていたのだが。
「そう……優希には悪いことしちゃったわね」
「知ってたのなら、言ってくだされば……」
「まさか、こいつらがこんな強行な手を使うとは思わなかったのよ。基本狡賢いから」
そう言ってウィッチモンが指したのは、三体の成熟期デジモンに囲まれ、ぶるぶると震え上がっている二体のデジモンだ。
まるで金色のウ○チのような外見のデジモンとやせ気味のネズミのようなデジモン。それぞれ、成熟期のスカモンと成長期のチューモンである。
彼らの戦闘能力はないに等しい。だから、このメンツで取り囲むのはいっそ過剰なのだが――。
「っく!おれたちが何をしたんだよぉー!」
「うがー?」
「とりあえず、通行人や街中を糞まみれにして困らせるなどね」
「別にいいじゃんかぁー!」
片割れであるチューモンは、悪知恵が回る。今までにも、取り囲んだのに逃げられたという報告がいくつもある。だから、これは過剰くらいがちょうどいいのである。
「うがー?」
「相棒は悪くねぇ!全部おれが悪いんだ!」
「そうね。どうせまたスカモンを誑かしたんでしょ」
「人聞き悪いこと言うな!おれと相棒は親友なんだー!お前らはいつもそうだ!おれと相棒の中を疑って!くそぉー!馬鹿にしやがってぇー!」
そう叫びながらチューモンは、明後日の方向に走って行こうとしている。どさくさに紛れて逃げ出そうとする気なのだろう。もはや、悪知恵とも呼べないほど浅はかな行動だ。
当然、そんな行為が許されるわけもなく――。
「ふべっ!?」
「どこに行くのかしらね?相棒がどうなってもいいの?」
「うが……」
「てっ……卑怯だぞ!」
チューモンは、一瞬でウィッチモンに捕まえられることとなる。
しかも、今度は逃げられないように、ウィッチモンがどこからか取り出したロープと布で簀巻きにされてしまった。これではもうどうすることもできないだろう。
そんな感じで、スカモンの方もウィッチモンによってあえなく御用となった。
どうでもいいが、今回、スティングモンたちは何もしていない。スティングモンたちとしても、勇んでこの屋上にやって来たレオルモンとしても、どこか釈然としない終わり方である。
「ありがとね。これで仕事はおしまいよ」
「え?」
「近々もう一回別件の仕事を頼みに行くから」
「いや……」
「それじゃね」
「待っ……」
「行っちゃいましたね」
そんなレオルモンたちを無視して、矢継ぎ早に言葉を発したウィッチモンはチューモンとスカモンを連れて去って行く。
後に残ったのは、レオルモンたちだけであるが――彼らにはどうしても、ウィッチモンは優希や大成を囮として頼っていたようにしか見えなかった。
真実はウィッチモンのみが知るが――きっと、あながち間違いでもないだろう。
というわけで、第五十一話。
大成たちが糞まみれになるだけの話でした。
ちなみに、この後のスカモンとチューモンは、糞を駆使した世紀の大脱走を試みるのですが、成功したかどうかは……。
彼らの再登場は、この脱獄にかかっていたりもします。
さて、それはともかく次回。
次回は、前もって予告してあった、新キャラのような既存キャラの登場。
何気に第五章のメインとなる人物です。
それでは、次回もよろしくお願いします。