【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第六十四話~夜の終わり~

 明らかにボロボロなヴァンデモンと殺る気満々のディノビーモンが向かい合う。

 彼のしでかしたことを知っていれば、ヴァンデモンは同情するに値しない者であるとわかる。だが、この状況を初見で見る者は、ヴァンデモンに同情してしまうだろう。

 それほどまでに、ヴァンデモンとディノビーモンの間にある諸々の差は酷いものだった。

 そんな光景を見守りながらも――。

 

「ていうか、ウィザーモン……」

「なんだね?」

「アンタも酷いわね。大成たちの気持ちも考えずに……」

「ふむ。まぁ、双方に益のある提案をしただけだがね?」

「……はぁ」

 

 そんな光景を見守りながらも、ウィッチモンは大成たちに聞こえないような小声でウィザーモンに話しかけていた。その内容は、先ほどのウィザーモン自身についてのことである。

 先ほど、大成たちに向かっていろいろとウィザーモンは言った。そんなウィザーモンに対して、ウィッチモンはもう少し大成たちの気持ちを考えるべきだと思ったのである。

 なにせ、あの時のウィザーモンの言葉の根底にあったのは、自身の好奇心。そして、彼はその通りに行動した。

 ようするに、ウィザーモンはヴァンデモンというわかりやすい敵を上げることで、大成たちの行動を誘導したのである。

 どのみちヴァンデモンとは戦う羽目になっていたし、ウィザーモンの行動を積極的に間違ったものであると言い切る気はウィッチモンにもないが――それでも、時と場を考えるべきであるとは思っていた。

 

「アンタ、もう少し人の気持ちをわかるようになりなさい。いろいろと」

「……ふむ?」

 

 あの言い方では、いくら温厚な者でも怒る。エクスブイモンの死を目の当たりにして、すぐに遺品を試してみろなど――その者の死に何も思っていないと公言しているようなものだ。

 無論、ウィザーモンがそんな外道である訳ではない。彼はいろいろと切り替えが早いだけなのだ。

 

「……はぁ。大成たちには後で謝っといたほうがいいわね。私が」

「ふむ?謝るようなことがあったかね?」

「……それは自分で考えなさい」

「気になることを言っておくだけ言って放置とは……相変わらず君は性格が悪いな」

「殺すわよ?」

 

 ともあれ。

 ウィッチモンとウィザーモンがそんな会話をしていることに気づかない大成とディノビーモン。彼らは、今、ヴァンデモンと向かい合って睨み合っていた。

 元々のヴァンデモンの強さは相当なものだったが、パイルドラモンによってかなりのダメージを負い、弱っていた。それこそ、油断しなければ倒せるほどに。だが、それは、逆に言えば油断してしまえば倒せないということで。

 いくらこちらが圧倒的有利だとはいえ、ヴァンデモンには豊富な経験があるという事実は変わりない。だからこそ、こういう(睨み合う)ことになっていたのだ。

 

「……」

「……」

 

 それでも、永遠に睨み合いを続ける訳にはいかない。これは戦闘。過ぎたるは及ばざるは如しという言葉があるように、様子見であってもほどほどにしなければ、勝つこともままならない。

 だからこそ、勝つために様子見を止めたディノビーモンは、タイミングを計る。自分が最も力を発揮させられると思えるような、そんなタイミングを。

 そして、それはヴァンデモンの方も同じだった。先ほど散々言われてしまったが、それでもヴァンデモンは逃げようと思っていた。何事も命あっての物種。そう思って、ヴァンデモンは逃げるタイミングを測っていた。

 していることは同じであるのに、その先に求めるものが対照的な二人。そんな二人が――。

 

「はっ!」

「ぬっ!」

 

 そんな二人が動くタイミングは、奇しくも同時だった。

 ヴァンデモンのしたことは単純だ。逃げるために、必殺技を発動させた。それだけだ。

 その瞬間にコウモリの群れがこの場に殺到し、ディノビーモンの視界を奪い、行く手の邪魔をする。その隙にヴァンデモンは逃げるつもりだったのである。

 対して、ディノビーモンのしたことも単純だった。一気にカタをつけるべく、自身も必殺技で応戦するということ。

 そして、ディノビーモンの必殺技は“ヘルマスカレード”という技。

 その技は、ディノビーモンにとっては幸運で、ヴァンデモンにとっては不運なことに――“ヘルマスカレード”は、ヴァンデモンの選択したことと致命的なまでに相性が悪かった。

 

「何っ!」

 

 “ヘルマスカレード”という技は、素早い動きで残像を残しながら敵を切り刻む地獄の舞踏と例えられる。つまり、コウモリの群れが殺到したのは、ディノビーモンの残像ということで。

 その瞬間に、ディノビーモンの本体は、ヴァンデモンの上にいた。

 一瞬遅れてそのことに気づいたヴァンデモンだが、遅い。彼が気づいたその瞬間に、ディノビーモンはヴァンデモンを切り刻み始めていたのだから。

 

「がっ……」

「……終わりです。これで!」

 

 結果、ヴァンデモンはディノビーモンの鋭い攻撃によって抗うこともできずに切り裂かれた。

 死すべき者の末路として、光となって消え行くヴァンデモン。だが、その表情を占めていたは奇妙な笑いだった。

 

「ククク……まさか……な……」

「……?」

「……小物だと?……覚えておけ……!」

 

 そうして、まるで恨み言のような、怒りと憎しみに満ちた言葉を吐き出して、ヴァンデモンは消えていった。

 最後は妙な終わり方だったが、これでヴァンデモンは完全に倒したことになる。それは、エクスブイモンの仇を討てたことを意味していた。

 その意味を悟った大成もディノビーモン。二人は、安堵のような、哀しみのような、複雑な表情でその場に立ち尽くした。

 

「気をつけたほうがいいわよ?ああいう輩はね。しつこいから」

「……どういう意……おい、ウィッチモン。それは……?」

 

 そうして、戦いが終わったために大成たちの下にやって来たウィッチモンだったが、奇妙な荷物を引きずっている。水というか、氷漬けの、中身が全く見えないその荷物をウィッチモンは魔術を使って運んできたのだ。

 何と言うか、いなくなった誰かとその荷物の大きさが一致していて――しかも、ウィッチモンの残酷な笑みが、その予想を助長していて、かなり怖い。

 

「ああ、これ?ふふっ人の気持ちも空気も読めない馬鹿はこうなるべきなのよ」

「……怖っ!」

 

 とりあえず、ウィッチモンが持っている荷物のことには今後一切触れないことにした大成たちである。

 ともあれ、いろいろと納得いかないことだらけだが、終わったことは終わったのだ。いつまでもこうして立ち尽くしているわけにはいかない。

 とりあえず家に帰ってそれから考えよう、と。大成たちはそう思って――。

 

「あ」

「……忘れてましたね」

 

 直後、大成たちは思い出した。

 自分たちの戦いは終わっても、全体的な戦いは終わっているかどうかわからないことを。自分たちがここに来る直前まで、優希たちはスカルバキモンに襲われていたことを。

 まあ、十中八九勇とグレイモンがいれば大丈夫だろう、と。大成はそう思っているのだが――実際は、そんなことはなかったりする。

 ともあれ、そちらの戦闘は未だ続いている可能性もある以上、様子を見に行くべきだろう。ディノビーモンも大成も、まだ体力的にも大丈夫なのだから。

 

「ウィッチモン!優希たちの所に行ってくる!」

「……はい?ええ……わかった」

「イモ!」

「はい!」

 

 そう言われた瞬間に、大成を腕に掴み、ディノビーモンはその昆虫のモノのような四枚の羽を使って空を飛ぶ。

 忙しなく出て行った大成たちを、ウィッチモンは呆然とした表情で見送ったのだった。

 ちなみに。ウィッチモンやウィザーモンに魔術で送ってもらえば、大成たちは自力で行くよりもずっと速く、そして楽にあの場所にたどり着くことができたのだが――大成たちはそれを知らない。

 ともあれ、学術院の街の入口を超え、荒野を超え。数分もあれば、あの荒野にたどり着く。

 あの場所から離れて、まだそう時間は経っていないというのに、大成たちには何故か何年もの時間が経っているように感じていた。

 それは、きっといた者がいなくなったから、そう感じてしまったのだろう。

 

「着い……あれ誰……えっ!?スカルグレイモン!?」

 

 そして、現場に到着した大成たちを迎えたのは、混乱だった。

 勇は倒れていて、優希と片成が介抱している。エンジェモンは苦しそうながらも、そんな人間組を守っていた。さらに、ローダーレオモンが、スカルグレイモン相手に奮闘していて。そして、大成たちが予想していたスカルバキモンの姿はどこにもなくかった。

 というか、レオルモンとグレイモンの姿がどこにもない。

 スカルグレイモンはゲーム時代に勇がパートナーにしていたデジモンであり、一方のローダーレオモンは特徴から考えれば、それぞれが進化した姿だと大成たちにも結論づけられるのだが――では、なぜスカルグレイモンと争っているのか。

 

「どうなっているんだ?」

「大成!?エクスブイモンは!?それにそのデジモンは……?」

「後で話す。それよりこっちだろ!どうなってんだよ!」

「それが……」

 

 いの一番に優希の下へと行った大成たちは、優希に今までの状況を尋ねる。この状況でさっさと事情を話してくれるのは優希だけだからだと思ったからであるが、そんな大成たちの予想通りに、優希は話してくれた。

 大成たちがこの場から去った後、ここで何があったかを。

 

「ヴァンデモンが……!」

「で、今はスカルグレイモンをなんとかしようとして……」

「こういう状況、と。イモ!」

「了解です!」

 

 とりあえず、大成はディノビーモンをローダーレオモンの助太刀に行かせて、その間に大成も勇を起こすために行動することにする。

 勝手かもしれないが、大成は勇に対してある種の幻想を抱いている。勇ならこんな状況でもなんとかできるだろう、と。そう思ったからこそ、大成は勇を起こそうとしたのだ。

 まあ、そんな大成の考えと行動は、優希たちも思ったことで、彼女たちも散々に手を尽くしたことであるのだが。

 

「おい、勇!勇さん?勇気さん!」

「言い方変えても……」

「ぐっ……なら、これで……!」

「た、……大成さ……ん……殴る……のは……」

「うぐぐ……起きろぉ!」

 

 とはいえ、勇は起きなかった。彼は死んだように眠って、そのままだ。もちろん、“死んだように”であって、“死んでいる”わけではない。だから、これほど体を揺すったり、大声を出したりしていれば、普通は起きるはずなのだが――こうも起きないのは何故なのか。

 勇の寝起きが悪いのか、それともヴァンデモンに何かをされているから起きられないのか。判断に迷うところである。

 

「……退け」

「エンジェモン?……おい?何して……!」

「ふぅうううう……」

 

 大成たちを強引に退かし、勇の下へとやって来たエンジェモンは見るからに力を溜めていて――その姿に、大成たちは嫌な予感を覚える。

 だが、大成たちが静止の声を上げるよりもずっと速く。そのエンジェモンの拳が、勇の腹へと吸い込まれていった。

 

「がはっ!」

「ちょ、おい!」

「エンジェモン!?」

 

 その暴力的な事態に、大成たちは焦るしかなかった。先ほど大成も殴ろうとしてはいたが、これはそんなものとはわけが違う。なにせ、成熟期デジモンの一撃だ。手加減されているだろうとはいえ、どれほどのダメージなのか、考えるのも恐ろしい。

 だが、詰め寄る大成や優希を前にしても、エンジェモンは知らん顔。唯一、片成だけは慌てふためいていないのは、エンジェモンのパートナーとして彼を信頼しているからだろうか。

 

「何をそう焦っている」

「焦りもするだろ!お前何やらかしてんだ!」

「ふん……この私が何をやったのかも理解できないのか。これだから下賤な者は……見てみろ。我が主を。私の考えなど御見通しでいらっしゃる」

「片成……どういうこと?」

「へ……いや……あの……さぁ……?」

 

 片成は、エンジェモンが酷いことをしないという点において彼を信頼し、焦らなかっただけであり、彼の考えがわかっていたわけではない。よって、優希に聞かれても、首をかしげることしかできなかった。

 そんな片成の姿に、エンジェモンは「さすが……下賤な者のためにわからないふりをされてらっしゃるとは!」などと言っている。

 そろそろエンジェモンは脳みそを交換したほうがいい、と。エンジェモンを見ながら、半ば本気で大成が思ったそんな時――。

 

「ぐっ……なんか、腹が痛いんだけど……!」

「勇!?」

 

 そんな時だった。勇が起きたのは。勇が起きたのはタイミングから言って、やはりエンジェモンが何かをしたおかげであるのだろう。

 まあ、その何かが殴ることだとは、大成たちも信じ難かったし、信じたくはなかったが。

 

「よからぬ影がついていたから……祓っただけのことだ」

「……?」

 

 つまり、ヴァンデモンは勇を襲った時に、勇が目覚めないような細工をしていたのである。エンジェモンは、殴りながらそんなヴァンデモンの細工を消し飛ばしたのだ。ということで、行動はどうあれ、これはエンジェモンの手柄である。

 そして、それがわかったからこそ、大成と優希は微妙な顔をしていて――エンジェモンはどこか自慢げだ。というか、世間一般でドヤ顔と言われるその顔が、すごくウザく感じられる。

 ともあれ、まあ、勇が起きたことはありがたいことだった。すぐさま状況がわかっていない勇に、大成たちは事の成り行きを説明する。

 

「というわけで……勇?」

「スカルグレイモン……」

 

 そして、今までにあったことの説明を受けて、勇はどこか複雑そうな表情を浮かべていた。

 まあ、それもそうだろう。勇にとってスカルグレイモンとは、ゲーム時代に最も信頼し、見慣れたパートナーの姿だ。それが、あんな風な暴れるだけの化け物となってしまったのなら、心中は穏やかではないだろう。

 

「……大成、優希……スカルグレイモンを倒してくれ」

「はぁっ!?いいのか!?」

「……ああ。オラのせいで……そんなことになってぇなら……どうしようもねぇってさ。アイツだって、このままなこと望まねぇってさ」

 

 それが、勇の決断だった。

 勇とて、スカルグレイモンがもう元に戻らないことがわかったのだ。わかってしまったのだ。だから、このまま暴れ続けるのならいっそのこと、と。

 優希も、大成も。そんな勇の決断にいろいろと言いたいことはあった。それでいいのか、と。別の方法はないのか、と。だが、そんな二人が声を出す前に――勇に声をかけたのは、驚くことにあの片成だった。

 

「勇……さん……!」

「片成……?」

「それで……いいんですか……?」

「いいわけねぇってさ。けど……」

 

 片成は一生懸命な顔で、何かを勇に伝えようとしている。そして、一生懸命だからだろう。彼女は今、いつも以上に普通に話すことができていた。

 人と話すことが苦手であるはずなのに、それでも必死に何かを伝えようとする。そんな片成の姿に、感じるところがあって、勇も大成も優希も、自然と彼女の言葉に耳を傾けていた。

 

「私は……!エンジェモンに救われて……ここにいます。エンジェモンは……私の大切なヒトです」

「……」

「だから、エンジェモンのことは……信じてます。信じ、たいです。勇さん……は、信じないんですか?」

「……!くははっ……そう言われるってかぁ……!」

 

 いろいろと足りない部分もあったが、だからこそ一生懸命さが伝わることもある。そんな片成の言葉は、確かに勇に届いた。

 信じないのか。そんなわけがない。

 片成と同じで、勇にとっては友人なのだ。パートナーなのだ。家族なのだ。信じたいに決まっている。だからこそ、そんな片成の言葉に気づかされたからこそ、勇は最後の最後として、自分のパートナーを信じて行動することにした。

 

「そんなわけだ。大成、優希。スカルグレイモンを倒すのはもう少し待ってくれ」

「……ちょ、勇気さ……勇!?」

「ありがとうな、片成たちがいてよかったよ。……オラがこれからする行動で、責任を感じる必要はないからな」

「は……え……」

 

 唖然としている大成たちの前で、勇は走っていく。

 ディノビーモンとローダーレオモン、そしてスカルグレイモンが戦う激戦の地へと。それは、ただの人間でしかない勇には無謀なことでしかない。

 彼らが激突するたびに発生する衝撃波は、勇の体を浮かせることですら容易。勇は、そんな衝撃の中を必死に耐えながらゆっくりと前へと進み――。

 

「なっ!」

「勇殿!?」

 

 スカルグレイモンの眼前に出た。

 ディノビーモンやローダーレオモンが呆気にとられたような声を出した後、ハッとなって行動を起こしたが、遅い。すでにスカルグレイモンの腕は振り上げられている。

 

「グァギャアアアア!」

「っ!勇ー!」

 

 それは、誰の悲鳴だったのか。誰か一人かもしれないし、あるいは全員かもしれない。勇を心配する叫びが上がって、そして、その一瞬後。

 スカルグレイモンの太い腕が振り下ろされて――。

 

「ははっ……やっぱり、な」

 

 そして、スカルグレイモンのその太い腕は、腰を抜かした勇の目の前で止まっていた。

 




というわけで、第六十四話。
ようやく戦闘終了ですね。はい。長かったです。

さて、次回(もしかしたら次々回も)は第五章のエピローグ的な話です。

それでは、次回もよろしくお願いします。
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