【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第六十二話~最後に望むは繋がりの進化~

 それは、まさに突然の悪夢だった。

 

「ほう。流石と言うべきか。それでこそ狙いがいがある」

 

 この部屋のドアが開いた気配はなかった。窓も開いてはいない。

 なら、このヴァンデモンはどこから侵入してきたというのか。先ほどのウィザーモンは自前の魔術を使って転移をしてきたのだが、ヴァンデモンはそもそも魔術を使えない。勇の例から言って似たようなことくらいはできるのだろうが、転移のような高等魔術を使えるはずはない。

 まさに神出鬼没。

 そんなヴァンデモンの姿を前にして、ウィザーモンとウィッチモンは焦っていた。それもそうだろう。彼らは今、エクスブイモンの治療で手一杯だ。他のことに対応する余裕はない。

 ヴァンデモンをどうにかすることはできず、またヴァンデモンが何かをしてきた時には対応できない。ヴァンデモンに対応するということは、それはそのままエクスブイモンの治療を中断するということであるのだから。

 

「狙いがい?……また僕かな?」

「ククク……やはり頭が回る。その質問にはイエスと答えよう」

「……ふむ。何が狙いだね?僕の研究か?デジメンタルか?それとも……」

「敢えて言うなら、全てだ。お前の知識、頭脳は貴重だ。成熟期の身でそこまでのことを成せた者などお前を除いていまい」

「買いかぶりすぎだ。僕よりもアグモン博士の方がずっと詳しいだろう」

「……ふっ。確かに。かのアグモン博士は本当に凄まじい。だが、私が必要としているのはお前の研究だ。言っただろう。お前のすべてが狙いだと」

「随分と熱烈なヘッドハンティングだが……笑えないな」

 

 ウィザーモンはあの手この手でヴァンデモンとの会話を続けようとしていた。

 言うなれば、時間稼ぎだ。少しでもエクスブイモンに割ける時間を伸ばす。ついでに、大成たちがやってくる時間を稼ぐ。そのために、ウィザーモンは焦りをおくびにも出さず、慎重に慎重を重ねて言葉を紡いでいた。

 まあ、大成たちがやって来られようと、相手は完全体。いくら人数がいようと成熟期では部が悪いどころではない。が、今の状況よりはずっとマシではあるか。

 博打が過ぎるが、そのためにウィザーモンは時間を稼いでいた。とはいえ、無論それは――。

 

「ククク……時間稼ぎはそろそろ終わりでいいか?こちらも時間がないのでな」

「ふむ。時間稼ぎ?話くらい付き合ってくれてもいいだろう?」

「たいしたポーカーフェイスだな」

 

 それは、ヴァンデモンにもわかっていたのだが。

 ヴァンデモンの指摘にも顔色を変えず、しゃあしゃあとウィザーモンは話を続ける。ヴァンデモンとしては、このまま付き合っていてもよかったのだが、彼自身も時間があるわけではない。なまじ時間をかけて、スレイヤードラモン辺りに気づかれてしまえば、その時点で詰みだ。

 ゆえに、ヴァンデモンは迅速で事を達成しなければならなかった。

 

「さて、では連れて行かせてもらう!」

「……っち!」

「覚悟――っ!」

 

 だが、そんな時だった。凄まじい轟音と共にこの部屋のドアが開いたのは。

 あれだけの音が鳴ったのだ。ドアはよほど凄まじい力で開けられたのだろう。それでも壊れていない辺り、ドアの頑丈さが伺える。

 ドアを開けたのは者は、言うまでもないことだった。この部屋におらず、この施設にいた者。ここの施設の主が留守にしている以上、それは限られる。

 一瞬後、ウィザーモンに迫るヴァンデモン目掛けて、スティングモンが突撃して。

 

「ふっ!」

「……お前は先ほどの。なるほど。やる気らしいな」

「エクスブイモンを助ける邪魔はさせません!」

「ククク……もう助からない者を助けようとは。暇なことだ」

「っ!黙ってください!」

 

 突然のスティングモンの襲撃だったが、ヴァンデモンは軽くあしらっている。そこには、やはり成熟期と完全体の力の差があった。

 それでも臆することなく戦うスティングモンは、そのままヴァンデモンを開いたままのドアから廊下へと押し出した。場所を廊下に移すということなのだろう。この部屋の中では、エクスブイモンが危ないから。

 一部始終を見ていたウィザーモンとウィッチモンもスティングモンの手助けに回りたかったが、手を離すとエクスブイモンが危ない。歯がゆい思いで魔術を行使し続けるしかなかった。

 

「ウィッチモン!助かった!」

 

 そんな時、部屋にやって来たのは大成だ。ヴァンデモンとスティングモンの戦いの隙をついて、彼はこの部屋へと潜り込んだのである。

 

「別にいいわ。というか、遅いわよ」

「仕方ないだろ!この建物広いし……ウィッチモンお前の部屋トラップだらけなんだよ!」

「……ああ、そういえば」

「まあ、薬の効果は凄かったけどな」

 

 そう。大成たちは今の今まで、この施設の中で延々と迷っていた。

 しかも、ようやくたどり着いたウィッチモンの部屋では、危険なトラップが至るところに仕掛けられていて。飲めと言われた薬を探すのにも一苦労だったのである。

 とはいえ、その分だけ薬の効果は凄まじかった。それを飲んだスティングモンが、極度の疲労状態から一発で全快状態まで持ち直したくらいだ。

 そして、帰り道でも迷っている中で、突如としてウィッチモンの声が大成たちの頭の中に響いたのである。

 まあ、それはウィッチモン自身の余裕がない状態で使われた魔術であったために、酷く聞き取りづらいものだったのだが――とにかく、そんなウィッチモンの手助けによって、大成たちは帰って来られたのだ。

 

「今はイモがヴァンデモンを抑えてるけど……でも、これ以上は……いつまで持つか……!」

「わかってるわよ!けど、こっちも手一杯で……」

「ふむ。エクスブイモンの回復具合から言って……あと数十分はこのままの方がいいな」

「数十分!?そんなの……!」

 

 スティングモンではヴァンデモン相手に数十分も持つはずがない。

 スティングモンは自分のパートナーだ。信じたかったが、それでも何の根拠もなく信じ切れるほど、大成は楽観していなかった。

 どうすればいい、と。大成の頭の中で、さまざまな策や案が考えられていく。だが、どれもこの状況を打破するには程遠いものばかりでしかなかった。

 チラリ、とドアの隙間から廊下を見れば、スティングモンがヴァンデモンに必死にくらいついている――。

 

「っく!」

「弱いくせに。時間がないのだがな!これで終わりだ」

 

 というか、もう決着がつくところだった。

 ヴァンデモンの合図と共に、どこからか現れたコウモリの群れがスティングモン目掛けて飛んでいく。それは、エクスブイモンの腹を貫いた技。エクスブイモンを貫いた時の形態が一点集中型であるのなら、今スティングモンを狙う形態は、さしずめ拡散型とでも言うべきか。

 これが、“ナイトレイド”と呼ばれるヴァンデモンの必殺技。コウモリの群れを操り、奇襲を仕掛ける技。もっとも、今回のように奇襲でなくとも相当な威力はあるのだが。

 自分に迫り来るコウモリを、スティングモンは迎撃する。だが、いかんせん数が多い。すべてを迎撃することなどできるはずもなく――気がつけば、かなりの数を洩らしていて。それらすべてがスティングモンを襲って。

 数瞬後、ボロボロになってスティングモンは倒れた。

 

「っぐ……」

「ほう……即死しないか。先ほどの奴といい、お前といい……なかなかだ。それがお前本来の能力なのか……それとも人間と関わっているが故の能力なのか……気にはなるがな」

「……ま、て」

 

 スティングモンがやられた。その事実は、大成の頭を真っ白にさせるに十分だった。

 今まで最悪と言いたくなるような状況は何回もあった。だが、どんなことがあっても、スティングモンがここまで完膚無きまでにやられたことはなかったのだ。

 いつもは乗り越えたり、直接的な被害を受けたのは別の者だったり。スティングモン自身がここまで怪我を負うことはなかった。

 だからこそ、今にも死にそうなスティングモンを前にして、大成の頭の中は真っ白になって。どうしたらいいかわからなくなってしまったのだ。

 

「はっ……なんて顔してやがる……」

 

 だが、そんな時だった。大成の後ろから声が聞こえたのは。だが、その声は、今聞こえるはずのない声で。思わず大成は振り返った。

 

「よぉ……死にかけだけどな、戻ってきたぜ」

「っ!エクスブイモン!」

 

 そこにいたのは、フラフラながらもゆっくりと起き上がったエクスブイモンだった。彼はウィザーモンとウィッチモンが上げる制止の声も聞かず、ゆっくりと歩いて行く。

 そんなエクスブイモンがドアのところへとたどり着くのとヴァンデモンがドアから入ってきたのは、同時だった。

 

「ほう。我がウィルスに侵されながら意識を取り戻すとは……」

「っ……なるほどね!回復魔術の効きが悪かったのは、私たちのウデのせいだけじゃなかったってわけ……!」

「ふむ。ウィッチモン、君は気づいてなかったのか……」

 

 外野二人は何かを言っているが、大成には聞こえなかった。彼にとっては向かい合って睨み合うエクスブイモンとヴァンデモンの方がずっと重要だったのだ。

 このままではまた戦闘が始まり、そしてエクスブイモンは。

 それがわかったからこそ、大成はエクスブイモンを止めようとする。

 

「っ!やめろ!エクスブイモン!」

「退け。退かぬなら、その短い命がさらに短くなるぞ?」

「ああ、“今は”退いてやるよ。オレも……最後にやることがあるからな」

 

 予想していたことにならず、唖然としている大成やウィザーモンたちの前で、ヴァンデモンに道を開けてエクスブイモンは部屋を出て行く。

 そんなエクスブイモンを見送ったヴァンデモンは、ふん、と興味を無くしたかのように鼻を鳴らし、ウィザーモンへと迫っていく。

 とはいえ、ウィザーモンもウィッチモンも、先ほどまでとは違う。皮肉なことに、エクスブイモンがボロボロながらも出て行ってくれたことで、彼らは本気を出せるのだから。

 

「抗うか。まぁいい。生きてさえいればな……」

「ふむ。悪いが、僕の研究は僕だけのものだ。誰にも渡さない」

「……アンタねぇ……まぁいいわ。アンタがあっさりと連れてかれるのも嫌だし」

 

 そうして、ウィッチモンとウィザーモンの二人とヴァンデモンが狭い部屋の中でぶつかり合う。

 一方、大成はこっそりと部屋から出て、先ほど部屋から出て行ったエクスブイモンの後を追った。幸い――と言っていいのかわからないが、エクスブイモンの歩みはその治りきっていない怪我によって、だいぶ遅い。追いつくのに時間はかからなかった。

 

「ちょ、おい!お前止まれ!」

「悪ぃ、もう止まれないわ」

「はぁ!?なんでそんな状況で……お前もイモもボロボロなんだぞ!?」

「……ボロボロだからだよ」

 

 大成自身も、少し無理を言っているのは自覚していた。

 スティングモンがあんなことになっているのも、エクスブイモンがこんなことになっているのも、すべてなり行き上の仕方ない部分が多少なりともある。

 それでも。いや、だからこそ、今の大成には、子供のように感情任せにわめくことしかできなかったのだ。

 一方のエクスブイモンも、そんな大成に苦笑いを浮かべながら、それでも歩みを止めることはなかった。

 彼にはわかっていたのだ。次止まったら、もう動くことができなくなることが。もう彼は、そんな瀬戸際の状態だったのである。

 そうして、エクスブイモンはゆっくりと歩み続け、数分をかけて、倒れ伏して動けなくなったスティングモンの下へとたどり着く。

 近づくと、スティングモンの怪我はなおさら酷く見えて。思わず大成が息を呑んでしまったのも、仕方ないだろう。

 

「……よ、派手にやられやがって……!」

「う……」

「っち。仕方ねぇ、行くぞ」

「……え、おい?エクスブイモン!?」

 

 お互いボロボロだな、と。傷つき、疲れ、うまく会話することもできないスティングモンの姿に肩を貸して、エクスブイモンは笑いながら来た道を戻り始める。

 見ているしかなかった大成も、何故かエクスブイモンを邪魔する気にはなれなかった。直感で、最後であるエクスブイモンを邪魔してはならないと思ったのかもしれない。

 何をどうすればわからなかった。それでも、何かはしなければならないと思って。些細ながら大成もスティングモンを支えることにする。エクスブイモンとは反対側の体を支えて、大成も歩き出した。

 

「ドンパチしてんな」

「……そうだな」

「はは……アイツらって研究職なんだろ?初めて会ったけど、研究職がオレたちより強けりゃ、世話ないんだけどな」

「……アイツらは別格だろ。いろんな意味で」

 

 そんな風に歩きながらも、部屋の方からは爆音が聞こえてきている。どうやら、ウィザーモンたちはよほど激しく戦っているらしい。完全体と戦えるとは、流石と言うべきか、デタラメだと言うべきか。

 ともあれ、廊下にいる自分たちは歩くので精一杯だった。たかが部屋と廊下の距離。たいした距離ではないが、その時の彼らには何よりも長い道のりのように感じて。

 だが、それでも足を動かし続ければ、いつかはたどり着く。

 それが数分だったのか、数秒だったのか。三人にはわからないことではあった――が、それでも、彼らは部屋へとたどり着いたのだ。

 

「自ら死に来たのか?」

「はっ……言ってろ。てめぇみたいなやつに負けて死んだとあっちゃ、死んでも死にきれねぇ」

 

 ヴァンデモンの言う通りだ。

 このボロボロのデジモン二体と戦闘では役に立たない人間一人が加わったところで、無駄死にするのは目に見ている。

 それでも、エクスブイモンはここへ来ることを望んだ。()()()、やりたいことをやるために。

 

「……ならば、殺してやろう。何、鬱陶しいハエなど……殺すのが一匹から四匹になっても変わらん」

「はっ……一つ訂正してやる。四匹じゃねぇ。三匹だ」

「何……?ここにいる誰かは見逃してもらえるとでも?」

「はは……そんなんじゃねぇよ。今からお前と戦うのは……オレたち二人じゃねぇ。オレたち一人だけなんだからな!」

 

 エクスブイモンの言葉を前に訝しむヴァンデモン。

 だが、それは唐突に――。

 

「……なっ!」

「えっ……!」

 

 それは、唐突に起こる。

 その事態を前にして、ヴァンデモンさえも含めて、この場にいた全員は驚愕の声を上げるしかなかった。

 それはそうだろう。エクスブイモンとスティングモンを包んだのは、光だったのだから。それも、進化の光だ。つまり、進化が起こったということで。

 なんの脈絡もない。なんの前兆もない。だというのに、同時に進化が起こる。しかも、起こったのは普通の進化とは違う。混ざり合うかのような、奇怪な進化。そんな事態に混乱しないほうがおかしい。

 だが、これは偶然ではない。エクスブイモンは無意識的に知っていたのだ。これを行うことができる、と。ほかならぬ、あの機械里でエテモンと戦った時から。だから、ある意味これは必然だった。

 

「やっぱ、やればできるもんだな」

 

 ジョグレス進化。

 二体のデジモンが混ざり合う、融合進化とでも言うべき進化。それが、この場で起こった進化の名前だった。

 一瞬後、光が晴れて現れたのは、エクスブイモンとスティングモンの両方の特徴を兼ね備えたかのような、竜人型の完全体デジモン。パイルドラモンと呼ばれるデジモンだった――。

 




というわけで、第六十二話。
大成たちの完全体その1への進化回でした。
成熟期に進化してから現実の時間で三ヶ月近く経っているんですよね。
……まさかここまで伸びるとは。

さて、次回はVSヴァンデモンその1です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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