【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第六十一話~立ちはだかる邪魔者~

 時は少し遡って。

 スティングモンは、負傷したエクスブイモンを抱えて大成と一緒に学術院の街まで戻ってきていた。

 目指す場所は、医療施設。生憎と言うべきか、今まで縁もゆかりもない場所ではあったが、場所だけは知っているそこを目指して、スティングモンは脇目も振らずに飛んでいく。

 そんなスティングモンや明らかに致命傷を負っているエクスブイモンの姿を見て、すれ違ったデジモンたちが何事かと騒いでいたが、彼らにかまっている暇はなかった。事態は、一刻を争うのだから。

 

「大……成さ……ん……!次……は――」

「次は……右!この街の中心の方!」

「わかり……まし……た!」

 

 自分の背中に掴まる大成に案内されて、スティングモンはひたすらに飛び続ける。体力の限界などとうの昔に訪れている。試合に、戦闘に、これ。それらすべてを全力で駆け抜けてきたスティングモンに、もう体力は残ってない。

 それでも彼が動くことができているのは、今が一刻を争う事態だから。言うなれば、火事場の馬鹿力のようなものだ。

 スティングモンは、自分の限界が訪れたことにすら気づいていない。ただ単に、動かなければいけないから、動く。そうしなければ、失うものがあるから。この後のことなど、知ったことがない。そんな単純な理屈で、彼はこの条件の中でも動けていたのだ。

 

「げほっ……!」

「がはっ……!」

「ちょ、お前ら大丈夫か!?」

 

 スティングモンの口から吐き出された苦しそうな息に、エクスブイモンの口から漏れ出した苦しそうな息に、大成は心配の声を上げる。返答は、なかった。

 返答もできないほど、両者は苦しいのだ。体力の限界を無視しているとはいえ、いや、無視しているからこそ辛いスティングモン。消え行く命を必死に繋ぎ止めているエクスブイモン。二人のこの状況は、ごく当然のものだった。

 そんな二人を見るのは大成も辛い。

 自分がヴァンデモンの攻撃に気付ければ、こんなことにはならなかったのだろう。なぜ気づけなかった。そんな、自責の念に大成が駆られたのも当然のことだった。

 大成もスティングモンも、各々が苦痛に身を置いたり、感傷に浸っていたりしている。だからこそ、余裕のなさが露呈する形で、自然と彼らの言葉は少なくなってきていた。

 

「……」

「……次は……左、その後に見える大きめの建物……のはず、だ」

「……わかりました」

 

 その言葉に自信がなさそうなのは、大成自身が直接訪れたことがないからか。

 ともあれ、もう少しで着くかもしれないという事実は、ようやく訪れた一筋の希望だった。だが、一筋の希望が見えたというのに、そんな彼らの間の空気は重い。状況が状況であるからして仕方ないかもしれないが、彼らには似合わない。

 そんな彼らに似合わない暗い雰囲気が、まるでこの先にある不安を暗示しているようで。それが、まるでこの先にある不吉な未来を象徴しているようで。

 どうしようもなく、大成は焦燥感に駆られてしまうのだった。

 

「……見えた」

「……!」

 

 そうして、数分後。

 ようやく見えた大きな建物。身体の巨大なデジモンにも対応できるようになっているのだろう。その大きさは、かなり巨大だ。単純な面積だけなら、学術院の街でもトップクラスだろう。

 医療施設であることを示す注射器らしきマークが描かれている以外は、そこは大きいだけで普通の家のようにも見える。だが、外観からは清潔さが滲み出ていた。医療にかかわる場はできる限りの清潔さを保たせなければならないということだろう。

 それは、きっとどんな世界でも共通なのだ。

 まあ、清潔とは言っても――あくまでこの街の中で比べた場合の話だが。

 

「……っ!すみません!」

 

 その施設には、さまざまなデジモンに対応するためか、大小さまざまなドアがあった。だが、診察時間が過ぎてしまったのか、休憩時間なのか、どのドアも固く閉ざされている。

 それでは困る。施設にたどり着いた大成たちは、力のままにドアの一つを叩いた。

 こちらは急患なのだ。例え、休憩中であろうと食事中であろうと睡眠中であろうと絶対に応対してもらわなければならない。

 人間と成熟期デジモンが力任せに叩いているのに、ドアは壊れる気配も開く気配もない。よほど頑丈なのだろう。その頑丈さが、恨めしい大成たちだった。

 ちなみに。この時の大成たちは知らなかったが、このドアがここまで堅固なのは患者の逃走防止用である。患者の中には手術中や安静状態で抜け出す者もザラにいるのだ。そういった者たちを逃がさないために、この施設の窓や壁、ドアはどこぞの牢獄並みに堅固なものとなっているのである。

 まあ、少し前にここに収容されたどこぞの竜騎士は、それでも強引に破壊して脱走したのだが、それはほんの余談だ。

 

「っ!頼む!アイツを助けてくれ!」

 

 そして、ドアを叩き始めてから数分経った時のことだった。ゆっくりと、だが確実に。そのドアは開かれた。

 大成たちは必死に声を張り上げていたというのに、その必死な声は聞こえてたはずであるのに、ずいぶんと呑気なものだ。

 とはいえ、開かれたドアを見て、大成たちはすぐさま頭を下げた。頭を下げるのは、頼みごとをする時の当然の対応だ。

 医療施設で働く者としての心構えが足りないんじゃないか。頭を下げながらも、頭の片隅でそう思った大成だったが、口には出さない。そんなことを口にしている暇はないのだから。

 

「もう、うるさいわね!こっちも忙しいのよって……なによ。大成じゃない」

 

 だが、次の瞬間に聞こえた声は大成たちにも聞き覚えのある声で。大成は驚きのままに、顔を上げる。

 そこにいたのは――。

 

「何してるのよ?」

「ウィッチモン!」

 

 そこにいたのは、つい最近に出会ったウィッチモンだった。

 

「なんでこんなところにいるんだって、そんなこといいから助けてくれ!」

「いや、自分から聞いておいてそんなことはいいからって……まぁ、いいわ。で?ここに来たってことは、怪我人?何?誰が怪我し、た……の……?」

 

 焦ってせっついてくる大成を前にして、ウィッチモンは状況がわかっていないように首を傾げていた――のだが、エクスブイモンの姿を目に入れるや否や、その声は萎んでいき、顔は青くなっていた。

 その姿を見て、ウィッチモンも理解したのだ。エクスブイモンが危険な状況にあることに。

 

「急いでエクスブイモンを入れなさい!」

「……っありがとうごさいます!」

「エクスブイモンは……!助かるんだよな!?」

「……」

「……おい?」

「……ウィザーモンも呼ぶべきね」

 

 縋り付くような大成の言葉。だが、ウィッチモンは返事をしなかった。

 それが示すものを考えないようにして、大成たちはエクスブイモンを連れて施設の中へと入っていく。

 そうして、大成たちがウィッチモンに通されたのは、どこにでもあるようなよくある部屋。そこに備え付けられているベッドにエクスブイモンは寝かされた。

ここに来るまでも、彼は苦しそうに息を漏らすだけで、いよいよその時が迫っているのが感じられて。大成たちは、徐々に近づいてきているその不吉な予感を考えないようにして、ウィッチモンを見る。

 何らかの魔術の準備なのだろう。その手の知識がない大成たちには全く理解できなかったが――ウィッチモンは険しい顔で何かをしていた。

 

「待たせたか?」

「いや、ナイスよ」

 

 そして、ウィッチモンの魔術が完成するその直前。いつものように落ち着いた様子で、ウィザーモンがこの部屋の中に現れる。

 おそらくはウィッチモンに呼ばれて、転移か何かでやって来たのだろう。突然の登場に驚きを隠せなかったものの、ウィザーモンが来てくれたのは大成たちにとってありがたいことだった。

 

「ウィザーモン!」

「……ふむ?これは、マズイな。正直言って予想以上だ」

「ちょ、冷静に言ってる場合?」

「わかっている。魔術を起動だ。正直言って、回復系は専門外だからな。任せるぞ」

「私だって、専門じゃないわよ」

「……え?」

 

 今、ものすごく不吉というか、嫌な言葉を大成たちは聞いた気がした。

 その言葉を聞かなかったことにしたかった大成たちだったが――そうもいかない。その言葉の意味することは、ウィッチモンたちではエクスブイモンを治すことが治すことのできる可能性は低いということで。

 無論、彼らも全力を尽くしてくれているのだろうが、不安は尽きない。

 ウィザーモンの登場によって新たに見えた希望だったが、予想以上に事態は好転していないようだ。

 

「……ごめんなさい」

「なんで、謝るのですか?」

「……私は……ここの先生と知り合いでね。だから、ここの先生が留守の間を任されてたの」

「……だから、なんだよ」

 

 だから、失敗するのも仕方ない、と。失敗しても文句は言わないでくれ、と。

 ウィッチモンの言葉はまるで言い訳をしているようにも聞こえて――今から失敗の言い訳でもする気かよ、と。大成は思わず穿った考えをしてしまう。

 無論、そんなことはない。ウィッチモンは自分たちの客観的な状況を説明しただけで、そこに他意はなかった。失敗する可能性を考えることはあっても、失敗することは意地でも考えない。

 言い訳などするまでもなく、専門かどうかなども関係なく。彼女たちは、ただ全力を尽くすのみなのだ。彼女は、失敗の可能性に怯えて初めから言い訳するような、そんな臆病な卑怯者ではない。

 そんな彼女たちを見ても、大成が先ほどのような穿った考え方をしまったのは、やはり大成自身もこの状況に相当参っているからだろう。

 そんな大成をわかっているのか、わかっていないのか。ウィッチモンとウィザーモンは、何事を気にするでもなく魔術を行使し始める。

 

「術式起動!どう?」

「……ふむ。なかなかだな。伊達にここに出入りしていたわけではないようだ」

「あ、当たり前でしょ!」

「……エクスブイモンは、助かるのか!?」

「今の段階ではなんとも言えないな」

「ちょっと!」

「取り繕っても仕方ないだろう。僕たちと……そしてコイツ自身の生きる意志次第だな」

 

 大成たちの目の前で、エクスブイモンの体に空いた穴はどんどん埋まっていく。それでもなお、ウィザーモンは予断を許さないと言った。

 いくら体を治しても、元に戻れるかどうかはエクスブイモン次第だ、と。

 そんなウィザーモンの言葉に、大成たちは自然と祈っていた。

 

「さて……どうしてこんなことになったのだ?」

「……試合をしていたら、スカルバキモンとかいうデジモンに襲われて……戦ってたらヴァンデモンとかいう奴に不意打ちされた」

「ふむ。なるほど。しかし、ヴァンデモンか……」

 

 明らかに説明不足感を抱かせる大成の言葉。だが、それを聞いたウィザーモンはおおよその事態を把握する。ヴァンデモンにスカルバキモン。完全体デジモンを相手して、その上で格上デジモンからの不意打ち。それでこの状況。

 ウィザーモンの頭の中で組み上げられた事態の概要は、だいたい合っていた。

 

「なぜ襲われたかわかるか?」

「……知るかよ」

「ふむ。愉快犯か計画的犯行か……まったく。最近のこの街の騒がしさは群を抜いているな」

「それより!大成とスティングモン……貴方たちだいぶ酷い顔しているわよ?それに疲れてそうだし……」

「そうですね……」

 

 ウィッチモンの言う通りだった。酷い顔なのも疲労がたまっているのも、状況が状況だから仕方ないことであるが、先ほどからスティングモンの言葉が少ないのは疲れすぎて言葉を話す余裕があまりないからだ。

 そんな二人を見たからだろう。あと、この場に二人がいてもあまり意味ないこともあって――ウィッチモンは、とある部屋についての行き方を手短に説明する。

 

「……なんで?」

「最近私がここに出入りしているのは、研究目的もあってね。そこの部屋に置いてある薬は疲労回復の効果がある薬だから。飲んできて」

「そんな気分じゃ……」

「……どのみち、貴方たちに倒れられても困るの!こっちも余裕がある訳じゃないんだから」

 

 そう言われては、大成たちも断りづらい。

 ウィッチモンもウィザーモンも、魔術を行使しながら話せるだけの余裕はあるようだったが、それ以外ができるほどの余裕はないのだ。だから、大成たちのどちらか片方にでも倒れられると、そちらに対応することができなくなる。

 エクスブイモンが治った時のこともあって、ウィッチモンは大成たちにも回復して欲しかったのだ。まあ、ささやかなウィッチモンの気遣いである。

 

「いい?私の研究室って書かれた部屋の入って右にある戸棚の茶色の瓶の中に入っている薬よ?それ以外は危険なものもあるから注意して」

「なんで疲労回復のものと危険物が一緒にされているんだ……」

「そんなの、試作品だからよ」

「……」

 

 ウィッチモンの言った“試作品”という部分に、大成たちはドッと疲れが溜まったような気がした。肉体的ではない方の。

 つまり、ウィッチモンは大成たちを気遣いながらも、大成たちを実験体にするつもりなのだ。

 そんなこんなで、肉体的にも精神的にも疲れた体を引きずって、大成たちは部屋を出て行く。ドアを閉める瞬間に、目を閉じたままのエクスブイモンの横顔をチラリと見ながら。

 

「やれやれ……彼はもう少し豪胆だと思ったんだがな」

「仕方ないでしょ。知り合いが死にかけたところを見ちゃったんだから」

「……こういうことは二度目だと思ったんだが?」

「聞いた話だと、前の時は助かった後に思い返したんでしょ?助かった後に思い返すのと、助かるかどうかもわからない時から思うのは違うわよ」

「確かにな」

 

 大成たちが出て行った後も、ウィッチモンとウィザーモンは話しながらも魔術を行使し続ける。声だけ聞けば、余裕そうにも呑気そうにも思えるが、実際はそんなことはない。

 魔術のエキスパートとも言える二人をして、余裕はなかった。

 先ほども言ったが、二人ともが回復魔術に関しては専門ではない。一応、一通りはできるが――今にも死にそうな相手を復活させるレベルの大魔術は、何のノウハウもなくできるようなものではない。

 つまり、二人にとって初めての試みなのだ。既存の型でなんとかできるようなものでもなければ、なんとかできるような経験もない。魔術を作り上げ、対象の状況を観察し、間違いや効率の悪い部分を見つけては即座に修正し。それらすべてを即興で行っている。少しでも気を抜けば、取り返しのつかないことになる可能性もある以上、余裕など持てるはずもなかった。

 

「やれやれ、旅人もそうだったが……」

「本当に話題に事欠かないわよね。人間って」

 

 そんな、人間についての間違った認識を抱いたりしながらも、回復作業は進んでいく。

 そうして、大成たちが出て行って数十分後。

 ここまで時間が経ったというのに、未だ大成たちが帰ってこない。そのことが二人には気にかかったものの、ようやく見えてきた回復の兆しが見え始めた頃のことだった。

 

「このままいけば、なんとかなりそうだな」

「ええ。最後まで油断なく、ね」

「……それは君だろう。昔から妙な所で抜けているからな」

「そ、そんなことないわよっ!」

 

 このままいけば。

 ウィザーモンの言ったその言葉はつまり――このまま行くことができなければ、なんとかならないということで。

 

「ほう。流石と言うべきか。それでこそ狙いがいがある」

「っ!」

「なっ!」

 

 そんな時だった。

 この場に、コウモリの群れと共にすべての元凶たる(ヴァンデモン)が現れたのは。

 




というわけで、第六十一話。
大成たちの医療施設までの道中と、そしてなぜかいるウィッチモンと引っ張り出されたウィザーモンの話でした。

さて、次回からはヴァンデモンとの戦闘です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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