【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
そんなこんなで、優希と片成の交流は続く。
この数十分で、片成はずいぶんと優希に心を開いたようである。相変わらずのたどたどしい話し方ではあったが、自分から話し始めることもあるようになっていた。初めの沈黙続きから比べれば、大きな進歩だ。
「……それで……大成さんに……このページの内容を……実行して……みようと……」
「うん……やめたほうがいいわね」
「え……でも……」
片成が優希に見せたのは、先ほど優希が覗き見てしまったページ。“好きな人の前で素直になれないアナタにおくる!ツンデレ方法!”。
別に本の内容が悪いという訳ではないのだが――やはり、片成にこれは無理だろう。これに書かれた内容を実行しようとして、盛大に失敗する片成の様子が目に浮かぶ優希だった。
「……えぇ……」
「まずは普通に話してみたら?ね?金剛力ちゃんが大成を好きなことはわかったから」
「……!……え、な……」
「何?」
「なんで……そのこと……」
優希が言ったことに驚く片成。だが、優希からしたら、何を今更という話だ。
あんなページを大成相手に実行しようとしている時点で、もう察することができる。これで察することができない者がいたのなら、それはただの馬鹿くらいのものだろう。
「……でも……普通に……話すなんて……」
「私と今話しているようにやればいいの。ね?」
「……うぅ」
「ちょ、どうしてそこで泣くの!?」
「……ご、ごめんなさい」
いきなり泣き出した片成に、焦る優希。先ほどのようにわんわんと泣いている訳ではないが、それでも泣くのは勘弁して欲しかった。
とりあえず、片成を落ち着かせた優希は、地雷を踏んだかもしれない心配をしながら、彼女の話を聞く。
やがて落ち着いた片成が話し始めたのは、大成との出会いと、すでにいろいろとやらかしてしまっていることだった。
「つまり……金剛力ちゃんはあのゲームをやり始めて、しばらくして大成と出会って」
「……はい」
「今の姿とは似ても似つかないアバターを使っていたから、勢い余っていろいろとやっちゃって」
「…………はい」
「大成とは話したいけど、そのこともあって話すとバレて嫌われそうで怖い、と」
「……………………はい」
「……どうしようもないわね」
要約すると優希が言った通りなのだが、実際はもう少しだけ複雑である。
発端は、片成のコミュニケーション能力の低さを心配した親が、ゲームの中でなら話せるだろうとあの“デジタルモンスター”を片成に買い与えたことから始まる。
片成自身は、自分のことを知られると嫌だったから、アバターも自分に似ても似つかないものにしたのだが――漫画やらドラマやらを参考に、果ては性別まで変えてアバターを作ってしまった。
まあ、いくら自分に見えない偽りの体で過ごそうと、中身が急激に変わることなどありえない。つまり、電脳空間だからといって、片成がいきなり他人と話せるようになる訳もなく。
一人でゲームをする日々。そんな日々を終わらせてくれたのが、大成だったのだ。
初めはただの対戦要求だった。だが、本当に楽しそうにあのゲームをする大成を前に、片成自身も大成とコミュニケーションをとりたくなったのである。
とはいえ、いきなり素の自分で会話することはキツイ。見た目も大幅に違うことであるし。
ゆえに、片成は仮初の性格を造り、その性格を演じることにしたのだ。あとは、ゲームもやり込んで、大成と一緒に遊べるような準備を整えておくだけでよかった。
まあ、皮肉なことに片成はやり込み過ぎたせいで、大成では相手にならなくなってしまったのだが――それはほんの余談だ。
「……だから……その……」
「……まぁ、わからなくもないけどね」
散々フルボッコにしても、大成はなんだかんだでゲーム時代の片成に付き合ってくれた。片成を嫌って、避けても仕方なかったのに。それだけのことをしたのに、大成は片成と一緒に遊んでくれた。
まるで、自分に
「……でも、姿が違うんでしょ?」
「う……はい」
とはいえ、容姿も、果ては性別まで違うアバターであのゲームをしていた片成。そんな彼女のことを、大成が気づけるはずもない。
気づいて欲しくはある。だが、ゲーム時代にしたことや騙していた手前、気づかれたら嫌われるかもしれない。だから、気づいて欲しくはない。
話したくはある。だが、ちょっと気を抜くとゲーム時代の接し方で接してしまいそうで話すことができない。何より、面と向かっては恥ずかしい。
そんな、複雑な思いで片成は、今日大成に会った。まあ、結果はあの通りである。
「……どう……しよう……」
「いや、そんな目で見られても……うぅ……」
片成のこの性格だ。今まで誰にも相談などできなかったのだろう。だからこそ、片成は仲良くなった優希に縋ろうとしているようにも見える。
そんな片成の姿が、まるで“誰か拾ってください”と書かれたダンボールの中で、雨にうたれて震えている子犬を見ているようで。
酷く嫌な予感がしたものの、そんな片成を優希に見捨てることはできなかった。まあ、初めから見捨てる選択肢などはなかったのだが。
「……わかった。手伝うわ。金剛力ちゃんが大成と話せるようにね」
「……!ありがとう!」
「ふふ……どういたしまして」
ともあれ。この時の優希には、これが酷く面倒なことになることなど、想像することもできなかった。
「それじゃ、行きましょうか」
「……え!?……でも……」
「まだ日は高いとは言っても、そろそろお腹も――」
「……!……うぅ……」
渋る片成だったが、ちょうどいいタイミングで、小さな音が辺りに鳴り響いた。
それが何の音か、わかりきったことではあったが、優希もあえて言及しなかった。その音を鳴らした者の名誉のためにも。
「……ふふ。行こっか」
「うん」
手をつないで路地裏を出て行く二人のその姿は、まるで仲の良い姉妹のようだ。
ちなみに、この数分後。どこからともなくエンジェモンが現れて、この穏やかな時間は終わりを告げるのだが――この段階の優希たちには知りようもないことだった。
そして、そのさらに十数分後。
優希たちはさっきぶりの家に帰ってきた。
「ただいまー。ほら、金剛力ちゃんも」
「お、おじゃま――」
「小娘!我が主に何と言う言葉遣いだ!これだから下賤な者は……!」
「……うぅ」
「……」
片成の声を遮って、エンジェモンが声を出す。相変わらず失礼である。とはいえ、エンジェモンの発言は優希も半ば予想していた。そして、このままでは片成と大成が仲良くできるための最大の邪魔者になってしまうだろうことも。
どうにかしなくてはならない。エンジェモンを。片成のためにも、優希は頭を高速で回転させて、作戦を練っていた。
「おかえりー……」
「大成。だらだらしすぎよ」
「別にいいだろー」
「はぁ」
「我が主が来ていらっしゃるのだ!なんだそのダラけた有様は!」
「うげ……エンジェモン……」
エンジェモンのイラついたような声を聞いて、片成たちが来ていたことに大成はようやく気づいたのだろう。その顔は、かなり嫌そうだった。
片成はそんな大成の表情を見て、自分が来たのは迷惑だったのか、と落ち込んでいる。このままでは、また逃げ出しそうな勢いである。とはいえ、優希に励まされた手前、何もせずに逃げ出すのは、片成としても嫌だった。
ちなみに、わかりきったことではあるが、大成が嫌そうな顔を向けているのは、片成ではなくエンジェモンの方である。
「……あ、の……」
「ん?今の声……えっと……片成だったっけ?お前話せたのか」
「……!……その……」
「……?それで、さっきは何の用だったんだ?」
「あ……ぅ……」
頑張って大成と話をしようとする片成。
そんな片成を前にして、エンジェモンは目を見開いて驚いている。というか、驚き過ぎてフリーズしているほどだ。
ちなみに、その時。思いがけず
横で小さく「頑張れ」と呟く優希。
そんな優希の声が聞こえたのかはわからないが、片成は勇気を出して――。
「あぎょ!わらしとおだちしてだい!」
盛大に、舌を噛んだ。しかも、早口で話したために、何を言おうとしていたのかすらわからない。
沈黙が辺りを包む。片成は顔を真っ赤に染めており、優希はやってしまったという顔をしていて、大成は何が何やらわけがわからないとばかりに首を捻っている。
今の片成の心境を端的に表すのなら、穴があったら入りたい、というところだろう。
「……今なんて?」
「……えっと……」
現在、焦りと羞恥で、片成はテンパっており、もはやまともな思考ができているとは言い難い。
優希は、こうなった時点で片成を止めるべきだった。もはや後の祭りであるが、片成のためを思うなら、ここで片成を一旦退場させるべきだったのだ。
テンパった片成は、いつもだったらひたすらに黙っていただろう。もしくは逃げ出していたか。だが、優希という手伝いを得た片成は、もう少し頑張ってみようと勇気を出してしまった。優希の好意に、報いたくなったのである。
その勇気が、結果として悪い方向に進む要因となったのだが――それはともかく。
「あ……え……」
「とりあえず落ち着け」
「あ、わ、私と……友達に……なってあげてもいいわ!か、勘違いしないで……別に……あなたと友達になりたいわけじゃない……んだからね!」
「……は?」
「ちょ、金剛力ちゃん!」
「あ……」
この状況をどうにかしたかった片成だが、テンパった頭でろくなことを思いつくはずもなく。結果、頭に浮かんだことを、口走ってしまった。
片成の口走ったこのセリフは、予想がつくかもしれないが、あの本のあのページに書かれていたセリフである。
というか、テンパってこのセリフが出てくる辺り、相当あのページを読み込んだのだろう。片成の努力が垣間見える一場面ではあるが――なんというか、哀れだ。
当然のことながら、今の大成にはあのセリフがどういうものなのかも理解できず、ただ怪訝な顔をするしかなかったのだから。
「ちが……こんなこ……と……言いた……いんじゃなくて」
「大成!金剛力ちゃんはね!別にこういう子じゃ……!」
「……それで?」
「えっと……えっと……」
「頑張って!」
「……あっと……あっ!下手の横好き!」
「誰が下手の横好きだ!……ん?」
名案だと顔を輝かせて言った言葉が、下手の横好き。きっと片成はまだ混乱しているのだろう。
とはいえ、片成の言葉はすべて、大成を馬鹿にしているように感じられるものばかりだ。そんなことを言われた大成としては、溜まったものではなかった。
先ほどから俺を馬鹿にしているのか、と怒りを覚える大成。だが、怒りを覚えたのは一瞬だけだった。先ほどの片成の言葉には、どこか記憶に引っかかるものがあったのだ。
その何かを探して、記憶を手繰る大成。
だが、大成がその答えにたどり着くよりも早く――。
「大成!ちょっとごめん!金剛力ちゃん!行くよ!」
「……えっ……えっ!?」
優希は行動を開始した。片成の腕を掴んで、脱兎のごとくこの部屋を出て行く。
ついでに、厄介なことを大成に押し付けて。
「……エンジェモンの相手は任せた!」
「は……!?」
優希の声に言われて大成が横を見れば、エンジェモンはまだ固まったままだった。
これから復帰するであろうエンジェモンの相手をしろ、と。そう、優希は言っていたのだが、大成としては面倒なエンジェモンの相手をするのは嫌だった。
だが、抗議しようとも優希はもういない。主である片成も。
「何なんだ一体……」
そうして、嵐のようにやって来て、嵐のように去っていった二人を前にして、残された大成は、ひとり今の心情を端的に表す言葉を呟くのだった。
そして、その数分後。大成が固まり続ける
「ただいま戻りました……あれ、これ誰ですか?」
「エンジェモンじゃねぇか。なんでいるんだよ」
「ふむ……お客様ですかな?」
いつものトレーニングを終えて、大成たちのパートナーが帰宅した。三人とも、見るからにボロボロであり、その姿がスレイヤードラモンのしごきの苛烈さを物語っている。
とはいえ、三人がこんな感じで帰宅するのも、大成にとっては慣れたものだった。
これでエンジェモンの相手をしなくて済む、と。そんな彼らの姿よりも、三人が帰ってきたという事実に、ホッとした大成である。
「コイツは、なんか訳のわからんやつのパートナー。そのわけのわからんやつは優希がどっか連れてった。たぶん部屋じゃねぇ?」
「へぇ……」
「……う……何やら妙なものを見た気が……」
そんな時だった。ようやく、と言うべきか。エンジェモンが復帰したのは。
ハッとした様子で意識を取り戻したエンジェモンは、辺りを見回している。おそらく、片成の姿を探しているのだろう。だが、片成はこの部屋にはいない。どれほど見渡そうとも無駄なことだ。
「っは!?我が主!我が主はどこだ!?」
「知らん。優希がどこか連れてった」
「何!?おのれ……我が主を誘拐するなど……!これだから下賤な身分の者は……!」
「お嬢様が下賤……?訂正して下さりませぬかな……!」
「ふん。下賤な者を貶めて何が悪い」
「……!……!」
「いや、ちょっとややこしいことになるから黙っててくれよ」
初端からのエンジェモン節。
人を扱き下ろすことには一流のエンジェモンの第一声を聞いた時点で、エンジェモンに対する第一印象は決まったようなものだった。さっそく、そんなエンジェモンに触発されて、デジモン組の間で感じの悪い不吉な雰囲気が漂い始めている。
まあ、そんなデジモン組とは対照的に、大成はいつも通りになっていたのだが。デジモン組が率先してエンジェモンと悪い雰囲気になってくれるおかげで、大成自身にも余裕が出来たのである。
「下がれ!汝らのような下賤で軟弱なデジモンたちの相手をしている暇はない!一刻も早く我が主を探さねばならぬのだ!」
「へぇ……?言ってくれるじゃねぇか」
「そうですね。少しイラっとします」
「お嬢様への暴言も撤回してもらわねばならないですしな」
だが、大成に余裕が出来たとしても、当然のことながらデジモンたちにまでその余裕が伝染るわけはない。これ以上エンジェモンが何か発言したのなら、もはや戦闘も辞さない腹積もりになっているだろう。
「……。やばい、優希たちさっさと戻ってきてくれ……家が持ちそうにない……」
真剣に、この家のピンチだった。
というわけで、第五十四話。後半の話でした。
さて、次回からは片成のために優希が奮闘して……?という話です。
そういえば、この物語では技名を会話文中に入れないように作ってるんですけど……どうなんですかね?やっぱり入れた方がらしいですかね?と、ちょっと気になった自分です。
それでは次回もよろしくお願いします。