【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第五十八話~狂える骨獣~

 夜が迫るその時間。

 大成たちは一体の巨大な骨のようなデジモンに襲われていた。いや、骨のような、ではないか。骨というか――全身が骨だけでできた、骨そのものなデジモンだ。

 

「グギャァアアアアアアアアアアアア!」

「っく!」

「ずぁっ!」

 

 グレイモン、スティングモン、エンジェモン、エクスブイモン、レオルモンの五体がかりで戦っているのに、そのデジモンはまるで関係ないとばかりに暴れ続けている。

 その狂戦士の如き暴れっぷりからして、どうやらそのデジモンは痛みを感じていないようだ。痛みを感じていないからこそ、五体ものデジモンたちに攻撃されても平然として暴れられる。見た目だけではなく、中身までゾンビのようだった。この調子では、感情や知性があるかどうかも怪しいだろう。

 まあ、そんなそのデジモンのことはともかくとして――スティングモンたちは、ほとほと困っていた。

 理由は言わずもがな、だ。彼らは今の今まで、散々と試合をしていて疲れている。その上で、異常なタフネスを誇る相手との連戦。キツイというレベルではなかった。

 

「っく!こいつは一体何なのですかな!」

「知りませんよ!」

「っち!疲れてんだから無理すんな!オレを主軸として行くぞ!」

「ポクも大丈夫!」

 

 謎の相手との戦闘で混乱する中で、エクスブイモンとグレイモンが先陣を切り、中心となって戦う。先ほどの試合に出ていなかっただけにエクスブイモンは体力が有り余っていて、グレイモンの方は単純にまだ余裕があるのだ。

 そして、そんな二人をサポートするかのようにエンジェモンやスティングモン、レオルモンは動く。あのエンジェモンでさえ、そんな布陣に思うところはあっても、この異常事態を前に文句は言わなかった。

 

「っく!こいつ……暴れてるだけなのにつえぇ!」

「でも、勝てないほどじゃない!押し切れるよ!」

 

 そう。襲い来るデジモンは、ただ暴れているだけだというのに、強かった。それこそ、成長段階としては確実に完全体クラスだろう。いや、もしかしたら弱い究極体か、強い成熟期かもしれないが――この場にいる中で最もスペックが高い、という点については間違えようもない事実だった。

 とはいえ、グレイモンの言う通りだ。このデジモンが、いくらこの場の面々の中で最も強くとも、複数で組んでも勝てないほど実力が離れているわけではない。その上で五対一だ。堅実に戦っていれば、全員が無事で切り抜けられるだろう。

 まあ、それも――。

 

「っ!?地面の下から……!?」

「……もう一体!?」

 

 敵が一体だけだったら、の話だが。

 地面を突き破るようにして、エクスブイモンたちを地下から強襲してきたのは、目の前にいる骨デジモンと全く同じデジモン。つまり、単純に計算すれば、敵の戦力は二倍になったということで。

 完全体クラスの力を持つ同じデジモンが二体。その上で、こちらは戦力ダウン中。状況的にも、かなり悪かった。

 

「グレイモン!エンジェモンと一緒に先にいた方を!エクスブイモンはそれ以外のデジモンと後から来た方を!」

 

 そんな中で、勇からの指示がグレイモンたちの下に飛んでくる。

 エクスブイモンとグレイモンという現状況で戦える二人を別々にわけるようにチームを作り、人数の少ないチームにはダメージを負っている方を狙わせ、もう一方のチームに新たに乱入してきた方を狙わせる。実に理にかなった指示だった。

 一瞬で、アイコンタクトをした面々は、その指示通りに動く。状況的にこれが最善ではあるが、敵一体あたりのこちらの戦力を減らさなければならないというのは、どうにも辛いことだった。

 そんな風に、デジモンたちが戦っている中で――。

 

「……おかしくねぇか?」

「……?」

「何が?」

 

 大成は首を傾げていた。

 この状況になってから、自分にできることをするために、大成はもっぱら襲撃者の観察をしていたのだが――そんな時、ふと思ったのだ。

 敵は、感情や知性の欠片もないような、正に暴れるだけに存在するそんなデジモンだというのに、地下からの強襲など、やけに頭の良い戦い方をしている。

 このことに、大成はどこか妙な違和感を覚えたのだ。

 

「勇!ちょっと指示出しよろしく!」

「はぁっ!?ちょ、いくらオラでも無理だってぇさ!」

「……今なんて?」

「あ……いや、オラでも無理だ!」

「勇って“セバスみたいなタイプ”だったのね……」

 

 優希の言う“セバスみたいなタイプ”とは、もちろん慌てると何かしら普段とは違う言葉遣いになるタイプのことであるのだが――それはともかくとして。

 戦闘面での指示出しを、この中で最も手馴れているだろう勇に任せた大成は、その違和感の正体を探る。何もわからないかもしれなかったが、それでも大成はその正体を探らなければならない焦燥感に襲われていた。いつも感じるような嫌な予感を、大成はその違和感に感じていたのだ。

 そして、それを感じていたのは片成も同じようだった。

 優希と勇にはそんな二人のことがわからないようだったが、それでも真剣な二人を前にして、何かを言うのを止めた。適材適所。大成たちが何かを探るなら、自分たちはその分までデジモンたちの戦闘の役に立つように動けばいいと思ったのである。

 

「うぐ……アイツが出てきたあの穴……ここからじゃ遠くてよく見えねぇな」

「私……見……える……」

「マジで!?すげぇ目がいいんだな!」

「……う、ん」

「で?どうなってる?」

「縦の……穴の中……に……横にもう……一つ……穴がある……みたい」

「……やっぱりか」

 

 緊急事態ゆえか、片成と普通に話していることができていることにも気づかず、大成は「やっぱりか」と呟く。その視線の先には、二体目のデジモンが出てきた穴の姿があった。

 元々地下にいて、大成たちの存在に感づくと共に出てきたのならばまだわかる。だが、地下を移動して奇襲を仕掛けるなど、あの狂えるデジモンにできることではない。

 ならば、考えられる可能性は一つ。あのデジモンたちにその指示を出した何者かがいる可能性があるということ。

 

「これ、まずくね?」

「……まずい……ですね」

 

 完全体クラスのデジモンを手懐けられるような者が少なくとも一体。現状、かなりキツイ状態で、その者も参戦してくれば、ほとんど無理に近い状態になる。

 大成たちは、つくづく思っていた。自分たちの考えすぎであってくれ、と。そう思いながら、戦闘面での補助に復帰するために、二人は優希たちの下へと戻る。

 そして、大成たちがそんな恐るべき仮説にたどり着いた頃、デジモンたちは――。

 

「ふっ!……はっ!」

「グギャ……グギャアアア!」

 

 デジモンたちは、相変わらず厳しい状況に置かれていたものの、工夫を駆使して戦っていた。勇考案、勇と優希監修のヒットアンドウェイ作戦である。

 ヒットアンドウェイは、かなりの体力を消耗をするため、体力の少ない現在ではキツイ作戦であるのだが――それも仕方なかった。格上相手に、作戦など選んでいられないのだ。格上の相手に、体力の少ない状態で、真正面から戦って勝てるほど、勝負は甘くない。

 できるなら、勇としてはあまり好きな手ではないものの、奇襲や搦手などで安全に行きたかった。だが、奇襲や搦手などは、この狂える相手に通用しないと踏んだのだ。だからこその、ヒットアンドウェイである。

 

「エクスブイモンさん!」

「……っ!危ねぇ!」

 

 スティングモンの悲鳴ともとれる声を聞いて、エクスブイモンはその場から飛びず去る。その瞬間、上から叩きつけられたあのデジモンの腕によって、地面が陥没した。

 かなりの威力。それが、“グレイブボーン”と呼ばれるあのデジモンの必殺技であるということなど、スティングモンたちには知る由もなかったが――まさに間一髪。もう少しでもスティングモンの声が遅かったら、あと一瞬でも避けるのが遅かったら、エクスブイモンは今頃地面と同じ運命を辿っていたはずだ。

 

「エクスブイモン殿!攻撃が乱れてますぞ!」

「わかってるよ!」

「グアァアアアアアアアアア!」

 

 厄介だった。その強さもそうだが、何と言ってもあのデジモンが発する黒い冷気が。

 そう。先ほど、戦闘前にスティングモンたちを死の恐怖に陥れたこの冷気。これはあのデジモンから自然と発せられるものらしく、戦闘中も弱まる気配を見せない。近づくだけで、意思に関係なく恐怖に体を硬直されるというのは、厄介以外の何者でもない。

 エクスブイモンたちがもっと強ければ。逆に、目の前にいるデジモンのような狂ったデジモンだったならば。きっとこんなものは無視できたのだろう。だが、この場にいる面々にそれを無視することなどできなかった。

 そして、結果として、安全を重視するあまりに全体的に与えるダメージ量が減ってしまっているのだ。

 

「……セバス!後ろに回り込むようにして!」

「了解ですな!」

 

 遠くから聞こえる優希の声に従うように、レオルモンは駆ける。

 言わずもがなだが、この戦闘で最も危険なのはレオルモンだった。成長期のレオルモンの攻撃では、あのデジモンにかすり傷程度しか付けられない。しかも、一撃くらったらアウトという状況。

 そんなレオルモンでは、どうしても戦闘の主軸にはなりえない。だからこそ、レオルモンがやれることといえば、危険ではあるがせいぜい囮くらいしかない。

 レオルモンもそれをわかっている。自分に黙って見ているという選択肢がない以上、口惜しいがそれが最善であることも。とはいえ、そんなレオルモンにとってのこの現状は、今の進化できないという状況は自分にとって歯がゆいことである、ということの再確認にしかならなかった。

 

「……このままじゃ……!」

 

 一方で、そんな状況を見ていた優希も同様に歯がゆい思いをしていた。自分が自身の能力を制御できていれば、レオルモンに負担をかけさせることもないのに、と。

 まあ、似たような思いは大成もしている。戦闘が始まってから、大成はほとんど役に立っていないのだ。やったことといえば、当たって欲しくない仮説を優希たちに伝えたことくらい。一応、現状を打開できるかもしれない作戦を立てたは立てたのだが――その作戦が奇襲に等しいものであった以上、伝える術がなかった。

 

「どうする……!」

「……どんな作戦なの?」

「だから――」

 

 一縷の望みをかけて聞いてくる優希に、大成は作戦の内容を話す。元々たいして難しい作戦でもなく、すんなりと伝えることができたのだが――それを聞いた優希は、難しい顔をしていた。

 まあ、それもそうだろう。優希がそんな顔をするのも頷けるほどに、大成の考えたその作戦は、賭けの部分が大きかったのだ。

 

「それ、かなりバクチじゃない?」

「これしかなくないか?」

「でも、勇や片成の協力が前提でしょ?できるの……?」

「うぐぐ……ちょっと、勇たちに聞いてくる。指示出し任せた」

「いまいち緊張感ないわね」

 

 そう言った大成は、数メートル離れたところにいる勇たちの下へと急いで行く。

 勇も片成も、いきなり来た大成に怪訝な表情をしていたものの、急いで来た大成の様子に何かあったのだと悟る。

 そして、大成はそんな勇たちに、優希に話したように同様の作戦を伝えて――。

 

「……難しい、な」

「……」

「片成まで首を縦に振った!?」

 

 大成の作戦を聞いた勇も片成も、その作戦に対して難色を示した。彼らもこのままではマズいと思ってはいるものの、大成の作戦に賭けるのはリスクが大きいと思ったのだ。

 だが、大成たちがそうこうしている間にも、デジモンたちは頑張っている。このまま突破口を見つけられずに、この場にとどまっているのは悪手だ。

 出来るかどうかもわからない賭けに賭けるか。勝てるかどうかもわからないが、安全を重視してこのまま行くか。どちらも勝利の可能性が低いことには変わりない。

 だが、そのどちらかの選択肢を選ばなければならない。

 この場の誰もが悩んで――。

 

「よし、大成の作戦を実行しよう」

「……!?」

「え……いいのか?」

 

 初めに決断したのは、勇だった。

 リスクが大きいことも承知で、勇は大成の作戦を実行することにした。傍から見ていて手のひらを返すようだったが、元々勇は大成の作戦を実行してもいいと思っていた。

 大成の作戦を聞いた時、勇は自身の勘がこう言っていると思ったのだ。このままでは勝てないぞ、と。そう感じたのは、ゲーム時代にランキングの頂点にたどり着いた勇だったからこそかもしれない。

 まあ、それでも難色を示していたのは、やはり失敗した時のリスクが大きすぎたからなのだが。

 

「ああ、このままじゃ、どうにも良くない気がする。なら、賭けなきゃならない。大成、合図は任せるよ」

「……ああ!」

 

 一番重要な部分を任されながらも、その責任の重さに頷いて、優希の下に大成は戻る。

 そこでは、優希に呼び戻されたレオルモンが、すでに優希から作戦の概要を聞いていた。

 

「……なんで?」

「どうせやることになったんでしょ?勇も私も、このままでいいなんて思うほど阿呆じゃないわよ」

「……はぁ」

 

 大成はどうやって優希を説得しようかと考えていただけに、この反応は若干予想外だった。

 勇も優希も、初めからそのつもりなら、わざわざ難色を示して来なければいいのに、と。疲れた様子で、そんな風なことを思った大成である。

 ともあれ、そんな大成を置いて、レオルモンは戦場に戻る。敵のデジモンに聞こえないように、辺りを駆け抜けながら、すれ違い狭間に作戦のことを味方全員に伝えていく。

 数分もすれば、作戦実行の下地は整っていた。そして――。

 

「行きますよ!」

「おう!行くぜ!」

 

 作戦は開始された。

 その直後に、エクスブイモンとスティングモンは敵の攻撃を避けながら、されど隙を見つけては攻撃するように立ち回っていく。彼らがやっていることはほとんど先ほどまでと同じだ。

 この作戦の要は、この後にある。

 もし、この狂えるデジモンが狂っていなかったら、きっと気づけただろう。まるで誘導するように、自分が動かされていることに。

 

「っ!今だ!勇!片成!」

「よっし!グレイモン!」

「エンジェ……モン……!」

 

 その瞬間、大成の大声が辺りに響く。それが、合図だった。

 グレイモンとエンジェモンは、敵の前でわざと隙を晒す。

 狂えるデジモンとはいえ、隙を狙うくらいの頭はあったらしい。その隙を逃さないとばかりに、その体から出る黒い冷気が形を作っていく。それは、“デッドリーフィアー”と呼ばれるそのデジモンのもう一つの必殺技で。

 それの存在を知らなかったグレイモンたちとしては焦るしかない。見知らぬ技の存在など、作戦には入ってなかったのだ。

 というか、つくづく穴だらけの作戦である。

 

「って!そんな攻撃知らな――」

「グレイモン!エンジェモン!ナイス!」

 

 だが、その直後。間一髪でやって来たスティングモンとエクスブイモンの後を追うように。彼らが誘導して連れてきたもう一体のデジモンが、その形作られた黒い冷気の中に自分から突っ込んだ。

 そう。大成の作戦とは、こういうこと。仲間同士での同士討ちを狙うということだったのだ。

 まあ、一歩間違えれば、敵を合流させるだけになる、隙を晒した時点で攻撃をくらい負ける、などといろいろと問題点はあったのだが――何とかなってよかったと言うべきか。

 

「今だっ!」

「うぉおおお!」

「ガァァアア!」

「はぁあああ!」

 

 そして、その直後に、グレイモン、エンジェモン、エクスブイモンといった遠距離から攻撃できる組が、最大火力の必殺技でもって攻撃する。

 流石に仲間からの攻撃の上にこれは耐えられなかったのか。仲間からの攻撃をくらった方のデジモンは、やがて地に倒れ伏して動かなくなる。

 それは、大成たちは賭けに勝ったということで。これで、残るは一体だけということで。

 これなら、いけるかもしれない。そう思った大成は、忘れていた。先ほど考えた仮説を。その仮説を忘れていなければ、あるいはこの先の悲劇を防げたかもしれない。

 

「来……る……!危な……い……!」

「え?」

 

 大成がそのことを思い出したのは、片成の鬼気迫る声が聞こえた直後のことだった。

 

「ほう……いくら数で勝ってたとはいえ、成長期や成熟期の分際で我が下僕のスカルバキモンを倒すとはな……」

「っ!エクスブイモン!」

 

 辺りに響き渡ったのは、大成たちの聞き慣れぬ声。

 その声を聞いた全員が見たのは、おびただしい数のコウモリによって腹を貫かれるエクスブイモンの姿だった――。

 




というわけで、第五十八話。
スカルバキモン二体との戦いと、その後のショッキング光景の件でした。

というわけで、次回からちょっと欝入ります。
次回は最後に強襲してきた、スカルバキモンたちの主との戦闘(その1)です。

それでは次回もよろしくお願いします。

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