【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第五十六話~エンジェモンの懺悔~

「な……」

「ここまでだよ!」

 

 自分とスティングモンの本気の拳を受け止めるようにして、この場に割って入ってきたグレイモンの存在に、エクスブイモンは唖然としていた。

 確かに、必殺技に比べれば劣るだろうが、それでもさっきの殴打は本気の一撃だった。それを、グレイモンは何のことなしに受け止めたのだ。このグレイモンのことを知らない者ならば、エクスブイモンのように驚くことだろう。

 だが、こうやって驚くのは、あくまでこのグレイモンのことを知らない者だけ。

 スティングモンや大成は、このグレイモンのことを知っていたし、このグレイモンならこれくらいは出来て当然だろうという、ある種の理不尽にも似た諦観があった。

 

「……誰だ?」

「えっと、ボクはグレイモン!あ、戦う気はないよ!勇の頼みで止めに来たんだ」

「勇……?」

 

 グレイモンの登場にエクスブイモンは茫然自失としていた自分に気合を入れ直し、戦闘態勢に移る――が、そんなエクスブイモンの姿が見えないとばかりに、グレイモンは戦闘しない旨のことを告げた。

 せっかくやる気になっていたエクスブイモンも、面と向かって戦闘しないと告げられれば、呆気にとられるしかない。

 一方で大成たちは、勇の頼みという部分に、首を傾げていた。なぜ、勇が自分たちがエンジェモンと戦うことを知っていて、さらにそれを止めるのだろうか、と。大成たちがその理由を知るのは、この数十分後の話である。

 

「エクスブイモン!勇とグレイモンが言うなら、とりあえずここまでだ」

「何言ってやがる!まだまだこれからだろ!なんだったらコイツも相手にしたっていいんだぜ?」

「いやいや、無理だから。無茶だから。スティングモンとエクスブイモンが連携して、ようやく勝負になるレベルだから」

 

 そう言った大成の脳裏には、かつてコテンパンにやられた時の記憶が蘇っていた。少し弱気が過ぎるようにも感じるが、あの時の敗北と衝撃の記憶は、未だ大成の中に強く残っている。

 もちろん、スティングモンはあれから強くなっているし、エクスブイモンだっている。実は大成の思うほど力の差はなかったりする――のだが、それでもグレイモンの方が地力が上だということには変わりなかったりする。

 まあ、勇とグレイモンは大成の憧れる人で、さらにゲーム時代の頂点に存在する人である。大成の中で彼らを若干の神聖視していることも相まって、大成の中で彼らの評価が実際とはちょっと違うのだろう。

 

「勇とグレイモンは……そうだな。人間とデジモンのタッグじゃ、おそらく最強だぞ?グレイモン単体ならともかく……勇までセットになると手に負えねぇよ」

「……そんなにか!?」

「ああ。そんなに、だ」

 

 そう言った大成に驚いたエクスブイモンは、驚愕を秘めた眼差しでグレイモンを見る。そんなエクスブイモンの眼差しに、グレイモンは照れていた。

 一瞬だけだが、グレイモンのそんな姿にエクスブイモンは、人は見かけによらない、という若干失礼な思いを抱いていたりする。

 ちなみに。先ほどの大成の言葉に、レオルモンは「最強ならば、おそらく旅人殿だと思えますが……」と呟いていたのだが、それは大成には聞こえていなかった。

 もっと言えば、大成の中で旅人のことはすっかりと忘れられていたりするのだが、それはほんの余談だ。

 

「……とにかく!もうじき勇たちがここに来るから、止めてくれよ」

「勇……たち?勇だけじゃないのか?」

「うん。優希とあと……ひらな?っていう女の子」

「我が主がっ!?」

「あ。復活した」

 

 グレイモンの片成が来るという発言によって、エンジェモンが復活した。グレイモンが来てからずっと静かだった彼だが、それは今の今までずっと呆然としていたからだ。

 そう。二対一だったとはいえ見下していた者に敗北させられたこと。さらに突然現れたグレイモンに助けられたこと。この二つのことによって、彼のプライドはボロボロになってしまい、今の今までショックで茫然自失としてたのである。

 

「ああ、大丈夫かい?ずっと黙ってたから心配だったんだよ」

「……黙れ。下賤な者に心配される謂れはない!」

「下賤?ボクは下賤じゃないよ」

「自分の身の丈もわからないとは……これだから下賤な者は……!」

「そうなんだ……ボクって下賤だったんだね」

 

 何と言うべきか、グレイモンは相変わらずのようである。

 エンジェモンの口の悪さでさえも、グレイモンは受け止めている。まあ、決して受け流している訳ではないというのが、グレイモンらしいのだが。

 そんなグレイモンに、言った本人であるエンジェモンも呆気にとられていた。彼の言葉には、今までスティングモンたちのように反発する者がほとんどだったのだ。だというのに、このグレイモンは受け止めている。

 このグレイモンのようなタイプの者は、エンジェモンが初めて出会うタイプだった。

 そして、グレイモンがそんな者だからだろう。エンジェモンの心に、ちょっとした変化が起きたのは。

 

「……前言を撤回する」

「えっ!?エンジェモンが!?」

「天変地異の前触れですかなっ!?」

「ありえねぇ……!」

「そ、そんな……」

「……黙れ、下賤な者共!」

 

 エンジェモンの言った前言とは、まず間違いなく“下賤な者”という部分だろう。自分の口癖と言えてしまうほどの言葉を撤回するとは、エンジェモンの性格からして考えられないことだった。

 だからこそ、大成たちは驚いてしまったのだ。

 とはいえ、エンジェモンが前言を撤回する対象は、大成たちでなくグレイモンだけなのだが――当のグレイモンは、大成たちの様子が何なのかわからないといった感じで首を傾げていた。

 

「汝は下賤な者ではない。純真無垢な……心美しき者だ」

「いや、でもボクのこと下賤って……」

「私の目が曇っていたのだ。汝のような者が、下賤であるはずがない」

 

 まるで先ほどまでの自分を悔いるように話すエンジェモン。傍若無人の彼が、片成以外の者に対する態度にしては珍しい態度である。それほどまでに、グレイモンの性格に思うことがあったのだろう。

 とはいえ。散々ボロクソに言われてきたエクスブイモンたちだ。傍から見ていて、そんなエンジェモンに納得できるはずもなかった。

 

「なんで、そいつが心美しいって言われるんだよ!」

「下賤な者にはわかるまい!まるで幼子のような心を保ち続けるのがどれほど難しいことか!」

「いやいやいや!それただの天然なだけだろ!」

「……疲れますな」

「……そうだな」

「……そうですね」

 

 エンジェモンに突っかかるエクスブイモンの姿を見ながら、大成たちは疲れた声で呟く。グレイモンの登場によって、彼らはエンジェモンのことなど、どうでも良くなっていた。

 怒りを保ち続けるのは、それなりに難しいことだ。特に、別の何かの要因によって、一度でも怒りの矛先が何処か見当違いの方向へと行ってしまったのなら、なおのこと。

 彼らの中のエンジェモンに対する怒りが再燃するには、それこそもう一度エンジェモンが自分たちに何かを言ってこない限り、不可能だろう。

 とはいえ。未だその怒りを保持し、エンジェモンに突っかかっているエクスブイモンは、白熱するあまりに先ほどの続きとして第二ラウンドに行きそうな感じさえする。

 

「……で、ここに来るってことは勇は俺たちに用があるのか?」

「そうみたいだよ」

 

 そんなエクスブイモンを放っておいて、大成たちはグレイモンに話を聞くのだった。

 

「でも、詳しくは知らないんだ。なにせ、散歩していたらいきなり呼ばれて、君たちを探せって……」

「散歩、してたのか」

「え?そりゃするよ。健康にいいらしいよ?」

「……」

 

 確かに、散歩――というより歩くことは健康に良いが、それはあくまで人間の場合だ。散歩というものが、デジモンの健康に対してどこまで恩恵があるかはわからない。

 それなのに、グレイモンは散歩しているらしい。

 まあ、グレイモンはそこまで考えていないのだろう。きっと。健康のために散歩しているわけではなく、単純に散歩したいからしているだけなのだ。

 あくまで、健康に良いというのはオマケ程度の扱いとしているはずである。きっと。

 とにかく、大成たちはそう納得することにした。

 

「優希とその……ひらな……だっけ?」

「ああ、片成な」

「うん、その片成に勇は何か頼まれたらしいよ。で、みんなで君たちを探していたらしいけど……ほら、どこか行っちゃってたから」

「それで、探しに来てくれたのか。あれ、探されてるなら街に戻った方がいいか?」

「いや、僕が先行する形でここに来たから、そのうちに来ると思うよ」

 

 そう。優希たちは大成たちを迎えに家に戻ったのだが、大成たちはここにいたために、家はもぬけの殻だった。そのため、彼女たちは街中を探し回ったのである。

 で、街中を探し回った彼女たちは、最後に街の外へと行くことになり――体力の一番あるグレイモンが、先行する形で走ったのだ。

 もし仮に、大成たちが見つからなければ、グレイモンが引き返して優希たちと合流すればいい。そして、グレイモンが引き返してこなければ、大成たちがいるということで、優希たちもそのまま行けばいい。

 このように、グレイモンを先行させるこの方法が体力的にも一番効率が良かったのである。

 

「……ああ、来たな」

「本当だ!おーい!」

 

 そんな風に話していた時のことだった。遠くに、優希たち三人の姿が見えたのは。

 ようやく来た三人にわかるように、グレイモンは飛び跳ねながら手を振る。だが、そんなことをしなくても、大成たちの姿は向こうでも確認できているはずなのだが――まあ、そこはグレイモンの気分なのだろう。

 とはいえ、大成にとっては、そんなことよりもグレイモンが飛び跳ねるたびに起こる地響きの方が、キツかった。

 そう、グレイモンが飛び跳ねて、地面に着地する度に、地面がグラグラと揺れるのだ。その震動たるや、小さめの地震と間違えそうなほどである。その揺れに転びそうになるのを耐える方が、大成には重要だったのである。

 

「大成アンタ……なんで家にいないのよ」

「よっ!大成久しぶりだな。どっか行ってたんだっけ?」

「……」

 

 そうして、やがてやって来た優希たち三人。

 毎日のように会っている優希はともかくとして、勇と片成の二人は相変わらずそうだった。まあ、勇とは数日会ってなかっただけであるし、片成はそもそも出会ったのが昨日だ。簡単に変わるような時間は経っていないから、相変わらずなのも当然なのだが。

 

「いや、ちょっとエンジェモンと喧嘩して……」

「……それでここに来たのね」

「あれ、あのデジモンは……」

「エクスブイモン。一応、俺の新しいパートナー?」

「へぇ?ブイモン系の進化系かな?っていうか、一応?」

「まぁ、いろいろあったんだよ」

「ふぅん?でも、二体目のパートナーか。いいね」

 

 そうやって会話する大成たちの視線の先には、先ほどと変わらずエンジェモンに突っかかるエクスブイモンの姿があった。いや、先ほどよりも増して、彼らはヒートアップしているようにも見える。この調子では、遠からず第二ラウンドが始まるだろう。

 そのことを悟った優希たちは、大成を放っておいて、動く。これ以上、勝手をされると自分たちの立てた計画が崩れてしまうのだ。彼女たちとしては、それは避けたかったのである。

 

「ほら、片成!エンジェモンの方を止めて。グレイモンはエクスブイモンの方をよろしくね!」

「え?あ、うん!」

「え……へ……あ……う、うん!」

 

 優希の指示に従って、片成とグレイモンが動く。

 グレイモンはエクスブイモンの方を止め、片成がエンジェモンの方を止める。そのために二人は動いたのだが――グレイモンの方はともかくとして、問題は片成だった。

 片成は、エンジェモンの前に出たのはいいが、ずっと黙ったままだったのだ。片成はエンジェモン相手にもうまく話せないようである。

 ずっと懇願するような視線をエンジェモンに向けている片成だが、彼女は忘れてはいないだろうか。エンジェモンは、片成の考えていることを自分に都合良いように捉えるという悪癖があることに。

 

「我が主……なるほど!わかりました!あの下賤な者を見事討ち取ってみせましょう!」

「……!ち……が……ぅ……」

「大丈夫です!さぁ行くぞ!」

「よっしゃ、来いやァ!」

「ちょっと!ダメだってばー!」

 

 先ほど、どうにかするように指示を出した優希だったが、今の現状を見て、何もかも遅かった感がしていなかったわけではなかった。

 グレイモンの制止の声を振り切ってやる気を出すエクスブイモン。

 片成の思いを都合よく解釈してやる気になったエンジェモン。

 両者はもはや止めようのない場所まで進んでしまっていたのである。だからこそ、優希は必死になって考えるのだ。この状況から、自分たちの立てた計画に移行する策を。

 

「あーあ……こりゃ、第二ラウンドだな。よっし!イモ!お前も行ってくれば?」

「えぇ……僕もですか?まぁ、いいですけどね……」

「ダメに決まってるでしょ。こっちにも段取りがあるのよ?」

「段取りってなんだよ」

 

 しばらく考えた優希は、今にも戦闘に出て行きそうなスティングモンや大成をこの場に留まらせる。彼女は今、どうしてこうも血の気が多い者が多いのか、と呆れていた。

 そうして、大成たちを止めた優希は、この手しかない、と多少の計画変更を決意する。

 片成のためにも、この計画はそれなりにうまくやらねばならないのだ。なればこそ、この程度の障害で挫けてはならない。

 その思いを胸に秘めて、優希は大声を張り上げるのだった。

 

「アンタたち!」

 

 なるべくよく響くように、よく聞こえるように。それだけを意識して、優希は大声を出す。片成ほどではないが、優希も大声を出すのは苦手な方だ。しかも、何も遮蔽物のない外であれば、なおのこと。

 仮に大声を出すのが得意なものでも、ここまで遮蔽物のない場所でよく響く声を出すのは難しいだろう。

 それでも、優希は声を出さなければならなかった。今まさに戦いを始めようとしているエンジェモンとエクスブイモンを止めるためには、彼ら両方に声を聞かせなければならないのだ。

 実力行使でもいいが、それをするとこの後の計画に支障が出る可能性もある。だからこそ、あまり良い手ではないが、声という手段を優希は用いることにしたのである。

 とはいえ、優希が無理に大声を出した甲斐もあって、エクスブイモンとエンジェモンの二人は動きを止めて、優希の方を見てきた。これならば、話を聞いてもらえるだろう。

 

「そんなに戦いたいのなら、戦えばいいわ……その代わり――」

「代わり?」

「――チームでね」

 

 ニヤリ、と笑いながら言った突然の優希の提案。

 その提案を聞いたその場の全員は、その提案の意味するところを考えて――呆気にとられたのか、口を開けて固まっていたのだった。

 




というわけで、第五十六話。
次の話につながる回でした。
ついでに、久しぶりのグレイモンと勇の登場ですね。

さて、次回はついに優希の計画の開始です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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