【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第六十三話~残されたモノが導く進化~

 この部屋に新たに現れたパイルドラモンだが、何と言うか、ギリギリだった。大きさが。

 そう。エクスブイモンやスティングモンよりも一回りほどの巨体を誇るパイルドラモンは、屈まなければこの部屋の中に入りきらなかったのである。

 現状は、そんな風な、見方を変えればギャグにしかならない状態だったのだが――本人たちにとっては、この上なくシリアス(大真面目)だった。

 

「イモと……エクスブイモンが……ジョグレス進化……!?」

「ははは……まさかこの目で現物を見られるとは……!これだから人間のパートナーは凄い!」

「ウィザーモンアンタね……テンションの上げどころが違うわよ」

「何を言う。君とて少しテンションが上がっているものを」

「そりゃ、あんなものを見せられればね」

 

 そんな風に、大成とウィザーモンたちがそれぞれの反応を浮かべている中で、ヴァンデモンは一人呆然としていた。

 ヴァンデモンにとって、エクスブイモンもスティングモンもたいした相手ではなかったはずであるのに。負けている部分など数えるくらいしかなかったはずであるのに。

 そんなどうしようもない雑魚でしかなかった者が、いつの間にか自分と同じ領域にいる。それは、ヴァンデモンにとっては想定外で――そして、どうしようもなく理不尽なことだった。

 

「っく!だが、進化したての若造に負けるほど……!」

「……ちょっと悪いな」

「……何?」

「時間がなさそうなんで……な!」

 

 直後、パイルドラモンが駆ける。その巨体によって、部屋が崩壊して行くことも気に止めず。

 ただ、真っ直ぐにヴァンデモンの下へと向かって――。

 

「ぐ……なんというパワー……!」

「おらぁ!」

 

 パイルドラモンは、ヴァンデモンを殴り飛ばした。

 いきなりだったとはいえ、反応できないほどではない。ヴァンデモンは咄嗟に両腕を腕をクロスさせてガードをしたが、パイルドラモンの予想以上にパワーに驚いているようだった。

 反対に、ヴァンデモンがそうやって驚いている今こそ、パイルドラモンにとってはチャンスだった。そのままの勢いを保持したまま踏み込み、力ずくでヴァンデモンをこの部屋の窓へと叩きつけて。

 一応、この施設の建物は、その性質上かなりの強度を誇る――のだが、この前までの戦闘でだいぶ痛んでいたらしい。ヴァンデモンが叩きつけられたことによって、窓と壁は崩壊。ヴァンデモンはそのまま外に放り出された。

 

「ぜっ……はっ……」

「おい、イモ……じゃないか。え、エクスブイモンか?」

「ぜぇ……はぁ……どちらでも……いい!あと……今の……オレは……パイル……ドラモンだ……からな!」

 

 やはり、ジョグレス進化したとはいえ、前までの疲労が残っているのか。それとも別の要因があるのか。

 そのどちらかなのか、どちらもなのか。大成にはわからないことだったが、今のパイルドラモンは明らかに極度の疲労状態だった。それこそ、つつけば倒れてしまうような。

 明らかにパイルドラモンは無理をしている。それは大成だけでなく、この場の全員が感じていたことだった。だが、パイルドラモンは止まる気配がない。外に吹っ飛んでいったヴァンデモンを迎え撃つために、彼は崩壊した壁から外に出ようとしている。

 

「すぐ……戻る……から……」

「いや、ダメだろ!おい……!」

「……ふむ。パイルドラモンと言ったか。先ほどから、最後だの、時間がないだのと言っていたな」

「……まさか。アンタ……!」

「はっ……大成を頼むぞ」

「おい!」

 

 何かに気づいたようなウィザーモンとウィッチモンに大成を預け、有無を言わせずにパイルドラモンは外に躍り出る。残りの時間だけで、ヴァンデモンを倒すために。

 はたしてヴァンデモンは、地面に落ちた状態で少々の瓦礫に埋まっていた。それは、一見すればダメージを負ってしまい、もう動けないようにも見える。

 だが、そんなヴァンデモンを見て、パイルドラモンは気づいていた。彼は未だ無事である、と。油断してはならない、と。

 

「はぁぁあああ!」

「若造ごときが……この私の邪魔を!」

「……知るかよぉ!」

 

 パイルドラモンの接近と共に、ガバリと起き上がったヴァンデモンは、迎撃のためにもそのまま空へと飛び上がる。その後を、パイルドラモンは休むことなく追った。

 パイルドラモンの登場によって仕切り直されたとはいえ、状況は未だヴァンデモンの有利で事が運ばれている。ヴァンデモンの言う通りパイルドラモンは若造なのだ。それだけで、戦いはヴァンデモンの有利に事が運ぶ。

 そう。いくら進化したとはいえ、進化したてのパイルドラモンとヴァンデモンでは差があるのだ。経験という名の差が。

 とはいえ、パイルドラモンにしかない強みもあることはある。

 

「ぉおおおおお!」

「っく!止まれ!」

「止まるかっ!最後にリベンジと勝ち星を上げさせてもらうんだからな!」

 

 それは、勢い。進化したての、若いからこそ持っているモノ。目には見えないし、必ずしもプラスに働くとは言い切れないものではあるが、あればあるだけ力となるもの。

 ヴァンデモンになくて、パイルドラモンにあるものは他にもある。それは、先ほどのパイルドラモンの言葉の中にわかりやすく示されていた。例えるのならば、火事場の馬鹿力というか、盛大に着火した線香花火というか。

 

「邪魔だけは一流の死に損ない共が!」

「はっ!生憎とな……奇襲で腹ぶち抜いてくるような……余裕のない奴に負けてたまるかってんだ!」

 

 ここまで来て、ようやくヴァンデモンのその表情に焦りが生まれる。

 予想外の敵の出現。想定外の時間の経過。

 そんな自分の計画にないイレギュラーの存在が、ヴァンデモンを焦らしていた。計画にイレギュラーは付きものだとはいえ、このままでのイレギュラーはヴァンデモンも想像していなかった。

 一番の問題であるスレイヤードラモンに気づかれないようにし、複数の完全体クラスの配下のデジモンたちを連れてきて。そして、さらに完全体たる自分の存在。

 ヴァンデモンとしては、計画を念入りにやっていたつもりだったのだ。そう、やっていた()()()だったのである。

 ヴァンデモンにとって何が悪かったのかといえば――欲を出し過ぎたということだろう。

 

「っく……!」

「これで……終わりだァ!」

 

 直後、パイルドラモンの腰にぶら下がった二つの生体砲の砲身が、ヴァンデモンに向けられる。そこから放たれるのは、エネルギー波“デスペラードブラスター”。パイルドラモンの必殺技だ。

 それの脅威を感じ取った瞬間に、ヴァンデモンはコウモリの群れを操り、防御の構えを取る。

 その一瞬後。放たれたパイルドラモンの“デスペラードブラスター”は、ヴァンデモンを取り巻くコウモリの群れごと焼き払った――。

 

「がぁあ……」

「ぜっ……はっ……ぐぅ……」

 

 直撃。一瞬の逃げる隙も与えられず、エネルギー波の直撃を受けたヴァンデモンは地に沈んだ。この字面だけ見れば、どちらが勝者なのかはわかりきったことだろう。

 だが実際は、どちらが勝者なのか。ひと目で見分けるのは難しい。

 それほどまでに、勝者であるパイルドラモンは消耗していてたのである。動くのも辛い身で、勢いに任せて痛みと疲労を無視してきたツケがここで来たのだ。

 

「おい!おい!しっかりしろ……!」

「……あぁ……大成か……」

 

 そんな時、ようやく戦闘が終わったことを悟って解放された大成が、エクスブイモンの下へとたどり着く。今にも息絶えそうなパイルドラモンに大成は声をかけるが、彼は苦笑いを浮かべるだけだった。

 大成の傍にはウィザーモンとウィッチモンもいる。彼らはあの手この手を使ってパイルドラモンを助けようとしているが――お世辞にも効果があるとは言い難かった。

 

「わりぃな……ドジ踏んじまったわ」

「う……あれ?」

「っ!分離した!?」

 

 そして、次の瞬間。パイルドラモンが一瞬光ったかと思うと、その場にいたのはスティングモンとエクスブイモンの二人だった。

 だが、スティングモンの方は傷も治っていて、ほとんど元気であるのに対し、エクスブイモンの方はパイルドラモンの時と同じように死にかけで。ほとんど痩せ我慢でなんとか話すことはできるようであったが、起き上がったり立ち上がったりするのは無理なようだった。

 なんで二人とも元通りになっていないのか。思わず大成がそう思ってしまったのも無理はないことである。

 

「……はは……やっぱ無理か。まぁ、死ぬのが確定した奴はどうあがいても無理ってことか」

「っ!エクスブイモン!」

「わけわかんねぇことばっかり言ってんじゃねぇぞ!ウィザーモン!ウィッチモン!何とかしてくれ……!」

「っ!やってるわよ!やってるけど……その……」

「……なんだよ……何が……!」

「これ以上は無理だ」

 

 言いにくそうに言葉を濁したウィッチモンに変わって、淡々と告げたウィザーモン。だが、その言葉は、言うまでもないほどにエクスブイモンの死の宣告で。

 大成たちも、その意味がわからないほど馬鹿ではない。言葉を告げられたその瞬間に、その言葉の意味するところを察した二人は、気が抜けたようにその場にへたり込んでしまった。

 

「……そんな」

「なんとかなるだろ!?なっ!?ウィザーモンすげぇじゃねぇか!」

「……僕にだってできることとできないことはある」

「頼む!何とかしてくれっ!」

「……大成」

 

 縋り付くようにウィザーモンとウィッチモンに頼み続ける大成。だが、二人とて何とかしたくても、できないものはできないのだ。

 大成もスティングモンも、頭の片隅ではそのことをわかっている。だが、それでも頼まずにはいられなかった。出会ってたかが数日の仲であるとはいえ、大成たちはエクスブイモンと今生の別れをするのは嫌だった。

 出会ってたかが数日でも、時間など関係ない。仲間なのだ。友達なのだ。ライバルなのだ。パートナーと言い切れないところがアレであるが、大成もスティングモンもエクスブイモンが大切な存在であるということにはかわりないのだ。

 目の前で大切な人が、理不尽によって死んでいく。

 それは、平和な世界で暮らしていた大成にとっても、大成と出会ってすべてが始まったスティングモンにとっても、物語の中だけの、可能性の中だけの、考えたくもなかった未知の体験だった。

 

「……くはは……いや、悔しいなぁ……結局、お前との決着……つけられなかったんだもんなぁ……」

「そんな……僕だって……同じですよ」

 

 心底悔しそうに言うエクスブイモン。彼は今、大成たちと出会ってからの日々を思い出していて。

 出会いも何もかもが偶然ながらも、ライバルとも言える関係になってしまったスティングモンと決着がつけられなかったことそれだけが心残りだ、と。そう言っていた。

 

「……おい、ウィザーモン……」

「なんだ?……遺言かね?」

「……ま、似たようなもんだ。オレの力……なんとか残せねぇか?元々こいつらに迷惑かけた詫びのつもりでついて来たんだ」

「そんなもん、いいから生きろ!」

「無茶、言うなよ。それで、だ。こいつらに力を残せれば、さっきみたいにジョグレス進化できるかもしれないし……な」

「……何?それは……できるが……」

 

 力を残す方法は確かにある。だが、ジョグレス進化の条件が明らかになっていない現状で、それで確実にジョグレス進化することができるなどと言えるはずもない。机上の空論でしかないのだ。

 それを踏まえた上で、それでいいのか、と。ウィザーモンはエクスブイモンに問うていた。

 

「何より、オレもただで死ぬよりはずっといい」

「……わかった。……ウィッチモン」

「……了解」

 

 そんなウィザーモンの問いに対しても、エクスブイモンは即座に頷いた。もう決心してしまったようで、決意は固いようだった。

 エクスブイモンは嫌だった。別に、永劫に生きていたいなどとは思わなかったが、それでもただ無駄に死んでいくことは嫌だった。だからこそ、最後に出会えた友たちに、自分を託せたなら、ここで死ぬ意味もあるだろう、と。そう思ったのだ。

 わかった、と。ウィザーモンは頷いて、ウィッチモンと共に魔術を行使する。その瞬間に、エクスブイモンがだんだんと光に変わっていって。

 

「おい、やめてくれ!ウィザーモン!ウィッチモン!」

「大成さん!」

 

 思わず、大成は悲痛な制止の声を上げた。だが、二人は止まることがなくて。力づくでも止めようとした大成を止めたのは、意外なことにスティングモンだった。

 スティングモンも本心では大成に同意したかった――が、彼は思ってしまったのだ。最後だからこそ、エクスブイモンの望みを叶えてあげたい、と。

 そんなスティングモンの思いを感じてしまったからこそ、そして、自分も同じ思いを抱いてしまったからこそ、大成は悲痛な顔で立ち尽くすことしかできなくて。

 

「それじゃ……じゃあな。楽しかったぜ」

 

 その言葉を呟いたエクスブイモンは、光と共に一枚のSDカードのような物へと変化した。

 こんなちゃちな物がエクスブイモンの成れの果てか、と。地面に落ちるそれを見ながら、大成とスティングモンがやるせない思いを抱いていると――。

 

「……はぁ。ようやく作ったのだがね。まぁいい。テストケースとしてこれを君にやる」

「……え?」

 

 そんな時、ウィザーモンが大成に手渡してきたのは、どこぞのスマホのような機械だった。大成はそれを何回か見たことがある。旅人や優希が持っていた、アナザーと呼ばれる機械だ。

 

「やれやれ。オリジナルの内部にあった元の設計図を元にして、いくつかの機能を復元したモノだ。ようやく実現段階にこぎつけてな」

「……それで?」

「それは第一号なのだがな。詳しいことはまた今度言うが、あれの力を引き出すにはそれがいる。……必要だろう?」

「……!」

 

 ウィザーモンの言った、アレ。その先にあったのは、エクスブイモンの力が込められていたSDカードモドキだった。

 あのSDカードモドキの力を引き出すために、このアナザーがいる。

 この現状に何もかもが納得できはしなかったが、エクスブイモンの遺産を無駄にすることは大成たちもしたくなかった。それをしてしまえば、エクスブイモンの思いを無駄にしているようで。

 だからこそ、大成はウィザーモンからそのアナザーを受け取る。ついでに、スティングモンがとって来たSDカードも受け取って。

 

「ふむ。せっかくだから試してみたらどうかね?」

「っ!?……いい加減にしてくれ!今俺はそんな気分じゃないんだ!」

「いい的がいるだろう。仇討ちにもピッタリな」

 

 軽い調子で試すなどと言うウィザーモンに、大成は本気で激怒しかけたものの、その次に聞こえた言葉を前にその怒りは鎮火された。

 そうして、表情に疑問を浮かべる大成たちに答えるように、ウィッチモンとウィザーモンの二人の視線の先にいたのは、倒れて動かないヴァンデモンで。

 

「なんでだよ。アイツは……」

「あれ、死んだふりよ」

「……行くぞ。イモ」

「……了解です」

 

 怒りの矛先を見つけた大成とスティングモンの二人は、戦闘態勢を取ろうとして――。

 

「なっ!ま、待ちたまえ!」

 

 その瞬間に、がばりとヴァンデモンは起き上がった。

 その姿からも、ウィッチモンの言った通り、死んだふりだったようだ。先ほどの戦いのダメージがかなりあったための、死んだふりだったのだろうが――かなりセコイ。

 

「セコイですね……」

「ヴァンデモン、お前実は小物だろ」

「なっ!言うことに事欠いて……!」

「ウィザーモン、これどうやって使うんだ?」

「下にある挿入口にソレを入れて、発動させればいい。セット『○○』とな」

「了解」

 

 何やら唖然としているヴァンデモンを無視して、大成はアナザーの下部を見る。そこには、ウィザーモンの言った通り、SDカードモドキがちょうど入りそうな穴があった。そこにSDカードモドキを差し込むと、アナザーの画面に“発動待機状態”という文字が浮かび上がった。

 ずいぶんと親切な設計に微妙な気分になりながらも、大成はスティングモンを見る。彼は、いつでも行けるとばかりに、行く気満々だった。

 

「それじゃ、行くぞ!イモ!」

「はい!」

「待っ……!」

「セット『エクスブイモン・ジョグレス』!」

「おぉおおおお!」

 

 大成がその言葉を告げたその瞬間に、薄らと半透明なエクスブイモンが出現。そして、スティングモンは光に包まれる。それは、先ほど起こった現象と似たような感じで。

 その光景を見た瞬間に、大成はエクスブイモンの想いがうまく残されているのを感じていた。

 そして、一瞬後。光を払って現れたのは、パイルドラモンではなくて。

 

「なっ!?」

「えっ!?」

 

 先ほどのパイルドラモンが、エクスブイモンの特徴を色濃く残しているデジモンだったと言うのならば、こちらはスティングモンの特徴を色濃く残しているデジモンと言える。

 そう。現れ出てたのは、ディノビーモンと呼ばれる完全体デジモンだった。

 




というわけで、第六十三話。
エクスブイモンの死亡回と大成たちの完全体その2への進化回でした。

さて、次回はVSヴァンデモンその2です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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