【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
大成たちが片成と出会った次の日。昼近くのこと。
現在、片成は優希と共に街の一角の広場にいた。
ついでに言うとエンジェモンは一緒ではない。彼は今、大成監修の下に、優希たちのパートナーデジモンたちによって見張られている。とはいえ、今の彼らの雰囲気は、一触即発など生ぬるい、昨日のことが目ではないくらい大変なことになっているのだが――そんな中で、大成は悲鳴を上げていたりする。
ちなみに、いつものデジモン組のトレーニングだが、朝一で優希がスレイヤードラモンに連絡をとって、半ば強引に休みにしてもらった。まあ、スレイヤードラモン自身、優希たちにもいろいろあるとわかっているので、あっさりと休みをくれたのだが。
「……えっと……ゆ、優希さん……」
「なに?片成ちゃん?」
「ここで……何をす……るんで……すか?」
昨日のあの後、優希と片成は互いに名前で呼び合うくらい仲良くなっていた――のだが、いくら仲良くなったとは言っても、あくまで出会ってまだ一日しか経っていない。その程度の付き合いでは、以心伝心など難しいのは当然である。
何が言いたいのかというと――今日、片成は優希に何も言われずにここに連れて来られたということだ。
なんで自分をここに連れてきたのか、と。そう聞き続けた片成だったが、片成が何回聞いても、優希は詳しいことを一言も答えてはくれなかった。
「ちょっと待って。もうすぐ来るから」
「来……る……?」
その優希の発言に片成は固まった。優希とは割とすぐに話せるようになった片成だが、それは優希の対人交流能力があってのことだ。
つまり、これから来る相手が誰だろうと、片成が心落ち着かせて話せるようになる可能性は限りなく低いということで。
正直言って、片成は逃げ出したかった。とはいえ、昨日あれだけ盛大に失敗しながらも、それでも自分を手助けしてくれる優希のことを思えば、片成としても逃げづらいことこの上ない。
結局、片成は、この後その誰かが来るまで、死刑執行を待つ死刑囚のような気分でひたすらに待つことになったのだった。
そして、この数分後に――。
「あ、来た」
「――っ!」
「よぉ。ウィザーモンに言われてきたぞー?」
「グレイモンは一緒じゃないのね。……勇」
この場に現れたのは、勇だった。
そう。優希が待っていたのは勇だったのである。今朝方、ウィザーモン経由で呼び出したのだ。まあ、ウィザーモンがどのような手段で勇に連絡を取ったのかは、優希も知らないのだが。
今朝にスレイヤードラモンの所に行ったり、ウィザーモンの所へ行ったり。何気に今日の優希は行動力に溢れている。
「あ、この子は金剛力片成ちゃん」
「お、オラは日向勇。よろしくな!」
「……」
「あー……ごめん、ちょっと人見知りでね」
「ああ、そういうことなら構わないよ」
まあ、片成の自己紹介は優希がしたのだが、とにかくこれでお互いに自己紹介をしたことにはなった。
だが、いきなり現れた勇を相手に会話するのはやはりキツいのか、片成は優希の背中に隠れて出ようとはしない。そんな片成の姿に、優希も勇も苦笑気味である。
とはいえ、勇と片成を会わせたのは、優希にも目的があるからだ。そう。これからが本題である。
「で、片成ちゃんの人見知りを多少なりとも改善させたいって思ってるのよね。端的に言えば、協力して欲しいの」
「……えっ……!?」
「オラ?別にいいけど……大成はどうしたんだ?」
「あぁ……ちょっとね。大成を相手させるにはまだ早すぎるみたいだから……」
「……?」
優希の言うことがよくわからなかった勇だが、彼女の背中で落ち込む片成を見て、何かあったことを悟ったのだろう。特に何を言うことはなかった。
いろいろと気になるものの、勇としても協力することはやぶさかではない。一二もなく、勇は優希の協力を承諾したのだった。
「とはいえ……何に協力すればいいんだ?」
「そうね。……とりあえず、いくつか案はあるんだけどね」
「……いく……つか……」
「……案?」
複数の案。そんな優希の言葉に、なぜか嫌な予感がしてきた片成である。
一方で、勇としては最悪丸投げされることも考えていただけに、とりあえずの案があるという言葉にホッと一安心していた。
まあ、優希が丸投げなど、そんな無責任なことをするはずもないのだが――そんなことを、付き合いの浅い勇が知るはずもない。
「まあ、ゆっくりとやるのが一番いいんでしょうけどね」
「……!……!」
「なんか、片成がすごい勢いで首を縦に振ってるぞ」
勇の言う通り、優希の言葉を聞いた片成は、首を縦に振り続けている。というか、振りすぎてその勢いだけで首が取れてしまいそうなほどだ。それだけ、片成はその案とやらに嫌な予感を抱いているのだろう。
とはいえ、片成が嫌がっているからと言って、優希は止めるつもりはなかった。昨日の様子を見る限り、放っておいたら、このままでずっと行きそうな予感がしたのである。
「……そうね。とりあえず、ゲーム時代に戻ってみましょうか」
「ゲーム時代に戻る?」
「……?」
優希の言ったことに、よくわからないといった顔をした片成と勇。
まあ、優希もこれだけでは説明不足であることは分かっているので、この案についての詳しい説明を続けていく。
「普通に話すだけじゃだめだと思うのよ」
「なるほど。ゲーム時代に戻るってそういう意味か」
「今のだけでわかったの?」
「つまり、あれだろ?気晴らしがある状態でその場にことで、リラックスできて自然と話し始めることができる……ってことだろ?」
「よくわかったわね……ま、そういうこと」
ゲーム時代に戻ると言った優希の真意は、そこにあった。ゲームなどで双方リラックスさせ、さらに同じゲームに参加しているという一体感から、自然と会話できる土台を整えられる。
歓迎会やらパーティーやら、初対面の人が大勢いるような場で有効な手だ。
そのことに勇が即座に気づけたのは、やはり幼い頃に引っ越しを経験したからこそだろう。もしかしたら、勇にも似たような経験があるのかもしれない。
「でも、どうする?ここにゲームなんかはないし……道具も何も使わないゲームでもするのか?」
「いや、そんなことよりもっといいのがあるでしょう」
「……ああ。なるほど」
「……え?……えぇ?」
一人、この場で片成だけはわかっていないようだったが、そんな片成を置いておいて、勇と優希は準備を始めるのだった。
さて、場所は変わって、大成たちの家。
現在、そこでは緊迫した雰囲気が漂っていた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「勘弁してくれ」
そんな中で、そう呟いた大成。だが、その言葉は、誰にも受け取られることなく消えていった。
この緊迫した雰囲気を作り出しているのは、言わずもがなデジモンたちである。彼らは睨み合ったまま、ピクリとも動かない。
事の起こりは、今朝方に優希がエンジェモンを連れて来たことから始まる。しかも、優希はそのまま片成とどこかへ行ってしまった。エンジェモンを置いて。
そして、まるで昨日の焼回しであるかのように、置いて行かれたエンジェモンは、優希によってこの場に残らされたデジモンたちと衝突し始めたのである。
まあ、昨日あれだけ仲が悪かったのだ。よほどのことがなければ、たった一日で仲良くなれるはずもないのだが――それでも、自分のことを棚に上げてでも、大成は言いたかった。仲良くしろ、と。
「そこをどけ。私は我が主を探しに行かねばならぬのだ」
「それは無理な相談ですな。お嬢様から“直々”に頼まれたのですからな!……そう直々に!」
「……何が言いたい?」
「てめぇみたいにワガママでくっついているんじゃねぇってことだよ!」
「ワガママ……だと!?私の行動が!?聞き捨てならないな!」
「エクスブイモン殿。さすがに言いすぎですぞ。……ただ、邪魔だから置いて行かれただけですな」
デジモンたちのヒートアップは止まらない。
普段、レオルモンはブレーキ役であるはずだが、エンジェモンの姿に何かを抱いているのだろう。率先してエンジェモンを挑発していた。
まあ、その何かは、どうせ同族嫌悪辺りの感情だろうが。
そして、その心の中はともかくとして、相変わらずスティングモンは壁にもたれかかって我関せずを貫いている。だが、止めに入らない辺り、彼も思うところがあるのだろう。
「いい加減にしてもらおう。これ以上私や我が主を侮辱するなら、実力行使も辞さない。痛い目を見る前に土下座して謝るのだな」
「ほう?ずいぶんと野蛮な手に訴えるのですな」
「はっ……いいぜ?てめぇ一人でオレたち四人を相手できるならな!」
「よ……人?え?俺も入ってんの?」
いつの間にか戦う流れになっている。
野蛮な手に訴えていると言ってエンジェモンを批判しているレオルモンですら目はやる気であるし、スティングモンは壁から離れて気合を入れていた。
しかも、大成もエクスブイモンに物の数に入れられている。さすがに、この前のエテモンの時のような時ならともかく、デジモン同士の普通の戦いに巻き込まれれば、大成では普通に死ぬ。
というか、大成が死ぬ前に、このままではこの家が
エンジェモンはここじゃなくて、リュウやウィザーモンの所に連れて行ってくれればよかったのに、と。大成は真剣に優希を恨んでいた。
ともあれ、このまま家が破壊されるのを黙ってみている訳にもいくまい。現実逃避したくなる自分を押さえつけて、大成は事態の解決を試みた。
「ちょ、お前ら待――」
「ならば、押し通る。我が主の元へ行くためにも!」
「……はっ!やってみろ」
「僕たちは負けませんよ!」
「だから、ま――」
「お嬢様のためにも!ここで足止めされてもらいますぞ!」
「ふ、汝らに負けるほど軟ではない!」
「……だ、か、ら……!」
「よっしゃ!それじゃ……!」
「だから!待って……って言ってんだろうがぁあああああああ!」
そうして、大成の心からの雄叫びによって、この場はひとまず収まって。結局、この続きは場所を移して行われることになったのだった。こうして、大成たちの家は崩壊の危機から未然に守られたのである。
そんなこんなで、大成たちは家を出て歩き始めた。目指す場所は、いつもの場所。スティングモンたちデジモン組が、スレイヤードラモンとのトレーニングでいつも使っている場所である。
「全く理解できないな。下賤な者が。その泣けなしのプライドを砕かれることもなかろうに……」
「口が減らねぇ奴だな!井の中のカワズ君?」
「……ほう。言うじゃないか」
そんな道中の間でも、エンジェモンの口は減らない。
また、エンジェモンがこういう態度のままであるということは、エクスブイモンたちの雰囲気も先ほどからそのままということで――この険悪な感じに、そろそろ飽きてきた大成である。
そして、この数十分後。大成たちは、目的の荒地へとようやく到着した。まあ、後半は、時間が惜しくなったのか、大成はスティングモンに抱えられて移動していたのだが――それはともかくとして。
「さて!……雑魚共、命乞いする準備はいいか?」
「はっ!言ってろ。雑魚」
「ふっ!我々を舐めすぎですな!」
端からなかったやる気が、余計になくなって、早く帰りたがっている大成の傍で、デジモンたちは相変わらずヒートアップしている。
というか、デジモンたちはその一触即発の空気をどうにかしようとしているどころか、その空気を進んで作り出していると言えるほど。
そして、一触即発の事態はいよいよやってきて――。
「……はぁ」
疲れ果てた大成が溜め息を吐いた。それが、偶然にも始まりの合図となる。大成が溜め息を吐いたその目の前で、デジモンたちはぶつかり合い始める。
まあ、彼らを傍から見ていた大成は、自分が溜息を吐いた瞬間に戦闘が始まるという、ある意味シュールな光景を目撃することとなったのだが。
「はぁぁあああ!」
「おりゃあああ!」
「隙ありですな!」
「っふ!」
現状、三対一。どちらが優位かなど、見るも明らかだ。
同格のデジモン二体と格下ながらも侮れないデジモン一体。エンジェモンは、その三体のデジモンたちを同時に相手しているのだ。普通なら、あっという間に勝敗が決まってもおかしくない。
だが、エンジェモンは戦えていた。流石に、終始押されているが、三対一の現場を生き残っている。どうやら、エンジェモンは口だけの者ではないようだ。
「っく!下賤な身分にしてはやるな……!」
「下賤下賤うるせぇよ!」
「仮に僕たちが下賤だろうと、僕たちは負けませんよ!エクスブイモンさん!」
「おう!」
そんな中で、大成は驚いていた。
スティングモンとエクスブイモンの二人の連携だけ、大成の目から見てもレベルが違うのだ。その様子は、さながら長年連れ添った夫婦のよう。同じくエンジェモンを敵視しているレオルモンが、自分がその中に入ってしまえば邪魔になってしまうと思うほど、と言えばその凄さがわかるだろうか。
それほどまでに、二人の連携は堂に入っていた。二人はまだ出会ったばかりだというのに。
「……すげぇ」
そして、そんな光景を前にして、そう大成はひとり呟く。
このスティングモンとエクスブイモンがこれほどの連携ができるのは、いくつかの理由がある。そのひとつが、スレイヤードラモン監修のトレーニングだ。
スティングモンとエクスブイモンは、そのトレーニングでひたすらに戦い合っていた。その中で、相手に負けたくないという一心によってお互いの癖などを熟知したのである。
また、彼らは性格も戦闘タイプも違う。それが、うまく噛み合うのだ。まるで、歯車のように。
もっとも、それ以外にも理由はあるのだが――それは置いておくとして。
「これは……手を出す暇がありませぬな」
「……セバス、なんでここにいるんだよ」
「いやはや……あとしばらくすれば勝敗は決するでしょうからな。このセバスが出る幕はないようで」
そんなことを言うレオルモンを前にして、大成は呆れ気味だったが、それも仕方がない。
確かに、エンジェモンは優れている。強い。もし一対一であったならば、きっとスティングモンたち個々人よりも強いかもしれない。だが、それでも。大成たちが知る本物の強者たちのように、数の不利を覆せるほどではない。
だからこそ、レオルモンは勝負は決まったと言うのだ。そして、それは大成の目から見ても、明らかなことだった。
「……っく!」
「これまでだな!」
「これで……!」
「終わりだァ!」
そして、そんな大成たちの目の前で、勝負は決着の時を迎えようとしていた。
二人がかりの猛攻に耐えられなくなったのか。膝をついたエンジェモンに向かって、スティングモンとエクスブイモンが殴りかかって。
殺す気はないので、必殺技など高火力の技は使わない。ただ、殴るだけ。だが、それだけでも、エンジェモンに敗北を覚えさせるのは十分なものだった。
悔しそうなエンジェモン。そんな彼に向かって放たれたスティングモンたちの拳が、エンジェモンの顔を捉え――。
「……なっ!?」
「……えっ!?」
捉えようとしたその瞬間。
この場に割り込むように現れたのはグレイモンで。そんなグレイモンは、その両手をもって一瞬で二人の拳を受け止めたのだった。
というわけで、第五十五話。
優希が何やら企んだのと、その裏での大成たちの回でした。
さて、次回はこれの続き。優希の企みの実行回です。
はたして……うまくいくのか……!
それでは次回もよろしくお願いします。