【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
学術院の街から少し離れた荒野にて。二つのグループに別れた大成たちは、向かい合うようにして立っていた。
これは、優希が先ほど言った提案が通った結果である。内容としても大したことではない。それこそ、二組に分かれて試合をするだけの話だ。つまり、団体戦という訳である。
先ほど提案された時は、事情を飲み込めてない大成たちにとっては寝耳に水といった感じで受け入れられなかった。だが、ようするにレクリエーションみたいなものか、と納得した大成たちは面白そうなその提案に賛同することにしたのである。
「ま、ここまで来たらやるしかないか。なっ!片成!」
「……」
「……だんまりか……おーい?」
「……」
「……はぁ」
そんなこんなで、グループは大成と片成たち、勇と優希たちという風に分けられた。
もちろん、ここには片成と大成にコミュニケーションを取らせようとする優希たちの意思が絡んでいたりするのだが――まだ試合開始までの準備時間だというのに、大成は早くも疲れ始めていた。
理由は言わずもがな。片成とのコミュニケーションが成立しないからである。これでは、大成と片成にコミュニケーションをとらせるという、優希たちの思惑が成立しない。
まあ、この段階で万事が上手くいくとは優希たちも思っていなかったのだが――。
「やばい、試合開始まであと五分もねぇよ!」
「ふん!汝のような下賤な者の手など借りる必要はない」
「……さっきイモたちにやられそうになってたくせに」
「……!黙れ!」
だが、優希たちの思惑に反して、コミュニケーションをとっているのはエンジェモンと大成だけだった。片成はそんな二人の姿にオロオロとするだけだ。
ちなみに。そんな中で、スティングモンとエクスブイモンの二人は、やるからには勝ちたいとばかりにアップを始めていた。大成たちを無視して。
そして、大成たちがそんなことになっている一方で――。
「大成たち、うまくいっているかな?」
「無理でしょうね」
「……だよな」
「お嬢様がやりたいことはわかりましたが……本当にこれでよろしいのですかな?」
「とりあえず、話せる時間を増やすことから始めないとね」
一方で優希たちは、片成が大成と話せるようになることを祈って、呑気に話していた。
一応、今は試合の前で、作戦や計画を立てる時間なのだが――優希たちは、関係ないとばかりに話している。その姿は、それこそ呑気の一言だ。
とはいえ、優希たちにとってこの試合は、片成と大成の二人に対する思惑以上の意味はない。
そちらの思惑が果たせられれば、優希たちはこの試合は負けようが勝とうがどちらでもいいので、これでも良いといえばいいのだが――少し舐めすぎな感は否めないだろう。
まあ、勇と優希ではろくな連携ができないために、そもそも話し合うことがないという、ある意味どうしようもない事実もあったりするのだが。
「いっち……にっ……さん……しっ!」
そんな優希たちの中で、唯一試合に対して真面目に臨もうとして準備しているのは事情を知らないグレイモンだけだった。相変わらずラジオ体操をしてアップを始めている。
そうして、そんなグレイモンの姿を横目に見ながら、優希は「……片成、頑張りなさいよ」と祈りにも似た呟きを呟くのだった。
さて、そんなこんなで五分後。
「……準備はいい?」
「うん。いや、良くないけど……うん」
「……その様子じゃ話せてないわね。一言たりとも。ま、本題はここからだし……」
「ん?何か言ったかー?聞こえなかったんだけど?」
「いや、なんでもないわ。準備はいいんでしょ。はじめるわよ」
大成たちと優希たちはその間に十数メートルの距離を置いて立っていた。
ちなみに、数の不公平があるということで、ジャンケンの結果として、エクスブイモンは休憩となっている。
ともあれ、いよいよ試合が始まるということだが――大成は相変わらず疲れた表情をしていた。
そんな大成の表情を見て優希たちもだいたい悟ったのだが、どうやら先ほどの時間では片成は大成と一言たりとも話せなかったようだ。
この調子では、試合が始まったからといってどうなるかわかったものではない。それこそ、最悪何も変わらずに今日の試合が終わる可能性もありうる。
そうして。早くも上がってきた最悪の可能性を見ないふりして、優希たちは試合を開始するのだった。
「それじゃ、この上に放り投げた石が落ちたらはじめね」
そう言って優希が上に放り投げた石が落下する。
そして――。
「ガァアアアアア!」
「リベンジです!」
「二度と遅れはとらん!」
「負けませぬぞ!」
咆哮ともとれる気合の入った声を上げて、全員が一度に激突する。
先手をとったのは、やはりグレイモンだった。成長段階はレオルモンを除いた全員が同世代だというのに、一人だけずば抜けたスペックと技量を誇っている。
駆け出したグレイモンは、その尻尾をもってスティングモンを吹き飛ばし、そのままエンジェモンと接近戦をする。
先ほどはそれなりに仲の良かった二人だが、やはり試合となれば手加減もするつもりもないらしい。しかも、エンジェモンはグレイモンと互角とまで行かなくとも、それなりに戦えている。
それは、グレイモンと戦えるほどの強さをエンジェモンは持っているということで。グレイモンの強さを知っている大成たちとしては、かなり驚きだった。
とはいえ、エンジェモン自身のことは気に食わないスティングモンも、彼をグレイモン相手に一人で戦わさせるつもりはなかった。ゆえに、エンジェモンに加勢しようとして――。
「っ!加勢します!」
「させませんぞっ!」
「……!セバス!」
その直後、レオルモンによって邪魔された。
だが、いくらレオルモンが運動能力に優れているとはいえ、成長期。そのスペックは成熟期に敵うものではない。だからこそ、スティングモンもレオルモンよりグレイモンを警戒していたのだが――レオルモンについて、たかが成長期だと油断してなかったと言えば、嘘になるだろう。
レオルモンとスティングモンが直接戦うのは初めてだったが、思いのほか自分にくらいついてくる相手に、スティングモンは内心で驚いていた。
「っく!おい!スティングモン!さっさとやっつけちまえ!」
「いやいや、エクスブイモン無茶言うなよ。セバス、結構強いぞ?」
「けど、成長期じゃねぇか!」
そんな中で、外野は呑気にあれこれ言っているが、その実、全員がレオルモンの強さに驚いている。
確かに、レオルモンはスティングモンに押され気味だ。だが、押され気味でも、スペック差があっても、それでいてくらいついていくその強さをわからないほどの愚か者はここにはいない。
文句ばかり垂れているエクスブイモンも、呑気に観戦している大成も、ずっと黙っている片成も。内心ではそんなレオルモンに驚き、感嘆していた。
「……っく!おりゃ!」
「うぐっ!まだまだ……ですぞ!」
ここまでレオルモンが格上のスティングモンにくらいつけていけるのも、やはり日頃スレイヤードラモンに吹き飛ばされボコボコにされている賜物だろう。レオルモンは、毎日のようにスティングモン以上の格上相手にボコボコにされている。それを思えば、スティングモン
まあ、それでも格上であることには変わりなく、レオルモンの勝ち目が薄いということも変わりないのだが――それでも、勝ち目があるだけマシではあるだろう。
「やるね!」
「汝もな!」
そんな風にスティングモンたちが戦っている一方で、エンジェモンはグレイモンに猛攻を仕掛けていた。
エンジェモンのその手に持った杖が、まるで踊っているかのように動いていた。まるで散弾銃のような苛烈な突きが、まるで竜巻のような振り回しが、グレイモンを襲う。そんなエンジェモンの攻撃を、グレイモンは必死になって耐えていた。
一見すると、一方的に攻撃しているエンジェモンが有利に見え、グレイモンは防戦一方にも見える。だが、この実、追い込まれているのはエンジェモンの方だった。
「……っく!」
「どうしたんだ!こんなものか!」
「っ!まだまだァ!」
そんなエンジェモンの顔には余裕がない。エンジェモンはわかっているのだ。この猛攻で終わらせられなければ、この猛攻に耐えられてしまえば、負けるのは自分であるということを。
そのエンジェモンの考えを裏付けるように、グレイモンずっと何かを待つように攻撃に耐えていた。
異常なまでのタフネスに、一撃で相手を仕留める攻撃力。その二つが揃うとこうも厄介になるのか、とエンジェモンは冷や汗をかきながら攻撃を続けていた。
確かに、これは実戦ではない。あくまで、模擬試合。あくまで、レクリエーションの範囲。お互いの実力を確かめ、交友を深める以上の目的などない。
だが、だからといって負けるのは嫌だった。遊びだろうと実戦だろうと何も関係なく、エンジェモンは敬愛する片成に無様な格好は見せたくなかった。
「うぉおおおおおお!」
「っ!威力と速度が……捉えきれない!」
だからこそ、エンジェモンは休むことなく攻撃を続ける。
すでに体力は尽きそうで。それでもなお限界に挑戦し続けるその姿からは、傍から見ていて今この場で進化さえ起きそうな錯覚さえするほど。
だが、当然ながら、そんな都合の良い偶然など起きるはずもない。そんなことはエンジェモンもわかっている。都合の良い奇跡など起きないからこそ――エンジェモンは、ここで限界を超える心づもりで動くのだから。
「これでっ!」
「……なっ!」
直後、これでトドメとばかりに、エンジェモンの拳が黄金に輝く。“ヘブンズナックル”と呼ばれる、エンジェモンの必殺技。
全身全霊をかけた黄金に輝くその拳が、棒を捌くことに一生懸命になっていたグレイモンの腹を捉えて――。
「……エンジェ……モン!」
「いやいやいやいや!」
「アイツら、絶対に試合ってこと忘れてるだろ……」
その瞬間に、黄金に輝く拳の勢いは、グレイモンの口から放たれた炎によって相殺された。
自分の渾身の技があっさりと破られたことに頬を引き攣らせたエンジェモンだったが、傍から見ていた大成たちも別の意味で頬を引き攣らせていた。
彼らの心を占める思いは一つ。曰く――やりすぎだろ、である。
グレイモンがうまく対応できたから良かったものの、一歩間違えば、どちらかが瀕死になってもおかしくない攻撃だった。
「行くぞ、片成」
「え?……えぇ?……手……」
「……おい!お前ら!」
「……手……え?……」
これは、流石に見過ごせない。少しばかり言う必要がある。
そう思った大成は、片成の手を掴んで歩いて行く。そんな大成にいろいろと思うことがあった片成だが、当の大成はなんとも思っていないようだった。大成にとって大事なのは、エンジェモンの主である片成を確実にエンジェモンの下まで連れて行くこと。それだけだ。
そして、大成たちが近づいてきていることにはエンジェモンたちも気づいている。彼らは自分たちがやりすぎていることなど気づいていないようで、なぜ止められるのかがわかっていないみたいだ。
「なんで止めるんだよー?」
「いや、なんでも何もないだろ。お前ら殺る気すぎだからだよ」
「……あ、の……た、い……うぅ……」
「っ汝!我が主の手を離せ!」
「え?……ああ、悪い」
「あ……いや……え……」
エンジェモンが面倒くさいので、片成の手をさっさと離した大成。
ちなみに、その際に片成は少しだけ残念そうな顔をしたのだが、そのことに大成は気づかなかった。
ともあれ、その後も懇切丁寧に注意を続ける大成。せっかく気持ちよく戦っていたグレイモンもエンジェモンだ。明らかに二人とも納得していないようだった。
「いいか?安全第一!怪我をしないようにな!」
「誰が汝の言うことなど聞く必要が……」
「……」
「そう!我が主の仰る通りに命を賭してやる所存です!」
「……!……!……!」
「おい、ものすごい勢いで首を横に振ってんぞ」
「さぁ!第二ラウンドだね!」
「……無視かお前ら」
グレイモンやエンジェモンに、呆れた様子で大成や片成は声をかけるのだったが、両者ともに話を聞く気配がない。
勇と優希はこんな自分たちの姿を遠くで見て苦笑しているんだろうな、と。実際に見えるわけではないが、そんな予想をつけた大成。安全圏で呑気にしているだろう二人に若干の怒りを抱いたのだった。
まあ、優希と勇の二人からすれば、理不尽なことこの上ない怒りではあるが――それはともかくとして。
「夜になりそうだな。そろそろ終わりにしないと……帰りが遅くなるんだけどな」
ともあれ。再度始まる予感に、巻き込まれては堪らないと大成たちはその場を離れる。
大成たちが離れたのを見届けて、エンジェモンとグレイモンの二人は戦闘態勢に移る。一瞬後、二人は再び激突しようとして――。
「さて!行く――っ!」
「――これはっ!?」
その直後。辺りに漂ってきたおぞましい気配を前にして、動きを止めた。いや、グレイモンたちだけではない。スティングモンたちも、大成たち人間組も――この場にいた全員が、それを感じて固まっていた。
まるで、死というものを体現しているかのような、そんな冷たい気配。自分たちはここで死んでしまうのではないか。そんな恐怖が彼らを襲ってきたのだ。気の弱い者なら、自ら死を選んでしまうかもしれない。それは、それほどのものだった。
それでも、彼らがそうならないのは、こんなところで死んでたまるかという至極当然な反骨精神があったからだ。唯一暗い顔をしていた片成も、エンジェモンが守るように立つことで正気を取り戻した。
もうここに、死の恐怖に怯える者はいない。
だが、そんな中で次いで大成たちを襲うのは、純粋な疑問。一体誰がこんなことをするのか、という。
この謎の現象は自然現象などではない。まず間違いなく、何者かによって発生したものであると大成たちは確信をもって認識していた。
「一体……?」
「……来る!」
「えっ!?」
時刻はもう襲い。其処まで夕闇が迫っている。正に昼と夜の境目。そんな時間に、昼を追いやる夜に紛れ、その者は襲い来る。姿は未だ見せず、されど自らの僕を解き放って。
「グギャアアアアアアアアア!」
そうして、大成たちの前に現れたのは、まるで苦しむように鳴く骨のようなデジモンだった。
というわけで、第五十七話。
優希の企みのレクリエーションからの、敵襲。
そろそろ第五章も佳境ですね。まあ、ここからまだ長かったりするんですが。
さて、次回。謎の骨デジモンとの戦闘です。
それでは次回もよろしくお願いします。