【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第五十九話~日は陰って、寒さは増す~

 それは、今までで一番凄惨な光景で。ある意味、今までで一番信じたくない光景だった。

 

「っ!エクスブイモン!」

「かはっ!」

「……ほう。即死せぬか。実に惜しいな」

 

 エクスブイモンの腹に、穴があいている。それは、今まで大成たちが見てきた中では、まず間違いなく最も深いモノで、命に届きうるモノ()で――明らかに致命傷だった。

 その傷を前にしては死んでいないのが、おかしいほど。

 自分の目の前でこんなことが起きたのは、大成にとって二回目だったとはいえ、こればかりは何度起きようと慣れない。慣れるはずもない。腹に穴が空き、倒れ伏すエクスブイモンを前にして、大成は茫然自失とするしかなかったのだ。

 

「しかし、いただけない。仲間が一人死んだ程度で呆然となるのは……な」

 

 だが、呆然と固まっているのは大成だけではない。優希たち人間組も、デジモン組も、あろうことかあの狂えるデジモンでさえ止まっている。

 そして、そんな中でただ一人だけなんでもないように動いているモノ。その者こそが、この凶行の犯人。

 それは、まるで御伽噺に語られるような吸血鬼の姿をした――。

 

「ああ、それは私もだったか。お前たちがつい強かったのでな。こんな真似をしてしまった」

「……誰、だ?」

「私の名はヴァンデモン。いずれはかの貴公子や今は亡き七大魔王を超える者」

 

 そのデジモンこそが、ヴァンデモンと呼ばれる完全体デジモンだった。

 だが、そんなことはこの場の誰もが聞いていない。大成たちにとって重要なことは、今もヴァンデモンの足元で倒れ伏しているエクスブイモンのことだけだったから。

 

「……ともあれ、だ。私も忙しい身。一体でもお前たちが我が下僕たるスカルバキモンを倒せるとは思ってなかったので――」

「闇の眷族が……その醜悪な姿を晒すな!」

 

 だが、そこで。

 話の途中だったが、エンジェモンがヴァンデモンを強襲する。とはいえ、腐っても完全体。しかも、今現在の時刻は夕方。ヴァンデモンが最大限に力を発揮できる夜にほど近い時刻。

 ヴァンデモンが昼間は失っている本来の力を取り戻し始めたそんな時刻において、エンジェモンの奇襲が成功する道理はなかった。

 とはいえ。エンジェモンの目的は、ヴァンデモンに手傷を負わせることではない。エンジェモンの目的は――。

 

「汝!さっさとこの下賤な者を街へと戻れ!」

「えっ!?」

 

 エクスブイモンを回収すること。それだけだったのだから。

 半ば乱暴ではあったが、エクスブイモンをそのままスティングモンに投げ渡すエンジェモン。彼はそのまま油断なくヴァンデモンに向かい合った。

 正直言って、エンジェモンがエクスブイモンを助けたことはかなり意外だったスティングモンだが――そこは、一度負けた身として、一応の敬意はあったということだろう。

 ともあれ、事態は刻一刻を争う。エンジェモンの言う通り、街へと戻って治療すれば、まだ助かるかもしれない。

 そう希望を持って。大成と合流したスティングモンは、エクスブイモンを抱えて学術院の街へと戻っていくのだった。

 

「ふん。なかなか良い判断だな。呆然としていただけの他とは違う」

「黙れ。醜悪な……!」

「くく……そうだな。先ほどの者は……まあ、見せしめだ」

「……見せ……しめ……?」

「これ以上計画の邪魔をするのなら、同じように排除させてもらうだけだが……?」

 

 無表情で呆然と呟く勇には誰にも気づかずに。ヴァンデモンのその言葉に、勇を除いたその場の全員が戦闘態勢をとる。

 呆然としている訳にもいかない。自分たちもここで死ぬわけにはいかないのだから。ショックを受けてはいたが、それでも優希も片成もこれから始まる戦闘に対して心構えだけはしていた。

 そして、その場の全員が戦闘態勢を取ったことに呼応するように、スカルバキモンと呼ばれたあの狂えるデジモンが唸り声を上げる。

 優希たちは知らぬことだったが、スカルバキモンは完全体。とある遺跡にあったデジモンのデータを元に、ヴァンデモンが己の秘術において再生し、再生させたデジモンである。

 元のデジモンがどのようなデジモンだったのかはわからないが――ヴァンデモンは長い時をかけて、己の手足としてスカルバキモンを量産していたのだ。

 つまり、ヴァンデモンのこの犯行も、彼の言う計画とやらも、入念な準備の元に進められたもので。優希たちにそれを知る術はなかったが、狂える同格デジモンを配下に置くその手腕からして、侮ることのできない敵だと認識していた。

 

「……ふう。残念だな。その選択をとらなければ、せめてひと思いに終わらせてやろうと思ったものを」

「……!お生憎ですな。我々は死ぬつもりはないので」

「そうか。まあ、先ほども言ったが、私は忙しい身だ。我が下僕と遊んでいてくれたまえ」

 

 そう言ったヴァンデモンは、踵を返してどこかへと行こうとする。いや、どこかではないか。その先にあるのは学術院の街で。どこへ行こうとしているかなど、これ以上もなく明白なことだった。

 を先には進ませないとばかりに、そんなヴァンデモン追いかけようとしたエンジェモン。だが、その前にはスカルバキモンが唸りながら立ちはだかる。

 その姿はまるで、ここを通りたければ俺を倒していけ、と言わんがばかりだ。理性も知性もないくせに――いや、ないからこそ、つくづくヴァンデモンには忠実らしかった。

 

「ああ、言っておくが、スカルバキモンと共に私とやりあうなどと言わない方がいい。こと夜という場において、私に敵う者など少ない。あの街にもそうだろう」

「……なんですって?」

「いるとすればかのスレイヤードラモンくらいだが……なに、そちらの方にも手はうってある。ぬかりはない」

 

 ヴァンデモンはよほど自分の計画に自信があるらしいが、それでもどこか焦って見えたのは、優希の気のせいではないだろう。

 ヴァンデモンとてわかっているのだ。計画に不確定要素はつきものだと。確実にうまくいくような計画などないのだと。まして、相手に究極体がいるのなら、なおのこと。だから、ヴァンデモンは速やかに行動したいのだ。

 

「それでは頑張りたまえ。その消耗した身でどこまでやれるか分かったものではないがね」

「っ!」

 

 悔しいが、ヴァンデモンの言う通りだった。先ほどスカルバキモンを一体倒すことができたのは、数の理があったからだ。スティングモンとエクスブモンが離脱した今、数の利は無いに等しい。こちらの数を相手の質が上回っているのだ。

 だが、だからと言って、引くわけにはいかない。エクスブイモンのことは心配ではあったが、そのことをひとまず頭から無理矢理に忘れた優希は、レオルモンに指示を出そうとして――。

 

「……」

「……勇?」

 

 直後、勇の様子がおかしいことに気が付いた。

 そこにいたのが、まるで勇ではないような。そんな感覚を前にして、優希は自分の中の勇のイメージと目の前にいる勇のイメージが合致しないことに気が付いたのである、

 優希の勇に対するイメージは、雰囲気が良く付き合いやすい少年といったところ。日向の勇という、その名のイメージ通りの人物だと思ってたのだ。

 だが、今の勇は、そんなイメージを根底から覆すかのような。そう。言うなれば。

 

「なるほど。お前、よほど素質があると見える」

 

 そんな勇を見て、興味深そうに声を上げたヴァンデモン。彼は今にも襲い掛かりそうなスカルバキモンを待機させ、まじまじと勇の様子を見ている。

 急いでいるはずなのに、勇を観察するかのような行動をするヴァンデモンに、優希は嫌な予感を覚えていた。このままでは、取り返しのつかないことになるのではないか、という。

 

「さしずめ、太陽は陰った……いや、食われたというべきか?」

「何を言って……!」

「日食を起こしているというべきか。しかも、デジモンの方にも影響があるとはな。やはり人間とデジモンには何らかのつながりがあるとみるべきか」

「……だから、何を――っ!」

「お嬢様っ!」

 

 黙り込む勇に、わけのわからないことを言うヴァンデモン。何が何やらわけのわからなかった優希だったが、一つだけ感じることはあった。これ以上、ヴァンデモンに話をさせてはまずい、と。

 だからこそ、ヴァンデモンの話を遮るように声を上げようとした優希だったが、直後、それはレオルモンの悲鳴に近い呼びかけによって中断されることとなった。

 急接近したスカルバキモンが、優希に攻撃を仕掛けてきたのだ。当然、優希に攻撃を避けることはできず――。

 

「これだから下賤な者は……!」

「あ、ありがと」

 

 半ば焦った様子のエンジェモンによって、助け出された。もし、エンジェモンがいなかったら、優希は今頃この世にはいなかっただろう。

 今日のエンジェモンはよく活躍する。エクスブイモンの時といい、今の優希といい、エンジェモンは口が悪いだけで、根まで悪いというわけではないらしかった。まあ、その口が悪いという部分が大概なのだが。

 そんな感じで、何気なく死にかけた優希だったが、助かったことに安堵の表情を浮かべるレオルモンや片成、グレイモンとは打って変わって、勇はまるで無表情だった。

 まるで、優希が死にかけていたことなど、興味はないかのように。

 

「……お前。ふざけるなよ」

 

 そんな勇が、ポツリと漏らしたその言葉。だが、その短い言葉の中にも、感情はこもる。その感情が、今の勇の心情をこれ以上なく明確に物語っていた。

 震え上がるほどの憤怒と憎悪。それが、その感情が、勇の言葉にはあったのだ。

 エクスブイモンが死にそうになっていることにも、優希が死にかけていたことにも、勇は何も思わなかったわけじゃない。ただ、エクスブイモンを心配するよりも、助かった優希に安堵の表情を見せるよりも、(ヴァンデモン)に対する怒りと憎しみの感情が勝っていただけで。

 

「……計画を変更してみるか。もしかしたら、当初の目的以上の思いがけないモノを得られるかもしれないな」

「……何を……なっ!?」

 

 そんな勇を見て、ヴァンデモンはニヤリと嗤う。まるで、子供がおもちゃを見つけたような――されど、それにしてはあり得ないほどの、冷たい笑みで。

 直後、勇をめがけて飛んでいったコウモリの群れが、勇を襲った。

 

「私にはそれなりにウィルスを操ることができてな。まあ、本職の魔術師には及ばぬが……真似事くらいはできるんだよ」

「っ!セバス!」

「了解ですな!」

「……エン……ジェモン……!」

「はっ!我が主!……この下賤な者が……いい加減にするのだ!」

「勇に何をするんだ!」

 

 ヴァンデモンが何を言っているのか、その真意は何なのか。優希たちにはわからなかった。だが、なんであれ、勇を助けなければならないことに変わりはない。

 優希の指示を受けて、レオルモンが勇救出のためにコウモリの群れへと突撃する。それと同時に、エンジェモンとグレイモンがヴァンデモンを狙うのだが――それを、スカルバキモンが許すはずもなかった。

 

「グギャガァアアアアアアア!」

 

 直後、グレイモンもエンジェモンも、スカルバキモンに一蹴される。

 スカルバキモンに狙われなかったレオルモンも、コウモリの大群を前にして満足に動くことすら出来ていなかった。これでは、勇を助けることなどできるはずもなく、勇は未だコウモリの群れの中にいた。

 だが、勇はコウモリの群れの中でコウモリたちに襲われているはずであるのに、不思議と彼の悲鳴は聞こえない。

 そのことが、余計に優希たちの不安を誘った。何か、恐ろしいことをされているのではないのか、と。

 

「っ!勇……!」

「動くな。グレイモン」

「お前っ!」

「わからないのか?あの勇という少年を生かすも殺すも私次第。お前が彼を助けに行くのなら、今すぐ彼は死ぬことになる」

「……っ!」

 

 そう言われてしまえば、グレイモンは動くことはできない。いや、グレイモンだけではない。エンジェモンもレオルモンも同じだ。彼らは今、勇を人質にとられているのにも等しい状況にあるのだ。

 この状況に、誰もが動くことができない。まあ、動けない間にスカルバキモンに襲われる様子がないということは、優希たちにとって幸いではあったが――だからこそ、優希たちは解せなかった。ヴァンデモンは、何を狙っているのか、と。

 人質をとって自分たちを動けなくさせて、その隙を攻撃させるわけでもなく。ただ、時間稼ぎをしているような。明らかに自分の方に優位があるこの状況でそんなことをするヴァンデモンに、優希たちの中の嫌な予感はますます大きくなっていた。

 

「先ほどの戦いは見せてもらった。グレイモン。あの有象無象の中で貴様だけレベルが違う。きっかけさえあれば完全体へと進化できるほどに」

「……だから、なんだ」

「わからんのか?お前だけではそこまでたどり着けなかっただろう?お前がそこまで至れたのは、間違いなくあの少年のおかげだ。……ゆえに、お前とあの少年の間には何かがある」

「……何、を」

「友情、愛情……絆とでも言うべき何かが。それによってお前たちはお互いでお互いを補っている。これが人間と関わる可能性というものか」

「何を言って……!?」

「学術院の連中ほどではないが、私も研究には余念がないのだ。もっとも、私の場合は好奇心というよりも、結果を得るための手段だが」

 

 勇を人質として取られ、誰ひとりとして動けない中で、ヴァンデモンは嗤いながら語る。

 そんなヴァンデモンの姿を前にして、この場の誰もが、焦燥感に駆られるままにこの状況を打開する何かを探していた。大きくなり過ぎた嫌な予感は、もはや頭を抱えたくなるほどの警鐘に変わっていたのだ。

 

「だから、いい加減に勇を解放しろ!」

「ククク……きっかけを与えてやろう、と言っているのだ。力をくれてやるぞグレイモン」

「何が……お前に貰うようなものな――」

 

 そうして、打開策を模索する中で、ヴァンデモンと相対する中で――その時は、唐突にやって来た。

 

「殺せ」

 

 それは、地獄の底から響いてきたような、憎しみと怒りに駆られた声で。

 それは、優希たちにとって聞き覚えのあり過ぎる声で。

 されど、だからこそ、優希たちにはそれが誰の声であるなど、わからなかった。いや、わかりたくなかった。

 

「がっAぁアアあaああアaaアあ……!」

「っグレイモン!?」

 

 直後、そんなグレイモンの狂ったかのような叫び声が上がる。

 見れば、グレイモンは何かを耐えるように、苦しみのままに叫んでいる。いや、事実耐えているのだろう。彼を襲う何かから。

 だが――。

 

「殺……せ……!」

「ガァア、ぐ。アアガアァアアアア!」

 

 だが、勇の声は止まらなくて。グレイモンは苦しみ続ける。

 とはいえ、そんなグレイモンの永劫にも続くかのような苦しみにも、遂に終わりの時がやって来た。いや、ある意味で始まりの時かもしれないが――それはともかくとして。

 一瞬後。桁外れの衝撃が辺りに走ったかと思えば、グレイモンに変わってそこにいたのは。

 

「あ……」

「な……」

「……!」

「あ、れは……」

 

 スカルバキモンと似たような、骨だけの怪物。だが、骨だけというのに、グレイモンよりも遥かに大きい。身長的なものだけではなく、その存在感も。まるで、戦いというものの本質を示しているかのような、そんな異形のデジモン。

 それが――。

 

「グギャガアアアアア!」

 

 苦しむかのように咆哮するそのデジモンは、スカルグレイモンと呼ばれる完全体デジモンで。

 何の皮肉か、勇がゲーム時代にパートナーとしていた完全体デジモンだった。

 




というわけで、第五十九話。
大成たちの戦線離脱とスカルグレイモンへの進化回でした。
まだまだ話は続きますね。

さて、次回はVSスカルグレイモンです。
いよいよあることが起こります!

それでは次回もよろしくお願いします。


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