【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第五十三話~二人の少女~

 家を飛び出していった片成を探して、街を彷徨う優希とエンジェモン。

 二人が片成を探してかれこれ一時間は経とうとしていたが、なかなかどうして、片成を見つけることは出来ていなかった。一応、片成が飛び出して行ってから、数分も経たずに追いかけ始めたはずなのだが。

 

「我が主ー!」

「金剛力さんー!」

「っく!これでは埒があかん。下賤な者の手を借りるのは癪だが……こうしている間にも我が主は寂しい思いをしているに違いない!手分けして探す!」

「……本当に癪だけど、そうね。それがいいわね」

「私はあちらを探す!汝は向こうを頼むぞ。っく!あの変態め……!」

 

 どうやら、エンジェモンの中では、今回の片成逃走の原因は大成にあると決めつけられているようである。

 まあ、状況だけ見れば、優希としてもそうとしか思えなかったのだが――散々好き勝手言われている大成のことを思えば、若干哀れにも思えてくる。

 とはいえ。大成はこの瞬間にも、家でグダグダしているので、フォローなどできようはずもなかったのだが。

 だが、今は大成より片成である。

 優希はそこら辺を歩いていたデジモンを捕まえて、片成について聞くのだが――。

 

「金剛力さーん?あっ、ちょっと聞きたいんだけど……」

「なんでぇ!」

「人間を見なかった?私くらいの歳の女の子」

「女の子ぉ?よくわからんが、おめぇ以外で今日は人間を見てねぇぞ」

「う……そう。こっちじゃないのかしら。ありがとうございました!」

 

 結果は、芳しくなかった。

 その後もさまざまなデジモンをとっ捕まえて聞いたのだが、片成について知る者はゼロだった。

 こうなると、そもそも優希の探している方角には片成がいない可能性が高い。もしくは、大通りを避けて路地裏などにいるのか。

 これだけ聞き込みしても見つからないのだから、大通りに片成がいることはないと考えていいかもしれない。とすると、この段階で優希が探すべきは、路地裏や横道のような大通りから外れた道となるのだが――。

 

「入らなきゃダメかな……」

 

 昨日のアレのせいで、優希は路地裏というものに酷く苦手意識を抱いていた。

 まあ、そうだろう。昨日散々な目にあって、また今日も似たような目にあったのでは溜まったものではない。ただでさえ昨日のアレが噂となっているのに、もし今日も同じようなことがあって、それも噂になったのなら――優希は本気で引きこもる羽目になるだろう。

 とはいえ。探すと決めたのだから、中途半端で終えるような、不義理なことをするつもりは優希にはない。だから、答えなど初めから決まっていたようなものだった。

 

「……よし!行く」

 

 そうして、一人気合を入れて、優希は路地裏へと突入する。

 薄暗く、そして狭いこの場所が、昨日のことを思い出させるようで、優希は一刻も早くここから出たかった。だが、複数の建物のせいで一つの路地裏が迷路のようになっている。この中を探すとなれば、すぐには出られないだろう。

 早歩きで進み続け、探す。途中、偶然あったゴミ箱の近くで、何やら白銀に光る汚物を見たような気がしたが、そこは全力で見なかったことにした優希である。

 そんなこんなで、歩き続けて数分後。

 とりあえず、この辺りの路地裏を探し尽くした優希。彼女は、半ばホッとした様子でここから出ようとしていた。

 ちなみに。当たり前だが、ホッとしているのは昨日と同じ目にあわなかったことであって、断じて片成が見つからなかったことにではない。

 

「……ん?」

 

 だが、その時だった。ダッシュで大通りに戻ろうとした優希のその耳に、奇妙な声が入ってきたのは。

 声質的には、女の子のような、可愛らしい声だ。まあ、この世界では外見と口調と声があっていないデジモンなど、ザラにいるのだが――それはともかくとして。

 感じからして、どうやらその声の主は泣いているようである。

 こうなると、優希の中で放っておくという選択肢はなくなった。もちろん、一刻も早くこの路地裏から出ようとしていた優希としては、まだここから出られないということは残念極まりないことだったのだが――それでも、泣いているものを放っておくことはできないのだ。

 

「……あれは?」

 

 とりあえず様子を伺うことにして、建物の影からそっと見てみることにした優希。

 そこにいたのは――。

 

「うっぐ……だ……め……うぅ……ひっぐ!……大丈夫……この本の通りにやれば……今度は……」

「……金剛力さん!?」

 

 そう。そこにいたのは、先ほどまで優希やエンジェモンが必死に探していた片成だった。

 片成は、座り込んで泣きながら、本のようなものを読んでいる。遠すぎて、何の本を読んでいるのか、優希にはわからなかったが――そんなことはどうでもよくて。まさか目的の人物がいるとは思わなかった優希は、思わず声を上げて驚いてしまった。

 だが、この狭い路地裏で声を上げたということは、片成にも優希の存在が気づかれてしまうということで。

 

「っひ!」

「え?あの……金剛力さん?」

「……」

 

 優希に気付いた片成は、可愛らしい悲鳴を小さく上げ、本を落として後ずさった。

 涙目で怯えて後ずさるというその反応は、ある意味可愛らしいものだったが――優希としては、ショックでしかない。

 何せ、片成の反応は、まるで恐ろしいものを見たかのような反応だったのだ。優希も女の子だ。そんな怪物のような扱いをされて嬉しいはずがない。

 自分はそんなに怖いのだろうか、と落ち込む優希。そんな優希の目に入ってきたのは、先ほど片成が落とした本だった。

 かなり読み込んでいるのだろう。ところどころに付箋が貼ってあって、読みたいページが一目瞭然になっている。

 そして、その本は表向きで落ちていたために、自然とそのタイトルが優希の目に入っていた。

 

「……“誰でもなれる!これで君もコミュニケーションマスター!”……?これ……」

「ひぅっ!」

「……」

 

 こんな時、優希はどういった反応をすればいいのかわからなかった。気まずいなんてものではない。普通ならば、見なかったことにすればいいのだろうが、優希はばっちりとタイトルを口に出してしまっていた。これでは誤魔化すことは不可能だ。

 そして、先ほどの独り言やこんな本を真面目に読んでいたということは、そういうことなのだろう。片成は、根本的に喋ることができないというわけではなく、ただ他人と話すことが苦手なだけなのだ。まあ、極度の人見知りとか、対人恐怖症とか、そういう類なのだろう。きっと。

 この辺りは非常にデリケートな問題になることもあるので、優希も気軽に聞けなかった。

 

「えっと……」

「……」

「……」

「気まずい……」

 

 とはいえ。本格的に優希は気まずい思いをしていたりする。片成が涙目であることもあって、いじめているような気さえしてしまう。大成でもエンジェモンでも、誰でもいいから一緒にいて欲しい気分に優希はなっていた。

 ともあれ、このままでいられるはずもない。とりあえず、コミュニケーションをとろうと、優希は話題を模索して――先ほどから、この場に落ちたままの本が目に入った。

 とりあえず、この本を拾って返してあげて、そこから話題を作ろう。とそう考えた優希。さっそく本を手に取って、片成に渡そうとして――なるべく怖がらせないように、優しい声と表情であることを心掛けて、片成に近づいていく。

 

「これ……」

「……っ」

「あの……別に何もしないわよ。……ね?」

「……」

 

 そんな優希を見て、大丈夫だと思ったのか。

 片成の方も、オドオドとしながらも優希から本を受け取ろうとしていた――のだが、そのオドオドとしていたのがいけなかった。優希から渡されたその瞬間に、片成は手を滑らせて本を落としてしまったのだ。

 バサリ、と音を立て、ページが開いた本がうつ伏せに落ちる。

 まあ、ここは確かに外だが、別に昨日の路地裏のように汚物塗れというわけでも、水気が多いというわけでもない。多少の土埃を除けば、本自体は無事なはずである。

 

「あっ……ごめんなさい!」

「……」

「大丈夫だから!な、泣かないで?」

「……」

 

 言葉はなくとも、片成は感情がいちいち表情に出やすいことを、優希はこの短時間で見抜いていた。ともすれば、片成は幼い子供のようである。あるいは、話せないからこそ感情が顔に出やすいのかもしれないが、それはともかくとして。

 泣かれるのは、優希としても困る。罪悪感的にも。急いで本を取り、そのまま片成に渡そうとして――その直後、優希はまた失敗をした。

 本は、開いた状態でうつ伏せに落ちていた。それを拾い上げたということは、開いていたページを見てしまう可能性が僅かながらもあるということで。

 優希は、その可能性を手繰り寄せてしまったのである。

 

「……」

「……」

 

 優希も、片成も、固まったまま動かない。もう何度目になるかもわからない気まずい思いを、優希は感じていた。

 本を拾ったまでは良かった。そう。よかった。その後だ。その後が問題だったのだ。

 そもそも、付箋が貼ってるほど何回も読むページは、ページに癖がついて必然的に開きやすくなる。つまり、落下などの自由な力によってページが開かれる時、そのページが開かれる可能性が高いということで。

 優希が本を拾った時、開いていたページは、見事に付箋が挟まっていたページだった。そして、そのページに自然と目が行った優希はそのページを見てしまって、一瞬だけ動きを止めてしまった。

 片成はそんな優希を見て、優希にそのページを見られてしまったことを気付いてしまったのだ。

 “好きな人の前で素直になれないアナタにおくる!ツンデレ方法!”。これが、そのページの見出しだった。

 なんというか、アレである。というか、アレでしかない。

 

「……あの」

「……ぅ」

「あぁっ!?ちょ、泣かな……」

「うわぁぁん!」

 

 いたたまれなさに耐えられなくなったのだろう。片成は泣き出した。嘘泣きとか、涙目とか、そんなものではなく、普通にマジ泣きだった。

 わんわんと泣く片成を前にして、優希は泣き止まそうと必死になる。その姿にはどこか手慣れた感があったが――そんな優希をもってしても、片成が落ち着くのはまだ先のことになりそうだった。

 ちなみに、もしこの現場をエンジェモンに見られてしまえば、優希めがけて問答無用の必殺技が放たれてしまうことになったりする。

 そんなこんなで、片成が泣き止んだのは、この数分後のことだった。

 

「はいはい、ごめんね。見ちゃってごめんね」

「うぅ……」

「落ち着いて。ね?」

「……」

 

 コクリ、と静かに頷いた片成。まだ目は赤いが、しっかりと泣き止んでいる。

 そんな片成を見て、優希はホッと息を漏らして安堵した。これでまた泣かれては溜まったものではない。

 

「それで……大丈夫?エンジェモンも探してるし……戻ろうか?」

「……」

「え?戻りたくないの……?」

「……」

「うーん……?」

 

 先ほどから、片成は首を横に振ってばかりだ。戻りたくはないが、戻りたくないわけではない、と。はっきり言って、意味がわからない。

 とはいえ、無理矢理に連れていくことは優希には無理だ。いろいろな意味で。

 少し考えて――。

 

「じゃ、落ち着くまで一緒にいる?」

「……!……」

 

 優希は、片成と一緒にここに留まる選択をした。

 片成は、そんな優希の言葉に驚いたものの、すぐに首を縦に振った。どうやら、優希の好意に甘えることにしたようだ。

 まあ、レオルモンやエンジェモンはまず間違いなく優希と片成のことを心配するだろう。だが、この状態の片成を放っておいて、この場を離れることは優希にはできなかった。かといって、意固地になっているような片成をこの場から動かすのも、優希には無理だった。

 この状態で優希にできることなど知れている。だからこそ、優希は片成に付き合うことにしたのだった。

 もはや、優希の片成に対する対応の仕方は、完全に幼子に対するソレである。

 

「あ、この本返すね。勝手に見ちゃってごめんなさい」

「……」

 

 優希は、自分の手に持ったままだった本を片成に返却する。

 先ほどのことを思い出したのか。片成は少し顔を赤くしながらも、今度は離さないようにしっかりとその胸に本を抱きしめた。

 なんというか、大事な宝物に対する幼子のような行動である。片成の仕草はいちいち可愛らしいのだが――それでも、抱きしめている本のタイトルを思い出して、微妙な気分になった優希だった。

 

「金剛力ちゃんはあのエンジェモンがパートナーなの?」

「……」

「そうなんだ。私はちょっと変則的でね……」

「……?」

「うん。まぁ、ね。いろいろあるのよ」

 

 片や一人で話していて、片や黙っている。それなのに、会話が成立している。なんというか、目を疑うような光景だ。

 まあ、片成は感情が表情に出やすい。だから、顔さえ見ていれば片成の考えていることはある程度はわかるといえばわかるのだが――それでも、この短時間で会話が成立するようになった優希は凄いと言うしかない。

 ちなみに、優希のコレは慣れから来るものである。優希は孤児院育ちで、必然的に年下に構うことも多かったし、いろいろと事情のある者と接することも多かった。そのような経験もあって、こういう人の相手は得意な方なのだ。優希は。

 

「この世界に来てからどうしてたの?」

「……」

「ああ、エンジェモンに助けられて……」

「……!」

「え?エンジェモンは自分の言いたいことを誤解するから困る?……そうね。そんな感じだったわね」

「……」

 

 優希は、共通の話題やら、日常的な話題やら、とにかくひたすらに話題を出して会話を続けていく。こういう、相手が嫌がらない範囲で会話を途切れさせないことが大事であることを、優希は知っているのだ。

 現に片成も、先ほどから優希には心を開き始めているようである。先ほどから小声ではあるが、時折口を動かして話し始めていた。

 そんな感じで、かれこれ数十分は過ごして――。

 

「それで、大成に何か用だったの?」

「……!ぅ……ら」

「……え?」

「……」

 

 優希は、話のついでに気になっていたことを聞くことにしたのだった。

 今日、片成が自分たちの家に大成を訪ねて来た、その訳を。

 

「……」

「言いにくいならいいけど……」

「……その……」

「ん?」

「……あの……」

「ゆっくりでいいわよ?時間はあるから」

「……」

 

 話すかどうか迷っていたのか。うんうんと唸った片成。

 そうして、数分してようやく決心がついたのか。片成はポツポツと話し始めた。なぜ、大成を訪ねて行ったのか、その理由を。それはたどたどしくて、小さな声ではあったが、雑音の少ない路地裏で話されたこともあって、優希も苦労せず聞き取ることができた。

 どうやら、片成は人見知りで、さらに恥ずかしがり屋らしい。人前に出ると極度に緊張してしまうそうだ。だからこそ、あのような本を読んでいるのである。

 

「……それで……この世界に来て……怖くて……エンジェモンに……守ってもらいながら……ここまで来て……」

「うんうん……」

「大成さんも……この世界にいるって……知って……会いたくなって……」

「う……ん?まあ、うん……それで?」

「……それだけです」

「えっ……それだけ?」

「えっと……はい」

 

 恥ずかしそうに言う片成。大成がいるとわかったから、大成に会いたくなる。

 そんな片成の思考回路がよくわからなかったものの、そういうものだろうと納得することにした優希だった。

 




というわけで、第五十三話。
さて、この片成ですが……初期からの構想で既に存在していたキャラです。
優希と大成に並ぶ、この物語の初期時代のキャラですね。
まあ、結果として準レギュラーくらいに収まってしまってますが。

さて、次回。
長くなったので、片成本性編は前後編にわけました。というわけで、次回は後篇です。

それでは、また次回もよろしくお願いします。
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